見出し画像

ブックマンションでの一年 <前編>

早いもので、私がブックマンションの棚主になってからもうすぐ一年になる。コロナ禍中で新しいことをはじめる。今ある暮らしの中からの引き算ではなく、多少なりともコストが発生し、エネルギーがかかることをする。というのは、もしかしたら「やらなくてもいいこと」なのかもしれない。がしかし、逆に言えば、それは自分の心にとても忠実で、本質を突いたアクションだったと思う。

コスト面で言えば、毎月発生している棚利用料に対して、採算はとれていない。それは棚主になる前から了解していたことである。利益目的ではなく、その場から「感じること」を体験したかったので、私は棚主になった。そして、想像していた以上に私は能動的になり、得るものが大きい一年だったと思う。

オーナーとの出会い

ブックマンションのオーナー、中西功氏は私の上司ではない。が、次々と出てくる新しい発想にハッとすることが多く、ふとした会話の中でふってくる言葉は印象的だった。お店番のとき、中央テーブルをどう展開しようかと思案していたら、「社会貢献的なことではなく、自分が楽しいと思えることをした方がいいですよ」と言われた。私は楽しいと思うことをするために棚主になったはずなのに、物事を決めるときの判断基準が自分にではなく、周囲に置く癖があることに気づかされた。

お店という開かれた場である以上、ひとりよがりは良いものではない。が、その場を管理する側が楽しくやっていなければ、そこを訪れる人も心地よくなれるはずはない。居心地の良いお店は大概にして、店主が好きなものを店中に置き、大切にしているものだ。ブックマンションには売上の目標数字もなければ、NG的なルールはほぼないといって等しい。

その一言から私はお店番を積極的にやるようになり、基準は「楽しいことをやる」に変わった。また楽しさより負担が越えてしまうことがないよう、準備時間がないときや「特にコレ」ということがない時は無理せず、中央テーブルは、お客様ノートのみを置くことにした。

画像3

ZINE作りとイベント出展

3月、ブックマンション主催のZINEイベントが吉祥寺パルコ屋上であった。「息子さんの絵をまとめた画集ZINEを作って、出展してみませんか?」と声をかけていただいた。もし声がかからなかったら、腰が重い私は作ってみようと思わなかったと思う。書籍編集の経験はあったものの、初めてのZINEを3週間で制作&印刷し、イベントに出展した。制作中は現役時代を思い出し、紆余曲折を経ながらも出来上がっていくプロセスは、それは楽しくて仕方なかった。物づくりはやはり楽しい。

画像1

とりあえず「形にしてみること」で次に作りたいものが見えてくる。「好き」を可視化すること。失敗は後退ではなく、前進であること。そんな当たり前のことをこの年になり、はじめて気づいた。

息子は絵が好きで小学校生活で魚の絵をたくさん描いた。今春、中学生になり、私との会話はほぼない(笑)。それは良き成長を遂げた証ではあるが、あのタイミングを逃していたら、当時の息子の言葉を拾い、絵をまとめた画集はこの世に生まれなかったように思う。大変有難いことに、無名にも関わらず、息子の絵の画集ZINEやポストカードは多くの方の元へ旅立ち、今もブックマンションで手にとってくださる方がいる。

画像2

↑息子の絵『イメージをつめこんで』。

後編へ続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?