今年の2歳戦から見るコーナーの回りと手前に関する考察 1. 馬の歩法と手前について

調教があまり進んでいない2歳戦で良く話題に挙げられる手前に関して、軽いまとめと考察をしたいと思います。

 

・歩法とは
馬の歩き(走り)方には4種類あり、それらは2パターンに分けることができます。対称歩法と非対称歩法です。手前という考え方が存在するのは非対称歩法のみとなります。

 

常足(Walk)と速足(Trot)が対称歩法に分類されます。左右の肢の動きが約1/2の周期でずれている歩法の事を対称歩法といいますが、おおよそパドックで見られる歩法はこの2つでしょうか。(テンションの上がった馬が跳ねて歩いているのを速足に含んでいいのかどうかは疑問ですが。)

常足

画像1

速足

画像2

 

対して、駈足(Canter)と襲歩(Gallop)が非対称歩法に分類されます。返し馬やレース中の走り方がこれらです。これら2つには細かな差はありますがほぼ速度の差ということができるのでまとめて説明してしまうと、この歩法の場合、肢の着き方には2種類あります。

1. 左後肢→右後肢→左前肢→右前肢

2. 右後肢→左後肢→右前肢→左前肢

1のパターンが右手前、2のパターンが左手前となります。基本的には前肢を注視し、最後に着く方の肢がどちらかというのを見て判断することができます。

画像3

 この駈足のGIFでは右手前となっていることがわかります。

この時、右前肢を手前前肢、左前肢を反手前前肢といいます。

実は、襲歩には交叉襲歩と回転襲歩があり、上で説明したように足を着く方は交叉襲歩

言われます。対して、回転襲歩は

1. 左後肢→右後肢→右前肢→左前肢

2. 右後肢→左後肢→左前肢→右前肢

というように足を着きます。

回転襲歩は、スタート後のように加速をする場面で使われ、交叉襲歩に比べて疲労しやすいという特徴があります。交叉襲歩は、速度を維持しながら走る場面、すなわちスタート後以外のレースのほとんど部分で使われています。

 

 

・手前と進行方向について
左右非対称の歩法では、馬体を前に進める力の働く方向は正面方向とはなりません。主に推進力を発揮しているのは反手前後肢で、進行方向を定めるのが手前肢となっているからです。上のGIFで言うと、左後肢が推進力を発揮し、右前肢が進路を定めています。したがって、力の働く方向、すなわち馬にとって楽に進むことができる方向は右斜め前方向となります。

手前と進行方向

これがコーナーを回る時の手前に関係します。上の図を見てわかるように、右回りの時は右手前で走るのが最も効率よく走ることができるということになります。となると、右回りのコースでは常に右手前で走っているかと言うと、そうではなくコーナーを抜けて直線に入るところで手前替えを行うのが一般的です。

手前替えとは、言葉の通り手前肢を左右で入れ替えることです。右手前から左手前に変えるとき、実際は

1.  左後肢→右後肢→左前肢→右前肢 (交叉襲歩)

2.  左後肢→右後肢→右前肢→左前肢 (回転襲歩)

3.  右後肢→左後肢→右前肢→左前肢 (交叉襲歩)

というように手前の変換を完了します。

襲歩の場合、四肢のなかで最も負荷がかかっているのは反手前前肢であることが分かっています。そのため、同じ手前で走っていると疲労が偏ってしまうことから手前替えが行われます。手前替えは馬が自発的に行う場合と騎手の指示による場合があります。2歳馬で、得意な回りでは走るけれどそうではないと力が発揮できないというのは、調教を十分に重ねていないため、手前の扱いに慣れていないということも一つの要因として考えられます。

また、人間の利き手と同様に馬にも好みの手前があると考えられています。スタート後、通常騎手はコースの回りを考えて、右回りであれば左手前で走らせようとしますが、中には回りに関係なく好みの手前で走る馬がいます。例えば、スタート後いつも右手前で走っている馬は、最後の直線を好みの右手前で走る方が伸びると考えられるので、コーナーを左手前で回ることができる、左回りのコースの方が得意だと考えることができます。

回りの得意不得意が分かれば、条件変化で上積みの期待できる馬、不安要素になる馬の判断がつくのではないでしょうか。

次回は、2歳G1出走馬それぞれについて見ていきたいと思います。

 

 

 

余談ですが、好みの手前が生まれる要因として、仔馬の時の地面の牧草を食べるときの姿勢にあるとされています。仔馬は体高に比べて肢が長く、頭を下げても地面に届かないため、前肢を前後に開いた姿勢を取ります。この時前に出す方の肢が好みの手前肢になるというものです。この仔馬の時の好みの手前は3歳になっても残る傾向にあり、特に好みが残る馬の特徴として、体高に比べて肢が長く、頭が小さいといったものがあるとされています。また、この姿勢を取り続けることで、左右の前肢の蹄の擦り減り方に差がでた結果、蹄の角度に差が出ることも要因の一つとされていて、今後、体型や蹄型と好みの手前、逆の手前での怪我のリスクに関する研究、調査が必要とされているようです。

利き肢


2018年「ぱどっく」5号p17 サラブレットのスポーツ科学 第65回 走行時の手前と蹄、体型との関係(JRA競走馬総合研究所) より引用

 

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