小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#26 レッツゴー、静岡旅行!

暁愛華葉 6月4日 土曜日 午前7時00分
       愛知県 夏露町 俥留駅(くるまどめ)

「─おはよー、遅れてる?」
「いや、ベスト」
 さすがに私が誘っておいて遅れるわけには、と急いで支度してきた。
 私が駅に来てわずか2分後だから、本当に気を遣って早く来たんだなと思う。

「ほんとにありがとね」
「いや、俺も暇だし?」
「まじでありがと!!」
「んあ!?あぁ、気にすんな!」
 本当に嬉しい。
 こんな我が儘に文句一つ言わず来てくれるなんて。

 今日は疲れが吹き飛ぶくらい楽しもうと気合いを入れるために大声でしゃべったときは、葉凰も大声で返してくれた。
 楽しい。
 今、この時点で。

「切符買お」
「よし、行くか」
 私たちは駅のホームへと向かった。

木暮葉凰 6月4日 土曜日 午前7時03分
            愛知県 夏露町 俥留駅

 え、ここ無人駅なの?
 いや、確かに人の気配ないけど。
 トタン屋根で、なんだかこう、薄いというか、ちょっとでも風が吹けば飛んで行きそうな、本当に弱そうな駅だ。
 そうやって愛華葉に言うと、
「一回俥留駅に謝罪した方がいい」
 などという酷評を得た。

 そういや、そんなことより─
「静岡で何すんの?」
「みかん食べる」
「ざっくりだね」
「それでいいんだよ」
 何も考えてないんかい。
 
 けど、普通旅行するなら、もっとスケジュールを組んでおくものなんじゃないのか?
 なおさら愛華葉なんて、本当にきちんとしてるのにざっくりなのは、どうしてだろう。
 考えれば考えるほど、頭が痛くなってきたからやめた。

「あと、桜えびも食べたい」
「食い物ばっかだな」
「うるさい」
 そう言って、愛華葉は俺の肩をバシバシ叩く。
「いてーよ、ごめんって」
 半分笑いながら、俺は言った。
 そうこうしているうちに、電車は俺らの前で止まった。
「ご乗車、ありがとうございました。足下に気をつけてお帰りください─」
 そんな車掌の声を聞きつつ、電車の中に入った。

暁愛華葉 6月4日 土曜日 
      午前10時38分 静岡県 紅無町 
 
 電車や新幹線を乗り継いでだいたい二時間半。
 私たちは静岡県に上陸した。
「おー。紅無って夏露みたいな田舎だなぁ」
「ね、緑が多い」
 
 さっきは何も予定していないと言ったが、実は予定していた。
 まずは、午前でシーカヤックを体験しに行く。
 その後に、海沿いに天ぷらの店で桜えびのかき揚げが乗ったうどん、みかんかき氷を食べる予定だ。
 午後の予定は昼食の時に、葉凰と決める。

 その事を葉凰に言うと、「なんだ、スケジュール組んでるじゃん。良かった」って返された。
 良かったって、なんだろう。
 スケジュールを組んだ、型にはまったものが葉凰には合ってるのかな、などと思った。

「そういや俺、静岡はじめてかも」
「私もそうだな」
「え、家族旅行とかで来ないの?」
「うん。忙しいし」
 弟や妹、自分の学校行事がたくさん連なって、なかなか来れないのだ。
「まぁ、4人も下の子いれば忙しいよな」
「よく分かるね」
「ん?さっき自分で言ってたじゃん」
「そうだっけ?」

 あぁ、やっぱり違う。
 いつもなら何を話したとか覚えてるし、家のことは言わないんだけどなぁ。
「、、、飯、楽しみ。舟のやつも」
「あ、私がおごるから。安心して」
「ほんとに?や、自分で払うよ」
「いや!ついてきてもらったし、せっかくだから」
「んじゃあ、よろしく」

 せっかく我が儘聞いてついてきてもらったのに、それは悪い。私がここは一歩出るべきなのだ。

 他愛もない話をしながら、歩いていた。
 歩く度に、潮の匂いが近づいてくる。何百本と連なった松の林道をこえた先には、海が広がった。
 今日は晴れだから、水面の色と空の色が溶け合って、いい具合の青が私たちを包んでいた。

 木暮葉凰 6月4日 土曜日 
         午前10時45分 静岡県 紅無町 

 海、何気に久々に見たな。
 宮崎にいた頃は近くにあったが、引っ越してから全然見なくなった。
 すごくキラキラしていて、これ以上無いくらいに青が澄んでいて、綺麗だ。

「シーカヤックって何?」
 突然、愛華葉にたずねた。
 俺は何も知らなかった。シーカヤックの体験の予約は、なんと今日の朝電話して取ったらしい。
 偶然にも、俺らだけが体験の予約者なのだ。
 あいつってすげーよな。そうやって、改めて思った。

「シーカヤックっていうのは、カヌーみたいに、海の上でボート浮かべて、二人で漕ぐやつ」
「難しくない?」
「んー、分かんないけど、ロケーションとかにはオススメって言ってた」
 カヌーに乗ったことがない。が、テレビで観たことがある。非常に難しそうだったが、、、。

 まぁ、せっかく来たし、静岡を満喫していこう。
 たまにはいろんなことに挑戦するのも大事だよな。
「いいじゃん。やってみたい」
「ほんと?良かった」
 まだ終わってないが。
 嬉しそうに、愛華葉が言った。

 しばらく黙っていると、愛華葉が急に、
「静岡、満喫するぞー!」
 と叫んだ。
「うお、びっくりした」
 どういう心境だよ。
「どうせ来たし、楽しもっかなって」
「そだな。俺も楽しみだわ」
 
 何がなんだか分からないが、ともかく。
 俺と愛華葉の静岡旅が始まったみたいだった。


最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回もお楽しみに!

それじゃあ
またね!

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