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ジャバラのまどVol.24 伝記映画「Weird: The Al Yankovic Story」のニュースによせて

私がこの文章を書いているのは2022年5月初頭。今、Daniel Radcliffe主演で“Weird Al”Yankovicの伝記映画「Weird: The Al Yankovic Story」が作られるというネットニュースを読んで、びっくりしているところです。

Daniel Radcliffeは「ハリーポッター」であまりにも有名ですね。彼はこのシリーズのヒットのおかげでもう一生お金には困らないため、これからは自分がやりたい役だけをやる!と宣言。近年では「スイスアーミーマン」という映画で「万能ナイフのように役に立つ死体」という奇妙な役をやっていたくらいなので、そんなにびっくりしなくてもいいのかもしれませんが、“Weird Al”Yankovicの伝記映画だなんて驚き!

 “Weird Al”Yankovicは若い人にはピンとこないと思いますが、80年代にミュージックビデオのパロディで一世を風靡したコメディミュージシャンです。Michael Jacksonの「Beat it」をもじった「Eat it」で話題になった、と言えば思い出す人もいるでしょうか。

90年代以降、日本でJ-POP全盛になり、洋楽があまり聴かれなくなるにつれ名前を聞くこともなくなりましたが、消えたかと思いきや、実はアメリカでは今でもコンスタントにその時代のヒット曲のパロディ曲を出し続け、ユニークかつ安定した立ち位置を獲得しているベテランです。
 そして意外と日本で知られていないのは、彼がアコーディオンの名手だということ。アルバムにはヒット曲をポルカアレンジしたメドレーを入れるのが恒例で、実はグラミー賞のポルカ部門にも選ばれているほどなんですね。アメリカでロックやポップスをポルカにすることは、日本で言えば音頭にするような可笑しみがあるらしい。なかなか達者なアコーディオンを披露しています。
例えば、これは比較的最近、2000年代のヒット曲をポルカ化した「Polka Face」のライブバージョン。何曲わかります?

ところで、「Yankovic」と聞くと、別の人を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。ポルカの王様、Frankie Yankovicです。日本の「シャボン玉ホリデー」のモデルになったバラエティ番組「The Lawrence Welk Show」の常連で、50年代を席巻した凄腕のポルカアコーディオニスト。

 「もしかして親子?」と思っていた方もいるでしょう。実際、そういった誤解もあるようです。しかし、彼らに血縁関係はありません。ただ、ルーツが同じ東欧なんですね。どちらも当時の国名で言えばユーゴスラビアがルーツです。このポルカキングと姓が同じであることにちなんで、“Weird Al” Yankovicの父は当時5歳だった息子にアコーディオンを買い与えたのだそう。何気ない話に思えますが、アメリカでは東欧系に対する差別もありますので、同じルーツの人気者に対する親近感や誇りのようなものもあったのかもしれません。
 そんな、ポルカと東欧のイメージに満ちた「Yankovic」姓を逆手に取り、アコーディオンを武器にポップミュージックに挑んだことが、“Weird Al”Yankovicを成功に導きました。
 この伝記映画の公開は2022年の秋。配信のみなので日本で見られるか今のところ分かりませんが、Daniel Radcliffeは、この映画のためにアコーディオンを特訓したのだそうで、インタビューでこんな感想を述べていました。
「that instrument is a nightmare.」
よっぽど大変だったんですね。

ちなみにAl YankovicとFrankie Yankovicは、80年代にこんなコントで共演しています。移民ルーツの2人が「Born in the USA」をアコーディオンでデュオ演奏する様子は、なかなかの毒っ気を感じます。


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