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信じていい

長野、松本・浅間温泉に位置する神宮寺。縁あって、昨年10月に遊びに行った。
お寺に着いて驚いた。

「……ここ来たことある」

母がこちらの先代のご住職と親交があり、わたしもくっついて遊びに来たことがあった。

本堂の襖絵にも覚えがあった。「原爆の図」の作者として知られる丸木位里いりとし夫妻が手がけたものだ。

子どもの頃はちょっと怖かった思い出がある

興奮気味に谷川光昭住職に伝えると、ニコニコとうなずきながら言った。
「春の法要にぜひいらしてください」

***

神宮寺には本堂のほかに、大きなホールがある。そこでは、法話や葬式のみならず、著名人を招いたお話会やミュージシャンによるライブが数多く行われている。
住職のいう春の法要とは、「お花まつり法要」と呼ばれ、神宮寺の大切な行事のひとつ。
4月8日はお釈迦さまの誕生日とされ、神宮寺はこの時期に合わせて毎年大規模な法要と音楽ライブを開催している(今年は4月6日と7日に開催)。

住職のお誘いを受けてから、半年……。
神宮寺の「お花まつり法要」を体感しに、あずさ号に乗って松本へ向かった。


4月5日 準備・お手伝い


松本駅まで迎えに来てくれた谷川住職は、やっぱりニコニコしていた。
観光客でごった返す改札で言う。
「坊主はこういうとき目立っていいでしょう」

神宮寺のある浅間温泉は、梅が満開だった。4月になっても雪が降った日があったらしい。

お寺では、翌日の本番に向けて準備が進められていた。挨拶をしながら仏花づくりの仲間に入れてもらう。

近所のアパートに住む人、住職のお母さま、妻のゆりさん、法要に出る和尚さま(住職の修行時代の先輩)、シンガーソングライターの西山小雨にしやまこさめさんとともに、仏花づくりに勤しんだ。
ライブに出演するミュージシャンが手伝うなんて前代未聞だと恐縮する皆を尻目に、小雨さんは楽しそうに花束をつくっていた。

法要は土曜と日曜で3回行われるという(3座、と言うそうです)。土曜日は、最多の260名が参加するそうだ。

会場となるホールには、これでもかと椅子が並んでいた


前夜祭と称して(わたしが勝手に言った)、前のりしていた方々と宴。
岐阜や神奈川からやって来た和尚さんたちに、日頃のあれこれを教えていただく。
関心事は、食べ物。精進料理について、作り方や最強の食材をつぎつぎと質問。
お寺の食事をつくる係を「典座てんぞ」と呼ぶことを知る。
「相撲部屋のちゃんこ番みたいなことですか?」
こんな無知な質問にも、やさしく答えてくださる和尚さんたち。
お坊さんの推しができました。

仲よくしてもらった和尚さまがた(中央が谷川住職。リハーサルを撮影)


4月6日 「お花まつり法要」


朝9時にお寺に着くと、すでにたくさんの人たちが働いていた。

「はい、高校生! 太鼓運んで!」

昨晩までニコニコとしていた住職、キビキビと指示を飛ばしている。
ここでは、子どもたちがよく働く。

あらゆる場所でサポートをしている高校生たちは、小学生の頃から神宮寺を集いの場としてきたそうだ。
お寺にあった卓球台をひっぱりだして卓球をして遊んでいた子たちが、今は高校で卓球部に所属している。

小学生も負けてはいない。受付をやったり、おはぎの売り子をしたりと大活躍だ。

檀家さんに仏花をわたす係も

***

さて、法要がはじまった。満員御礼の席に、なんとか入れていただく。8名もの和尚さんたちが壇上で唱えるお教、ものすごい迫力でした。サラウンド状態。「わたしのために一生懸命にお経を唱えてくれてありがとう……!」と、満ち足りた気持ちになる。

住職は「見せる法要」を意識されているんじゃないか。
初めての体験ずくしだった(リハーサルを撮影)


いよいよ西山小雨さんのライブ。谷川住職はマイクを持ち、小雨さんを知るきっかけを披露する。

「2019年、コロナ禍で皆で集まって法要ができないときに、お寺の敷地に芝でも敷こうと一人で作業していたんです。そのときに聴いていたラジオに小雨さんが出ていらして。声を聴いて、この人に来てもらいたいって思ったんです」

住職が絶賛する声の持ち主、西山小雨さん。彼女が歌い出すと、会場が一斉に聴き惚れた。

力強かったり、どこか儚げでかわいらしかったりする歌詞も魅力。ことばとそのメロディに背中を押してもらった。

チラシもその場でパパパっとつくってしまう小雨さん

ライブのなかで小雨さんが言った。
「ここに集う人たちはみんな、ひとつの大きな家族みたいですね」

……そっか、そうだわ。
リハーサルの風景を思い出した。

ホールには、照明や音響もプロの方々がいる。
ステージの上の暗い部屋で色をつくっている照明さんに、「なにしてるの?」と訊く小学生。
(あんたたち、なんでそこにいるの。ここはプロの領域です。入っちゃダメなんだから)
なんてことを端で見て思っているのは、わたしだけだった。
「こうやって、色を混ぜるんだよ。ほら、ここを上げ下げすると光の強さが変わるでしょう。やってごらん」
照明さんは、子どもたちに惜しげもなく機器の説明をしている。なんなら触ってみせている。

さらにステージに目をやると、場面転換を急ぐ高校生たちと、そのスピードに負けまいとマイクのセットをする音響さんの動きがシンクロし、息ぴったり。

「あなたには無理」と、しごとを取り上げるひとはいない。誰もがこの場を取り仕切るひとりとして、存分に発揮している。

大きな家族としてわたしもできることをして、じんじんと元気になって帰ってきた。

special thanks:神宮寺
谷川光昭住職
和尚さまがた
西山小雨さん

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