【全文公開】『そのさよなら、代行します』 #テレ東ドラマシナリオ

(#テレ東ドラマシナリオ) 参加作品

- テーマ-
「人生ドラマ」3月放送分

- あらすじ -

晴れた日の昼下がり、公園のベンチで清水(75)は、ある人間を待っていた。
清水はつい先日、アメリカでの20年に渡る刑期を終えて出所したばかり。
彼が待つ相手、それは若い頃から共に身体を張った仲間、今では様々な業界に隠然たる 影響力を持つようになった ” 組織 ” の現会長、木島(77)だった。

だが、約束の時間に現れたのは 「株式会社さよならメッセンジャー」のエージェントを名乗る、佐野(40)。
約束を反故にされたことに怒り、帰ろうとする清水に、佐野は木島が先日脳の病気で倒れ、 自分が代理人として選ばれたのだと説明する。

訝しむ清水。だが、誠実そうな佐野の人柄と、佐野が持っている情報が確かなことから、 ”掛け合い”を続けることにする。

約27年前、バブルの大掃除の混乱に乗じて得た大金を金塊に変え、 共同名義でスイスのプライベートバンクが管理するフリーポート(貸倉庫)に預けた清水と木島。
そして佐野は現在危機に直面している”組織”のために、そのフリーポートの暗証番号を教えて欲しいと請願、その対価として約10億円相当のダイヤモンドの原石を差し出すのだが…

”掛け合い”を続ける中で綻び始める、佐野の嘘…。
果たして「さよならメッセンジャー」のエージェントを名乗る、佐野の正体とは?

- 登場人物-

清水(75) ” 組織 ” の元最高幹部
佐野(40) 「株式会社さよならメッセンジャー」エージェント
松田(35)  佐野の部下
木島(77)  ” 組織 ” の現会長

- シナリオ -

○代々木公園内の広場

公園のベンチに一人で座っている清水(75)。
そこにアタッシュケースを持ったダークスーツの男、佐野(40)が近付いてくる。

佐野「失礼いたします、清水様でしょうか?」

訝しそうに鋭い目つきで佐野を見る清水。

清水「(佐野の周りを見回し)…木島は?…本人はどうした?」
佐野「…誠に残念ながら、木島会長は本日、体調が思わしくなく…」

無言で立ち上がり、その場から去ろうとする清水。

佐野「あの!お待ちください!!!(慌てて名刺を取り出し)私、こういう者でございます」

差し出された名刺を手に取り、目を遣る清水。名刺には
(株)さよならメッセンジャー 
 エージェント 佐野 大樹
」と書かれている。

清水「(名刺から目線を外して)…馬鹿にしやがって…」

再び立ち去ろうとする清水に慌てて声をかける佐野。

佐野「あの!私は木島会長から全権を預かってこちらに参りました。お帰りになられるのは、その話を聞いてからでも遅くないかと…」

渋々とベンチに座り直す清水。

清水「この場所と時間を指定してきたのは、あいつだ…」
佐野「存じ上げております。また先日のアメリカでの出所に際してはお迎えを…」
清水「ちょっと釈放が早まったんだよ…そんですぐ日本に送還されたしな。あとは俺も…」
佐野「警戒されている、と?」

沈黙。

清水「…木島は?どこにいる?」
佐野「はい、実は一昨日、脳のご病気でお倒れになられまして…」
清水「…意識は?」
佐野「現在のところ、まだ…」

再び名刺に目を遣る清水。

清水「”組織"の人間じゃないのか?なんで部下を寄越さない?」」
佐野「会長はこの件を”組織"には伝えておりません。あくまでも個人のプロジェクトとしてクローズしようとお考えで、そこで私どものエージェンシーに…」
清水「(遮るように)お前、今日の掛け合いの内容、分かって来てんのか?」
佐野「はい、会長は危急の事態を考え、半年前から私に全ての情報をお伝えになりました」
清水「…全て、ねぇ…」
佐野「(きっぱりと)全て、でございます」
清水「…27年前、俺と木島が…」
佐野「はい。金塊、ですよね」
清水「…」
佐野「バブルの大掃除、その混乱に乗じて洗浄した資金を…」

佐野の率直な物言いに少し狼狽え、周囲を確認するように視線を動かす清水。

佐野「1998年、金は1グラム865円。今日の公表価格は6000円ちょっと。スイスに預けた金塊は合わせて50キロ超。現在の価格に換算しますと…」
清水「(手で制して)…わかった、もういい…ただ…」
佐野「何でございましょう?」
清水「お前が木島の代理人であるという証拠は?…(名刺をひらひらさせ)このふざけた名刺だけか?」
佐野「大変失礼いたしました。我々は依頼人がお相手様に会えない、または会いたくない場合に代理としてメッセージを伝える専門の業者でして、あまり警戒されないようこのネーミングに…」
清水「…会いたくない場合、ねぇ…」
佐野「(少し慌てて)いえ、今回の場合はケースが異なりますが…」
清水「(再び名刺を見て)余計に警戒するだろ、普通…」
佐野「普段は、もっと穏やかな依頼が多いもので…」
清水「(少し気色ばんで)おい若造、言うじゃないか」
佐野「…大変失礼いたしました。ご気分を害されたのでしたら謝罪いたします」

立ったまま深々と頭を下げる清水。二人の近くを外国人のカップルが通り過ぎて行く。

清水「…変に目立っても仕方ねぇ…(隣の席を顎で指し)座れよ」
佐野「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
   
アタッシュケースを足元に置き、佐野の横のベンチに座る清水。

清水「…ケースの中身は?まさか現金じゃねぇだろ?」
佐野「(アタッシュケースを膝に置き)…現金では持ち運びが難しいだろうと、こちらダイヤの原石でお持ちしました」

留め具を外し、アタッシュケースを開ける佐野。
ケースから取り出したビニール袋には無造作に入れられたダイヤモンドの原石がゴロゴロ入っている。
それを清水に手渡す佐野。
佐野は袋に手を突っ込み、その中の一つを太陽にかざす。

清水「(ダイヤを見ながら)また換金が面倒そうなものを…」
佐野「錦糸町のドミートリさんにはもう話を通してあります」
清水「(少し笑みを浮かべ)あいつ、まだ生きてんのか?」
佐野「はい、清水様とまた一緒にウオトカを痛飲したいとのことでした」
清水「(頬の筋肉をぴくっと動かし)そうか…悪党はなかなか死なないな。お互いに…」
佐野「清水様もまだ…」
清水「(少し怒って)元気なわけねぇだろう…20年もアメリカの檻の中に入ってたんだ」
佐野「…」
清水「お前の依頼主の、木島の罪を全部背負ってな…」
佐野「…誠に申し訳ございません、また軽口が過ぎてしまいました」
清水「…で、いくらになるんだ、この石っころで」

手にしていたダイヤモンドをビニール袋に戻し、じゃらじゃらと音をさせながら佐野に手渡す清水。

佐野「10億にはなるかと…」
清水「(眉間にシワを寄せ)…ほう…それが、俺の20年の対価だと…」
佐野「…当時の相場と、清水様の貢献度を鑑みた場合…」
清水「木島が決めたのか?」
佐野「…そうでございます」

沈黙。

清水「おい若造、もし俺がゴネたらどうする?」
佐野「(困ったような笑みを浮かべて)…あの…」
清水「(遮って)スイスのプライベートバンク、フリーポートの暗証番号」
佐野「…」
清水「俺が教えないと、そもそも金塊も取り戻せない、だろ?」
佐野「…その通りでございます」
清水「だったら、もうちょい色つけてもいいだろ?」
佐野「…現在、木島会長と清水様のご尽力により作りあげられた”組織"は存亡の危機にございます」
清水「…知ってるよ」
佐野「木島会長は、清水様のことを片時も忘れたことはないと、会長室の壁には…」
清水「(怒って)そんなの知ったことか…お前もな、20年間、アメリカのムショに入ってみろ…」
佐野「…」
清水「日本に帰ってきて、シャバに出ても…世間知らずの老いぼれだ。女も抱けねぇ…」
佐野「…」
清水「その対価が、それっぽっちの石っころかって聞いてんだよ?組織がどうなろうと、俺が知ったことか…」
佐野「…」
清水「みんな死んじまって…残ってんのは俺と木島だけ、だろ?」
佐野「…はい」

清水はジャケットの袖をまくり、自分の腕を露わにする。

清水「(自分の腕を見て)枯れ木だよ、老木だ…でもな、木島本人が来たら、ぶっ飛ばそうと思ってた…」
佐野「…お気持ちは…」
清水「(佐野の目を覗き込みながら)…わかるわけがない…お前みたいな、その場しのぎの若造には…」

ゆっくりとジャケットの袖を元に戻す清水。

清水「(ゆっくりため息をつき)…木島は、もう話も出来ねぇのか?」
佐野「主治医によれば、もう、会長の意識が回復することはないと…」
清水「…張り合いのねぇ…で、お前はどうすんだ?」
佐野「どうする、と申しますと?」
清水「スイスから金塊を引き上げて、"組織"に渡さずにどうすんだって話だよ」
佐野「(狼狽して)いえ、全ては"組織"のために…」
清水「だったらなんでNo.2の長男が来ない?跡目が挨拶にくるのが筋だろうが。なんでお前みたいな部外者を寄越す?」

諦めたように大きく息を吐く佐野。

佐野「…それでは包み隠さず申し上げます。木島会長はご長男、現在の社長とうまくいっておりません。そしてこれは木島会長ご本人の、お倒れになられる前からの意思でございます」
清水「"組織"にはどのくらい渡すんだ?」
佐野「…約3分の1でございます」
清水「残りは?」
佐野「しかるべき団体に寄付しろ、と」
清水「(笑って)死ぬ前に善行でも積もうってのか。組織はどうなる?苦しいんだろ?」
佐野「…それは…しかし木島会長はこう仰られておりました、全ての組織、集合体には寿命がある、と」
清水「自分が死ねば、どうでもいいってことか?」
佐野「…いや、そんなことは…」
清水「そんで、”さよならメッセンジャー”だっけ?お前はいくら受け取るんだ?」
佐野「…些少でございます」

長い沈黙。

清水「(佐野の手を見て)…お前、爪の形が木島に似てるな」
   
突然の指摘を受け、無意識に指先を引っ込める佐野。

佐野「(狼狽して)…いや、あの…これは…」
清水「(ニヤニヤ笑いながら)…遺伝するんだってよ、指の形、爪の形は」
   
作り笑いをしようとする佐野の頬を一筋の汗がつたう。 
 
清水「お前、木島の実子だろ?腹違いの」
佐野「(少し笑って)…誤解でございます」
清水「…こんな噂を聞いたことがある…木島には腹違いの実子がいて、そいつは別の"組織"を作り、本体の吸収合併を狙っている、ってな。そしてそいつは本妻の子、兄とも折り合いが悪いって…」

顔から笑みが消え、彫像のように無表情になる佐野。
先ほどまでの愛想はどこにもない。

清水「お前、ちょっと立ってみろ」
佐野「(怪訝そうに)…はい?」
清水「いいから立て」

訝しそうな表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がる佐野。
清水が片手を上げると、佐野の身体に複数個の赤いレーザーポインターが照射される。
驚愕の表情で身体の表面を動き回る赤いレーザーを見る佐野。

佐野「あの、これは…!?」
清水「木島が来ると思ってたからなぁ…そんで返答次第によっては…って思ってたんだわ」

緊張の表情で生唾をゴクリと飲み込む佐野。

清水「あいつはのうのうとこの20年をシャバで過ごして、さんざんいい思いをしてきたんだろ?」
佐野「(苦々しく)…オヤジも苦労してましたよ」
清水「おう、苦労話で俺と張り合うってか?…まぁもうちょい俺の余興に付き合えよ…」
佐野「(不敵な表情で笑い)…これ、余興ですか?」
清水「…遊びだよ、遊び、俺にとってはな…」

悔しさをにじませ、奥歯を噛み締める佐野。

清水「さっきドミートリの話しただろ?」
佐野「…はい」
清水「あいつな、実は酒が飲めねぇ。(笑って)ロシア人なのにな、おかしいだろ?」
   
苦々しい表情で舌打ちをする佐野。

清水「だからドミートリが『一緒に飲もう』って言ったのはな、符号なんだよ。つまりそれを俺に伝える奴は”嘘つき"ってことだ。驚いたか?」
佐野「(ため息)…ずいぶん義理堅い外人もいたもんですね…」

再び片手を挙げる清水。
掌をくるくると回すと佐野の身体を這っていた赤いレーザーが消える。
軽く安堵のため息をつく佐野。

清水「座れ」

渋々とした表情で再びベンチに座り、開き直ったように足を組む佐野。

佐野「…全部めくれちまったみたいですけど…どうしますか?俺を」
清水「(それには答えず、再び名刺を見て)”さよならメッセンジャー”ねぇ…まったくの部外者を装って…まぁよく考えたって言いたいところだけど、詰めが甘かったな。お前もムショで勉強してくるか?」
佐野「(憤慨して)…そんな時間ないですよ…あのねぇ、あんたは浦島太郎で知らないでしょうが、オヤジと兄貴のやり方は、もう古いんですよ。俺が舵切らないと社員もみんな…」
清水「(遮るように)お前、親父に続けて兄貴にも手をかけんのか?」
佐野「(憮然として)…オヤジは強めの睡眠薬で寝続けてるだけで、明日には薬も抜けますよ…」
清水「で?兄貴はどうする?本妻の子は?」
佐野「リーダーに向いてないのは本人も分かってるはずなんで…相応の退職金出して、商売替えしてもらいますよ…」
清水「…」
佐野「…長男だから、本妻の子だからって、虚勢張って、無理して生きることないんですよ、兄貴も…」

沈黙。

清水「(唐突に)ゼロサンイチキュー」
佐野「(驚いて)…?」
清水「スイスの、フリーポートの暗証番号だよ」
佐野「…あの、それって…」
清水「親父の4桁番号は知ってんだろ?」
佐野「(頷き)…はい」
清水「その組み合わせをスイスの管理人に伝えれば、フリーポートの鍵を開けてくれるだろ…メモするか?」
佐野「(憤慨して)そのくらい覚えられますよ…これ、数字はなんか意味があるんですか?」
清水「…親父の意識が戻ったら、聞いてみな」

深い呼吸をして、大儀そうに立ち上がる清水。
片手に持っていた「さよならメッセンジャー」の名刺を地面に投げ、
コートのポケットに手を突っ込み帰ろうとする清水。

清水「…じゃあな」
佐野「(清水の背中に向かって)明日にはオヤジも目を覚ましますよ…会わなくていいんですか?」
清水「(振り返って笑い)…実子に寝首かかれるようなマヌケに会ってどうする?それに…」

清水「”さよなら"ってガラじゃねぇだろ…」

口元に微かな笑みを浮かべる清水。
その表情に釣られてしまい、緊張した表情を崩す佐野。
そしてベンチの横に置いたアタッシュケースを顎で指して

佐野「このダイヤ、本物ですよ。持ってってください。俺は別に詐欺師じゃないんで…」
清水「(遮るように)必要なんだろ?軍資金が。仲間のために」

無言で清水の目を見つめる佐野。

清水「どんな絵を描いてるか知らんけどな、取っとけよ。ただな、仲間とか、身近な人間は刺すなよ。嫌な夢をずーっと見ることになるからな…」
佐野「…肝に銘じておきます」

一瞬だけ微かな笑みを浮かべ、佐野に背を向けて歩き出す清水。
佐野の目線は清水の後ろ姿をずっと追っている。
   
遠くに停めてあったアルファードのドアが開き、双眼鏡を持った松田(35)が息を切らして走り寄ってくる。

松田「(息を切らして)社長!大丈夫でしたか?なんか途中で赤いレーザーが…うっ!!!」
  
至近距離まで近づいた松田の腹部に軽くパンチを入れる佐野。
悶絶する松田。それを無視して地面に落ちてる名刺を拾い上げる佐野。

佐野「何が"さよならメッセンジャー"だよ!?誰だ、考えたの?もっとマシなネーミングあったろ?」
松田「(軽く悶えながら)あの…企画室長の峰さんです…」
佐野「(吐き捨てるように)あとで俺んとこ来るように言っとけ!…あと、
スイスの山下さん、もう起きてるだろうから現地のスタッフ向かわせろ。 絶対に他のアポ入れさせんな…これであのクソダヌキも金塊吐き出すだろ…」
松田「…わかりました!」

公園の出口に向かって歩いている清水の後ろ姿を眺める佐野と松田。

松田「…それにしても爺さん、なんでダイヤ持っていかなかったんですかね?」

傍らのアタッシュケースに目を遣る佐野。

佐野「…遊び、なんだろ?」
松田「(怪訝そうに)…遊び?」
佐野「(苦笑して)あの世代はほら、余裕があっから…」
松田「…あまり笑えませんが…」

佐野「(松田を見て)お前さ、手で銃の形作って、あのジイさん撃つマネしてみろ」

佐野に言われた通り、人差し指を清水の方に向ける松田。

松田「…こうですか?…って、おわっー!!!!」
 
松田の腹部あたりを、再び赤い複数個のレーザーポインターが這う。
レーザーを避けるように地面を転がりまくる佐野。
だがレーザーは、まるでじゃれるように転がる松田を捉え続ける。
それを見ながら、笑い出す佐野。
佐野が手を上げ掌をくるくると回すとレーザーポインターは消える。
芝生の草まみれになり、顔面蒼白で顔を上げる松田。

松田「(息を切らして)…あの、いまのは…?」
佐野「(笑って)なんかよく分かんねえけど、遊び心を忘れるなってことだよ…多分な」

笑いの衝動が抑えきれなくなり、爆発的に笑い出す佐野。
その声を背後で聞きながら満足そうな笑みを浮かべて歩き去る清水の顔のアップ。


終わり

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