岩崎鋼

漢方を使う高齢者医療の医者

岩崎鋼

漢方を使う高齢者医療の医者

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我が半生:如何にして東北大に漢方が根付いたか。

1993年に坂総合病院での初期研修を終えた私は、漢方で学位(医学博士)をとりたいと思った。しかし当時漢方などと言うのは怪しい呪(まじな)いであって、それで学位が取れるなどとは到底思えなかった。困って坂病院に出入りしていたツムラのMRさんに相談すると、「佐々木先生ならもしかしたら」という。東北大に出来たばかりの老年内科の佐々木教授である。そこでさっそく老年内科に佐々木先生を訪ね、「漢方で学位を取りたいのです」と言ったら一言「いいんでねべが」と言ってくれた。秋田弁の抜けない人だっ

    • 雄勝物語。税金で街は作れるか

      私は7年前、石巻市雄勝の診療所長を7か月やりました。あのときの経験は、今に到るまで私の人生で前代未聞でした。 雄勝は現在の石巻市に含まれる範囲ではもっとも甚大な震災被害を受けました。旧市街地は港を囲む海沿いにあったので、津波で完全に破壊されたのです。全て、何も無くなりました。辛うじて生き残ったのはリアス式海岸の山の上に点在する集落だけです。かつての雄勝は古いとは言え三階建て鉄筋コンクリートの公立病院があり、そこにはCTもあり、街には開業医もいたし薬局もあったしスーパーもコ

      • 飴って立派な生薬なんです

        漢方生薬の1つに膠飴(こうい)があります。米や小麦から作られる飴です。膠飴が入る小建中湯も大建中湯も消化器疾患に使う処方です。中薬学の本を見ると、その効能は補気権胃、潤肺止咳と書いてあります。潤肺止咳のほうは、まあ日常的な経験によるものでしょう。のど飴は一般に広く使われているわけで、飴をなめると咳が治まるというのは、対症療法ですが広く知られていることです。 しかし膠飴の本質はまさに補気だと思います。気を補う。ここでは非常に単純な意味です。吸収しやすいエネルギー補給になるとい

        • 「生活習慣病」というのはもう止めよう、最終回「コレステロール」

          さっき第二回の糖尿病をアップしたばかりですが、今日は時間に余裕があり、次に余裕があるのはいつになるかまったく分からないので、一気に最終回「コレステロール」に行っちゃいます。 いきなりスネイプ教授宜しくすらりと答えます。 「健常な日本人に於いて、ただLDLコレステロールが高いと言うだけでそれを下げる臨床的根拠は、不明確である」。 そうなんです。コレステロール、しかも悪玉と言われるLDLコレステロールが高いというそれだけの状態の日本人に対し、LDLコレステロールを下げると何

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          生活習慣病と言うのはもう止めよう。その2.糖尿病

          さて、前回高血圧でご好評を戴いた生活習慣病はもう止めようシリーズ第二弾は、糖尿病です。このお話に登場する主要キャラの一つインスリンが何か一言言いたいそうです。 インスリン「私を使ってダイエットするのは止めて下さい!私は身体の中で脂肪のもとを作ってるんですから!」 だ、そうです。インスリンが言わんとする意味はおいおい明らかになります。 さて、糖尿病とは血糖値が上がる病気です。いや正確に言うと、血糖値が下がりにくくなる病気です。人の体内で、血糖値を上げる物質はたくさんありま

          生活習慣病と言うのはもう止めよう。その2.糖尿病

          食欲が無い高齢者の一例

          先週あゆみ野クリニックの外来に、80代後半の認知症の女性が家族に連れられてやってきた。認知症は既に重度で、家族もその治療を期待して連れてきたわけでは無い。家族の心配は、最近その人の食事の量がめっきり減り、それにつれて活動性も下がり、寝てばかりいるという事だった。 正直最初私は、「うーん、もう90近い認知症だしなあ。これは認知症の末期なのではないか」と思った。このように、高齢の認知症患者がだんだんものを食べなくなり、そのうちすっと亡くなるという事が良くある話は、何時かも書いた

          食欲が無い高齢者の一例

          所感「コロナワクチンの現状について」

          始めに強調しておくが、私はアンチワクチンでは無い。武漢株、β株、δ株に対して、ワクチンが偉大な武器であったことを一筋も否定しない。これらのコロナウィルスは、ワクチンによって見事に沈静化された。それは統計的データよりむしろ発熱外来に日々取り組んできた医者の一人として私が目の当たり感じた事実であり、それを私が否定することは出来ない。 だが現状、つまり2023年7月時点の日本に於いて、コロナワクチンが効いているとは到底感じられない。日本ではつい最近6回目のワクチン接種が一巡したば

          所感「コロナワクチンの現状について」

          己に向き合うという事

          己に向き合うというのは、ものすごく辛い修行です。大抵は、誤魔化すのです。誤魔化さないでは、自分とは折り合いが付かないからです。アメリカが「広島・長崎の原爆は戦争の終結を早めた」と主張するのも、まさにごまかしです。そうでもしないと、アメリカ人はあの惨劇を自分たちが引き起こしたという事実に、耐えられないのです。 先日アングリマーラという殺人鬼をブッダが改心させたという話をしました。アングリマーラはバラモンの家に生まれ、バラモンの師匠について熱心にバラモン教を学んでいましたが、あ

          己に向き合うという事

          仙台でLGBTパートナーシップ条例は実現するか

          仙台市長の郡和子氏は最初の市長選では野党共闘で当選し、その時はLGBTパートナーシップ条例の実現を目指すと公言した。しかし彼女はその後自公に支持母体を移し、パートナーシップ条例については検討を重ねるとしか言わなくなった。つまり彼女は仙台市民はまともだと誤解して市長になったが、市長をやっている内に自分の選挙民はバカでクズで無能だと気がついたのだ。 今や仙台は全国20ある政令都市の内、ただ一つパートナーシップ条例がない都市だ。だが郡氏の「仙台市民はバカでクズで無能だから、LGB

          仙台でLGBTパートナーシップ条例は実現するか

          境界型人格障害(ボーダー)について

          境界型人格障害という精神疾患があります。「境界型」などと言いますが、実は境界どころではない、「生ける魔物」です。俗にボーダーと言います。 ボーダーは自分に近づく者全ての心に忍び込み、相手を心身ともに破壊します。親兄弟、医師、教師、手当たり次第異です。その人がボーダーだという事に気づかずその人物をどうにかしようとする人は、皆心身を破壊されます。まさに魔物です。 しかし憐れむべきは、「おぎゃあと生まれついた時からのボーダー」は稀です。成長発育の過程、人生の過程で散々に人格その

          境界型人格障害(ボーダー)について

          患者の値踏みをした話

          先日FBで私が「私は外科ではないが生涯に3回メスを振るった経験がある」と書いたらある方が「自分の夫は消化器内科医だが、当直中に雄賛もしたし切れた指を縫ったこともある」とコメントされて、私は腰を抜かした。内科領域しか経験が無い私は、お産はとてもとてもやれない。万が一そういう場に直面しても、何をどうしてよいか、全く見当も付かない。その消化器内科の先生も、想像するに、当直中にもう自分がやるほかどうしようもない状況に追い込まれて、何が何だか分からないままやったらどうにか何とかなったの

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          コレステロール治療の話

          ある鍼灸師が私の投降にレスを付けて、コエンザイムQ10は心血管イベントを予防するというデータがあり、コレステロールを下げる薬であるスタチンには無いと言い張るので、いやスタチンの心血管イベント抑制効果は山のように英文原著がありますといくつか代表的なものをPubMedから拾ってコメントを返した。 そこでその人が「でもこういう英論文もありますが」と言って出してきたのがcorrespondenceで、スタチンの有効性を主張した論文に対して方法論に疑問を呈したreplyだった。それな

          コレステロール治療の話

          漢方は未病を治すか

          ある方がFBの私の投稿をシェアしてくださって、「漢方で未病を治す医者」と紹介してくれましたが、実は今の漢方外来に来る患者さんは未病ではないです。だって何かの症状に困って来院してくるのですから、已病、つまり既に発病した人です。現在使われる意味での未病を治すのは、例えば血圧やコレステロールや糖尿病などをなんの症状も無い内に治療して招来の心筋梗塞、脳梗塞、認知症などのリスクを減らす、のが未病を治すと言うことになります。 ところがですね。実は本来の「治未病」って今言われているような

          漢方は未病を治すか

          あるヘルパーの話

          サービス付き高齢者向け住宅、通称「さこじゅう」で働くヘルパーが、職場の上司の対応が不満で体調が悪いと受診してきた。ヘルパー2級でまだ二年目だそうだ。一年目は日勤が主で、その頃は割と問題なく働けていたが、二年目になったら夜勤が多い部署に廻された。そうしたら夜勤帯での仕事がうまく出来ないという。 施設としては、まず初年度は日勤で仕事を覚えさせ、二年目になったから夜勤もやらせたという事だろう。だが日勤と夜勤とでは仕事の中身が全く違う。スタッフの数自体少ないし、急変対応を迫られるの

          あるヘルパーの話

          救命加算というものは無い

          内田隆一先生が、またFBでぶつくさ文句を書いている。めったにない稀な急変に気がついて、教科書に無い治療をして一命を取り留めさせたのに誰も評価してくれないという。 考えてみればそれは私が「なんともなさそうな患者を検査したら大変なことになっていたから救急搬送したが全然加算が付かない」と文句を言っているのと本質は同じだ。 めったにない病態は、めったにないから、統計に載らない。なんともなさそうな患者がじつは大変な患者だったから救急搬送したというのも統計に載らない。医者は「自分は凄

          救命加算というものは無い

          経営が苦しいからこそ従業員を大事にする

          あゆみ野クリニックは従業員4名だ。医療事務2名、看護師2名。全員正規職員で、協会けんぽに入れている。社労士から「先生、従業員4名以下は国保でいいんですよ、社保にしている所なんて無いですよ」と言われた。銀行の融資の時も、ここを叩かれた。人件費が高すぎる、何故国保にしないのかと問い詰められた。その意味は今身に染みて分かっている。だって毎月4人分の社会保障費が合計31万円クリニックから出ていくんだから。 3月から独立したあゆみ野クリニックの売り上げは3月、4月は100万がやっと、

          経営が苦しいからこそ従業員を大事にする