見出し画像

文化人物録27(冨田勲)

冨田勲(作曲家、2016年5月、84歳で死去)
→2016年11月に上演予定の新曲の完成が迫った5月、突然帰らぬ人になった。倒れたのは新作の打ち合わせを終え、昼食にうな重を食べた直後。長年スタッフとして支え、亡くなる当日も打ち合わせに参加した日本コロムビアプロデューサーの服部玲治さんは「最後まで創作に意欲を燃やしていた」と悔やむ。
 幼少時に北京・天壇公園の「回音壁」から聞こえた不思議な音に魅了され、作曲家を志した。テレビや映画の音楽を手がけ、「ジャングル大帝」などの多くのヒット作を担当。シンセサイザー奏者としてもドビュッシーの名曲を独自の感性で再構築した「月の光」など、世界的ヒット作を生んだ。「学校」などの映画でタッグを組んだ映画監督の山田洋次さんは「科学者のような硬質な雰囲気を持っていたが、音楽はあでやかで優しく、美しかった」と語る。
 6月15日に都内で開かれたお別れの会では、ボーカロイド初音ミクを歌手に迎え、宮沢賢治への敬意をこめて作曲したイーハトーヴ交響曲「銀河鉄道の夜」(12年初演)が会場に流れた。新旧のよきものを取り入れた宇宙的スケールの壮大で心にしみる音楽は、並外れた科学的思考と進取の精神にあふれた作曲家にふさわしい鎮魂歌だった。


*冨田勲「ドクターコッペリウス」について(2016年10月26日)
(服部)
・冨田さんとはドクターコッペリウスの制作初期からかかわり、冨田さんが亡くなる直前まで打ち合わせをしてきた。冨田さんは「これが実現できることは夢の夢。いずれ描きたいと思っていたストーリーです」とおっしゃっていた。世界の冨田の功績を振り返る公演を晩年のパートナーである初音ミクとともに迎えることなる。原案や音楽の構想のほとんどを冨田さんは残していて、オーケストラやシンセサイザー、冨田さんの残した電子音やCGとの組み合わせたものだ。理想を次世代に引き継ぐため、シンセの曲「惑星」をオフィシャルにリミックスした。

・冨田さんは完成前に他界したが、大半の音楽を残していたので上演可能な状態だった。ストーリーは亡くなる直前までの打ち合わせをもとに案を再構成し、プロットを完成させた。冒頭の第1楽章、第2楽章は間に合わなかったが第3楽章以降は上演できる。冨田さんのメロディーをもとに冒頭の0楽章と最後の第7楽章をつくった。

・後ろにスピーカーを置いて音が回る、いわゆるサラウンド音響が特徴的で、過去のエレクトリックサウンドも使う。死後、1970~80年代のものと思われる秘蔵のオープンリールテープが発見され、再生記録できた。これを作品にも使っている。モーグシンセの音も含まれる。冨田さんはシンセ作品もオケ作品も分け隔てなく書いている。今回の作品はエレクトリックとアコーステックなサウンドの融合、集大成になる。

・冨田さんが間に合わなかった第1・2楽章の代わりに冒頭で我々が描きたかったことは、羽衣伝説が最初に出てくるという点。第2楽章は重力に関する巻ができていて、それに合わせた音楽を作ると言っていた。未完成だったものの、冨田さんの第1・2楽章のイメージは明確にあった。

(サウンド&ヴィジュアルライター・前島秀国氏)
・冨田さんのこの新作には2つのポイントがある。一つは初音ミクにコッペリアというバレエを踊らせること、もう一つが糸川英夫博士をモチーフにした作品を作るということ。この二つが合体することによってドクターコッペリウスが生まれた。冨田さんが表現したかったのは、戦闘機ハヤブサやロケット開発に携わってきた糸川さんが空に向かって飛び立つとことではなかったか。糸川さんは東大をやめた後に貝谷バレエスクールに入り、バレエダンサーになった。そのころ冨田さんはバレエ音楽惑星を書いていたころ。糸川さんと冨田さんはその時に会い、「ホログラフと共演したい」と冨田さんに話した。その夢を冨田さんが実現したということだ。重力のしがらみを乗り越えようとする人間の情熱をバレエで表現している。
・冨田さんの音楽性というのは音符を素材にして用い、新たな音楽、世界を創り上げるところにある。例えばドビュッシーの月の光も素材として用い、新たな音楽を創った。サウンドクラウドにしてもそうだ。今回のコッペリアでも同様で、例えばブラジルの作曲家ヴィラロゴスのブラジル風バッハ、コッペリア、ワーグナーのトリスタンとイゾルデ、自身の曲イトカワとハヤブサなどをモチーフとして使っている。これぞ冨田勲。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?