震災復興事業の壮大な無駄

昨日発熱外来に来た人、雄勝の人だった。雄勝は昔ちっぽけなプレハブの診療所だった頃に私が半年だけ勤務したことがある。かつて4千人だった町が震災で1200人に減った。そこに巨大な土盛りをし、壮大な堤防を並べ、高架道路を掛け、今時超贅沢な檜だか杉だか知らないが木造の新築クリニックを作った。


ところが患者が来ない。私が赴任していた6年前で一日4人しか来なかった。やることが無いから居眠りしていると、患者から役所(雄勝総合支所)に「あの医者ねむかけしてやる」と文句が入った。総合支所長が血相を変えて「あんだねむかけしてやんのか」と問い詰めたから、馬鹿馬鹿しくなって辞めた。その後、石巻市役所も常勤の医者は無駄だとやっと気がついたらしく、週三日石巻市民病院から交代で医者を派遣しているらしい。あの豪華な診療所が、もったいないことだ。

週三日しか診療所をやらないのでは、住民はますます掛からない。結局こうして雄勝から石巻のクリニックの発熱外来にやってくる。


あの復興事業の壮大な無駄は一種のタブーになっているのか、誰も指摘しない。東北沿岸に延々と目もくらむばかりの堤防を築き、膨大な盛り土をして、高架道路を渡し、そして今そこには誰も住んでいない。みんな石巻や気仙沼など主要都市に集中してしまった。その石巻の人口ですら、17万から12万に減った。震災後人口が増えたのは、東北一円で仙台だけだ。


あの復興事業は民主党政権が青写真を作って安倍政権が推し進めたのだから、いわば共同責任である。そのせいか、誰も批判しない。しないが、無駄の壮大さから言えば五輪の比ではない。誰も住まない広大な高台に、ただ役所と診療所だけがぽつんと建っている。


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