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ようこそ、ポジティブな違和感の世界へ

GoodpatchでUXデザイナーをしてます「じゃけ」こと山根圭太です。

仲のいい友人の中ではお腹が弱いことで有名な私ですが、みなさんも胃に違和感って感じたことはありますか?痛いわけでも、ムカムカしているわけでもないけど、健康な時には意識もしないお腹のあたりに...そう、違和感を感じてしまうこと、ありますよね?

…全く胃に違和感を感じたことがない方もいるかもしれないので他の事例も。
最近私は柿ピーとチョコを一緒に食べることにハマっているのですが、皆さんもチョコがかかったポテチに違和感を感じつつも、ついつい手を伸ばしてしまったことがあるのではないでしょうか?

ポテチとチョコの不思議で幸せな組み合わせ

一般的に邪魔者、悪者、厄介者として忌み嫌われる「違和感」ですが、後者の事例のようにポジティブな違和感も世の中に確かに存在していて、何を隠そう、わたしはその面白さに取り憑かれている1人なのです。(修士論文で違和感を研究してしまうほどには取り憑かれていますw)

チョコがけポテチの違和感をポジティブな違和感だと話しましたが、受け取り方は人それぞれ。気持ち悪い組み合わせ!と思ってむしろ避ける人もいるはずです。
逆に胃の違和感は基本的に気持ちのいいものではありません。しかしこの違和感ですら、本格的な痛みや不調の兆候として、あるいは便意のサインとして、我々に気づかせ、対応する猶予を与えてくれているのも事実なのです。(ポジティブだと言うのは少し強引ですが)

さて、前段が長くなりましたが、この深淵なる違和感の世界の一端を、本日は皆さんにもシェアしたいなと筆をとった次第であります。どうぞ、みなさん今すぐハートを押して立ち去ってください!(...違和感、感じましたか?)

違和感とは〜当時の研究内容を添えて〜

イライラする書き出しだったものの、まだ読み続けてくださっている方は少しだけ違和感に抵抗がある方なのかもしれません。

実は違和感はその事象の特性だけでなく、人のタイプによっても、ポジティブに、ネガティブにと捉えられ方が変わるのです!例えば好奇心が旺盛な人は、違和感を避けるのではなく、むしろ興味をもって近づく傾向にあるようです。(この説明は蛇足ですね)

そんな研究をしていた私ですが、正直なところ、まだ「違和感」について明確な言語化ができないでいるのです。

…そこで、改めてみなさんと考えてみたいと思います。
あなたなら違和感をどう説明しますか?

  • しっくりこない感じ?

  • 思ってたんとちがう感じ?

  • 予想外の組み合わせ?

  • よくわからないけど気になる感覚?

…はい。やっぱり一言で表現し切るのは難しいですね。

こういうときは漢字を分解するとそれっぽく解説できたりするのですが、

和じゃない感じ。...海外っぽい感じ?(ちがう)
調和が取れてない感じ?(近いかも?)

さて、そろそろ辞書の出番です。
我々ネット世代に一番身近な辞書こと、コトバンクで調べてみると

調和を失った感じ。他と合わない感じ。しっくりしない感じ。」

精選版 日本国語大辞典

「しっくりしない感じ。また、ちぐはぐに思われること。」

デジタル大辞泉

だそうです。我々の解釈もいい線いってましたね。

研究材料として500を超える違和感事例を集めてきた僕が思う「違和感」、それは

  • その人の「基準(≒ふつう)」と「認知」が異なる際に生まれる感覚

  • かつ、他の感覚にカテゴライズしづらい曖昧な感覚

だと思っています。

筆者が研究当時に作成していた資料

(ちなみに僕の中の”UXデザイナー”は「メンタルモデルに当てはまらない時に生じる感覚」とか言いたくなってますが、それっぽいけど個人的には少し違和感があるのでボツとします)

我々は健康な時、胃を意識することなく暮らしています。つまり胃に対する「基準(ふつう)」の感覚はほぼ「無感覚」と言えそうです。それに対して、何かしらの感覚が生じており、ただ痛いとかかゆいという感覚とも違って、「ムカムカする」に近いけどちょっぴりそれとも違う体感があるとき、人は胃に違和感があるって言ったりします。

胃に違和感を抱えている人のイメージ

ポテチにチョコ?柿ピーとチョコ?甘いものとしょっぱいものは交互に食べるサイコーなのは知ってるけど、それが一体になってるのはやっぱり「ふつう」じゃない。でも「甚だしく変だ」とか「絶対間違ってる」わけではない。やっぱり「違和感がある」という言葉はしっくりきます。

「ふつう」じゃなくて、カテゴライズしづらい曖昧な感覚には、とりあえず「違和感がある」って言っておけばいいのでは?と思うくらい、実は違和感って便利な言葉なのかもしれません。

まぁなんだかそれっぽい「違和感とは?」を書き連ねてしまいましたが、あなたが感じる違和感こそが違和感であることは間違いないので、今話した定義に違和感がある場合、その感覚が正しいのだと思ってください。逆にこれまでの定義に違和感がない場合は、僕とあなたの「ふつう」の感覚が近いのかもしれませんね。

そろそろポジティブな違和感の世界へ

さて、ここまで前置きたっぷりでお届けして来ましたが(誤字の認知も違和感から始まりますよね)、近年、この違和感と同じく、一般的にネガティブだと思われる概念のポジティブな側面に着目した展示が盛んに企画されています(私調べ)。

特別展「毒」

特別展「毒」

もちろん毒は人体にとって害のあるものがほとんどですが、というよりも人に害があるものを毒、良い効果があるものを薬と呼んでいるのですが、その種類や量、組み合わせによっては薬にも毒にもなるものがあるそうです。
上記はこの展示のごく一部の内容でしかありませんが、一般的にはネガティブな概念でしかない「毒」のポジティブな側面にも光を当てた展示だったと言えるのではないでしょうか?

世の中を良くする不快のデザイン展

世の中を良くする不快のデザイン展

言っちゃってますね、不快だと、ネガティブだと。でもその「不快」ですら使い方によってはポジティブに寄与するよ、という展示でした。例えばガスの異臭は、人が不快に感じてガス漏れを本能的に防ぐように人工的に付加されているものだそうです。初めて知った時はまさに目からウロコでした。
(展示タイトルも、一見すると矛盾したような内容で違和感を感じてしまいますね。)

このようにネガティブな概念のポジティブな側面に光が当たっている様子を横目に、将来的には私も「違和感展」なるものを開催したいなと思い始めていたりします。そもそも違和感を研究し始めた動機としても、違和感に対する人の反応の構造がわかれば、それを体験やプロダクト作りに活かせるのではないか?という想いがあったからなんです。

「違和感展」に向けた第一歩として、今回は人の違和感に対するポジティブな反応について、私が考える3大パターンを事例と合わせて紹介したいと思います!

違和感に対するポジティブな反応①
「つい注目して、新鮮さや意外性を楽しむ」

前述の通り違和感とは調和が破れた状態、普通じゃない状態に対して反応する感覚です。普通じゃない状態とは、大袈裟にいうと異常事態です。我々人間は生き物である以上、本能的に異常に気づいて対処するシステムが備わっていると考えられます。だからこそ、違和感のあるものに人は注意を向けてしまうのです。

例えば「冷たい熱帯魚」のような矛盾をはらんでいそうなタイトルや「晴れてる日に降る雨」のような普段起こらない現象などを目にすると、ついつい注目してしまいます。また、その新鮮さや意外性を多かれ少なかれ楽しむのではないでしょうか。さらに、この違和感を他の人にも共感して欲しいという気持ちになってSNSに投稿する人もいるかもしれません。

これは「冷たい魚」という文字列や「雨の日に降る雨」には全く興味が沸かない(わく人もいるかもしれませんが)ことから考えても、違和感に対するポジティブな捉え方と言えるのではないでしょうか?

違和感に対するポジティブな反応②
「笑いのタネになる」

お笑いコンビはボケとツッコミで構成されることが多いですが、ボケがすることは大小あれど大抵「ふつう」じゃないことです。ボケが説明抜きに「変」なことをして、それだけで笑ってしまうお笑いがある一方で、ボケが絶妙にズレたことを言ってツッコミが突っ込んで初めて笑いが生まれるお笑いもあります。

例えばナイツの塙さんが「ヤホーで調べてきました」と言ったとき、観客は「今ヤホーって言ったよね、ヤフーの間違いか?」と頭の中にモヤモヤが広がります。それをツッコミの土屋さんが「ヤフーでしょ」とツッコむことで「やっぱり間違いだったんだ、たしかにヤホーって読めるけども笑」と違和感が解消され、笑いが生まれます。
お笑いは緊張と緩和だ、ともよく言われますが、違和感を小さな異常事態と捉えるなら、ツッコミによって違和感の正体が共有されることによって緊張が緩和されて笑いが生まれているのは自然な気がします。

ここではお笑いに閉じた話をしましたが、生活の中でも「違和感を解消すること」はポジティブな結果や感情をもたらすことが分かってきています。

違和感に対するポジティブな反応③
「思考を巡らし対象に没入する」

3つ目が一番個人差が大きい違和感に対する反応かもしれません。苦手な人は苦手だったり、ピンとこない方もいるかと思います。

草間彌生《ピンクボート》

草間彌生さんのピンクボート、これは集合体恐怖症の人にとって苦手そのものだと思うのですが、少し大丈夫な人にとっては船に突起のようなものがびっしりと生えている異様な存在にゾワゾワとしながらも、ついつい見入ってしまうのではないでしょうか?
これまでの頭の枠組みに納まらない存在を、どう解釈していいのかぐるぐる頭でめぐらしつつ、感覚的なゾワゾワを味わうのだと思います。

これはアートに閉じた話ではなく、「よく晴れた日なのに水たまりがあること」がついつい気になって、なんでだろう?と思い巡らすこともあると思います。共通しているのは、自分にとってふつうでないことを、既存の枠組みに整理できないか思考したり、もっとよく知ろうと探究心をくすぐられたりすることで、対象に思いを馳せたり没入するような点です。

ポジティブに反応できるかは状況や人のタイプによっても異なる

ポジティブな違和感としてこれらを紹介してきましたが、もっと別に集中すべきものがある状態ではこれはノイズや邪魔者でしかなく、一方でその思考や感覚に身を委ねる体験自体を楽しむことができるなら、それはポジティブな違和感と言えるかもしれません。

まだまだ違和感と人のタイプについてなど、語りたいことは山ほどあるのですが、鉛筆がちびてきたので最後の章に入ります。(ちびるは広島弁で「すり減って小さくなる」などの意)

違和感って人間らしい

いかがだったでしょうか?少し嫌だけど気になる、モヤモヤを解消するためによく知りたい、など、近接と忌避が同居する違和感の世界の一部を知っていただけたなら幸いです。
そんな矛盾を抱えた人間らしい、生き物らしい感覚が「違和感」の周りにはたくさん潜んでいるのです。

違和感を排除した、何もノイズがない体験や空間も素敵ですが、違和感という刺激を、有り余る好奇心で楽しむ時間も人間らしくていいのではないでしょうか?

今回は、

  • 胃の違和感

  • チョコがけポテチ / チョコと柿ピーの違和感

  • 矛盾のある表現に抱く違和感

  • 晴れている日に降る雨に感じる違和感

  • 草間彌生さんの芸術作品に覚える違和感

  • お笑いのボケに感じる違和感

  • よく晴れた日なのに水たまりがあることの違和感

などを紹介してきましたが、一度着目すると世の中違和感だらけです。

そんな違和感を無かったことにして過ごすことも僕自身多くありますが、少しその感覚に目を向けて、身を委ねてみたら、あたらしい発見があったり、その時間や体験自体が面白かったりするはずです。
ぜひ皆さんも「違和感」に晒された時、違和感オタクの記事を思い出しながらその感覚を楽しんでみてください!


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