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鳳来寺山

鳳来寺山の山頂に立って理解できた。関ヶ原と鳳来寺山を押さえた徳川家康が天下を取った理由が。山頂は険しい急斜面の上にあって、そこは狼煙台になっていた。見晴らしがよく遠くの山々が見渡せる。ここで狼煙を上げ通信をしていたのだ。渡辺豊和氏の著書『縄文夢通信』に「通信網を押さえたものが天下を取る」という記載がある。現場確認に行ったわけだが、状況が確認できた。

私は車を駐車場に置いてきたのですこし心配だったが、周りの人達を見てゆっくりしていた。日が落ちると急速に暗くなってきた。皆が慌てて下山し始めたので後に続いた。彼らは私が登ってきた階段とは違う方向に行き、見えなくなった。多分車に戻ったのだろう、バタンバタンと乗りこむ音がした。私は初めて鳳来寺山に来たので山頂付近に駐車場があるのを知らなかった。仕方がないので下の駐車場まで一人で向かった。夕陽は落ちるのが早い。街路灯がないので全くの暗闇だった。

暗闇だったが月の明かりで階段の縁がうっすらと確認できたので、階段の縁を踏み外さないように気をつけて歩き始めた。ブッポウソウの声を聞いたのは初めてだった。絶滅しかけていると聞いていたので嬉しかった。頭上をムササビが「バサバサッ」と飛ぶのは不気味だった。30分くらい経った頃、暗闇にも少し慣れてきて軽いステップで飛ぶように歩くことができるようになった。その時はるか下の方から灯りがユラユラ登ってくるのが見えた。

私は嬉しくなりスピードアップして「トントン」と駆け下りて行った。提灯を持って登ってくる人が確認できたので、前まで行って「すみません、下まで後何分かかりますか」と聞こうとしただけなのに。

人が腰を抜かすのを初めて見た。本当に歩けなくなってしまう。彼は「うわー」と言ってへたり込んでしまって、「30年以上毎日ここを登ってきているのに、こんなにびっくりしたことは初めてや」と仰る。鳳来寺へ毎晩宿直なさるご住職だった。助け起こして無事にお寺へ向かうのを見届けた。


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