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『詐欺とセールスは紙一重』…なお話

久しぶりに親と会って、「ちょっと変だな」と感じたとしたら、親御さんは既にMCI(早期認知症)である確率が高いと思います。身の回りのことは普通にできるし、家族にも迷惑をかけるわけでもないので、そのまま放置されてしまうことがほとんどなのですが…。この段階でこわいのは、認知症そのものよりも金銭管理や契約等でトラブルになることの方です。

先日、こんな相談が寄せられました。ひとり暮らしの母親(77歳)が、証券会社の飛び込みセールスから投資信託を購入してしまったとのこと。その額、な・な・なんと1000万円です。息子さんが調べてみると、案の定、評価額は購入金額を大幅に下回っているではありませんか!証券会社に電話してクレームすると、「契約は有効」との一点張り。売るに売れない状況で困ってらっしゃいました。

日本証券業協会のルールでは、「75歳以上の顧客に仕組みの複雑な金融商品を販売する際、支店の課長など役職者が事前に承認するよう義務付ける。さらに80歳以上には勧誘した翌日以降に上司が契約を結ぶこと」が原則となっています。

しかし、証券会社や金融機関が個人金融資産が集中している高齢者に対して、手数料の高い金融商品を購入するよう働きかけていることは紛れもない事実です。消費者庁の話では、セールスの成績がほぼコミッションで決ままるため、コンプライアンス違反スレスレの線での勧誘行為をしているケースが多いようです。やはり、担当者個々の倫理観に任せていては状況はなかなか変わらないと思います。

いずれにせよ、今回の案件がコンプライアンス違反であることは明らかだったので、弁護士を紹介したのですが…。費用の話をした後、相談者からの連絡が途絶えてしまったそうです。

警察庁によれば、令和4年の実績ベースで、特殊詐欺と悪徳商法の被害に遭った人は10万人超。総被害額は630億円で、被害者に占める高齢者の割合は約8割です。騙されるのは、ごくごく普通の高齢者とMCI患者で、本格的に認知症の人は、詐欺師とて容易に騙すことはできません。

振り込め詐欺救済法(2008年施行)の機能不全(振込先口座名義人が名乗り出たら救済の対象外)からもわかるように、現代は「ダマされるほうが悪い」自助社会です。となると、来る日も来る日も死ぬ気で騙す技術を磨いている連中に、老いて判断力が鈍っていく高齢者が太刀打ちすることはもはや困難です。玄関のチャイムも固定電話も外して、知らない番号からの携帯着信は無視するくらいじゃないと、被害は一向になくならないでしょう。

ところで、私たちが気をつけたいのは、なにも特殊詐欺や悪徳商法ばかりではありません。巷には、詐欺ではないかもしれないけれど微妙な商品やサービスがうじゃうじゃあります。

証券会社の話をしましたが、銀行にしても同様です。高齢者向けに投資信託や遺言信託や家族信託に誘うような営業を仕掛けてきます。銀行に勤めていた知人の話によれば、銀行員自身はそうした商品を購入することはまずないそうです。

いわゆる互助会。毎月数千円を積み立てることで、いざそうなった時には葬儀費用を賄えるというサービスですが、実際にはオプションを購入しないかぎり葬儀が行えないということが会員に伝わっていない場合が殆どです。生命保険と同様、虫眼鏡なしでは確認できない程の小さなフォントで約款の隅っこに記載されています。契約書類に書かれているからと言って説明義務を果たしたとは言えません。相手がそのことを理解していなければ説明義務違反になります。

ただ、購入した側が高齢であればあるほど、購入時や契約時のやりとりを実証することがむずかしくなるため、訴える手間や弁護士費用のことを考えると、泣き寝入りするしかないという被害者がたくさんいるはずです。

あと、成年後見制度。これは銀行経由で弁護士が売るサービスになるのですが、知人の辯護士は同様にこう言います。「自分の親だったら成年後見なんてすすめはしない。そうせずに済むように別の手を考えてある」と。

考えてみれば、医師もまた同様です。「自分の親に無料がん検診で早期がんが見つかったとしても、本人が痛くもかゆくもないのであれば手術なんかしない」と。抗がん剤と放射線による予後治療で、あとの人生が台無しになるからだそうです。そもそも、がん検診など受けることさえしないそうです。もっと言ってしまえば、クスリすら飲まない。要は、生活習慣病を治せるのは、然るべき生活習慣以外にはないというわけです。

私はかつて某ハンバーガーチェーンの担当営業をしていましたが、当時の同社社長は、「孫たちには絶対に食べさせない。カラダによくないからね」と笑いながら言っていました。

こうしてみると、売ってる人たちは決してそれを買わない…という法則が見えてきますよね。営業と詐欺は紙一重です。

ある詐欺師集団によれば、儲かるビジネスモデル(詐欺モデル?)の基本として、「儲け話・老い支度・悩み事・縁起物・拠り所」というのがあるそうです。頭文字をとると、MONEYとなります。いやはやです。

とかく人間というのは、儲け話が好きだし、終活ブームに乗っかりやすいし、欠けているものを満たしたいし、一獲千金を夢見るし、都合よく神の存在にすがったりするものです。

老いるとともに、その傾向は強くなり、執着も強くなる。でもその一方で、条件反射と状況判断が鈍くなっていく。だから騙されやすくなるわけです。

どうですかねぇ。読者のみなさんにも、メールやSNSからこんなメッセージが届いていませんか?

『おめでとうございます!当選しました!』
『在宅副業で月収100万円!』
『お荷物をお預かりしています』
『●●銀行からのご連絡です。至急、登録情報を更新してください』
『おひさしぶりです。その節は大変お世話になりました』
『個人情報が流用されています』
『お忘れではないですか?申請期限は本日正午までです』等々等…。

こうしたタイトルやメッセージは、すべて詐欺集団による同報配信です。開かずに削除しましょう。うっかり開いてしまったとしても、決してクリックはしないように!典型的なフィッシング詐欺の手口です。ダイレクトに金銭的損害がなかったとしても、個人情報が漏れることになりますからね。

綺麗な薔薇には棘がある。
うまい話にゃ罠がある。
老いる世間は鬼ばかり、です…。

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