小説/黄昏時の金平糖。【タイムレコード0:07】#29 ごめんとありがとう

暁愛華葉 6月4日 土曜日 午後12時26分 
                静岡県 紅無町
 
 誰かが、来た。
 私、呼んだっけ?
「俺は大丈夫だよ」
「や、血出てる!ついてきて!」
 ハッと、して男の子のほうを見る。
 赤い髪に、赤い瞳。
 同い年くらいの子が葉凰の返事をきくまでもなく、肩を貸す。

 私が、悪かった。
 だから葉凰はケガをした。
 せめて、手伝わないと。
「私も手伝う!」
 肩を貸して、3人で目の前の古民家に向かった。

木暮葉凰 6月4日 土曜日 午後12時21分 
            静岡県 紅無町 宵宮家

「じいちゃん!!いるー!!?」
 男の子が大声で、人を呼ぶ。
「ああ!?、、、誰だ、そいつあー!!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないって!!包帯とか、ある!!?」
 この人たち、非常に声がでかい。

 男の子のおじいちゃんだろうか、男の人は俺のひざから足首にかけて大きくできた傷を見て、走って何かを取りに行った。
「その傷洗ってこい!!」
 おじいさんは男の子に言う。
「お風呂場来れる?」
 優しく俺にきいてきた。
「すまん。行こう」
 一応、愛華葉の顔を見ると、泣きそうなひどい顔をしていた。
 愛華葉は何も悪くない。
 俺が気を付けなかったのがいけないのだ。
 痛いと言えば痛いが、小さい頃、こけて泣いたときのような感覚ではない。気にしないことだってできる。
 あとで、ごめんって言おう。

 俺は風呂場についていった。

宵宮氷 6月4日 土曜日 午後12時30分 
        静岡県 紅無町 じいちゃんの家
 
「─これでよしだ」
「葉凰、痛くない?」
 俺がきくと、
「ああ、ありがとう」
 とかっこよく答えた。
「本当にごめん、葉凰」
 愛華葉は申し訳なさそうに、葉凰に話しかけた。
「俺が悪かった。気を付けなかったから」
「その傷、痛いよね」
「気にならねーよ、大丈夫。というか、逆にすまん。静岡旅、邪魔して」
「あやまんないで、葉凰が」
 優しい人たちだ。人のことを気遣えて。

「じいちゃん、ありがと!、、、にしても、雨強いなあ、、、」
 窓を雨が打ち付けている。
「お前たち、帰れるか?」
 少し考えているみたいだ。
「雨強いからな」
「帰らないと心配するよね、みんな」
 俺とじいちゃんはうなずいた。
「お母さんに連絡したらどうだ─」
 そう、じいちゃんが提案したとき、
「、、、っ、だめだ!!」
 葉凰が大声を出した。
「葉凰?」
 俺がきくと、
「あ、、、すまん」
 と我に返り、あやまった。

暁愛華葉 6月4日 土曜日 午後12時40分 
            静岡県 紅無町 宵宮家

「─速報です。先ほど、大雨警報が中部地方全域に発令されました」
「わっ、電車動くかな?」
 氷が言う。葉凰はスマホを操作しながら、
「ああー、動いてねえな、こりゃ、、、」
 とつぶやいた。
「帰れないね」
 私は一言ぼやく。

「ほじゃ、どうする?道路も電車も動かんし、、、」
 おじいさんが言った。
 このままでは、本当に帰れない─
 と、氷が明るい声を出した。
「じゃあさっ!うちに泊まって行きなよ!」
「「え?」」
 二人で声がハモった。

「動かないなら、うちに泊まってこ!緊急事態だし、しょうがないし、、、。久々に同級生と泊まるし!」
 氷がわくわくしながら言い終えると、おじいさんは、
「そうだな。動かないし、それがいい。お前らが良きゃそうしよう」
「布団もあるし、その服洗濯できるし、浴衣貸せるし!」
 ここまで親切な人は初めて見たかもしれない。助けてもらったあげく、部屋にあげてもらって、さらに泊まるかどうかの提案まで。

 私は葉凰に「どうする?」ときいた。
「、、、愛華葉は?」
「私は、、、。本当に図々しいけど、泊まってもいいかな」
「やったあ!」
 氷が声をあげる。
「俺もじゃあ、、、。、、、あー、、、」
 数秒悩み、私の方を向く。
「、、、泊まろっかな」
「よしっ!!決まりだー!!」
 おじいさんは、「風呂入れてくる」と歩いていった。
 氷は、「二人分の布団敷いてくるから待ってて!」と、二階へ走る。

 そして、応接間が静かになる。

木暮葉凰 6月4日 土曜日 午後12時21分 
            静岡県 紅無町 宵宮家
 
「、、、本当にごめん、葉凰」
 まだ言ってる。
 全然大丈夫だ。どうせ治るし、氷たちに手当てしてもらってから痛みは引いてきた。
「わがまま聞いてもらって、朝早く出てきてもらって、ついてきてくれたのに」
 その点に関しては気にしていない。むしろ、俺はこの静岡に来て良かったと思う。息苦しい家から出れて、友達と遊べて。愛華葉には感謝しかない。

「俺は、良かったよ」
「、、、何が?」
 思っていてもしょうがないから、口で伝えることにした。
「家にいるの、嫌だし、休日に友達と遊べて嬉しいし。こうやって他の人の家に泊めてもらえて、良い思い出ができたじゃん。俺は嬉しいよ」
「、、、」
 愛華葉は目だけでそっぽを向く。
「静岡につれてきてくれて、ありがとう」
「、、、どうも」
 分かってくれたみたいだ。
 にしても、照れくさいな。顔がぶわあっと熱くなる。俺は手で顔を隠した。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回もお楽しみに!

そういえば みなさんお久しぶりです!
いろいろ忙しくて
なかなか書けませんでしたが
徐々に再開していきます!


それじゃあ
またね!

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