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【コラム】その流行に実態はあるのか?

マーケティングの第一法則


I'llです。
私は職業作家として、どうすればヒットを生み出せるのかを、常に考えています。
ヒットやバズりを生み出す第一法則は、「わかりやすいパッケージ」であると思います。企画の時点で、いかに意外性がありメリットを提示できるか、という瞬間火力がコンテンツの吸引力となります。言ってみれば、どんなに内容のクオリティを上げても、第一印象で企画性を伝えることができなければ、初めて見るコンテンツに消費者が入っていくのは難しいのです。
消費者は、評判や周りの人たちが持っている、というアンテナを常に張っており、その感覚が消費行動に及ぼす影響力は、侮ることができません。それは消費者の知能が低いからではなく、人間の本能として、よくわからない木になっている果実をすぐに頬張るわけにはいかないからです。こうやって事前に品質を見極めようとする審美眼に対して、パッケージの段階でどれだけ説得することができるのか、というのがビジネスの入り口であり、これができなければヒットすらおぼつかないはずです。

パッケージで買わせる手法の弊害

企画力を重視したマーケティング手法は、逆に言えば「パッケージだけで売る」という商品を溢れさせる原因になっています。ジャケ買いに慣れた消費者は、当たりハズレを前提として商品を購入するようになり、「ハズレ商品」に対する批判力が低下していきます。また、「こういうのが今流行っている」というボンヤリした潮流感に乗って、似たような傾向のコンテンツばかりが流通し、消費されるようになっていきます。
現在のエンタメ市場は、そういった「パッケージの強さ」に頼った戦略が氾濫しているように思います。伝説的IPのリバイバルや、巨大版権に追従したコンテンツの派生は、たとえメディアが持ち上げていても実際に中身を見なければ判断できず、エンタメに対する信頼性を損ねる原因となっています。
どんなに豪華なクリエイター陣で固めようと、莫大な予算を注ぎ込もうと、いかに巨大な企業のIPであろうと、メディアはプロダクトに流れている資本量が多ければ多いほど「傑作である」という評価を出すのは、だいたい予想できます。そういうルーティンを冷静に見てきた消費者は、「ゴリ推しされている」という感覚を真っ先に抱くようになってきたように思います。かなり以前からマスメディアの出来レースには批判の矛先を向けられており、ポジショントークを間に受ける人も減少していく傾向は止まらないはずです。

「ブーム」を既成事実化するマスコミ

現在の世の中でブームになっているコンテンツは大方、メディアが「次はこれをブームにしよう」というコングロマリットな提案に基づき、チームワークで作り上げられているのではないか、と私は考えています。
流行している作品と同程度か、それ以上のクオリティの名作は、実際は市場にわりとゴロゴロしています。しかし、メディアが持ち上げるコンテンツは利害に一致した枠にハマっている必要があり、その恣意性の範疇でブームが作り出されているのではないでしょうか。ヒット作の傾向が画一性を持つことで「この作品傾向がブームである」と人々を錯覚させ、そもそも訴求力に乏しいジャンルに新規参入者が溢れ、著しいコモディティ化を促し、市場そのものが陳腐化する場面をよく目にします。
メディアが市場に対する影響力を持っている限り、「作られたブーム」で配給側が利益を共有し、大衆も互いに話題にして、喜んで享受できます。しかし、メディアの恣意性や利権化に気づいた人ほど、そういった流行を疑問視し、マスメディアの非中央集権化に加担していきます。そうやって、現在のエンタメコンテンツは分散してニッチ化し、複雑化しているのが現状なのではないでしょうか。

商品の訴求力はパッケージのみにあらず

今後、メディアの作るブームの「わかりやすさ」で市場が席巻される事態は、次第に縮退していくと思います。それは、TVや新聞、雑誌のオールドメディアの衰退に依るところが大きいです。そういったオールドメディアの既得権はすでに周知されていますし、何を考えて情報を発信しているかは視聴者にとって自明であり、マスコミの喧伝には信頼性が乏しいと思わせる根拠になり得ます。
だからこそ、これからのブームはコンテンツの潜在力が強い意味を持つ時代になるのではないか、と思います。品質やオリジナリティは元より、パッケージのわかりやすさは今後も消費者に対して支配力を持ち続けるでしょう。
商品の「わかりやすい特徴」をどう伝えるかが、マーケティングにおける肝になっていくと思います。CtoCの影響力を模索していくことは、かなり有効です。CtoCの輪を広げるためには、SNSの利用も方法ではあると思います。しかしSNSは広報システムとしてはデメリットも大きく、あらかた無駄になる可能性も計算に入れなければならないでしょう。SNSはプラットフォームに依存するため、長期の戦略にはどうしても不向きです。
しかし口コミを経由したBtoCが最強なのは、今も昔も変わらないと思います。CtoCの輪が巨大化し、メディアがそこに合理性を見出すようにするためには、何より突き抜けて高いクオリティと、ニーズに対する満足度を提供する必要があります。内容が伴うからこそ評価が上がり、それが口コミを生み出すからです。
だからと言って、口コミを操作するのは禁じ手ですし、それをしたら全てが水の泡になります。中身と実態を伴うことの重要性は、ディープフェイクが溢れる世の中で、さらに高い価値を持つことになるでしょう。下手に小細工することは逆にレピュテーションを下げるため、それをするくらいなら品質改善に取り組んだほうが賢明です。
結局、ヒット商品はいつの時代もしっかりしたパッケージで入りやすく、触れてみれば一目で違いがわかるようなものばかりです。いかに資本が流れて「良い」と言わされていたとしても、ユーザーの目はいつも正直です。私たちモノづくりに携わる人間は、そこを誤魔化して商売することはできません。

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