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「家」を売って、しあわせを引き継ぐ、ということ

昨日、私が16年過ごした日当たりのよい部屋は、人のものになった。マンションの売却の最終契約を済ませ、最後の最後に、新しい所有者となった人に、こんなことを言って別れた。

(ちなみに、16年前に購入したのは、幼児2人がいるご夫婦が暮らしていた中古マンションで、そこをリフォームして息子と犬と住んだ。シングルマザーとしての大半の時間を、あの部屋で過ごしたんだなあと思う。新しい住民となるのは、同じくシングルマザーで子供2人を育てている人だ。)

「私ね、あの部屋を見に行ったとき、”ああ、ここに住んでいた人たちはしあわせだったんだなあ” って感じたんです。壁に穴があいていたり、汚れていたり、あまりきれいな状態ではなかったのだけれど、なぜか強くそう感じました。景色も気に入ったけど、買う決心がついたのはそこでした。
その場所で、私たちもとてもしあわせに過ごしました。だから、どうぞしあわせに過ごしてくださいね」


北欧に「アルテック」という家具のブランドがあって、そこの3本足の椅子はとっても有名なのでみな一度は見たことがあるんじゃないかと思う。以前そのブランドに取材をしたときに、こんな話を聞いた。
定番のこの椅子は、学校や教会などでも多く使われており、理由があって排出される家具をセカンドハンドとして再び流通させる試みをしたのだそうだ。その時に、それぞれの椅子にチップをつけて、それがどこで使われていたのかをわかるようにした。

場合によっては、子供用に足を切ったり、ペイントされていたり、彫刻が施されているものもあったけれど、人々はこぞってその椅子を買い求めたんだそうだ。
「その椅子の歴史や思い出も含めて、椅子の価値になったんです」。

なんか、とても素敵だ、と思った。


セカンドハンドにはすべて思い出があって、たぶん、その思い出も含めて手に入れて使っていく。だから、気持ちがいいなと感じるものを選ぶのはとても大切で、でもいいものがみつかれば、新品を買うのとはまったく違う価値が生まれる。そんな風にその時に思ったのだけれど

ああ

家も、そうなのかもしれないな、と昨日思ったんだった。


あの家は、ほんとうに、しあわせな時間を紡いだ場所だった。
そこで仕事をし、子育てをし、絵を描き、手仕事もした。
大変なこともいっぱいあったけれど
それも含めて、なんて豊穣で贅沢な時間だったのだろう、と思う。

自分とは関係のない場所になることで、寂しい思いをするかもしれないと思ったけれど、残ったのは、なんというか、しあわせを引き継いだよ、という思いだった。
一緒に時間を過ごしてくれた息子と今は亡き愛犬に
その間私を支えてくれた人たちに
そしてその場所を今回引き継いでくれた人たちに

心から
ありがとうございました。


さて、私は新しい場所でリスタート!

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