好きな男はトラウマをえぐる

昨晩は寝たのか倒れていたのかわからない。
明日も王子様に会えるなんて死にそうだ。
わたし生きてる?ここもしかして天国では?

やっぱりわたしは好きな彼に会うとめちゃくちゃ死にたくなるなと再確認した。


これがいつものチャラい男の子なら、
次の日も「昨日もちょっとカッコよかったな」って、思い出してちょっとニヤニヤして幸せというか楽しい気持ちになるのに。
この後味の違いは一体なんなんだろう。

そして食欲にダイレクトに来る。
いつもは「あんたよく食べるからさ」と母親に嫌味を言われるわたしが、
彼に会うとご飯が食べられなくなる。 
なんかもうご飯どころじゃなくなってしまうのだ。
でも今日も5時間休憩無しだから、
今朝はなんとか詰め込んできた。食べたら眠い。


朝目が覚めたらまだ午前4時38分だった。
昨日彼は6時に会社に来ると言っていたから、
もう彼も起きてるのかなとか思うととても二度寝なんてできなくて、
なんとなく好きだったバンドマン(故人)のサイン会や遠征先で撮った写真を見ていた。

わたしは10年くらい前、

この人が大好きだった。


今で言うガチ恋勢というやつだ。
仲間のバンドマン達は彼のことをいつもお茶目な人だと言っていたけれど、
真面目な人だからファンには茶目っ気を感じさせるようなキャラでもなくて、
いかにも男兄弟しかいない長男のB型って感じのちょっと素っ気ない男だった。
本人も悪気はなかったのだとは思うけれど、
わたしは彼とサイン会とかで話せてもいつも塩対応で全然優しくないから、
めちゃくちゃ怖かったのだ。

ライブは楽しいから全国どこにでも行くし、
Twitterで見る写真もカッコよくて大好きだけど、
本人と話すのはわたしにとっては恐怖だった。
たまに他の浅いファンと同じように優しく話してくれたこともあるけれど、
サイン会の時わたしが黙ってみたら、
向こうも何も話してくれずに無言で終わったこともあった。(こっちはCD買ってんのに!)

だからだんだんと物販やサイン会には行かなくなり、
いつも地方から来るのに遠目で見てるちょっと気持ち悪いファンになっていた。
彼のことは大好きなのに話せず、
いつも他のファンの子達が彼と楽しそうに話しているのを見てるだけ。
でも好きだったからどうしても会いに行きたくて、
月に何回もわざわざ飛行機に乗ってやってきて、
わたしは一体何やってんだろと自分でも思っていた。
何枚も同じCDを買って毎回サイン会に参加する女の子達を見てると、ちょっといたたまれなかった。
バンドからしたら、お金を使わないファンなんてゴミでしかないだろう。

そうやって現場の居心地が悪くなってきた頃と、
添乗員の仕事を始めて忙しくなった時期が重なった。
わたしは仕事中に推しと雰囲気の似た、
ちょっと冷たそうで話しかけにくい眼鏡のホテルマンを見つけた。
それでまた新たな沼にズブズブと落ちていったのだ。

わたしはきっと男の人じゃなくて塩対応が好きなんだと思う。(変態)


それでもバンドが地元に来たら観に行ったし、
解散ツアーは彼の地元と最後のライブだけ遠征した。
彼のソロ活動は追っていなかったけれどTwitterは見ていたし、
彼が亡くなってから、
本当の解散ライブにも遠征して行った。
たいしたファンでもないけれど、
周りの女の子達もずっと泣いていたせいかわたしも涙が止まらなかった。
彼がいなくても彼の立ち位置からずっと目が離せないもんなんだなと思った。

バンドの追っかけからはとっくに足を洗っていたから、
彼が亡くなってもわたしの生活は何も変わらない。
曲は相変わらず聴くけれど、
いちいち泣いたりもしない。
だから日常生活で元推しを思い出すこともほぼなかったのだけど、
好きな人に出会ってからは重なるようになった。

彼は今でこそわたしの気持ちに気づいているから優しくしてくれるけれど、
それまではなかなかの塩対応だった。
わたしが勇気を出して話しかけても、
忙しい時はごめんも言わずに突然無言で去る。
機械がエラーになって呼んだときでも、
「あーはいはい了解」と言って遮るように手のひらを向けられたこともある。
「お疲れ様です」とすれ違いざまに挨拶しただけなのに、
タイミングが悪かったのかめっちゃ嫌な顔をされて面倒臭そうに無言でうんうんと頷かれたこともあった。 

その度にわたしは傷つき、怯え、

そしてのめり込んでいったのだ。


もしかしたら彼は、
わたしのトラウマをえぐるような男なのかもしれない。
わたしがいろんな現場に行って、
いろんな男の人と接してたまに優しくされたりしても、
彼から全然離れられないのはそのせいなのかもしれない。
わたしは今度こそリアルで恋愛してるつもりだったけれど、
追っかけをしていた20代の頃と変わらず恋に恋してるだけなのかもしれない。

わからない。
わからないけれど、

彼の姿は元推しとかぶって仕方ないのだ。


続く。