どんぐりパンはいかが?(創作)
「どんぐりパンはいかが?」
やわらかいパンにどんぐりをしきつめて、少しこげめがつくくらいまで焼いたのが、どんぐりパンです。
パンやの店長はりすです。まいにち工房をはしりまわって、パンを焼きます。どんぐりパンはいちばん人気のメニューで、これをもとめてお客さんはやってくるのです。
「いらっしゃいませー。どんぐりパンが焼きたてです」
お会計をするのは、うさぎです。しゃべってばかりいるのでレジにたってもらったら、お客さんから大人気になりました。
「秋がかおるどんぐり、いかがですかー。食欲の秋、パンはいかがですかー」
調子よく声をかけるうさぎを見て、ちゅうぼうでりすはくすりと笑いました。
どんぐりパンの次は、クルミのパンです。ふくらんだ生地をオーブンに入れます。りすは背がとどかないので、これはきりんの仕事です。
きりんは話すのがうまくありません。無口だけど、ていねいにパンを焼きます。きりんのそういうところが、りすは好きでした。
「つぎはこれをおねがいね」
クルミのからを割るのは、ぞうです。細かいことがにがてなぞうは、すぐにパンをつぶしてしまいます。だから、力仕事をまかせるようにしました。
「いつもありがとう」
りすにそういわれたぞうは、照れたようにそっぽを向きました。クルミのからがはじける勢いが少しだけ強くなりました。
中身をとりだすと、生地にねりこんでいきます。それは、りすの仕事です。ふっくらとおいしいパンを傷つけないように、ゆっくりとまぜあわせます。
「ぼくは…」
たたずんでいたのは、あらいぐま。パンをこねようとすると、長いつめがひっかかってしまいます。
力仕事もとくいではないので、ひとり落ち込んでいるのをりすは知っていました。
*
パンが売りきれたので、店じまいです。仕事がおわったぞうときりんとうさぎが、それぞれ帰っていきます。
「あらいぐまくん」
そうじをしていたあらいぐまに、りすが声をかけました。
あらいぐまはやっぱり、しょんぼりとしていました。
「ぼくってなんにもできないんです。オーブンには背がとどかないし、話すのもじょうずじゃないし、クルミもわれない」
あらいぐまは持っていたほうきをぎゅっとにぎりしめました。長いつめがきしりと音をたてます。
「ぼくもね、できることは少ないよ」
りすはいいました。
「店のなかではいちばんちびだし、力もないし、むずかしいことも全然わからないし」
「でもね」とりすは続けます。
「でもね、ぼくはおいしいパンをつくれるよ」
じぶんでいっちゃった、と小さくつぶやき、りすは頭をかきました。
「ぼくはおいしいパンもつくれないんです」
あらいぐまはどんどん落ちこんでいきます。
りすは袋のなかからどんぐりをだして、ひとつぶたべました。
「…つまみ食いじゃないからね。きみもどう?」
あらいぐまはとてもじゃないけど、今はおやつの気分にはなれませんでした。
「お店がいつもきれいなのはね、あらいぐまくんがそうじしてくれるからなんだよ」
りすはそうはげましたけど、あらいぐまの元気はもどってきませんでした。
そこで、りすはあることを思いつきました。
「あした、ちょっとだけはやくきてくれる?」
*
オーブンにいれるまえのどんぐりパンを、りすはあらいぐまに見せました。
「ちょっと飾りがほしいんだ」と、りす。
「きみのながいつめで、どんぐりの絵をかいてほしい」
すると、あらいぐまは目をまるくして、くびを横にふりました。
「パンをだめにしちゃいますよ」
「いいから、やってみて」
りすがうながします。
あらいぐまはおそるおそる、生地のなかにつめをいれました。ひとつひとつていねいに、どんぐりの絵をいれていきます。
*
「どんぐりパン、焼きたてです!」
うさぎがはこんできたパンには、きれいなどんぐりが描かれていました。
「ね、こっちのほうがいいでしょ」
りすはあらいぐまにやさしく話しかけました。
その日のどんぐりパンは、いつもの倍のはやさで売りきれました。どんぐりのイラストがかわいいと評判で、いつも大人気のりすのパンやは、ぎょうれつができるほどのお店になりました。
「きみのながいつめが役にたったよ」
お店をしめてから、りすがいいました。
「ぼくのつめが…」
あらいぐまはじぶんの手をみました。
つめがながくてよかったかも、とそんなことを思ったのです。
手にはかすかに、どんぐりのかおりが残っていました。
(おわり)
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