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鰯崎友×born

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鰯崎友の個人note+WEBマガジン bornでの記事、作品をまとめました。
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2018年4月の記事一覧

よもやま はなし

いままでTV関係のいろいろな方とお仕事をご一緒してきたが、やはり普通の会社にはいない変わりものが沢山。某テレビ局のプロデューサーで、完全に天才タイプの人がいまして。何気なく発するアイデアが、魔法の薬みたいに番組を面白くするのです。ポジション的にはかなり偉い人なのですが、いつも首元がだるだるのTシャツを着て、サンダルで局内をペタペタ歩いていた。寡黙というのでもないし、おしゃべりでもない。ときどき、ニヤニヤしながら語るんですよ。だれも考えつかないようなアイデアを。 この人、リク

『レディ・プレイヤー1』スピルバーグの魔法

さて、スピルバーグだ。周知のように、この人はお客さんをワクワク、ドキドキさせる天才なのだが、その仕掛けは驚くほど簡単。シンプルな手品ほど見破られにくいのと同じ。古い話になるが、『激突!』では主人公を執拗に追いかけてくるトラックの運転手の顔を一切映さない、ただそれだけの仕掛けであのなんとも言えない不気味さを描き出してみせる。また、『ジョーズ』では有名な「ダーダン、ダーダン、ダダダダ ダダダダ」というたった2音だけで構成された音楽でサメの襲来を知らせる。見ている我々はパブロフの犬

追悼 衣笠祥雄氏

若輩者にて衣笠氏の現役時代を目の当たりにしたわけではないが、彼の残した成績を見て、あらためて傑出したプレイヤーだったのだという認識を深めた。私の尊敬する野球コラムニスト、広尾晃氏が指摘するように、広島カープの衣笠祥雄&山本浩二は、王貞治&長嶋茂雄の”ON”に匹敵する、プロ野球屈指の最強コンビだった。 参考に、広尾氏はONコンビの年度別成績も挙げている。 ONの記録は空前絶後。開いた口が塞がらない。しかし、衣笠&山本はコンビ継続期間でONの上をゆく。かつ2000試合、200

線でマンガを読む『大橋裕之』

「ナマケモノ」という生き物がいる。人間によってなんとも侮辱的な名前をつけられた動物だ。確かに、ふだんは木にぶら下がって怠けているように見えないこともない。しかし、彼にだって、本気を出すときがあるのだ。繁殖期を迎えると、オスは自分の島を出て、海を泳いでメスを探しに行くのである。ギャップというやつの効果は絶大で、木の枝にぶらぶらしているナマケモノが、このときばかりはと、命がけで泳ぐ姿に心を打たれる。 大橋裕之というマンガ家がいる。彼の作品では、貧乏な若者や、スクールカーストの真

ブックレビュー『東大教授が教える独学勉強法』

『東大教授が教える独学勉強法』は、とてもおもしろい本だった。一口に勉強をするといっても、その”勉強”にはいろいろな種類がある、ということを、あらためて教えてくれる。 少し寄り道をしよう。子どもの頃には、見るもの触れるもの、すべてが新鮮な体験だった。ヘレン・ケラーは、サリバンに導かれて、w-a-t-e-r という綴りを、自分の手の上を流れてゆく物体と結びつけたとき、暗闇から解き放たれたのだったが、このような現象は、なにもヘレンだけに起こったことではない。草原を洗う風や、不思議

大谷翔平と愉快な仲間たち 【先発投手編】

最近、私の個人ページにて、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手のチームメイトを紹介した。今回は、さらにそのつづき。エンゼルスの先発投手陣について見ていきたい。例によって、括弧内の成績は’17年度のもの。動画はエンゼルス公式サイトより。 日本プロ野球でいうとどの選手に似ているかについても併記するが、MLBとNPBでは投手が操る球種の違いが顕著なため、投球の内容が似ている投手を探すのは難しい。あくまでその投手が残してきた記録をもとに、私の独断と偏見で日本でいうとどれくらいのク

線でマンガを読む『中村明日美子 後編』

マンガを読むさい、私たちは、無意識のうちにそこに描かれているものを「絵」と「コマ」に分け、前者がマンガの"中身"で、後者はその内容を伝達するための"容器"のようなものと考えている。そういうルールが刷り込まれているからだ。しかし、そのルールをいちど忘れてみたとき、両者に何らかの違いはあるだろうか。 乾パンなどでつくった「食べられる容器」というものがある。なかに入っている料理を食べたのち、それ自身も食べてしまえるような器。マンガの絵とコマの関係も、じつはこれに近いのではないか。

線でマンガを読む『中村明日美子 前編』

フランスの映画監督、ジェルメール・デュラックは、「絵画の素材が色であり、音楽の素材が音であるなら、映画の素材は運動である」と述べた。それに倣えば、マンガの素材は<線>だ。そして面白いことに、マンガにおいては、人物や物体、風景などといった、描かれるもの(絵)と、それらを異なる時間、空間の中に配置するもの(コマ)が、ともに線で成り立っている。画面に描かれている正方形の線が、「絵」なのか、あるいは「コマ」なのかを決定するのは、書き手と読み手の暗黙の了解に基づく。 たとえば上記のよ

大谷翔平と愉快な仲間たち。

大谷翔平選手がメジャーリーグの試合に初めて出場したのが、つい2週間前のこと。初打席でヒットを打ち、まずまずのスタートだな、と思っていた。しかし、だ。その後、投手として2勝、打者としては3試合連続本塁打という成績で、週間MVPに選出されるという快挙を達成、またたく間にメジャーリーグのスター選手の仲間入りを果たしてしまった。野茂やイチローが活躍したときもエキサイトしたが、大谷の活躍にはスゴイを通り越して、開いた口がふさがらない。…と書いていたら今日もタイムリーヒットである… ま

『花咲くころ』 友愛と抵抗のダンス

少年が少女に愛を告白する光景を、偶然あなたが目にしたとする。他人事なのに、こちらまで緊張してしまう。かつての自分の記憶を、目の前の二人に重ね合わせるかもしれない。 しかし、その愛のしるしが、「少女を誘拐する」ことであったら… 岩波ホール創立50周年記念作品として上映されている、『花咲くころ』は、ジョージア(グルジア)出身の女性映画監督、ナナ・エクフティミシュヴィリと、その夫であるジモン・グロスによって撮られた映画だ。エクフティミシュヴィリの少女時代、1990年代前半の思い

線でマンガを読む『大島弓子』

前回の当コラムにて、手塚治虫がコマの枠線や絵のレイアウトを用い、巧みな視線誘導で、ドラマチックで読みやすい画面を設計したことに触れた。 (『火の鳥 生命編』手塚治虫 ※読者の視線の動きを緑線で図示した) いま、私は「設計」という言葉をつかったが、理知的で教養豊かな手塚は、その明晰な頭脳でもって、まさに建築の構造設計のようにマンガを組み上げていったのだと思われる。だから、手塚マンガの技法は人に説明しやすい。「この部分が視線誘導でこっちに行って…」という理屈を、言語化すること

さようなら、高畑監督

高畑勲監督が亡くなった。長年、盟友である宮崎駿監督とともに、スタジオジブリのツートップとして素敵な作品を届けてくれたことに感謝したい。 正直に言うと、高畑の作品に関しては、出来にムラがあるなあ、と常々思っていた。『おもひでぽろぽろ』は、都会でOLとして働く、タエ子という20代の女性が、山形県にある親戚の農家に滞在する、というお話。農家の暮らしに強く惹かれたタエ子は、葛藤を抱えつつも農業に従事する人々の温かさにふれ、東京を離れる決心をする、というストーリーだ。この映画に関して

線でマンガを読む『再び 手塚治虫』

たとえば、現代のマンガと、絵本の違いはなんだろうか。すぐに頭に浮かぶのは、絵が「コマ」と呼ばれる枠線によって仕切られている、ということ。日本のマンガは基本的に右上から左下のコマへと読んでゆく進めてゆく規則になっていて、それに伴って時間の経過や場所の転換が起こる。つまり物語が進む。 絵本の場合は物語を進めるために、ページをめくる必要がある。それはマンガも同じことだが、マンガの場合、コマによって絵を仕切ることで、ひとつのページのなかでも物語を進行させることができる。 (※ただ