「グランメゾン東京」第3話レビュー

 このドラマは「悪役無きドラマ」である。
 勧善懲悪的ストーリーに落とし込むのであれば、ここで懲らしめられる悪として挙げられるのは「gaku」のオーナー、江藤(手塚とおる、最高)しかいない。このドラマに登場する全てのシェフは己の信念に従って料理を追求する。今回のゲスト、猟師・峰岸(石丸幹二、歌うよりも普通に演技する方が似合ってる。和服は絶望的に似合ってなかったけど)も、尾花と同じ、自尊心に満ちていて、己の道を突き進む職人だ。誰も「懲らしめられる悪」としては該当しない。
 江藤は今回、全国の猟師に根回しをして他の店にジビエ食材を卸させないようにしたり、コンクールの審査員長に対してロビー活動を行うなど、卑劣とも思われる手段をとっている。実際、丹後とは衝突している。
 「店のためならなんだってします」「あらゆる手立てをして、gakuという店を引っ張り上げる。それが私の仕事や」と言ってのけるその姿は、倫理的な「悪」ではある。
 しかし、資本主義の競争の中では、江藤が一番忠実にその「正義」を貫いている。自身が持つ政治力を利用し、法を犯すことなく、自分の店の名声を高めようとする姿は、悪として断罪されうるのか。
 この江藤の姿を悪と見做すのならば、第2話において政治家・蛯名の権力によって銀行の融資のチャンスを得たり、今回の鹿のもも肉を京野が手に入れたことも、悪と見做さなければならなくなるのではないか。己の信念に従って、「仕事」として自分の店と向き合い続ける江藤もまた、ある種の職人であることは間違いない。
 今後の展開としては「グランメゾン東京」の成長が著しくなったところで、江藤の嫌がらせがエスカレートし、ついには法を犯すような行為も行う可能性もある(多分そこまでいったらさすがに丹後も愛想つかして江藤を離れるだろうけど)。私としては、江藤が敗北し、財産を失う形ではなく、江藤すらもグランメゾン東京のシェフたちが魅了し、いわばノーサイドの形で収束している形が望ましいなぁと思う。グランメゾンはグランメゾン、gakuはgakuとしてそれぞれの個性を保ちながら、東京の中で切磋琢磨する方が、このインクルーシブの社会では求められる形だ(どこから目線の品評なんだ)。

 今回は倫子回。鈴木京香のチャーミングさを存分に楽しめる回であり、調理の面では尾花におんぶにだっこだった倫子が、オーナーシェフとしての自覚を確かにしていくための重要な場面でもある。
 伏線も散りばめられる。京野の倫子への想い、平子にまつわる三角関係、尾花の元恋人、真知子(冨永愛)の登場。相沢も正式にメンバー入りが決まり、登場人物たちが少しずつ成長しながら、物語の風呂敷が順調に広がって行く。最後の尾花の、っていうかキムタクの「ようこそ、グランメゾン東京へ」という一言は「ついに開店だ…!」という高揚感を掻き立てる。うーん、おもしろいなこのドラマ!!

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