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足首くらいの深さの書籍レビュー

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読書家ではないので、底の浅いレビューですがよろしければ。
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記事一覧

伝わるものは1コマでも伝わる。 --- いしいひさいち「ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ」

読んでから、ずっとファドを聴いてます。今も聴いてます。 いしいひさいち氏の説明によれば、ファドとは というジャンルの曲になります。 今はYoutubeでも、アマプラでも検索するとたくさんヒットするのですぐに聴くことができます。 ただし!もし、ファドを聴いたことがなくて、さらに本書にご興味を持たれたという方は、まず先に本書をお読みいただくことをお勧めします。理由は後述。 さて、このファドの歌手を目指す女の子「吉川ロカ」ちゃんの物語を描いた本書、初版はあっという間に売り

瑞々しいと初めて感じた。--- 窪 美澄「夜に星を放つ」kindle版

私たちシステムエンジニアの仕事の中には、夜間に動く処理のトラブルに対応するために、一晩現場で待機するようなことがあります。先日も2日間ほどそんな日が続いたのですが、幸いにしてシステムは順調、大きなトラブルもなく終わりました。 たまたまその2日間は抱えている仕事も無くて、手持無沙汰な夜になることがわかっていたので、私は職場にkindleを持ち込みました。基本的に職場で使用しているPCでは私用でのネット閲覧はNG、私物PCの持ち込みもNGなので、たいがい皆さんスマホいじってるか

成田亨のデザインは宝の山! --- ザ・トライアルズ・オブ・ウルトラマン

"いや、火山なんかじゃない…" "這い寄る煉獄…ザンボラーだ!" !!!!なーんてザンボラー好きにとってたまらないセリフを目にしては、こりゃ買わないわけにはいかないわけで、2冊目も買ってしまいました。マーベル版ウルトラマンの第2巻であります。 第1巻ではウルトラマンとハヤタの出会い、そして「統合科学特捜隊」が隠し続けてきた怪獣の脅威が、ウルトラマンの登場で世間に明るみに出てしまうところまでが描かれました(科特隊はMIBや鬼殺隊のような隠された組織として描かれます)。続く第

生産性の向上って偉い人は言うけどさ --- 山崎明「マツダがBMWを超える日」Kindle版

僕はマツダ乗りです、デミオ(ガソリン車)ですが。もう5年以上乗ってるんですけど、初めて試乗した時の感激は今でも忘れません。当時同クラスのホンダ、トヨタ、日産と比べて格段に運転しやすい。車は好きですがそれほど多車種を乗った経験があるわけではないのに、助手席のカミさんですら違いがありありとわかったらしくてすっかり気に入ってしまい、閉店ぎりぎりの証明が落ちて暗くなったディーラーでハンコを突いたんですよね。まさに即決でした。もちろん今でもマツダの大ファンなものですから、Kindleの

山崎洋一郎には心底がっかりした。--- 大月英明「コーネリアス炎上事件とは何だったのか」Kindle版

筆者がどのような方なのかは存じ上げないのですが、おそらくコーネリアスのファンで、一連の騒動に強い問題意識を感じて書き上げたのだろうと思います。つとめて冷静に事実をならべていても、その熱意は伝わってきます。何かを世に問いたいと思った時にKindleで出版するというのは良い手段だなと思いました。宇野常寛の「遅いインターネット」に書かれていたのはこういうことかなとも感じます(あの本にはまるで共感できませんでしたが…)。 さてこの本、あふれる熱意をぐっと抑えて、この騒動で起こった出

ザンボラー最高!--- ザ・ライズ・オブ・ウルトラマン

気になっていたマーベル版ウルトラマンの日本語訳が出版されたので衝動買い。ちょっと2500円はお高いけど、まあお布施であります。 アメコミを買うのは久しぶりなんですが、最近のアメコミってフルカラーでこんなに美麗なんですねえ。まあ僕が買ってた頃はもう40年くらい前ですから、ちがうのも当然ですね。僕にとってアメコミの映画化と言えばクリストファー・リーブのスーパーマンで、月刊スーパーマンを読み漁っていた世代ですから、マーベルよりDCのほうが馴染みがあります。マーベルなんてダサくって

本物の恨みを見た気がする。---ダンプ松本「ザ・ヒール」

いやはや、なんとも恐ろしいものを見てしまった。 ダンプ松本はもう還暦だという。しかも一度引退しているとはいえまだ現役である。本書はそのダンプ松本の自伝だ。 僕はマッハ文朱から始まる全女(全日本女子プロレス)の隆盛をリアルタイムで見てきた世代なので、当然極悪同盟を率いたダンプ松本の全盛期もよく知っている。とにかく徹底した悪役ぶりで、観客を怒らせるという点では男のプロレスラーでもこの人を超える悪役というのはパッと思いつかない。ファンクスに対するブッチャー・シーク組なんかはそれ

余白に流れる時間は無限ーーー絵本「アライバル」 ショーン・タン(ネタバレあり)

カミさんに誘われて横浜のそごう美術館で開催中の「ショーン・タンの世界展 ー どこでもないどこかへ」を見てきました。「進撃の巨人展」以来カミさんはすっかり展覧会にハマってしまってちょいちょい付きあわされるのですが、今回は大ヒットでした。僕の中では「シド・ミード展」以来の大ヒットです。偉いぞカミさん! オーストラリアのイラストレーターであり、作家、映像作家でもあるショーン・タンという人を私は全く知らなかったのですが、たしかに彼の描くいくつかの奇妙な生き物(キャラクターという言葉

音楽って言葉で説明しきれるもの? -- 蜂蜜と遠雷 恩田 陸

先に書いておきます。今回のテキストは、音楽の才能に恵まれなかった男のやっかみです、僻みです、オレ性格悪いです。蜂蜜と遠雷をはじめとする恩田陸さんの作品が大好きな方は、読まないほうがいいと思います。ネタバレもしてますし…。 僕はお付き合いでコンサートのMCの仕事をさせていただくことがあります。もうさすがにこの歳になれば、見栄えも悪いし若くて上手な方が他にたくさんいらっしゃるので、おそらくもう声がかかることは無いでしょう。なので、そろそろ本音を書いても良い頃合いかなと思います。

麺ジャラスKは大変ジャラスK! --「してはいけない」逆説ビジネス学 川田利明

私は一時期小規模ですが外食チェーンの本部で働いていたことがあります。なのでそれなりに外食の難しさを知っているつもりです。店舗を経営するのにどれくらいのコストがかかって、どんなふうに利益を積み上げて、その結果どれくらいで採算がとれるのか。当たり前ですけど外食の利益って本当に1食で得られる小さな利ざやの積み上げなんです。ですから私には想像がつきます、個人で飲食店を10年続けることがどれほど大変か。 --- 私にとって全日本プロレスの川田利明は特別な選手です。観戦して泣くほど感

それでもM-1は特別な舞台 -- 言い訳 塙宣之

先週末のゴッドタンで話題になっていたので早速kindleで購入。あっという間に読んでしまいました。 ナイツの塙宣之が過去のM-1の総括をする、でもそれはM-1で優勝できなかった彼にとっては所詮言い訳でしかない、だから「言い訳」というタイトルになっているのですが、読んでみると前回のM-1決勝で和牛ではなく霜降り明星に票を投じたことに対する言い訳になってしまってるような気がしますね、ははは。 --- 本書ではM-1という舞台の特殊性を解説しながら、過去の歴代優勝者がなぜ優勝

この身も座標になるのかな… -- 塔と重力 上田岳弘

#私の恋人 を読んで興味を持ったので、同じく #渡辺えり さんによって舞台化された「塔と重力」を読んでみました。 読後の第一印象は、作者、上田岳弘氏の頭の中、かっこ良く言えば彼のイマジネーションとでも言うのかな、それを体裁を整えずに作品に叩き込んでいる感じがなんか爽快です。うまく表現できませんが、この作品に比べたら「私の恋人」は完成されてるというか、ちゃんとしてます、わかりやすいです。 --- 主人公の田辺は阪神・淡路大震災で生き埋めになった過去があります。すぐ隣で共に

千秋楽の観劇を前に。--- 私の恋人 上田岳弘

文学が苦手な私がようやく #私の恋人 を自分なりに消化できてきたと思えるようになりました。物事を単純化したり何でも解き明かそうとすることは世の中をつまらなくするかもしれないけど、2回目を見る前におそらく的外れな僕の原作への思いを書いてみます。あらすじじゃないです。そしてきっと嘘多数です。最初に謝っておきます、ゴメンナサイ。 ははは。 ----- 人は三度人生を送れば、少しはマシな生き物になるのだろうか。この物語の主人公、「私」こと井上由祐は三度目の人生を生きている。