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アイドル現場の「コールおじさん」は、もはやDJ

地下アイドル現場に行ったことがある人は誰もがご存知であろう"コールおじさん"。
彼らに名称はあるのか…?
この場では便宜上、"コールおじさん"と書く。

初めて地下アイドルのライブに行った日、「これがオタク文化…!」と震えたのを忘れない。

歌唱中に突如、最前列から湧き起こる大声。
示し合わせたかのように続く大合唱。
気にすることなく歌唱するアイドル。

何も知らない人は「…なんだこれは…?なんでライブ中にファンが騒いでるの…?」と動揺するだろう。わたしもオロオロして、両隣のオタクを三度見したのを覚えている。

奇妙な呪文を、その場にいる全員が当然のように声をそろえて盛り上がる光景に恐怖を覚えながらも、次第に自分もその渦中にハマっていったのは言うまでもない。


ライブの中心は確実にステージ上のアイドルであるはず。にも関わらず、場の空気を支配しているのは、確実にオタクのコールだろう。


オタクの誰しもがDNAに刻み込まれる謎文化、コール。
このコールのリズムを作る、いや場を支配するDJ的存在が、コールおじさんだ。


どの界隈にもたいてい数名はこの役割を担っているオタクがおり、互いに現場が被った場合、どちらが今日の場を引っ張るか事前に打ち合わせをしていることもあれば、各々心が赴くがままに魂を燃やしていることもある。
むしろ、主現場ではないオタクがコールを放っている時は、それだけ心揺さぶる素晴らしいライブだったと言えるだろう。

さて、そんな一般的なアイドル現場では聞き慣れたコールだが、売れないアイドル界隈では、コールが毎回発生するとは限らない。
参加者によっては発生するが、コールおじさんがいない場合は気まずいライブが待っている。


私個人としては、コールが無いライブは好きだ。
通常のライブではむしろ、歌を邪魔してファンの歓声を過剰なまでに挟むのはマナー違反だろう。

だからコールが無いアイドルライブは、良く言えばうるさいコールに邪魔されずに曲を楽しめる。


だが、通常のアイドル現場に慣れきったオタクにとっては、コールが無い現場では、"売れていない現実"をまざまざと突きつけられる…。
特に対バンライブで、前後のグループがコールで盛り上がっていれば、尚のこと推しに対して申し訳ない気持ちになる。

コールの盛り上がり=売れているかは、必ずしも直結しないが、コールがあることで場に盛況感が生まれることは間違いない。
初見さんにとっても「なんかこのグループ楽しかったな」と記憶に留めてもらえる一因にもなる。
そして、その後の再来・常連とつながっていくため、コールの有無は重要であると踏んでいる。


アイドル現場において「集団心理」は顕著に見られる。
コールが起これば「自分もやらねば」と自然に盛り上がりを見せるが、初手で誰からもコールが起こらなければ、数十分の長尺ライブであろうと、その後コールが起こることはない。


「誰かがやるなら、自分もやろう」
「誰もやらないなら、恥ずかしいから辞めておこう」


そんな集団心理が潜むアイドル現場においての救世主が、恥を捨てたコールおじさんだ。


コールおじさんが手招きすると、オタクは楽しそうにサークルを作る。

コールおじさんが客側を向いて「ハイッせーの!」と叫べば、オタク達が笑顔でコールを叫ぶ。

コールおじさんが「お前がいちばん!」と叫べば、直後に推しの名前が響き合う。

そしてオタク達の混沌を見ながら、推しは笑顔でパフォーマンスを続けてくれるのだ。


ライブ中、推しへの応援の仕方は様々ある。

・黙ってペンライトを振る
・推しの存在に涙する
・最前列でニコニコしながら見つめる

そして、「もしやこっちがステージだったのか」と見紛うような、全力のコール。

どんな応援スタイルも素晴らしい。
そもそも会場に足を運び、お金を払って推しを見に来ている時点で、推しへの愛は確実だ。

そこに、羞恥をもろともせず、場の空気を支配するコールおじさんのように、熱いコールを合わせると、ファンにとっても、そして恐らく推しにとっても、楽しいライブのひとときを過ごせるだろう。


そんなことを考えながら、今日も推しへの愛を胸に抱きながら、コールに備えてのど飴を口に入れる。
誰よりも先に「お前がいちばん!」と叫ぶために。

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