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突如大ヒットした『HELLDIVERS 2』の魅力は「味方を殺せること」

今年2月8日に、Arrowhead Game Studiosから発売された『HELLDIVERS 2』が、話題を呼んでいる。中小規模のインディースタジオにも関わらず、販売して一週間わずかで100万本を達成、あまりの人気でサーバーがダウンし、その人気で更に人気を呼んでいるという好循環だ。

では『HELLDIVERS 2』とは一体どのようなゲームなのか。内容は非常にシンプルである。舞台ははるか未来の宇宙。宇宙進出に果たした人類は、各惑星を植民地化して資源を吸い上げることに成功したものの、虫やロボットなど野蛮で乱暴な原住生物たちが人類に抵抗している。そこで主人公たち「ヘルダイバーズ」はこの原住生物を鎮圧するべく、惑星に派遣されるのである。

とはいえ、こんなストーリーはあってないようなもの。内容はいたってシンプルなTPSであり、最大4人のプレイヤーと協力しながら、ライフルやマシンガン、更には航空支援や砲撃支援などアメリカンな大火力を用いて、これら原住生物を粉砕していくのである。身も蓋もない言い方をすれば、完全に「スターシップ・トゥルーパーズ」のゲーム版であり、開発側もかなり意図的にこの演出を引用している。

とはいえ、この説明だけを聞いて大ヒットした事実に納得する人は多くないだろう。実際、本作は決して潤沢な宣伝がされたわけでないし、世界観やゲームプレイも一見すると「バカゲー」的に大味でそこまで興味を惹かれない。

しかし、本作には単なる「バカゲー」のガワからは予想もできない、かなり丁寧かつ斬新なゲームメカニクスによって、既存の「協力ゲーム(Co-opゲーム)」をアップデートした意義深い作品でもある。

そこで本稿では『HELLDIVERS 2』がいかに「協力ゲーム」として革新的であるかを説明すると同時に、本作を手掛けた、日本であまり知られていないArrowhead Game Studiosの試みを紹介することによって、今後の「協力ゲーム」がどうあるべきかという展望まで考えたい。

(C)2024 Sony Interactive Entertainment LLC. Developed by Arrowhead Game Studios AB. Helldivers is a registered trademark of Sony Interactive Entertainment LLC and related companies in the U.S. and other countries.



『HELLDIVERS 2』の魅力、それはうっかり味方を殺してしまうこと

繰り返すように、『HELLDIVERS 2』は一見すると大味なTPSである。実際にプレイすると、銃のリコイルや、銃の性能の差別化、さらに個性豊かなガジェットなど、単なるTPSとしては十分以上に洗練されていることがわかるのだが、それでも「よくできたTPS」以上のものではない。ではそんな『HELLDIVERS 2』の一体何がすごいのか。

結論から言えば、これは「FF(フレンドリー・ファイア)」を組み込んだ、シューティング体験」という一言に尽きると思う。

「FF(フレンドリー・ファイア)」とはずばり、「同士討ち」という意味だ。本作において、プレイヤーの攻撃は他のプレイヤーにも命中してしまう。つまり味方であっても、うっかり弾が当たってしまえばダメージを受け、最終的にダウンしてしまう。つまり敵の攻撃だけではなく、味方の攻撃によっても死んでしまう可能性があるわけだ。

あっさり死ぬ

この「FF」の概念は、一般的に嫌われやすい。もし「FF」が発生してしまうと、うっかり撃ってしまった側は申し訳なくなるし、撃たれた側だっていい気はしない。どうしてもプレイヤーの間に緊張が走り、気まずくなってしまう。考えなしに乱射をすればいいわけでなく、周囲に味方がいないかいちいち配慮しなければいけない。そうなると気軽さや爽快感が失われ、カジュアルにゲームをプレイすることができない。

従って近年では「FF」の概念が適用される作品が減ってきた。対戦ゲームであればリアル寄りのシューターでなければ、原則的に「FF」は適用されない。協力ゲームであっても、「FF」は最初から適用されていないか、仮に適用されるにしても高難易度のモード、あるいは受けるダメージを10%や20%に留めておいて、実質的にあってないようなものにするのがアタリマエだ。

しかし『HELLDIVERS 2』に関しては、「イージー」モードであっても「FF」は容赦なく100%適用され、ささいな誤射であっさりと仲間が死ぬ。時代の流れで失われていった「FF」を搭載することで、『HELLDIVERS 2』はカジュアルな「協力ゲーム」が忘れていった、誤射が生まれる緊張感を復活させている。

また「FF」の概念は、ただリアリティや緊張感のみならず、通常の協力ゲームにはないユニークな戦略性も生まれる。

例えば、誤射を避ける上で大切なのが陣形だ。普通のゲームであれば、陣形などお構いなしにプレイヤーが好き勝手に突撃することができる。しかし『HELLDIVERS 2』であれば、一人だけ突出してしまうと他の兵士が誤射を恐れてカバーできない。そのため、誤射をする/されることを避けるべく、自然と互いの死角を補うように銃を構えるようになる。この陣形の意識は、『HELLDIVERS 2』が「FF」を導入したからこそ着想されたものだ。

霧や夜間など、意図的に視界を悪化させて誤射せようとする、なんとも意地の悪いステージも

また「FF」の概念のために、本作では自然と高低差や地形を意識することが多い。誤射を避けるために陣形によって死角を補うのも大切だが、同じ方向からやってくる敵に対しては、一人がしゃがんで頭を下げることでもう一人の射線を通したり、一人が高所に陣取ることで支援をするなどして、高低差や地形を作り出すことが誤射のリスクを減らすからだ。このように本作では、誤射を避けるために自然と陣形や配置を意識させ、単に銃を乱射していればいいという安易さに甘んじていないのである。

一方、本作は「FF」によるストレスを最小限にする努力もちゃんとしている。銃にはデフォルトでレーザーサイトとフラッシュライトが装備され、自分の斜線がはっきりと他人に識別できるようになっているし、仮に死んでしまっても随時すぐ復活できるようになっている。そのため同士討ちを極度に恐れ、消極的にプレイする必要はない。

このように、従来のゲームでは避けられがちだった「FF」の概念を遠慮なく搭載することによって、『HELLDIVERS 2』は同士討ちをさけるための様々な工夫をプレイヤーに促し、協力のシューターゲームにありがちな大味さを回避している。しかも、実はこれ以上に知的な「FF」による戦略的なゲームプレイが『HELLDIVERS 2』で実現している。


ばかばかしい爆撃が引き起こす、知的な戦略性

既に述べた通り、『HELLDIVERS 2』は「FF」を大々的に導入し、協力シューターながら陣形や地形を意識した立ち回りを導入することに成功した。しかし、これは過去の名作と謳われる協力シューター、例えば「Left 4 Dead」シリーズや、近年では『GTFO』などにも見られる要素であって、必ずしも『HELLDIVERS 2』オリジナルのものというわけではない。

シビアさが魅力の『GTFO』

そこで『HELLDIVERS 2』は、各プレイヤーに「過剰な火力」を与えるという方向性で、「FFが作り出す駆け引き」をより一層全面化し、特化することで、こうした名作協力ゲームとの差別化を図っている。


まず『HELLDIVERS 2』の世界観は、多少映画に詳しい人ならすぐに「スターシップ・トゥルーパーズ」をモチーフとしていることに気付くだろう。

「スターシップ・トゥルーパーズ」は1997年、ポール・バーホーベン監督が手掛けたSF映画で、異星を舞台にエイリアンたちと地球軍との戦いを描いている。ムキムキの兵士たちがライフルでエイリアンに突撃する荒唐無稽な内容で、その内容は50年代のSF映画へのオマージュ、ひいては、冷戦下におけるアメリカ軍のヘゲモニーに対する批評的意図もあったのだが、それはさておき、とにかく本作はバカバカしいまでの「銃!爆撃!民主主義!」という米軍のマッチョイズムを先鋭化した点にあった。

地球が「スーパー☆アース」なんて名前になっているのといい、とことんスターシップ・トゥルーパーズ。

この点は驚くほど愚直に『HELLDIVERS 2』において踏襲されていて、つまり本作のプレイヤーたちは、手持ちの銃だけではなく「民主主義」の名の元に、圧倒的なまでの火力支援を、「Call of Duty」のキルストリークのように要請できる。具体的には、ロケットランチャーやオートカノンのような「地球防衛軍」よろしくの携帯兵器から、軌道衛星上からのド直球砲撃、そしてもちろん、空軍による一斉爆撃も要請できてしまう。

しかもこれらの兵器は、クールダウンこそ発生するが無制限、ないし複数回要請することが可能で、しかもプレイヤー1人1人が、自由にこれらの支援を呼ぶことができる。そのため、自然と80~90年代のハリウッド戦争映画の米軍よろしく、惑星の地形を変えんばかりの爆撃を、鉄風雷火の限りを尽くしてエイリアンに食らわせてやることができる。

実際にはあまりにエイリアンの物量があまりに多いので、これら支援攻撃がなければ到底勝てず、むしろ航空支援の合間にライフルなど手持ちの武器で応戦する、という形になりやすい

この航空支援に次ぐ航空支援で、絶え間なく画面いっぱいに爆弾が炸裂する様子は、他のゲームでは見られないバカバかしさと、どこか美しいと思ってしまう不謹慎な耽美があるのだが、しかしこの爆撃は、ただ派手なだけではなく、ゲームデザイン上にも大いに有意義な要素となっている。


ここで思い出してほしいのが、先述した本作の「FF」要素である。本作は銃弾が僅かに命中するだけで死んでしまうほど、同士討ちがリアルに設定されたゲームだ。しかしそんなゲームで、破壊的な航空支援を呼んだりしたらどうなるか?

もう読者は想像がついたかもしれない。そう、FFに次ぐFFの地獄絵図だ。本作における強力すぎる爆撃や砲撃は、原住生物に対しても効果てきめんであるが、それは人間に対しても同じこと。クラスター爆撃の破片がかすっただけで、当然四肢もろとも身体が吹き飛んでしまうのだ。

この「FF」の全面化によって「スターシップ・トゥルーパーズ」から踏襲したバカバカしい航空支援の連続は、ゲームデザイン上に大変興味深い駆け引きを作り出す。航空支援を呼べば、同士討ちで死んでしまう。でも呼ばなければ、敵の物量でひき殺されてしまう。敵が攻めてくるタイミング、味方の配置、自軍に残されたリソース、これらを常に勘案し、「適切な場所に、適切なタイミングで、適切な支援を要請する」ということが、ゲームデザイン上の鍵となる。

また、「FF」を考慮して支援攻撃の種類を選ぶ必要も出てくる。単に火力を求めるのなら、広範囲を絨毯爆撃できる「イーグルクラスター爆撃」が強力で、ソロプレイなら航空支援の筆頭候補にあがってくる。しかしその分、クラスタ―爆撃は味方を巻き込みやすい。対して、「イーグル110mmロケットポッド」は範囲が狭いことを考慮し、気兼ねなく使える点では集団プレイに向いている。

更に支援攻撃の中には、煙幕によって敵の行動を封じたり、弾薬や携行兵器を投下させて火力を強化したり、重機関銃を設置して陣地を作るなどの支援もできる。もし同士討ちに配慮したいのであれば、こうした同士討ちのリスクのない手段で味方を支援できるというわけだ。

重火器は二人で運用することで装填速度を倍速にできる。ちなみに、実際の軍隊でもミサイルや重機関銃の運用はツーマンセルが基本なので、軍事考証的に非常に正しい。


このように本作では、支援攻撃を選ぶうえで、ただ「どれが火力が高いのか」だけでなく、そこに同士討ちのリスクを考慮して選ぶ必要が生じるのである。

もう一つ面白いのは、いかに「FF」があるといえど、敵に完全に囲まれてしまったり、一人が突出して救い出せなくなった時など、もう被弾覚悟で航空支援を呼ぶしかない場合か発生することがである。その時は、戦争映画のクライマックスよろしく「すまない」と言いながら仲間もろとも爆撃したり、逆に自分が「ママに伝えておいてくれ」と言いながら敵陣に突っ込んで自爆することになり、まさに戦争映画のクライマックスの様相を演じて、仲間たちと笑いあうことにもできる。

皆さんご一緒に、「Broken Arrow!」

さて、このように『HELLDIVERS 2』は古典的な協力シューターにおける「FF」を蘇らせることによって、同士討ちを避けるべく陣形や配置を考慮する戦略性を復活させた上に、さらに「スターシップ・トゥルーパーズ」から過剰な航空支援というテーマを独自に踏襲して、敵・味方ともに危険極まる爆撃や砲撃をいかに使いこなすかという新しいメカニクスを取り入れたことで、爽快感の中に「協力する必然性」を取り入れている点が、通常の協力ゲームから大きく進化している。

ゲームデザインに対する批評は以上の通りなのだが、ここからはオマケとして、本作を作ったArrowheadというインディースタジオについて理解を深めるとともに、本作の一見バカバカしい「スターシップ・トゥルーパーズ」ふうの世界観が、実は欧州による北米批評として成立している点について論じていきたい。


10年越しの評価──Arrowheadの歴史と創意

『HELLDIVERS 2』のゲームデザインの前提となってる重要な要素、「FF」。結果的に本作はこの「FF」をどう協力ゲームの多義的な遊び方へ組み込むか考え、それによって成功したわけなのだが、実は本作を開発したArrowhead Game Studios(以下、Arrowhead)は、恐らく世界で最も「FF」の可能性について検討したスタジオであることは、あまり知られていない。

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