倉敷美観地区にある大原美術館で、エル・グレコの名画『受胎告知』が盗まれる事件が発生した。警察は犯人が美術館の職員の一人であると疑い、捜査を開始する。しかし、職員たちはみなアリバイがあり、犯人はどうやって絵を盗んだのか不明だった。

そこに現れたのが、日本に旅行に来ていた名探偵シャーロック・ホームズとその助手ワトソン博士だった。ホームズは事件に興味を持ち、美術館の館長から依頼を受けて調査を始める。ホームズは美術館の中をくまなく見回り、絵画や展示物、建物の構造などに注目する。そして、犯人が使った巧妙なトリックと動機を見抜き、事件を解決する。

犯人は美術館の学芸員である松本という男だった。彼はエル・グレコの絵画に心酔しており、自分のものにしたいと思っていた。彼は絵画を盗むために、以下のような計画を立てた。

まず、彼は絵画の前に設置されている防犯カメラを細工した。カメラは一定時間ごとに映像を記録する仕組みになっていたが、彼はカメラの電源を切ってから再び入れることで、記録される映像を一時的に止めることができた。彼はこの方法でカメラの映像を何度も止めながら、絵画を外して自分のバッグに隠した。

次に、彼は絵画を運び出すために、美術館の屋根裏部屋に通じる隠し扉を利用した。この扉はかつて倉敷紡績工場だった頃に使われていたもので、現在は封鎖されていた。しかし、彼は扉の場所と開け方を知っており、そこから屋根裏部屋に入った。屋根裏部屋からは倉敷川沿いの窓から外に出ることができた。彼はそこから川舟流しに乗っていた仲間と合流し、絵画を渡した。

彼はその後、普通に美術館に戻り、何事もなかったかのように振る舞った。しかし、ホームズは彼の行動や言動から不審な点を見つけ出し、カメラや扉の細工を発見した。そして、彼が仲間と連絡を取っていた携帯電話の番号から、川

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舟流しの船頭が彼の仲間だと突き止めた。ホームズは警察と協力して、川舟流しに乗り込み、犯人たちを追跡した。川沿いには多くの観光客がいたが、ホームズはその中から犯人たちを見分けることができた。彼は彼らの船に近づき、絵画を奪い返そうとした。しかし、犯人たちは抵抗し、ホームズと格闘する。その最中、絵画が川に落ちてしまった。

ホームズは絵画を救おうと飛び込んだが、絵画は水に濡れて色が落ちてしまった。ホームズは絶望したが、よく見ると絵画の裏に何か文字が書かれていることに気づいた。それはエル・グレコ自身の署名と日付だった。ホームズは驚いたが、すぐに理解した。この絵画は本物ではなく、エル・グレコの模写だったのだ。彼は館長に確認すると、館長は恥ずかしそうに認めた。実は大原美術館のエル・グレコは戦時中に失われており、代わりに模写を飾っていたのだった。

ホームズは事件の真相を明らかにした。松本はエル・グレコの絵画が本物だと信じて盗んだが、実際には模写を盗んでいたのだった。彼は自分の愚かさに気づき、涙ながらに謝罪した。ホームズは彼に同情したが、法律は守らなければならないと言って警察に引き渡した。

事件は解決したが、ホームズは満足しなかった。本物のエル・グレコの行方はどうなったのか、彼は知りたかった。彼は館長から聞き出そうとしたが、館長は何も知らないと言った。ホームズは諦めかけたが、その時、目に入ったものがあった。それは館長の机の上にあった一枚の古い写真だった。写真には若い頃の館長と一緒に笑っている女性が写っていた。女性の背後にある壁には、エル・グレコの『受胎告知』が飾られていた。

ホームズは写真を見て驚いた。そして、館長に尋ねた。「あなたはこの女性を知っていますか？」「もちろんです。彼女は私の妻でした」「妻？では、この写真はどこで撮られたのですか？」「これは私達が結婚式を挙げた教会です。倉敷美観地区から少し離れた場所にあります」「教会？では、この絵画は教会にあるのですか？」「いえ、それは違います。この絵

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画は私が教会から借りてきたものです。戦時中に美術館から失われた後、偶然にも教会で見つけたのです。私はエル・グレコの大ファンでしたから、結婚式の時に飾ってもらえないかと頼んだのです。教会の神父は快く承諾してくれました。それ以来、私は教会に通って絵画を見ていました。しかし、ある日、絵画が教会から消えていました。神父に聞いても、何も知らないと言うばかりでした。私は絵画がどこに行ったのか分からず、悲しみに暮れました。それからしばらくして、妻が亡くなりました。私は二度と笑うことができなくなりました」

ホームズは館長の話を聞いて感動した。彼は館長に同情し、慰めの言葉をかけた。「あなたは本当にこの絵画を愛していましたね。私もこの絵画が見たいと思います。もし、もしもこの絵画がまだどこかにあるとしたら、どこにあると思いますか？」「それは分かりません。もしかしたら、神父が売ってしまったのかもしれません。あるいは、誰かに盗まれたのかもしれません。私には想像もできません」

ホームズは館長の答えに納得しなかった。彼は何か隠していると感じた。彼は館長の目を見つめて言った。「本当ですか？あなたは本当に分からないのですか？では、この写真をよく見てください。この写真にはあなたと妻だけではありません。他にも一人、写っている人物がいます」「一人？誰ですか？」「ここです。妻の隣に立っている男性です。彼は誰ですか？」「彼は……彼は……」

館長は言葉に詰まった。彼は写真を見て顔色を変えた。ホームズは彼の反応を見て確信した。「彼は神父ですね。あなたの妻と不倫関係にあった神父です」「何を言っているんですか！それはありえません！妻はそんなことをしません！」「では、どうして神父があなたの結婚式に出席しているのですか？しかも、妻の隣に立って笑っているのですか？」「それは……それは……」

館長は言い訳ができなかった。彼は涙を流しながら白状した。「分かりました。私は嘘をつきました。本当は絵画の行方を知っています。私が隠したのです」「あなたが隠した？どうしてですか？」「私は妻と神父の不倫を知っていました。妻が亡くなった後、神父から手紙が届きました。その中で、神父は妻と愛し合っていたこと、そして

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妻が妊娠していたことを告白しました。神父は妻の遺言として、エル・グレコの絵画を教会に返してほしいと頼みました。私はその手紙を読んで激怒しました。私は妻を愛していましたが、妻は私を裏切っていたのです。私は神父に復讐するために、絵画を教会から盗み出しました。そして、絵画を切り裂いて、隠し場所に埋めました。私は二度とその絵画を見たくなかったのです」

ホームズは館長の話を聞いて唖然とした。彼は館長に言った。「あなたは狂っています。あなたはエル・グレコの名画を破壊しただけでなく、あなたの妻の遺志も無視したのです。あなたはあなたの妻を本当に愛していたのですか？」「愛していました。愛していたからこそ、こんなことをしたのです。私は妻と神父に裏切られたのです。私は彼らに罰を与える権利がありました」「罰ではありません。犯罪です。あなたは法律によって裁かれるべきです。あなたは絵画の隠し場所を教えるべきです」

館長はホームズに反抗した。「教えません。教えても無駄です。絵画はもう元に戻りません。私は絵画を切り裂いて、倉敷川の土手に埋めました。そこは今では倉敷アイビースクエアという建物になっています。絵画はもう見つかりません」「そうですか。では、私が見つけてみましょう」

ホームズは館長を警察に引き渡し、倉敷アイビースクエアに向かった。彼は建物の管理者に事情を説明し、土手の掘削を許可してもらった。彼は土手を掘り始めたが、すぐに何か硬いものに当たった。彼はそれを掘り出すと、それはエル・グレコの絵画だった。絵画は切り裂かれていたが、まだ色や形が残っていた。ホームズは絵画を見て感動した。「これが本物のエル・グレコだ。素晴らしい」

ホームズは絵画を大原美術館に持ち帰った。館長は絵画を見て驚いた。「これが本物ですか？信じられません」「信じてください。これが本物です。私はこれを修復する専門家に依頼します。そして、この絵画を美術館に展示します。これがあなたの妻の遺志だと思います」「私の妻の遺志……」

館長は涙を流しながら言った。「ありがとうございます。私は間違っていました。私は妻と神父を許すべきでした。私はこの

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絵画を見て、妻と神父の愛を理解しました。私はこの絵画を見るたびに、妻と神父の幸せな笑顔を思い出します。私は彼らに感謝します。彼らは私にこの絵画を残してくれたのですから」

ホームズは館長の言葉に微笑んだ。「それは良かったです。あなたは心の平和を得ましたね。私もこの絵画に感動しました。これは私が見た中で最も美しい絵画です。エル・グレコは天才ですね」「そうですね。エル・グレコは天才です」

ホームズと館長はしばらく絵画を見つめた。そして、ホームズは館長に別れを告げた。「では、私はこれで失礼します。あなたにお会いできて光栄でした。私は日本を去る予定ですが、またいつか倉敷に来たいと思います」「私もお会いできて嬉しかったです。どうかお気をつけてください。またいつでも倉敷にお越しください」

ホームズは館長に礼を言って美術館を出た。彼はワトソン博士と合流し、倉敷美観地区を後にした。彼らは倉敷川沿いに歩きながら、事件のことや日本のことを話した。彼らは倉敷の町並みや風景に感動し、日本の文化や芸術に興味を持った。彼らは倉敷に別れを告げて、次の目的地へと向かった。