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文化人物録46(藤倉大)


藤倉大(作曲家、2018、2019年)

→日本の現代作曲家、とりわけ40歳代以下の中では突出した存在感と知名度を誇る。15歳にして渡英して作曲を学び、「ソラリス」「アルマゲドンの夢」など壮大オペラ作品や古今東西様々な楽器とのコラボ作品や協奏曲も多数。クラシックにとどまらずジャズやロック、民族音楽などジャンルを軽々と飛び越えた創造性と仕事ぶりは驚くべきものだ。僕も何度もご本人とはお話ししたが、そんなものすごい実績や成果の一方、本人は淡々と、ひょうひょうとしていて拍子抜けするほどだ。さらにいつでも非常に楽しそうで、SNSを駆使した仕事は圧倒的に早い。藤倉さんに用事があって連絡するとあっという間に返事があった。その適度に肩の力が抜けた感じと現代に即したコミュニケ―ション能力が創作の秘訣なのかもしれない。

*作曲活動全般について懇談会@東京芸術劇場(18年)

(東京芸術劇場・鈴木順子さん)芸劇公演としては昨年第1回のボンクリフェスを開催し今年も9月24日に開催する。ハクジュホールではすべて藤倉大作品を演奏する公演をやる。ソラリスは10月に日本初演する。

(藤倉)ボンクリは昨年と趣旨は同じ。赤ちゃんからシニアまで誰でも1日面白くて新しい音楽をやる。昨年よりパワーアップしている。僕が好きな奏者に声を掛けたら皆来てくれることになった。昼間に部屋の中でやる新しい音楽、0歳から入場可の企画もある。僕の個展についてはこの指とまれのような感じでアーティストに声をかけたところたくさん集まってくれた。

ソラリスについては、僕は以前レムの本にインスパイアされたトロンボーンのための「K’s Ocean」という作品を書いていて、もしオペラを委嘱されたらこれをソラリスとして作品化したいと考えていた。5団体の共同委嘱作品になった。ソラリスはパリで世界初演した時のものを日本でもやる。この作品は自分の子どものようなもので、自分が曲を作ったら、人に何を言われようが揺らがなければ完成になる。もし自分が揺らいだら書き直せばいいだけのことだ。ソラリスはレムの小説をもとに書いた作品だが、SF、宇宙など何か不思議なこと、内面的なことだけを描いているのが魅力。すべての登場人物が内面から反映されて出てくる。そうした感情表現はやはり音楽が適していると思う。ダンサー付きのオペラは勅使河原三郎さんヴァージョンだが、ほかの演出家が監督した場合はどのようなオペラになるのかわからない。ソラリスは普通に楽譜として歌手でもできるオペラだと思う。僕は作曲家なので、音に集中できる演奏会形式でやってもいいと思う。

僕の作品には子供の影響がすごくある。レアグラビティやマイ・バタフライズなどがそうした影響のもとに生まれた。

*インタビュー(19年)

・住まいは英ロンドン。欧州をはじめ、世界各国からオペラや管弦楽曲などの作曲依頼が相次ぐ。「関心の赴くまま自宅で自由に曲を作ってきた。7歳の娘は、僕が何の仕事をしているか分かってないみたい」とひょうひょうと語る。

・大阪生まれ。15歳で渡英して作曲を学び、1998年のセロツキ国際作曲コンクールで最年少優勝を果たした。文学、科学など様々な分野に関心を持ち、常にネタを探す。妻の胎内にいる子供を思い浮かべた「レア・グラビティ」などユニークな発想の作品が多い。微生物に関する科学論文を基にした「グロリアス・クラウズ・フォー・オーケストラ」は今年、権威ある「尾高賞」を受賞。3回目の受賞で、審査員に「他の作曲家にも目を向けて欲しい」とまで言わしめた。

・作風のみならず、作曲のプロセスも現代的だ。依頼者や演奏者と事前にSNS(交流サイト)のメッセージ機能やスカイプを使ってやりとりし、曲の断片を巡って議論を重ねる。「会ってなくても知り合いのような感覚になる。共同作業が楽しい」。26日には最新作品集「ざわざわ」を発表。10月公開の映画「蜜蜂と遠雷」では作中で登 コンクール課題曲を手掛けるなど、活動の幅を広げる。

・17年からは現代作曲家を中心とする東京芸術劇場の音楽祭「ボーン・クリエイティブ・フェスティバル(ボンクリ)」でアーティスティック・ディレクターを務めている。ここでもSNSを駆使して自ら出演者を集めてきた。今年は9月28日に開催し、箏(こと)の八木美知依、ホルンの福川伸陽らが出演する。「難しいことは考えず、子供のように想像力を膨らませて音楽を聴くのが楽しい」と明かす。

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