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ヘンリー・ジェームズ『ねじの回転』の翻訳について

 ヘンリー・ジェームズの『ねじの回転(The Turn of the Screw)』は1989年に発表された中編小説である。いわゆる「幽霊譚」なのであるが、小説の構成がちょっと複雑なので『ねじの回転』(小川高義訳 新潮文庫 2017.9.1)を基にとりあえず最初に整理してみようと思う。

 場面はクリスマスイヴの晩の古い館(on Christmas Eve in an old house)。主人公の語り手と友人のダグラスは他の人たちと怪談を語り合っており、ちょうどグリフィンが幽霊譚を語り終わったところである。ここでタイトルの意味に繋がる話が出てくるので拙訳してみる。

「“I quite agree—in regard to Griffin’s ghost, or whatever it was—that its appearing first to the little boy, at so tender an age, adds a particular touch. But it’s not the first occurrence of its charming kind that I know to have involved a child. If the child gives the effect another turn of the screw, what do you say to two children—?”
 “We say, of course,” somebody exclaimed, “that they give two turns! Also that we want to hear about them.”」
(「僕はグリフィンの言った幽霊かそのような類いのことに関してならば全く同意する。その年端もいかない幼い男の子に向かっての最初の出現は特別な感慨を添えるということを。でも僕の知っている、子どもを巻き込むような魅力的な類いの出来事はありふれている。もしもその子どもが幽霊の効果にもう一捻り加えるのならば、二人の子どもに対してあなたたちは何と言うのですか?」
 「もちろん私たちは言いますよ」誰かが声を上げた「二人の子どもは二捻り加えると!それに私たちはその二捻りに関して聞いてみたいね。」)

 一般的にはここでいう子どもは話の中に登場する子どものように解釈されているようなのだが、ここでは話を聞いている子どもと捉えるべきではないだろうか? 話を聞いた子どもの奇妙な反応(screw)が物語に影響を及ぼすという話だと思うのだが、ここでは『ねじの回転』の主人公の家庭教師に二人の子どもが与えた影響と捉えると分かりやすくなるように思う。

 グリフィンの話に不満を持ったダグラスは自分には恐ろしい(dreadful)話があると言い、自宅にある手記(manuscript)を使用人に送らせると言って、滞在の三日目に届いて四日目の晩に彼が読んで大変な効力(with immense effect)を及ぼしたのだが、ダグラスは既に亡くなっており、語られている手記は主人公が書写した控え(an exact transcript of my own)なのである。

 その手記はダグラスより十歳上で、妹の家庭教師だった女性が書いたもので出会って四十年経っており、女性が亡くなってから二十年経っているのだが、手記に記された出来事は女性が二十歳の頃にブライという家の家庭教師として雇われた時のものである。

 貧乏な田舎牧師の末娘だった女性はロンドンに出て初めての家庭教師の職を破格の待遇で得ることができた。求人広告で応募した先の雇い主は独身なのだが、弟夫婦をインドで亡くしたために10歳の甥のマイルズと8歳の姪のフローラを引き取って育てているものの別居しており、「彼に面倒をかけてはいけない。とにかく没交渉でいるようにいう。何がどうあれ、いかなる申し立てもせず、苦情も言わず、手紙も書かない。わからないことがあっても自分で対処して、金銭は弁護士から受領し、すべて一身に引き受けて、彼をわずらわさないこと」(p.16-p.17)という条件を呑んだ。

 マイルズとフローラに対する主人公の第一印象は悪くはなかった。ところが間もなくして雇い主から手紙が来て、詳細は分からないのだがマイルズは学校を出入り禁止になっていることを知る。

 さらに主人公の前任のジェセル先生は年末に帰省してから戻ってくることなく死んでおり、身の回りの世話係をしていたピーター・クイントも今年になって死んだというのである。

 それにしても人が死に過ぎであるが、これが幽霊譚であるならばむしろ相応しい展開であろう。唯一の相談相手である使用人のグロースさんは文盲でそれほど助けてもらえそうになく、完全に八方ふさがりとなった主人公は「幽霊」を見るようになるのだが、何故か主人公はマイルズとフローラの顔色を伺うようになるものの、それこそが「二人の子どもは二捻り加える」という意味なのである。

 そしてラストで主人公はマイルズを捕まえて抱きしめて(I caught him, yes, I held him.)殺してしまうのであるが、つまり「締めつけ、威圧(screw)」で終わるのである。