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手紙

きっと、生きてゆく中で何回でもこの夜を思い出すのだろう。「何物にも替えがたい」なんて言葉があるけれど、本当に大切なものは何かに置き換えようとも思わない。あの夜はきっと二度と経験出来ないもので、大切にしていかなければいけないものだ。本能みたいなもので置き換わることなんてないと知っている。永遠なんてないと知っているはずなのに、永遠にしたくてたまらない。そんな美しい、愛おしい夜。

最初に解散のことをメンバーと話した時、頭が真っ白になった。この日々がいつまでも続いて欲しかったけれど、それが叶わないことがついに目の前に現実として現れてしまった。タイムリミットのことは気づいていたけれど、なるべく見ないようにしていた自分がいた。1年くらい前に友達と飲んだ時、「ぼくはこのバンドが本当に好きで、終わってほしくない、一緒に音楽をやり続けていたい、どうしたらいいんだろう」なんて号泣していたことを思い出す。結局何を言っても終わりを早めるだけにしかならないような気がして、とにかく全てを全力でやることにしたけれど。あの時、言い出せていれば何かが変わった?そんなどうにもならないことをずっと頭で考えて。今からどうにか解散を止められないか、なんて。でも考えれば考えるほどその現実はどうにもならなくって。

メンバーは、「やり切った」なんて言っていたけれど、ぼくはずっとそう言えなかった。全てをやり切る気持ちで音楽をやっていたつもりだったけれど、まだまだ作りたい曲も果たしたい約束も沢山あって。ぼくなんかよりみんなはずっと大人だった。ぼくは結局「やり切った」なんて言葉を言えないまま、ここまで来てしまった。きっとそうやって言うのが美しいのだと思う。ファンの人からしても、そういう気持ちで活動を終えてくれた方が嬉しいのかもしれない。でも、ぼくは想像していたよりずっと子供で、そう言い切ってしまうことで本当に全てに区切りがついてしまうような気がしてしまった。二度とこのメンバーで音を鳴らさなくても良い、なんて言ってしまうような怖さがあった。

どうしたって区切りも踏ん切りもつかないぼくは、最後までとにかく全ての人の気持ちに向き合おうと思った。物販に立って、なるべく目を見て話すようにしてさ。元々人と目を見て話すことが本当に苦手なぼくにとって、最大限の誠意のつもりだったんだ。もちろんこれが当たり前に出来る人もいるのだろうけれど。心から感謝していて、愛していること。あなたの気持ちを全て分かってあげたいこと。どうか伝わってほしいという祈りを込めて。

向き合うことは今でも怖い。悪意や敵意にノーガードで立ち向かうのが怖いのは誰だって当たり前だけれど、それだけじゃない。善意や好意に向き合うことだって、怖いと思ってしまう。好意に応えられなかったらどうしよう。こんなに愛してくれているのに、何も返すことができない気持ちがしてしまう。気持ちを上手く受け取ることができるだろうか。色々な不安の中で真っ直ぐ目を見て話してね、全部伝わった気がした。ぼくのやってきた一つ一つが、誰かの人生を救ってきたなんて。おこがましくて自分では言わないけれど、でもそうやってみんなに言われているような気がした。受け取ったんだよ、確実に。あなたの気持ちも愛も全部。本当に短い時間のコミュニケーションだけれど、伝わってるんだ。ぼくの思いもどうか伝わっているといいな。向き合って良かったと、バンドを通じて人と向き合う覚悟を持てたことが何より良かったと、そう思っている。

正直、未だに実感がない。今でも毎週水曜日になればスタジオに入って、曲作りをしなければいけないような気がする。来月にはライブが何本あるか、何の曲をやるか考える。そんな日々が続いているような気がしている。

でもね、そんな日々が全部終わってしまった訳じゃないんだ。今から歩いていくのはその日々の延長線上にある。全部やってきたことの先に、また新しく道を作っていく。RPGで言えば、「あたらしくはじめる」じゃなくて、「つづきからはじめる」。世界を救えば終わりのゲームとは違う。バンドが終わっても、日々が変わっても、また生活が続いていく。

愛をもらった。誇りをもらった。優しさを、勇気を、楽しさを。本当に色々なものをもらった。全て抱えて生きてゆきます。ぼくの胸の中に、全て詰まったまま。





最後に、メンバーへ。恥ずかしくって直接は言えないから、これを読んでも飲んだ時にイジったりしないでくれよな。


浅井くんへ。圭汰が抜けてから約2年、一緒にバンドをやってくれて本当にありがとう。音楽をやる上でも感覚的な部分と理論的な部分のバランスが天才的で、本当に信頼・尊敬できるミュージシャン。ドラムに関しても、浅井くんと一緒に音を奏でることでどんどん上手くなっていくような感覚があった。ぼくと似ている深く物事を考えるような部分もあれば、ぼくと全く逆の決断力があるような部分があったりして。一緒にいるとすごく柔らかい人で、一度ダメになりかけたpostmanを生まれ変わらせてくれたのは間違いなくあなたです。ぼくはpostmanのメンバーが、誰一人音楽を嫌いになることなく大好きなままバンドを終えられることをすごく誇っているのだけれど、それは浅井くんのおかげだよ。

圭汰へ。圭汰がpostmanを辞めたことをすごく負い目に感じているのを何となく感じていた。辞める時、きっとメンバーそれぞれが疲弊しきってしまっていて。圭汰がバンドやぼくらに対して思っているのと同じくらい、ぼくも圭汰に対して申し訳ないと思っている。ラストライブも色んなことを悩みながら来てくれたと思う。でも、来てくれて、一緒に曲をやれて本当に良かった。圭汰が弾くベース、大好きだよ。本当に楽しそうで胸が熱くなるんだよな。周りに強く影響を与えられる人で、その分悩むこともあるのかもしれないけれど。誰かを傷つける以上に誰かのことを幸せにしているし、自信もっていいぜ。辛くなったら、いつでも飲みに行こう。

恵太朗へ。ぼくは今までに出会った人間の中で、本当に一番と言っていいくらい恵太朗のことを信用している。誰よりも誠実で、嘘をつかない人。ギターを弾けばヒーローで、何をしていても絵になる。そんな恵太朗のファンなんだよな。ぼくがバンドをやっていて本当に心残りなことの一つは、客席で恵太朗の弾くギターを見れなかったことだよ。後ろで見てるより、音源で聴くより、きっと何倍もカッコいいんだろうなあ。一生のお願い!いつか見せてね。遠征の車の中でもずっと助手席にいてくれたし、さっちゃんが引っ越してからは特に恵太朗と二人で喋る機会も増えて、くだらないことも真面目なことも色んな話をした。人生相談、みたいなことも何回もしてるよな。冷静だったり、ふざけてたり、真面目だったり、眠そうだったり、色んな姿を見てきたけれど、やっぱりぼくの話を聞いてくれる恵太朗が大好きなんだよな。何を話しても許してくれるんだろうな、そんなことを思える数少ない人。ぼくも恵太朗もお互いあんまり自分から誘うことがないから、バンド辞めたら一番会わなくなっちゃいそうで、それが本当に嫌だ!!一生友達でいてくれ。くだらない話もまたしよう、いつでも。

さっちゃんへ。バンドに誘ってくれて、ぼくの人生を変えてくれて本当にありがとう。出会えて良かったと心から思っています。さっちゃんがいなかったら、どんなにつまらない人生になっていたことか!あなたはぼくの恩人です。
さっちゃんとぼく、合わない部分があったよな、お互い感じていたと思うけれど。保守的なぼくと、どこまでも挑戦をしていくさっちゃん。意見が割れることも多くて、よく喧嘩もした。それでも、どこまでもついていこうとしたのは、きっと誰よりもぼくがさっちゃんの音楽を信じていたからなんだぜ。どこまででも行ける世界一のミュージシャンなんだって、疑ったことは一度もないよ。
一緒に作った曲も、未発表のものも、全部良い曲で好きだから、新しく生み出していく音楽も本当に楽しみにしている。ぼくがバンドの解散にあたって一番心残りなことは、この世に発表するべき寺本颯輝が作った音楽はまだたくさんあるのに、それが止まってしまうことなんだ。「ホリデイ」「冷戦」「夜光虫」…大好きな曲が沢山あるのにね。今だって、その曲たちをどうにかして世に出したくてたまらないと思う。頑張って、出来るだけ早くまた音楽を生み出していってほしい。これはもう本当にただのファンとしてね。ぼくじゃない誰かが寺本颯輝の曲に携わったらどうなるんだろう、なんてこともすごく楽しみでたまらない。

音楽が好きだから音楽の話ばかりをしてしまった。こんな風に言うとぼくがさっちゃんの音楽性だけが好きで人としては…みたいになっちゃうね。もうちょっと書いてもいい??
さっちゃんと一緒にいる時は、なんていうか、「刺激的」だった。ぼくの周りにさっちゃんに似た人なんて一人もいない。代わりのきかない大切な人。音楽をやっている時だけじゃなくて、遊んでいる時も、遠征中の車の中でも、いつも新しいアイデアを持ってくる。きっかけはいつもさっちゃんで、一緒にいる時、話したこと、全部合わせたら一生分笑った気がする。車の中でやったくだらないゲーム、あの時間が一生続けばいいくらいに大好きな時間だった。
合わなかった部分もあった、なんて冒頭に書いたけれど、その分めちゃくちゃ一緒の部分もあったよな。何をやるにも全力で楽しむところ。少年のような心を持っているところ。ツアー中にユニバに行くことも、コロナでライブが出来なくなったからアウトレットに行くことも、遠征先のホテルで卓球をすることも。さっちゃんがいなかったらこんなに楽しく青春みたいなバンド出来なかったと思う。冷たく見えるかと思ったら急にボケたりして、気のいい、楽しい、素敵な人だ。
そんなふざけたところもあるのに、歌えば誰よりも輝いていて。ラストライブの一曲目、「光を探している」の歌い出しを背中から見ていて。「ああ、この人はきっとずっと歌っていくんだ」なんて自然と思った。ライブをしながら、さっちゃんの背中を見て、どこまでこのボーカリストの表現したいことに食らいついていけるんだろう、なんていつも考えていた。そういえば、postmanにサポートとして入って、正規メンバーとして迎え入れてもらってない気がするけれど、どうだい?ぼくは正規メンバーになれたかい?さっちゃんの後ろにふさわしいミュージシャンになれていたらいいな。


音楽をやっていて、良かった。みんなに出会えて、本当に良かった。心からありがとう。みんなのことが大好きです。

2023.11.21 postman いわたんばりん

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