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「すべての若き野郎ども」 その後の展開案

「すべての若き野郎ども」
https://note.com/izumiscript/n/na9791a9e9968

この後のストーリー展開(下書き)です。

◆唯の心変わりになった要因については自分の実体験からきています。
強い感情移入能力、強い共感力を持った人間は、本人が知らない間に他者を救っている場合もある、というお話しです。

◆オチについてはカッコ良くならないよう、気の張った対峙劇にならないよう気をつけましたw

◆最後までお読みいただければとても嬉しいです。


・控室で少しずつ自分語りを始める唯。
・仕事のストレスがもう限界を越えてること、恋人でもあり、唯のマネージャーでもあった彼氏が、実は結婚詐欺の前科があったこと。そして唯がこれまで稼いだ貯金も全て彼の持つロシアの口座に移動されていたことが昨夜判明したこと。
・時折、自虐的な表現を交えて話す唯と、それをただただ聞く慎二。だが、その剥き出しで飾り気のない唯の人柄に慎二は惹かれてゆく。
・全ての気力を失った唯は、彼氏の部屋に行って「一人だけの決着」をつけたいという。そして「晒し者にするのは、その後にしてほしい」と。
・異常に共感力の高い慎二は、唯のその願いと、この番組に賭けている佐野への義理の間で激しく葛藤するが、苦しそうに悶える唯の拘束衣をゆるめたその瞬間に、唯は慎二の延髄を蹴って失神させ、控室から逃走してしまう。
・知名度があり、番組の最終兵器でもあった唯を逃してしまったことで、プロデューサーに鬼詰めされる慎二。
・ただ、唯の行き先は見当がついていると説明する慎二。そしてプロデューサーは「リミットは2時間、それまでに絶対に連れ戻せ」と厳命する。「それが出来なければ、お前も佐野も、永遠に業界から干す」と。
・代々木公園を臨む唯の彼氏のマンションにタクシーで向かいながら、唯とのやり取りを反芻する慎二。
・そして、最初に番組の企画書を読んだときの違和感の正体が分かったような気がした。それは事情を問わず「絶望」というものの凄まじさであり、それをエンタメとして他人が手をつけてはいけない、聖域のようなものなのではないか...ということだった。
・タクシーでマンション前に乗りつける慎二。そのエントランス前には、生地の薄いワンピースを着た唯が力なく座っていた。
・話を聞くと、鍵を持っていない唯がエントランスで待ってたところ、偶然帰ってきた彼氏と鉢合わせ。だが、彼は話をする間も与えずに唯に背を向け、全力ダッシュで逃げたとのことだった。
・感情の遣り場を失った唯は、そのままふらふらと車道に飛び出そうとする。それをタックルで押さえ込み、必死で止める慎二。
・同時刻、スタジオでは3人目のゲストの話が終わり、コメンテーターと視聴者から1000万を越える支援金が集まったところだった。当初は非難ばかりだったTwiterのコメントも好意的なものが半分以上を占めるようになり、また同時接続数も70万を越えたところでステイしていた。
・しかし、制作サイドの目標は「同時接続数 100万」。それを達成しないとこのハイリスクな企画をやっている意味がなく、局内でこのハイリスクな企画を通したプロデューサーは進退を迫られることになる。
・プロデューサーはストレスのあまり、無意識のうちに絶えず噛んでいた親指の爪からは血が流れ、床にぽたりぽたりと滴っている。それを気味悪そうに見る番組スタッフたち。
・CMブレイク。セットから降りてきた佐野は、プロデューサーから唯が逃走して慎二がその後を追っていることを知らされる。
・慎二の性格をよく知っている佐野は、それは無理だろうと判断する。「あいつは優しすぎるから」「でも、優しすぎるが故に無能だから」と。
・佐野の意外な言葉に驚くプロデューサー。それに対し「無能な人間と一緒にいると安心するんですよ」と心情を吐露する佐野。
・番組の切り札であり、若者世代に圧倒的な知名度のある唯を、番組の最後に出すことを告知するか否か、判断を迫られる制作サイド。仮に連れてこれれば番組は爆発的に盛り上がり、連れてこれなければ尻つぼみとなることを意味する。
・佐野は、慎二をあてにせず、自分とタスクフォースが、逃走している唯のところに行き、その様子を番組のラストとして生配信するのはどうかとプロデューサーに進言する。
・「他のゲストとのトークはコメンテーターに任せて、自分はそっちに賭けてみたい」「そして自分のトーク力で、唯の心を開くことが出来ると思うから」と。
・考え込むプロデューサー。だが、別のADから、慎二が持っている番組スタッフ用のスマホにはGPS発信アプリがインストールされており、かなりの確度で居場所はつかめる可能性が高いことを教えられ、プロデューサーは佐野のアイディアに乗ることを決断する。
・プロデューサー「…確かに、視聴者が求めているのは予定調和じゃない。予測不可能なハプニングだ。でも...」
・プロデューサーとしては、生配信はあまりにリスキーなので、一応は録画のカメラを回しつつ、もし説得がうまくいくようだったら、その録画を前振りとして使用、だが、あくまでも最後はスタジオで生配信として完結させることを提案、プロデューサーと佐野は合意する。
・CM明け。佐野は、実は人気セクシーインスタグラマーの唯を保護していたこと、だが逃走してしまったことを番組内で告知する。そして、自分はこれからスタジオを飛び出し、タスクフォースと共に唯を追い、再び保護するつもりであることを告げる。
・佐野からスタジオから離れることを知らされ、急にMC役を振られたコメンテーターは、驚きながらも内心嬉々としてその代役を引き受ける。
・このリアルなハプニングがさらにネット上で拡散され、同時接続数はまたじりじりと増えていく。
・同時刻、代々木公園近くの路上では、唯の話を聞きながら、なんとか唯をなだめようとする慎二がいた。話せば話すほど言葉が空回りしていく慎二。そんな慎二に唯は泣きながら「...じゃあ、一緒に死んでくれる?」と告げる。
・異常に共感力の強い慎二は、その唯のタナトス(死の欲動)に共振し、「...いいですよ」と唯に言うのだった。自分の発した言葉に驚く慎二。だが、一度口に出してしまうと、その流れは止まらない。「自分は親とも疎遠だし、無能で、仕事もできないし…」と話しているうちに、自分のことがだんだん惨めになり、涙が止まらなくなってしまう慎二。
・その返答を聞いた唯は座ったまま激しく肩を震わせていたが、その直後、爆発的に笑い出す。
・唯「...なに、このメンヘラ対決...あーおかしい」と言いながら泣き笑いが止まらなくなる唯。
・その様子を驚きながら眺める慎二。「自分、本気で言ったんですけど…」と言うと、唯はそう言ってもらったことで、そこまで共感してもらったことで気が済んでしまった、ここ数年でここまで笑ったことはないと言う。
・状況が飲み込めず、憮然とした表情のまま路上に立ち尽くす慎二。
・その近くに、ハイエースが止まり、中から佐野と数人のタスクフォースが降りてくる。
・いきなりの佐野の登場に驚く慎二。
・佐野は慎二をちらっと見た後、唯の方に向き直り、スタジオに戻るよう、あらん限りの力をもって説得を始める。
・その後方ではタスクフォースが録画用のカメラを回し、また、その状況はリアルタイムでサブスタジオの方に送られていた。
・スタジオの進行はそっちのけで、相変わらず親指の爪を噛んで血を流しながらサブのモニターを見つめるプロデューサー。
・佐野の必死の説得にも関わらず、唯はケロっとした顔で「もう気が済んじゃったから、帰りたい」と言う。
・控室にいた時とのあまりの変わりように焦りながら、こめかみをひくつかせる佐野。
・そこに慎二が土下座で割って入り、唯を控室から逃してしまったことを佐野に謝罪し、また唯も気が変わってしまったことから、スタジオに連れて行くのは勘弁して欲しいと懇願する。
・佐野「(呆れて)お前は本当に”自分”ってもんがねぇんだな...」
・慎二は、控室で唯と対面したときの感じ、やはり他人のシリアスな感情をエンタメの餌にするのはおかしいと思ったことなどを一生懸命に佐野に説明しようとする。
・慎二「…ただ、みんな恋愛で躓いただけなのに、集めた投げ銭を渡すからってそれを見世物にするっていうのは…これで生配信の記録作ったところで誰のためになるんですか...?誰に操られてんですか、俺達は...」
・佐野「(興味なさそうに)お前はもう...黙っとけ」
・慎二の勝手な行動に怒りを覚えつつ、唯の心変わりの要因として、慎二も関与していることを察知し、頭を巡らせながら次の作戦を考える佐野。
・佐野の考えた方法、それは慎二に暴力を振るうことで、唯の抱えている暴力へのトラウマを呼び起こし、判断力を失わせたところでハイエースに押し込み、スタジオに連れ戻すというものだった。
・後方のタスクフォースに指示を出し、録画用のカメラを停止させる佐野。
・佐野「唯さん、今でもスタジオは動いてる。だから気が変わった...って、そういう訳にはいかないんですよね...」と言いながら、いきなり慎二を殴り倒し、倒れた慎二に蹴りを見舞う佐野。
・その光景を見て悲鳴を上げ、腰を抜かして路上にへたりこむ唯。
・佐野「…過去のインタビュー記事、読みましたよ...あなたは暴力の、辛い過去のトラウマがある...」
・慎二を蹴りながら、震えている唯に語りかける佐野。「さきほど、番組ではあなたが最後に出演することを告知しました。いいですか、いま生配信の同時接続数は80万までいってる。俺も、プロデューサーも、この番組に賭けてる。すべてを。そしてこの注目度で言えば、あなたへの投げ銭はたぶん一億は超える。いいですか、10分、演技をするだけでいいんです。嫌な案件でケツを出す必要もない...ただだだスタジオに戻ってくれればいいんです。そして...」
・佐野「(慎二を蹴りながら)こいつも、あなたを逃した責任から解放されるし、これ以上俺に蹴られなくて済む...ねぇ唯さん、車の中で、ちょっと話しましょう。絶対悪いようにはしないので…」
・佐野に蹴られて失神したのか、ぴくりとも動かなくなる慎二。
・小刻みに震えながら、力なく首を縦に振り、佐野の提案を承諾する唯。
・話はついたとばかりに、タスクフォースに再びカメラを回すように指示し、唯に優しい笑顔を見せた佐野は着ていたジャケットを脱いで唯に羽織らせ、タスクフォースに車をもっと寄せるように命令する。
・再びリアルタイムで送られてきた現場の様子を見て、サブルームで引き攣った笑みを浮かべるプロデューサー。
・そこに、さっきまで気絶していた慎二が佐野の足元に這ってしがみついてくる。
・慎二の謎のしつこさに驚きながら、佐野は「...慎二、悪(わり)かったな。すぐ車呼ぶっけ、そんで病院行け。プロデューサーには俺が言っておくっけ、今回はもう降りろ。そんで、また次回も俺についてくれや...」と言うが、慎二は息も絶え絶え、無言のまま佐野の足首の上あたりを指で掴んでいる。
・座って、慎二に語りかける佐野。「(小声で)なぁ、さっきは本当に悪(わり)かった。ただ、あれも場面やが、場面。もう話はついたっけ、お前ぇのヘマもチャラにしてやるっけ、もう離してくれや、急ぐっけさ、なぁ」
・その佐野の言葉を聞いていないように、執拗に佐野の足首の上あたりを指で掴む慎二。
・佐野「お前ぇ、しつけぇって…」と言いながら、突然、佐野は大きなあくびをして、その場にゆっくり座り込んでしまう。
・その光景を見て驚く唯と、近くにいたタスクフォースたち。
・佐野はそのまま路上に倒れ込み、微かないびきをかきながら眠り始める。
・慎二はゆっくりと起き上がり、近くにいたタスクフォースに「…佐野さんを、スタジオに連れていってください」と頼む。
・狐につままれたような顔をしながら、大柄な佐野を抱き抱えてハイエースまで引きずっていくタスクフォースたち。それを唖然とした表情で見ている唯。
・唯「…いまの…何?」
・慎二「(唯に)...あれ、"三陰交"ってツボなんですよ。佐野さん、くるぶしの上のあのツボ押されると、極度の眠気におそわれるから...」
・言葉を無くしたまま、血だらけの慎二を見つめる唯。
・路上に慎二と唯を残し、佐野を乗せたハイエースがすごい勢いで発進していく。
・唯「(ハイエースを見送りながら)...あの人...急に寝たけど...なんだったの...?魔法?」
・慎二「(首を振って)...三年間、あの人の身体を揉んできたんです。その間に、佐野さん、異様にツボ押しが効く体質になっちゃって..」
・その独白を無言で見つめる唯。
・慎二「俺…佐野さんに悪いことを...今夜の番組に賭けてたのに...そして唯さんもスタジオに戻れば、一億手に入ったかもしれないのに…」
・自分がやった行為に確信が持てず、その場に立ち尽くして逡巡する慎二。
・立ち上がり、慎二に近づき、着ていたワンピースの裾で、慎二の口元の拭う唯。
・慎二「...血が、ついちゃいますよ..,」
・視線を合わせる二人。唯の目は生気と輝きを取り戻している。
・唯「...君、全然無能じゃないじゃん…あれ、なんか、映画見てるみたいだった…」
・慎二「(笑って)あんな…情けない、ダサい技で?」
・唯「...そんなことないよ」
・慎二「…ただ、演者さんの身体を揉んできただけですよ、俺、頭も悪いし、他に取り柄もないし…」
・少しの間の後、慎二に「…ありがとう」と言う唯。
・それには応えず、夜空を仰ぎ見て、大きく息をつく慎二。
・唯「(いらずらっぽく微笑み)ほかにも、いろんなツボ知ってるの?」
・慎二「...知ってますよ、鼻炎がましになるツボ、気持ちが明るくなるツボ、枯れ気味の声が元に戻るツボ、むくみが取れるツボ...」
・唯「(それを遮るように)あたしんち、ここから歩けるんだよね...」

手を差し出し、ゆっくりと慎二の手を握る唯。

突然のことに驚く慎二、だが、少しの間の後、何かを受け入れたような微かな笑みを浮かべてその手を軽く握り返していく。

路上に立ったまま見つめ合う二人。車道を通り過ぎていく車のライトが、交互に二人の顔を照らしていく。

<END>

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