寿命の延びを止めなければいけない

2040年問題というのがあります。人口統計の予測で、日本の高齢者人口の割合が最大になる年です。その時日本はどうなるのかが色々議論されています。



しかしこの話は裏を返すと、2040年以降高齢者人口は減っていくという事でもあります。人口減少がそのまま高齢者層に反映され、高齢者も減り始めるのです。だから日本の少子高齢化問題は2040年前後が一番過酷で、そこを何とかして乗り切れば負担は軽くなっていくとも言えます。



ところがここに問題が残ります。上の計算は、平均寿命が今のままと仮定しています。しかし日本人の平均寿命は年々延び続け、留まるところを知りません。今の平均寿命で死ぬはずの人がもっと長生きするのであれば、2040年がピークというのは怪しくなってきます。



もう一つ問題があります。少なくとも現在までの推移を見る限り、健康寿命と平均寿命の間には必ず10年のギャップがあります。もちろん、健康寿命の方が短いのです。つまり人は老後の10年間、程度の差はあれ不健康な状態で過ごすという事です。この人達が一番社会の負担になるわけですので、何とかしてこの不健康寿命を縮めようと様々な努力がなされています。しかし今のところ、それは実を結んでいません。



勿論今の政府の政策は、こう言う問題に全く対処出来ていません。社会保障に使うと言った消費税は全く別の使われ方をされていますし、こう言う状況の中で軍事費を2倍にするなんて言うのも非常識です。そんな金があったら少子高齢化対策に廻すべきです。



しかしですね、その上で敢えて言いますが、平均寿命が何処まで延びるか見当が付かないのでは、どんな対策も立てようがありません。今女性がおよそ90ちょっと、男性はその2歳下で死んでいる、それを前提として2040年に高齢者の割合が最大になると言っているのですが、平均寿命がもっともっと伸びていって、100歳だ、それ以上だという事になるのでは、事態がどうなるのか予測のしようがないわけです。



となると、成田氏のように年寄りは安楽死しろは言いませんが、少なくとも平均寿命の伸びを止めなければいけないのは明らかだと思います。これ以上どんどん寿命を延ばしたらいけないのです。なんて薄情なと言われるかも知れませんが、事実です。平均寿命が限りなく延びていくのでは、何を指標に高齢化対策を打ったら良いのか全く分からなくなります。



私が医者になった30年前に91歳の患者がいたら完全に寿命扱いでした。でも今日私の外来には91歳の独居の老人が来て、その人の生活を成り立たせるのにどうしたら良いか、みんなで相談しなければならないという話になっています。これが95歳、100歳と延びていったら、どうにもなりません。



色々な病気が治るようになるのは一見とてもよい事です。しかし高齢になると、人は何かの病気にかかって治ったと言っても元の状態には戻りません。必ず老化の階段を数段降りるのです。歩いて自分で飯も食えていた人が何かの病気にかかって、病気は治った、でも寝たきりになったというのは、もう止めるべきです。そう言う治療は、しないという選択肢を社会が容認しなくてはなりません。そうでないと、いずれ社会そのものが破綻します。これは老年科医として高齢者を日々診療していて、つくづく感じる事です。

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