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大学院生警備員の小砂17:あの日、あの時、あの場所で(次回最終回)

ここの話は私が20代の頃のしょうもない経験と考えたことを元に回想し、解釈しているだけで、必ずしも正しい知識ではないことが含まれていることをあらかじめおことわりしておきます。
1992年、夏。私は朝の新聞配達以外は「引きこもり」のような生活から少し歩みだし、20歳の時に江東区にある高層ビルで警備員のアルバイトになりました。夜間のアルバイトです。そして、夜勤の警備員アルバイトをしながら、21歳の時に大学生になりました。
24歳で大学を卒業するも就職をせずに浪人し、自動車工場の期間工を経て、25歳で大学院に入学しました。大学院に進学しての変化は、精神的な自由を持ったことです。いつもの警備員のアルバイトをしながらも、開発途上国の経済や教育について、時間の限り勉強できました。
私は大学の研究者になることをリアルに考えていなかったので、あまり、模範になることはしてきませんでした。残念な限りです。やはり、研究者を目指す者は具体的に計画し、しっかりと行動する必要があります。私には、「自分のキャリアについてしっかり考える態度、成熟度が足りなかった」と思います。

何事も中途半端な私でしたが、何とか修士課程を終えた私は、博士後期課程に内部進学しました。そして、警備員を引退しました。

その後、開発途上国の教育開発をICTを使うことで貢献できるのではないかと、やはり中途半端な考えで、IT企業に就職し、グローバル企業のプロジェクトで補佐的な仕事を数年しました。スーツをちゃんと着た生活を送りました。

教育分野のICTという切り口で取り組むつもりでしたが、すっかり、開発途上国の問題とは離れた仕事をこなす毎日を過ごしました。上司はシマウマみたいなスパッツを履いた早口な英語を話すオーストラリア人の女性で、国際的で一見派手目に見える仕事をしていましたが、私の暮らしは実のところは目の前の業務をこなす毎日です。

ある時、国際協力事業団が主催する論文コンテストがあることを知りました。ちょうど、ひとつのプロジェクトが落ち着いた時だったので、修士論文のひとつの章をもとに論文を書きました。

心を失う忙しい日々であるのに、仕事帰りに喫茶店でパソコンをたたいていると、おそらく仕事の時とは違う脳みその部分を使っているからだと思うのですが、不思議と疲れを感じませんでした。むしろ、疲れが取れていくような感覚です。

その論文を書いている時にふと思いました。もし、この論文が入賞するならば、自分もまだ国際開発の分野でできることがあるかもしれない、と。もし入選したら、また一歩を歩き出そうと考えました。日常に浸かってしまうと、何かに背中を押してもらわないことには進めない、ということもあるのかもしれません。

論文を投稿したこともすっかり忘れていた頃、一通の封書が届きました。どうやら、何かに入選したとのことです。「やばい、自分で決めた以上、本当に一歩進まないと」とも思いました。

東京で表彰式が行われ、賞金10万円と副賞の航空券(バウチャー)を受け取りました。ちょうど、会社の有給休暇が貯まっていたので、プロジェクトの合間にせっかくの航空券を使うことにしました。賞品のスポンサーの関係で、渡航できる地域がだいたい決まっていたのですが、いろいろと日程を考えて、ロンドンに一人旅することにしました。

別に用事があるわけでもない旅行。予定を決めないロンドン旅行。物価が高いな。サンドイッチしか食べれないじゃん。日本の賃金は高くないなと感じながら、ロンドン大学(SOAS)や大英博物館、地下鉄やバスでフラフラする。宿もB&Bの安いけれどおしゃれな部屋を渡り歩いて、公園でリスと遊んだり、ボーっとする時間を過ごしました。

ふと地下鉄の駅で手にした旅行のチラシを見て「そうだ、コッツウォルズに行こう!」と思い立ち、公衆電話から旅行会社に電話をかけて翌朝のバスツアーに参加しました。ピーターラビットの世界のようなお庭で、初めて会ったアメリカ人のマダムたちとクッキー&クリームをいただきながら、紅茶をなめた瞬間に「経験は想像を超える」と思いました。あれこれ考えたり、迷ったりすることもあるけれど、「実際に美味しい経験をした時間」は確かにそこに存在した、と。

一生のうちに蓄えるものは、安定やお金ではなく、「あの日、あの時、あの場所で君に会うこと」ではなろうかと。

そののち私は会社を退職し、青年海外協力隊に応募しました。そういえば、大学院に入った時に同級生の2人は青年海外協力隊のOGでした。自分もやはりそこに行くんですね。

いろいろ運命的な要素が組み合わさって、私はパラオという小さな島国に村落開発普及員として漁業組合の業務に派遣されました。漁業の経験はもちろんありません(笑)この話は、またいずれ別のところで書けたらと思います。



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