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医療機関のホームページ制作で重要なたった一つのこと【これからの医療とDX #16】

「今風のデザインで、いい感じのホームページを提案してください」
「自院に合ったサイトのデザインを提案してください」

ホームページや採用サイトの制作で、このような依頼をしたことはありますか?実際、医療機関にかぎらず、最初の依頼はこのような内容であることはよくあります。制作者側の自由度が高く、プロの技術を尊重した依頼のように思える内容ですが、実際には、「意図や要求がわからず、”良いもの”が作れなくなってしまう」可能性を高めてしまいます。

依頼する際に要求を明確にすることで、より良いものとなり、最終的に費用を下げることにもつながります。今回は、ウェブサイト制作で最も重要な「要求定義」について解説します。


要求定義とは

冒頭の依頼「今風のデザインで、いい感じのホームページを提案してください」について考えてみましょう。

「今風のデザイン」という言葉は、人によって解釈が異なります。たとえば、制作者が「アニメーションの多いカッコいいデザイン」と捉えて作ったものが「ローディングでページ表示に5秒がかかるもの」だったり、「予算よりも500万円高いもの」だったりしたらどうでしょう?要求どおりに作ったとしても、意図とは異なるものになるでしょう。

制作者が依頼者の意図を正確に理解できなければ、実際にはニーズに合わないウェブサイトを提案してしまうかもしれません。このような問題を避けるためには、依頼者である医療機関側でウェブサイトの要求を明確にすることが重要です。このプロセスを要求定義と呼び、ウェブサイトの目的や目標、実現したいことや「なぜそれが必要なのか」を明らかにする工程です。

実際、高単価の制作会社では、要求定義に十分な時間をつかって依頼者の意図を丁寧に引き出すことが含まれることが多いです。目安として制作予算に600万円以上かけられる場合は、そのような制作会社も選択肢になるでしょう。逆に、自院で要求定義が十分になされているなら、制作費用を下げる余地が生まれます。

要求定義とは別に、「要件定義」というプロセスもあります。要件定義とは、「何を実現するか」を具体化するプロセスを指します。要求定義は要件定義のための基礎を提供し、要件定義は要求定義で明確化されたニーズや要望を具体化するという関係にあります。

制作過程の上流である要求定義がふわっとしていると、要件定義で必要な機能や使い勝手の検討が漏れてしまいます。要求定義は最も重要な過程なのです。


あいまいな依頼で起こりうる6つの問題

あいまいな要求でウェブサイト制作を発注すると、様々な問題が発生します。

1.提案内容のバラつき

まず、あいまいな要求では、制作会社によって提案内容にバラつきが出てしまいます。例えば、「今風のデザイン」や「いい感じ」という言葉は、人によって解釈が大きく異なるからです。

ある制作会社は、シンプルでモダンなデザインを提案するかもしれません。一方、別の制作会社は、カラフルでポップなデザインを提案するかもしれません。

このように、依頼者の意図とは異なる部分で、制作会社によって提案内容が大きくぶれてしまうと、医療機関が求めているものとは全く違うものが提案され、比較検討する際に判断が難しくなるでしょう。


2.ニーズに合わない提案

次に、あいまいな要求では、医療機関のニーズに合わない提案になってしまう可能性が高いという問題があります。

医療機関には、それぞれ固有のニーズがあります。外来メインなのか、入院メインなのか。どのような診療科があり、どのような患者を受け入れているのか。どのような設備や機能があるのか。患者さん向けだけでなく、採用候補者向けのページをつくるのか。
運用面でのニーズもあります。どのような情報をどのくらいの頻度で更新するのか。編集権限者は何人で、誰に付与するか。採用ページがある場合は、採用担当者がどのように利用するか。
法人によっては、老人保健施設などの介護施設や訪問看護ステーションなどの他の事業所も一体としてウェブサイトで扱うこともあります。それぞれの事業所で別々にウェブサイトを制作すれば、制作コストや運用コストが上がり、グループとしての統一感が失われるでしょう。それを許容するか、どこまで統一するかも検討事項となります。

あいまいな要求では、制作会社はこうした医療機関の固有のニーズを十分に理解できません。医療機関が実現したいことは医療機関の中の人が考えないと出てこないからです。
その結果、制作会社は一般的な医療機関向けのホームページを提案することになります。しかし、それは必ずしもその医療機関に適したものとは限りません。求める機能が不足していたり、ターゲットユーザーにそぐわなかったりする可能性が高くなってしまいます。


3.コミュニケーションの齟齬

あいまいな要求では、医療機関と制作会社とのコミュニケーションに齟齬が生じやすいという問題があります。

あいまいな要求では、医療機関側の意図や要望が制作会社に十分に伝わりません。医療機関が「今風のデザイン」というイメージを持っていても、制作会社がそれを正確に理解できるとは限らないのです。

また、制作会社が提案したデザインやレイアウトが、医療機関のイメージと異なることもあります。しかし、要求があいまいだと、それが医療機関の意図とずれているのか、制作会社の創造性によるものなのかが判断できません。

このようなコミュニケーションの齟齬は、プロジェクトの進行を大きく妨げます。医療機関と制作会社との間で認識の違いが生じ、意思疎通が円滑に行えなくなるからです。その結果、制作したウェブサイトが医療機関の求めるものとは異なってしまう可能性が高くなります。


4.大幅な修正の必要性

あいまいな要求で制作されたウェブサイトは、医療機関の求めるものとは異なる可能性が高いため、大幅な修正が必要になることがあります。

例えば、医療機関が求める重要な機能が欠けていたり、デザインが想定していたものとは大きく異なっていたりした場合、大幅な修正が必要になります。ページ構成の変更、新たな機能の追加、デザインの刷新など、多岐にわたる修正作業が発生するのです。これらの修正作業には多大な時間とコストがかかります。


5.納期の遅延

あいまいな要求でホームページ制作を進めると、納期が遅延するリスクが高まります。

前述したように、あいまいな要求では、医療機関と制作会社とのコミュニケーションに齟齬が生じやすくなります。その結果、制作段階で医療機関の意図と制作会社の理解にずれが生じ、何度も修正を繰り返すことになるのです。

また、あいまいな要求では、制作途中で新たな要望や変更が出てくる可能性も高くなります。制作が進むにつれて新たなアイデアや要望が出てきたときに、これらの変更への対応にも時間がかかります。

このように、修正や変更が頻発することで、当初の納期を守ることが難しくなります。納期が遅れることで、医療機関の事業計画にも影響が出てしまうかもしれません。


6.満足度の低下

最終的に、あいまいな要求で制作されたウェブサイトは、医療機関の満足度が低くなる可能性が高くなります。

医療機関が求めていた機能やデザインと異なるウェブサイトができあがってしまうと、期待していた効果を得ることができません。せっかく制作したウェブサイトが、患者さんに十分に活用されなかったり、医療機関のイメージアップにつながらなかったりするのです。

また、制作段階での修正や変更の多さ、納期の遅延なども、医療機関側の満足度を下げる要因となります。プロジェクトの過程でストレスを感じたり、コストや時間の面で負担を感じたりすることで、ウェブサイト制作に対する評価が下がってしまうのです。

このように、あいまいな要求でホームページを制作することは、最終的な成果物だけでなく、プロジェクト全体の満足度を下げます。


要求定義でウェブサイト制作をより良いものに

本記事では、医療機関がウェブサイト制作を依頼する際に、要求定義がいかに重要であるか、それをすることでどのような問題が避けられるかについて解説しました。

要求定義の手順を踏むことで、制作物の質やプロジェクトの満足度はより良いものになります。難しいことは考えずとも、まずは関係者で以下の項目について話し、1枚の紙にまとめるだけでも効果があります。

・ウェブサイトで実現したいことは何か
・必要な機能や情報は何か、それがなぜ必要なのか
・参考にしたいウェブサイトやホームページと、どの部分を真似したいか
・リリース後の運用体制と、更新頻度(目安)
・予算(目安)
・希望の公開日(目安)

より良い要求定義には、業務理解とウェブ理解が必要です。医療機関の業務を理解することで、発信すべき情報や運用上の制約条件を把握し、要求定義に反映することができます。ウェブサイト制作のツールやUI、サーバーやシステムの知識があれば、要求定義・要件定義の際に幅広い検討が可能になります。
院内での要求定義がうまく進まなかったときは「医療機関ウェブサイト企画支援」もお勧めです。業務理解とウェブ理解をあわせ持つ専門家が伴走し、ウェブサイトの要求定義や要件定義を支援します。


要求定義は、ウェブサイト制作に欠かせない重要工程です。ぜひ十分に検討して、良いウェブサイト制作になることを願っています。

株式会社DTGでは、医療機関のDXや組織・人事のコンサルティング、マネジメント研修を提供しています。
ご相談はHPの問い合わせよりご連絡ください。


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