移動スーパーは日本の課題最先端を走っている
皆さんは移動スーパーとくし丸をご存知ですか?
移動スーパーは言葉の通り、移動するスーパーです。軽トラックの荷台に食料や飲み物、お菓子などを詰め込んで村を転々としながら車で市街地まで買い物にいけない人たちに物資を供給します。
とくし丸はJAがやっている取り組みで、「徳島」から名前の由来がきているみたいですが、和歌山でもとくし丸という名前で各所をめぐっていました。とくし丸が村の中で停留する場所はいくつか決まっていて、時間もなんとなく夕方の16時ごろです。
とくし丸が到着すると独特のメロディが村中に響き、地元のおじいちゃんおばあちゃんが買い物をしにとくし丸へとやってきます。
週に2回、月曜日と木曜日がとくし丸の日です。とくし丸のメロディーが16時ぐらいに聞こえてくると、曜日を思い出し、「もうこんな時間か」とか「もう1週間経ったのか」と感じていました。
とくし丸以外にも、毎週火曜日には和歌山のスーパーチェーン「松源」も移動スーパーとしてやってきます。松源の移動スーパーは大きめのトラックで、車内にお客さんを入れて買ってもらうシステムです。
一方、とくし丸は、軽トラックの荷台に商品を詰め込んでその周りに群がって買ってもらうような仕組みです(下図はとくし丸HPから)。
移動スーパーのいいところ
そんな移動スーパー、地域のおじいおばあにとってはなくてはならない存在です。僕が滞在していた和歌山県美浜町三尾も、全体の2/3以上がいわゆる高齢者です。地区で一番多いのが60代、その次が70・80代という現状、今も地区の大多数が恩恵を得ており、今後さらに重要になると思います。
免許がなくても自分で買い物ができる
免許返納という言葉が流行ったこともありましたが、高齢者の方はだんだん車に乗る頻度が少なくなります。しかし多くの場合、地方は車社会です。
僕がいた三尾も、村の中にはコンビニはなく、一番近くのコンビニまで車で10分ほど、スーパーには20分弱かかります。車がなければバスに乗ればいいじゃないかと思われるかもしれませんが、バスも往復800円以上し、スーパーに直接は行ってくれません。さらにバスの頻度は1時間に1本だけでほぼ使えません。
では、車を運転しなくなった高齢者の方はどうするのか。若い親戚に乗っけてもらうこともありますが、やはり基本的な買い物は移動スーパー頼りです。
移動スーパーはバリエーションもそんなに多くなく、価格も1割以上高いです。しかし、そのコスト以上に自分たちが住う地区までやってきてくれるというのは価値があることなのです。
しかも、とくし丸は村の中でも5カ所に止まるルートで回るため、自宅から徒歩3分以内に移動スーパーがやってきてくれるようになっています。
外まで出れない人にも家まで売りに来てくれる
しかし、それでも80歳以上の高齢者の方にとって家の外を長く歩くのが負担な人もいます。そんな人たちにも移動スーパーは対応しています。
実は移動スーパーは個人のお宅まで伺います。特にとくし丸は5カ所の地区内スポットをめぐった後に、個々のご自宅の前まで行ってカゴに商品を移し替えて玄関まで持っていきます。
どの村でも5カ所ほどの場所をめぐった後に、数軒を周り、一軒一軒を回り、地域をめぐります。
常連さんへの配慮が細かい
地域をトラックで回る移動スーパーは、普通のスーパーよりも遥かに仕事の幅が広いです。
・トラックの運転
・運行ルートの確認
・地域の住民とのコミュニケーション
・商品の管理、設営、撤収
・レジ打ち
一つ一つを1人が捌きます。それだけでも凄まじい仕事量ですが、さらにスタッフの方は地域の住民の方々とのコミュニケーションがすごいです。
ある日には、「いつも買ってる牛乳まだあるで〜」とおすすめしていたり、
コロナでトイレットペーパーの買い占めが起こった時には地元のおばちゃんのリクエストに答えてトイレットペーパーを多めに持ってきてくれたり、しばらく来ない住民の人を心配したり、利用者の方一人一人を大切にされている姿はひしひしと伝わりました。
そんなとくし丸や移動スーパーの話を東京の大学同期に話すと「トラックがスーパーになれるの?」とか、「移動スーパーがくるタイミングでおじちゃんおばちゃんが集まってくるのがすごく面白い!」という反応が多かったです。
とくし丸と東京でのまさかの再会
東京に戻りはや半年、改めてとくし丸のことを思い出す強烈な出来事がありました。
きっかけは、とある事情で家族を八王子(東京と山梨の間らへん)まで車で送迎した時のことです。駐車場に車を止めていると、建物の奥から聞き覚えのあるメロディーが流れてきました
とくとくと〜くとくし丸♫
な、なんと、とくし丸は徳島を飛び出して、和歌山どころか、東京まで進出していました笑
和歌山に滞在していた間、田舎の象徴として、とくし丸と集まるおばちゃんたちの話をしていたのに、その象徴だったとくし丸が元気に東京を走り回っていることには衝撃でした
そしてとくし丸はコロナ禍で外出するのが難しい都会の高齢者にフィットしました。今では23区内の都心でもとくし丸がぐるぐると回っています。
徳島市に本社を置くとくし丸は四月末現在、東京二十三区内で十九台の移動販売車を稼働。軽トラック内に生鮮食品や雑貨など四百品目、千二百点を積み込む。(東京新聞より)
田舎は課題の最先端
徳島で始まった移動スーパーとくし丸、移動のノウハウや、移動スーパーのあり方は洗練され、県を超えて広がりました。
そして移動スーパーが広がる背景には「ものを買う」ということが困難になった人たちが増加しているという高齢化社会の課題が横たわっています。
これからの日本社会全体が、人口減少と高齢化社会に向かう中で、人口が凄まじい勢いで減少して高齢化どころか、"高齢しかいない"社会になりつつある田舎で発生すること、そこで改めて確認される「何が大事なのか」ということ、それが日本社会全体に起こりうることであり、大事なことであると思います。
和歌山で大切だと思った、人と人の繋がり、「移動できない」ことへの問題意識。これらは東京でも、僕の家の周りでも目を向ければ大切とされていることでした。
気楽な音楽でやってくる移動スーパーの音を改めて聞きながらそんなことを思い出しました。
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