見出し画像

【ブックレビュー】ビジネスと人生の「見え方」が一変する 生命科学的思考


はじめに


 この本を読んだのは、所属しているコミュニティで話題に上がっていたから。以前、表紙は見たことがあったけど、「生命科学…難しそう💦」と、自分に読める気がしなくて手に取らなかった。ミーハー心で手に取ってみたら、これが驚くほど読みやすい。内容は深いのに言葉がとてもシンプル。失礼かもしれないけれど、「賢い」とはこういうことか…!と思った。

(↑ 二重らせんの表紙がかっこよすぎて、私には無理と思ってしまった。)

 著者は、生命科学の研究者であり、大学院在学中に起業したジーンクエストの代表、高橋氏。個人的な問題や、組織の、社会の問題も、生命の原理原則を知ることでよりよく理解することができるとのこと。生命の原理原則、というと、「生物として決まっているからどうしようもない」「自然には逆らえない」といった諦めも感じてしまいそうだけれど、生命科学的視点を持って人間を理解することで、人間は生物としての本能に抗ってよりよい未来を作ることができる、とのこと。

 この本は「全編が要約」というくらい、内容が詰まっているので、ここで取り上げる内容はごく一部、しかも私の解釈入りになります。興味を持った方はぜひ実物を読んでください!

生命の原理原則とは「個として生き残り、種として繁栄すること」


 個人も、社会も、この大原則で動いている。
 個人がいつか死ななければならないのは、環境の変化に対応できるようヒトをリニューアルしないといけないから。

 まずは「個体として生き残る」が優先されるため、赤ちゃんなど、まずは自分の生存に安心できていない人は視野が狭くなる。個体が生き残らなければ、集団は成り立たない。個体がちゃんと利己的であることで、種が繁栄する、という側面もあり、「利己的」であることと「利他的」であることは必ずしも対立しない。

「がん」があるのも、種が生き延びるためかもしれない。がんの原因であるコピーミスを含むDNAの変異が起こり続けることで、生き物は変化し続ける環境の中で生き延びられてきている。個人が死んでしまうリスクを冒してでも、種が生き残る可能性になりえる不安定さを持ち続けている。


生き物の繁栄は「多様性」がカギ

 一部の人を「自分と違う」からと否定することは、多様性によって繁栄してきた人類を否定することであり、自分を否定することになる

 遺伝子情報はすべての人が違う。そのうえ、レアバリアントというレアな配列を、一人平均250~300もっている。それほどの違いが個々にあるのに、人種や国籍、性別などの分類での差別は荒唐無稽。

 ちなみに、LGBTも、もしかしたら1(無性生殖)→2(有性生殖)へ進化してきた性が、さらにその先へと進化する途上なのかもしれないという考察は興味深い。

企業内でも、社会でも生命原則と同じで「多様性」は大事。
企業で「多様性」を重視する際に注意したいこと:
1. 「同質性」を優先する。同じ目標に向かっていける人であることがまず大事。
2. 年齢、性別、国籍などの「デモグラフィックの多様性」は必ずしもよい結果を生まない。能力、経験、価値観などの「タレントの多様性」でパフォーマンスが上がる。


「生命原則に抗うことができる」と信じる人が抗うことができる

人も、生命原則に従って生きている。でも、空間的・時間的視野を必要に応じて変えることができる。「未来」を見て、現在の「課題」を見出すなど、主体的に行動できる人間には、他の動物にはない可能性がある。

ー「何をやりたいかわからない」という人は?


 主観がじゅうぶんに持てないという人は、カオスに身を置くといい。理不尽な状況の中では疑問が生じやすく、疑問から主観は生まれる。
思考もまた、考えざるを得ない状況のなかで鍛えられる。放っておけば思考停止するのは、生物としてのエネルギー効率としては自然なことなのだ。

ー「情熱が持てない」という人は?


 情熱もまた、あらかじめあるものではなくて、行動しながら生まれるものとのこと。
 そして経験することで生じる感情が、記憶を定着させる。人は行動することで初めて学び、前進することができる
 「自分は…」と考え込むよりも、環境を変えたり行動してみることが大事!

ー「努力をしたくない」という人は?


 世界は放っておくとエントロピーが増大する。それに逆らうためにエネルギーを消費して代謝して自分を保っている。そのためのエネルギー確保のためにもエネルギーの消費を行うという「努力」は、生き物に不可避のもの。であれば、何のために努力をするのか?ということを自分で決めたほうが有意義!


生命は「失敗許容主義」

 進化というのは明確な方向性があるわけではなく、いろんな可能性を試す中で結果としてうまく生き延びるものが現れればいい、というやり方。つまり、山ほど失敗することが前提。絶滅した生命も無意味ではないし、人が終着点でもない

 企業において、「成長」のフェーズもあり、「進化=新規事業の立ち上げ」のフェーズもある。そして意思決定においては、客観的な情報を元にすべてを決めることはできない。なぜなら情報は常に不十分だし、世界は不確かだから。最終的には主観に拠って進まなければならない。

「諸君、狂いたまえ」
ー吉田松陰

不確実性が高い環境であればあるほど、主観的な判断が必要になる。
そもそも課題の設定が主観的なもの。他者を巻き込んで未来を創るには、主観を乗せてストーリー(ビジョン)を語ることは不可欠。



 個人的にも、組織としても、意思決定し行動する際には、著者は主観の重要性を強く押しだしている。でも科学的視点を軽んじているのかと言ったら決してそうではない。

なぜ主観を活かす上で生命原則を客観的に理解することが大事なのか。それは、科学の知見を獲得し客観的にヒトという生物の性質を知ると、人間は自らの固定された視野から解放され、ただ本能のままに物事をとらえるよりも主観を洗練させることができるからだ、と私は考えます。

科学を、技術的な面だけではなくて、すべての人に役に立つ教養として開放しようという良心と熱意が伝わってくる。

そして本の最後の最後、「おわりに」の最後の一文。さりげない謝辞なのだけど、見たことのない謝辞で、思わずにんまりしてしまった😊


さいごに


 ゲノムというとても小さな世界と、生命の歴史・地球全体という時間的にも空間的にも大きな世界。著者は両者のあいだの視野を自由に行き来する。とくに時間的に大きな視野で「今」を見ることはふだんの暮らしの中では難しいが、本を読みながらそれを疑似体験できたように思う。これから生活でも、仕事でも、視野を変えてみるということを意識的にやってみようと思った。

 今年、著者は出産したという。生命科学についてこんなワクワクする考えをもっている人が、赤ちゃんを産み、その成長に立ち会うことでどんな変化が起こるのか、あるいは起こらないのか?これからが楽しみで仕方ないです!!

↓↓ 高橋氏をゲストにお招きしたトークイベントです ↓↓

【YouTube ライブ】母親アップデートLIVE★これからの人生をもっと自由にする『生命科学的思考』~高橋祥子さんに聴く(2021/6/8 21:00Start)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?