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娯楽と芸術の結晶クリストファー・ノーラン

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考察するのも楽しい映画作家ですよね。
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フェミニズムの文脈で観るオッペンハイマー

どうしても原爆の問題で注目されがちですが、フェミニズム映画としても語れる要素がある映画だと思います。 あくまで史実ベースの映画なので、大きなネタバレにはならないと思いますが、一部劇中のセリフを脚本から引用しますので、ご留意ください。 ▼オッペンハイマーの女性関係:まず、映画でオッペンハイマーと性的関係を持つ女性は3人とも強いです。 カリフォルニアの共産党員のパーティで強気に議論をふっかけてきて、セックスでは常に騎乗位だけ描かれるジーン・タトロック。彼女はツンデレだったり

【オッペンハイマー】35mm上映の感想

視力2.0の私の正直な感想です。 ▼結論:109シネマズプレミアム新宿の35mm上映を観覧しましたが、結論から言うと、映画オッペンハイマーに関しては、私にはあまり良くなかったです。 ▼詳しい感想:あくまで私個人の感想ですが、35mm上映はアナログ特有の温かみや揺らぎなど《味わい》こそあれど、オリジナルフィルムを8KデジタルスキャンしたIMAXレーザー(4K上映)の方が美麗で観やすいと感じました。 私は両目とも視力が2.0あるのですが、視力が高い人は日本のアナログ上映は不

【オッペンハイマー】日本語字幕批評:ラストのセリフ

#ネタバレ オッペンハイマーの最後のセリフに関して、石田泰子氏の日本語字幕を批評します。 ネタバレになるので映画を観てない人は読まないでください。 ▼文脈からのアプローチ:セリフ原文:I believe we did. 直訳:私達はそれをした、と私は信じています。 字幕:我々は破壊した。 まず字幕では「I believe」の部分をゴッソリ削除していますが、これは「私は〜だと信じている」という、言っても言わなくても意味が変わらない部分(脚注*1)なので、削除してOKだ

もう観た人のためのオッペンハイマーあらすじ解説【復習用】

#ネタバレ 映画の内容をほぼ書き起こしているので、復習にどうぞ。 ▼はじめに:本作の映画としての特徴として、主人公だけではなくて、その対極となる人物としてストローズの視点も加えていることが挙げられます。 この映画はカラーとモノクロの《二部構成》です。 カラーがオッペンハイマー(演キリアン・マーフィー)の裁判です。 モノクロがストローズ(演ロバート・ダウニー・Jr)の裁判です。 ある些細な行き違いを発端に関係が崩壊する二人の男を、カラーとモノクロを使い分けることで、

【オッペンハイマー】徹底解説:アインシュタインとの会話

#ネタバレ 映画の核心部分ですが、あまり語られてないので、解説してみます。 映画の中でアインシュタインが出てくるシーンは4箇所ありますが、この記事ではあくまで時系列に沿って3つに分けて記載します。 ▼1943年:核の連鎖反応についてニューメキシコ州のロスアラモスのオフィスが準備できるまでカリフォルニア州バークレーのオッペンハイマーの研究室で、マンハッタン計画は進んでいました。そこでテラーが核連鎖反応理論を提唱します。すぐに数学者たちで理論が正しいのか計算に取り組みますが

時間がない人のためのオッペンハイマー予習【最低限の知識】

映画『オッペンハイマー』は歴史上の事実をもとに3時間に色々詰め込んだ重厚な作品です。登場人物と情報量がものすごく多いので、ある程度は事前に知っておいた方が良いです。 このnoteでは一番核心となる部分は記載しませんが、映画を初見時でも楽しめるように、最低限の映画の構造を紹介します。本当に何も事前知識を入れたくない人はここでブラウザバックしてください。(高評価を押してブックマークだけお願いします:笑) ▼二部構成:この映画はカラーとモノクロの《二部構成》です。 カラーがオ

【文字起こし】アメリカで大学教授に昇り詰めた日本人から見たオッペンハイマー

昨年ぐらいからネットで売れっ子になった理論物理学者・野村泰紀(カリフォルニア大学バークレー校教授)が出演しているYouTube番組(相対性理論!6歳にわかるように説明してみよう!【ReHacQvsUCバークレー】)で、映画オッペンハイマーへの言及があったので抜粋して書き起こしました。 39分ごろE=mc^2の話題から少し脱線して核分裂と核融合の解説に移り、そこから映画オッペンハイマーにつながります。 以下、書き起こし。 野村泰紀:最初は残念なことに、ポジティブなものじゃ

【オッペンハイマー】時系列で整理

私の理解を深めるために書いた側面もありますが、それ以上にこれから映画を観る方や、すでに観たけれど難しく感じた方にとって役に立つ内容ではないかと僭越ながら考えます。 私の感想を混ぜるとノイズになりますし、映画の順序で書いてしまうとネタバレになります。しかし、この映画をより楽しむためには【時系列で何が起きたのか】をよく理解している方が有利なのは間違いないので、今回まとめました。 *あくまで映画の描写に即して書いたものであり、史実とは異なる部分もありますのでご留意ください。この

【オッペンハイマー】ネタバレ感想【あらすじ】

このnoteはクリストファーノーラン監督作品『オッペンハイマー』のネタバレありの感想になります。 本作は一応「伝記作品」という体裁を取っていますが、そこはノーラン監督なので時系列を複雑にすることに始まり、いくつか映画ならではの創意工夫を加えていてそれが面白い作品です。 なので、映画を観る前にこの感想を読むことはお勧めしません。 以降はネタバレありで語ります。 #ネタバレ ▼概論:素晴らしい映画でした。「今世紀最高の映画の一つ」という宣伝文句は妥当です。少なくとも「2

オーストラリアまで『オッペンハイマー』を観てきた話

「ちょっとウナギを食べに浜松まで。😉」 人生で一度は言ってみたい言葉ですね。 私はこれを映画でやりました。 「ちょっとオッペンハイマーを観にオーストラリアまで。😉」 クゥーッ! 言ってしもうたで!(笑) このnoteでは最初になぜオーストラリアなのか、次に映画の感想を書きます。そして最後に日本の一部で問題視されている本作の日本ディスについて私見を述べます。 ▼なぜこのタイミングなのか:私も当初は日本公開を待つつもりでした。 しかし、待てども待てども決まりません

【TENET】オペラハウス襲撃シーンを読み解く【テネット】

この映画で、もしかしたら最も難解なパートだと思うのですが、日本語(と英語)では満足できる記事が見つからなかったので自分で書くことにしました。かなり詳しく書いたつもりなので、ぜひ吟味してくださいませ。 ▼登場人物:▼場所:ウクライナのキエフにある国立オペラハウス (ただし実際の撮影場所はエストニアのタリンにあるリーナホール) ▼映画の流れ整理:まず全体の見通しをよくしておきましょう。 太字にした部分は重要かつ映画ではっきり説明されない不可解な行動です。以下ではこのポイント

【バットマン死亡説】99%の人が気づかないダークナイトライジングがバッドエンドである理由【オッペンハイマー】

ノーランの新作が『オッペンハイマー』であることを考慮すれば、『ダークナイトライジング』はただのハッピーエンドではないことが見えてきます。 *本稿はかなりシリアスな解釈をしていますので閲覧にはご注意ください。 #ネタバレ ▼あらすじ(99%の一般論):ベインがゴッサムシティで中性子爆弾を起動します。バットマンはゴードンやキャットウーマンと協力してベインとタリアを倒し、中性子爆弾を入手しますがもう爆発は止められません。起爆装置を単体で解除できるパヴェル博士をベインが殺害して

テネットのアルゴリズム起動装置がオッペンハイマーに繋がる件【TENET】

映画の核心部分をネタバレしているので閲覧にはご注意ください。 ▼問題:映画『TENET テネット』を久し振りに視聴して腑に落ちない箇所がありました。 ”セイターが絶命したのにアルゴリズムが起動しないのは何故か?” 映画では、主人公たちがアルゴリズムを奪取する前に、キャットがセイターを射殺してしまいます。しかし何故かアルゴリズムは直ちに起動しませんでした。その後、主人公はアイヴスと共に脱出して、ニールも加えて3人でアルゴリズムの隠し場所を相談します。 おいおいおい、アル

テネットでずっと誤解していた件(アルゴリズムはなぜ起動しなかったのか)【TENET】

結論から言うと、私は主人公(名もなき男)の誤解に引っ張られていました。 なぜ、私はそれを「間違った情報」だと見抜けなかったのか。 字幕だけでなく原語セリフも読み込んで、解析していきます。 この記事は映画TENETテネットの結末をネタバレしています。 閲覧にはご注意ください。 ▼なぜ起動しなかったのか:映画TENETを観ていて気になっていることがありました。 物語のクライマックスで 主人公チームがアルゴリズムを回収する前に キャットがセイターを殺してしまったことです。