電波戦隊スイハンジャー#139

第七章 東京、笑って!きららホワイト


two cube too hate1

都内某所にある製氷工場は24時間稼働の8時間3交替シフトである。

この工場では、濾過された水道水を満たしたアイス缶に空気を注入し48時間かけてゆっくりと凍らせていく。

2013年9月26日、

夜10時前にシフト入りした夜勤パート職員、麻生照代46才は製氷室の隣の倉庫でうず高く積まれた幅1メートル、横50センチ、厚さ20センチの氷塊をフォークリフトで1度に10個持ち上げ、適所に配置したり配送トラックに積み込む作業を担当していた。

大学2年の息子の学費の為にあと2年はここで稼がなくちゃいけない。資格手当が付くからフォークリフトの免許も取ったのだ。

それにしても

ぷしゅーっ、がきん!ごごごご…ぷしゅーん、がぎん!ごごご…と切れ目なく続くこの機械音。

最初の半年はこの音が嫌で嫌で気がおかしくなりそうだったが、

慣れとは恐ろしいものだ。毎月25日に振り込まれる給料の額を見てストレスの半分は癒された気がするし、なにより機械と氷塊が相手なので

人間関係のストレスが少ない。隣接されたかちわり氷検品ラインの人達の人間関係はもっと酷いらしいから。

さあ、運転前の点検だ。と少し錆びたオレンジ色のフォークリフトの運転席に乗り込もうとした時…

氷塊がジェンガのように積まれた柱から、お祭りの屋台で見るような赤いマスクが、ちらっとこちらに顔を覗かせた。

(う、う~夜も頑張っているパートのおばさんの職場荒らすのは気が引けるべ…)

(何言ってんのよ!)レッドの横っ腹を小突いたのは自称「インディゴプリンス」のパワースーツを着たツクヨミである。

(地下にある花龍アジトに攻め込むんだから、職員さんの安全を確保するのは当然じゃない!)

(だからってよ~)

(やれっつったらやるのよ!各メンバー配置には付いた?)マスクに付いた通信機能でプリンスはメンバーと最終確認をする。

(こちらブルー、ホワイトと共に天井裏にいる。各警報機は把握した)

(こちらグリーンとイエロー、現時刻の職員の位置確認。さっきのフォークリフトの人で最後です)

(夜だから人数少なくて助かるわ、ピンクとシルバーは私と一緒にいること。作戦開始!)

ばきぃっ!

という音と共に倉庫に隣接されたかちわり工場の天上が破られ、青と白の戦隊ヒーローが飛びおりて来たのを確かにかちわり氷ラインの職員たちは目撃した。

二人が着地した場所はベルトコンベアーに乗せられたかちわり氷の真上だった。

ホワイトのピンヒールが袋を突き破り、ホワイトがそれを派手に蹴上げる。

工場内に氷片が散乱する中、じりりりり!とブルーが押した警報機のベルが鳴る。

破壊と騒音と氷片の中で、頭から足先まで真っ白な作業服姿の工員たちは

ぎゃあ!だの、うわあ!だの悲鳴を上げて我先に逃げ出した。

「はーい皆さん落ち着いて下さーい」

外から非常口を開けて工員たちを誘導するのはグリーンとイエローである。

あと4,5人、体が固まって動けない工員が居たのでブルーはわざとレーザー銃で壁を撃って威嚇射撃した。

「何やってるんだべ!」たまりかねたレッドがやっと逃げ始めた工員たちを抱え込むように外へと誘導する。

「総員27名、いる!?」とブルーが外のイエローと連絡を取り合う。

「あと2人足りない!」とイエローが叫んだ。

ブルーはが見上げた先には、二階から工場を見下ろせる事務室のアクリル窓越しに、

床にへたり込みながらも必死で自分たちをスマホで撮影する事務員の女の子の姿があった。

「は、はは…これでフォロワー増えるかな…?」

と震える指でネット投稿しようとする事務員の肩を掴んで

「あんたなにやってるの?」

とスマホを取り上げ、立たせたのはフォークリフト作業員の麻生照代だった。

「え…?」

「非常時には工員を誘導して避難させる。訓練受けたでしょ?」と半ば無理に事務員の腕を引っ張って事務室を出て階段を降り、

外へと連れ出す。

「スマホ、スマホ返してくださ~い…まだ撮り足りない」

撮り足りないだと!?

あまりに身勝手な事務員の発言に照代は急速に腹を立てた。

「中の騒ぎが収まってから!!」

マスクを外してキッとした口調で照代は事務員を叱りつけて、スマートフォンをかざしてから言った。

「いい?こんな薄っぺらな機械の向こうにはね、思いやりの無い文字だけの有象無象しかいないの!

あんたの話し相手は『生の人間』じゃないのよっ!」

実の親からもこんな迫力で叱られた事が無い事務員ははあ…としか受け答えが出来なかった。

「あのおばちゃん個人的に好きだべ」

2人のやり取りを見てレッドが光代に短い拍手を送った。

「よし、これで27人全員揃った!」と赤、黄、緑のヒーロー戦隊たちがベル鳴りっぱなしの工場内に戻っていくのを製氷工場職員たちは

駐車場の奥で棒立ちになって見送った…

「職員たちの避難終了!シルバーは倉庫中央で待機、ピンクは私の前方に立って地下室に行くわよ」

「え、アタシが前?どーいうこと?」

氷倉庫の地下室へと続く階段を、ピンクとプリンスが喋りながら駆け下りていく。

「出来ればその背負ってる傘、広げておいて」

とピンクの背中にある漆黒の和傘を指さした。おね様から頂いた自分専用の「武器」…

「なんだか分かんないけど言う通りにしとくわっ!」

ピンクは和傘を広げた。黒地の傘に、金色の萩と橘の文様が広がる。

軽いけど装甲が物凄く硬い!これは…鉄傘?

「このままドアをぶち破るのよ!」

言われるままにピンクは鉄傘に思いっきり力を込めてドアに押しつける。

ドアが前方に吹き飛んで中にいた一人にぶつかった。もう一人は手に銃器を持っていてぱららら!と鉄傘目がけて弾を打ち付けた。が、

全て弾き返されてしまった。

「自動小銃で狙われるなんてとんだ氷工場だわね…」

なるほど、ギャングのアジトに入るってのはこういう事か。

事前に指示をくれたプリンスに感謝しつつ、ピンクは自動小銃を持っていた男を鉄傘で思いっきりぶっ飛ばした。

プリンスはドアをまともに喰らって失神した男から自動小銃を取り上げ、弾を全部抜いてから

通信で自分たちの上の倉庫中央にいるシルバーに指示した。

「いい?あんたの下にある床、グーで思いっきり突き破りなさい。力馬鹿!私たちは柳と花龍のボスを探す」

「せめて馬鹿力と言えよ!こんなのパーで簡単だぜ」

レッド、イエロー、グリーン、ブルー、ホワイトが倉庫に着いた時にはシルバーエンゼルが頭上高く平手を掲げ、コンクリートの床に狙いを定めていた。

「みんな下がってろ!!」

シルバーの指示に従って3人は倉庫の壁際まで下がった。

シルバーの腕が振り下ろされ、床に打ち付けられた。ぱあん!と空気が震えた。

シルバー手のひらの五本の指先から床に筋が入り、中央から端に向けて床が裂けた。たちまち床全体に亀裂が入り、地響きと共に床中央に開いた大穴にコンクリと氷塊がなだれ落ちていく…

「シルバーさんすっげ~…」と感嘆の声を上げる仲間たちにシルバーが檄を飛ばす。

「馬鹿野郎っ、飛ぶ準備と戦う準備しとけ。このまま落下しちまうぞ!」

戦隊たちは各々の武器を構え、宙を飛びながら倉庫の中央で円陣を組んだ。

工場の機械音が停止し、やっと地下から聞こえてきた咆哮の主を見下ろす…

後記
蓮太郎きんぐすまん。

パートの照代さんには実在のモデルがいます。看護助手だった頃厳しく指導しながらも優しく受け入れてくれた先輩です。

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