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文化人物録15(岸本斉史・NARUTO作者)

岸本斉史(漫画家、NARUTO作者、2015年)
→言わずと知れたマンガ「NARUTO」作者。僕はNARUTOの連載開始時、たまたま週刊少年ジャンプ読者だったのだが、正直こんなに長く連載される作品になるとは思っていなかった。なぜなら、いわゆる忍者を描く作品とはかなり雰囲気が違い、読者が限られるのではないかと考えたからだ。しかし、その忍者らしくないNARUTOのがむしゃらで不器用な姿、人生こそが子どもたちの圧倒的な支持を集めたのだなと今は納得できる。
これも全くの偶然だが、NARUTOの連載終了時、僕は書籍担当で漫画も扱える立場にあり、当時は滅多に取材を受けていなかった岸本さんに直接話を聞くことができた。話を聞くにあたり、漫喫にしばらくこもって全巻読み直した。極めて貴重な機会だった。

・NARUTOの連載はがむしゃらになってきて、気付いたら終わっていた。24歳ごろから毎週〆切がある生活が当たり前になり、30代は駆け抜けた形。苦しかったが楽しくもあり、作品が認められることで、小さいころ認められなかったフラストレーションの欠落を埋めてくれた。

・当初は15年連載をやるとは思っておらず、せいぜい5年かなと思っていた。最初からナルトとサスケが戦って終わるラストは決めていたが、その間が変わったというか、キャラが粘ったために連載が長くなった。

・連載は終わらせようと思っても終わらない。キャラが勝手に動き出すんですよ。キャラにはルールや性格があり、こういう時はこう動くというルールだけ決めている。すると、ある状況が与えられると動くようになる。しかし、自分が思ったように動かないこともあるし、行きたい目的に着くまでに遠回りすることもあった。

・当初はキツネが人間に化けているという妖怪ものを考えていたが、当時からナルトというキャラはできていた。だから忍者ものでも妖怪ものでもよかった。当時は忍者ものは(ほかのマンガで連載がなく)空いていたし、和モノがすきだったので、忍者は漫画には向いていると思っていた。海外でこんなにも忍者が人気があるとは当時は思っていなかった。

・アクションを描くときに体の動きがうまく流れるように書いた。被写体がでかいと時間軸、コマ数を食うので、書きたいアクションはなるべく短くした。ストーリ上の工夫としてはペイン編が大変で、欠落して人生病んでしまう設定をやりたかった。ナルトは1話以降成長を続けてきたが、人生は病むことがある。これがもう一度成長する部分になると思った。会話で決着するというのがどうなるかと思ったが、ナルトは嘘をつけないし、力でやり返したらそれこそペインと一緒になってしまう。ジライヤもそれを望んでいなかった。2人ともジライヤの弟子だけど、考え方は対照的だった。

・あまり勝ち負けをはっきりさせず、少年漫画誌ぽくない展開を意識した。ナルトには自分で考えさせた方がいい。敵がいる漫画なので傷つけ合うことになり、そこが無視できなくなってくる。ナルトが成長するほどリアルな話になっていった。敵を超えて分かり合える、痛みを知っているというか。ペイン戦は特にそこを意識しましたね。相手の痛みを知ることを重視しました。相手の立場になって考えるということは必要。

・最も印象的なのは19巻の「火影になるまでオレは死ねねえ」の場面ですね。ここは何回も紙にトレースして、自分でもよく描けたと思ってます。ナルトらしいセリフで、頑張る理由を聞かれたときに「落ちこぼれっだって言われたから」と。僕自身、ガキの頃は勉強もスポーツも大してできず、縄跳びくらいしか得意なものがなかったが、ジャンプで賞をもらった時に縄跳びのようにホップステップしようと思った。その体験がナルトに反映されている。主人公が落ちこぼれというのは世界の共感を呼んだ。

・忍者の人気、特に海外での人気はすごいと思った。忍者というのはまさに忍ぶイメージが強いが、僕の場合は忍ばない忍者のイメージにしようと思った。いまさら忍んでいる忍者漫画を描いても仕方ないと。ジライヤとかもわざと目立つ服にして、歌舞伎のようなポップなイメージで描いた。いい意味で想定していた忍者を裏切れ、差別化できたのかもしれない。

・ナルトには映画の影響が大きかった。国があって大名は政治をやり、軍としての忍びがある。そういう世界観を意識して、実際の世界とつなげて考えた。普段はあまり意識しなかったが、設定としてはどうしても国同士のことが出てくる。

・ワンピースはどうしても意識しましたね。ライバルだと思ってやってきました。ワンピースを超えたいと思ってやらないとダメだった。負けないぞと思いながら、お互いに意識はしていたと思います。尾田栄一郎さんともたまに話しましたよ。

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