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がばいばあちゃんより綾小路きみまろがいいと駄々をこねまくる伯母の話

小学校の頃、伯母と「こんぴらさんバスツアー」というのにいったことがある。

こんぴらさんとは、香川県にあるめちゃめちゃ長い石段のある神社だ。(雑すぎる説明すまん。是非Googleで調べてみてくれ)

よく覚えてないが町内の福引きかなにかの…。
しかも当たっても無料とかではなく割引券なだけで、ほとんど自腹。

しかし…保育士をしていた
お出掛け大好き人間の伯母にはそんなことは一切関係ない。

理由があればどこへでも飛んでいき、
私や他の姪や甥(その時の最年少の親族がターゲットになる)を振り回したのち、
たくさんの土産や謎の飯を買う…。そしてそれをいらんゆーとるのに無理矢理食わせるのだ…。
いるよな、そういう人…。

当時、私が親族で一番下のガキだったので
もちろん私を誘ってきた。

私は、というと小学校の頃から生まれつきの陰気引きこもり体質が故、全然まったく乗り気ではなかった…どころかはっきりいってマジで行きたくなかったが、ほとんど無理矢理そのバスツアーに連行されたのである…。

行きたくなかった理由は
私がスーパー引きこもり根暗ぽっちゃりむっつり体質だからだけではない。

とりかくこの伯母
めちゃめちゃ干渉してくるのである!

うちの祖母は過干渉妖怪なのだが、
伯母はその妖怪の娘なので
血は若干薄まり「過」は抜けたものの
「干渉」がすさまじい。

今回だって山なんか登りたくない、家で漫画読んでたいっていってるのに
山は空気がおいしいとか、長い石段は運動になるとか、大体なんで楽しいことに自分から参加しないのとか、えーヤダ!伯母ちゃん一人で行きたくない!とか…

知らねーよ!そんなこたぁ!!!!!!

まぁ………行ったら行ったでいいこともあった。

長い長いこんぴらさんのお石段。
ハァハァゼィゼイと小学生とは思えない息切れを繰り返し、汗を滝のように流しながらよろよろと上っていると…
半分くらいのぼったかどうかの階段の横、山の斜面に
古くて汚いおもちゃ屋みたいな店が張り付いていたのを見つけたのだ…!

こわごわと中に入ると、かなり古いであろう顔つきのルパン三世のフィギュアや
もはやなぜそれを定価で売るのか!?というような店内で長年日に焼けまくったであろう謎の生き物のソフビなどが所狭しとひしめき合っている。

私は夢中でそれらをキラキラと眺めた。
こういうなんか…………ヨゴレたもの(良い言い方思い付かん)が、昔から大好きなのだ。

ふと、腕時計を観ると
ツアー集合の時間に近づいていた。
ちょっと長く眺めすぎたようだ…。
駆け足でバスツアーの集合場所に戻る。

バスに到着。集合時間の5分前である。
私以外の乗客はみんなもうバスに乗っていた。

やれやれ年寄りは気が早いな…と座席に戻ると、鬼の形相で伯母が私を待ち構えていた。

「伯母ちゃん!すごく恥ずかしかった!」

は、はぁ!?

「こういうのはもっと前に集合するもんよ!」

ッカー…………!!!!!

そこで私は、一気にこのツアーに対するちょっと芽生えてきた熱意…?みたいなものが一気に氷点下5000°の極寒になるのを感じたものだ……。


極めつけは帰りのバスの車内であった。

私はもうすっかりヘソを曲げて(その後にも色々あったのだ…色々…。)
食事前の噛みつき亀みたいな険しい顔をしていたが、その隣で伯母はもうすっかり機嫌を直し、キャッキャッキャッキャと花の女子高生のごとく一人で何か盛り上がりながら菓子を食っている。

はよ帰りたい…

そうは言っても、あと三時間はかかるだろう…絶望だ…。
私は出産前の噛みつき亀のごとく顔をますますしわくちゃに歪ませた。

そこでバスガイドのおねーさんが助け船。
帰りの時間、ビデオを流してくれるという。
ナイスおねーさん!これでこの伯母、少しは静かになるだろう…

「みなさんに楽しんでもらえるビテオ…。綾小路きみまろと迷ったんですけど…がばいばあちゃんにしました!さぁ再生しますね!」

「えーーーーー!!!!!!」

私はギョッ!と隣を見た。
ま、まさか!!!!………伯母だ…!!!

「きみまろがいい!きみまろがいい!」

一瞬の間に女子高生からさらに遡り赤ちゃんになってしまったのか!?

「ちょ…!!ちょっと…!」
「きみまろがいいーーー!!!」
「も、もう決まってるんだよ!いいじゃん!がばいばあちゃんいいじゃん…!!」
「やだーーー!!!」

目眩だ…。
世界がぐにゃりとパレットの中の絵の具のように混ざりあう…。
私の脳内に保育園で園児達に混じり
お揃いの服と帽子をきせてもらった伯母が
床に転がりながら駄々をこねまくるビジョンがはっきりと……浮かんだ……………。

バス内なびみょ~な空気になりつつも(バスガイドのおねーさん本当にすまんかった)、がばいばあちゃんは再生された…。

私は小声で…半場あきれながら伯母に訪ねた。

「…なんでいやなんて言ったの…?わがまま言わないでよ……恥ずかしいよ…」

「だって、がばいばあちゃん、悲しい気持ちになるんだもん。子供がつらいんだよ」

「…?」

「子供はつらくちゃいけないんだよ」

…それから何年だっただろうか。

伯母は、娘や姪や甥や孫や…
過去伯母が色んな所へ連れ出しただろう、かつての子供達に囲まれていた。

みんな泣いていた。

私も泣いていた。

死ぬほど恥をかいたバスツワーを思い出し、
行きたくもないのに色々連れまわされた日々を思い出し

もう二度と行けないとこを思い、泣いた。

みんな伯母の頬を触る。
あんなにうるさくしゃべっていた口は、何ももうしゃべらない。

伯母は怒るかも知れない。
こうやって過去のことを面白おかしく記事にしてネットに上げている私
大人になっても漫画をずっと描いている私
結婚する気がない私
用事がないと外にも出ない私
菓子ばかりボリボリ食う私
すぐ泣く私

「子供がつらくちゃいけないんだよ」

なんとなく、まぁあの場でがばいばあちゃんの映画にケチをつけていい理由にはならんけど…
まぁなんとなく、言いたいことわかったかもしれん。

いつまでたっても伯母から見て子供だ。
いつまでたっても心配かけてしまうガキだ。
多分一生ガキだろうな。

そんな話でした。

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