戦国Web小説『コミュニオン』第18話「騎士たちとの邂逅」

第18話 「騎士たちとの邂逅」

 

 戦闘に勝利した醒陵・ロズガードの連合軍。楠が隼介を呼び出した。「あいさつに行く。ついて来い。」とだけ言って歩き出した。

 護衛の兵士が20人ほどと和馬、そして道場にも来ていた楠配下の参謀(的な人かな?)2人も同行する。歩きながらその参謀(的な人?)から説明を受ける。

 今から援軍に来てくれたロズガードの司令官にあいさつに行くらしい。今回のこれはあくまであいさつと御礼を述べに行くだけで、軍事作戦の打ち合わせ的なことは後でべつの者たちがやるとのこと。

 「隼介は体格がいいから箔がつく」という理由だけで連れていかれるらしい。もちろん護衛としての役目もあるが。ちなみに和馬はなぜ呼ばれたんだ? と思ったが、きっと参謀候補なのだろうと勝手に解釈した。

 

 ロズガード軍は今回の戦場となった場所からすぐ近くに陣地を築き始めていた。醒陵・淘來の国境である山岳地帯からも近く、そこから木材を切り出しては陣営をつくっていく。切り出した丸太が、地面に打ちつけられていく。

 どうやら壁をつくっている様子。つくり始めてからまだそんなに経っていないだろうに、隼介らが訪れた時にはすでに幾分か形が出来ていた。ものすごい手際の良さである。とともに、緻密に計算しつくされているのがうかがえる。戦闘だけではなく、他の分野においても長けている集団なのであろう。

 

 陣地の前で合流したロズガード軍兵士に案内され、司令官のもとまで連れていかれる。彼らは独特の顔つきをしていた。和の国の人とも、華の国の人とも違った輪郭をしている。そして何より驚いたのが、瞳の色である。彼らは水色の瞳をしていた。戦闘中には気づかなかった部分が、今になっていろいろと見えてくる。

 隼介らは作業をしている者たちの中を歩いていった。おそらく皆、兵士だろう。さっきまで戦闘をしていた屈強な戦士たちが、今は優秀な作業員となって陣地を構築している。

 醒陵軍でもこういったことはするのだろうか? まだ軍に入って間もないので、隼介には分からない。しばらく歩くと、数人の衛兵が警備するテントに案内される。醒陵の護衛兵はここで待機となり、楠と参謀2人、そして隼介・和馬は腰にさしていた大刀と脇差を衛兵に渡し中へ入っていった。

 

 

 中にいたのは5人。手前両サイドに立っている二人は護衛であろう。プレートアーマーを装備しているが、兜はかぶっていない。銀色の鎧がややくすんで見える。そして正面には三人。向かって左やや奥に座っている中年の男。軽装の鎧を着ている。参謀であろうか。中央に座っているのが司令官であろうか。位置的に一番偉そうなので、そんな気がする。

 驚いたのは、この司令官らしき人物が女性であったことだ。この部隊を率いていたのが、まさか女性だとは思いもよらなかった。青い瞳も初めて見たが、金髪もまた初めて見た隼介。年齢は隼介より少し上といったところか。こんなところではなく平和な場所で出会っていたら、絶対に見惚れていただろう。それぐらいに綺麗な女性であった。

 

 が、すぐに隼介の意識はこの美しい女性騎士ではなく、その右奥に立っている者へと向けられた。「それ」を見たとたん、それ以外に意識を向けることが出来なくなってしまった。

 漆黒の鎧。黒いプレートアーマーをまとったその者は、フルフェイスの兜もかぶっているため顔が見えない。表情が見えないためその意思もうかがい知ることはできないが、ただならぬ雰囲気をかもし出していた。一気に警戒心が跳ね上がる隼介、目をそらせない。実際のところ分からないが、向こうもまた隼介を凝視している気がしてならない。

・・・なんなんだ、こいつ。何者なんだ・・・

 以前にも、似たようなことがあった気がする。皇だ。皇と初めて試合で対峙した時に受けた印象だ。体つきも似ていなくはない。小柄ではないが、やや細身。もちろん甲冑を着ているので本当の体格までは見えないが、隼介のような筋骨隆々ではないだろう。

 たぶん・・・強い。皇との対決を思い出してしまっただけなのかも知れないが、この漆黒の騎士の実力は計り知れない。そう直感した隼介。いつの間にか楠と司令官であろう女性騎士との会話が始まっていた。

 そして、いつの間にか終わっていた。その間、隼介はこの漆黒の騎士から目をそらすことが出来ず、ずっと凝視していた。

 

 テントから出た楠一行は、醒陵軍陣地へと向かう。歩きながら隼介は、先ほどの騎士たちとの邂逅のことを考えていた。いろんな情報がどっと頭に入ってきて処理できていない。異国の文化、異国の人間、女性騎士、そして漆黒の騎士。

楠  「向こうも同じ考えだったかな。なぁ、隼介。」

隼介 「・・何がでしょうか。」

楠  「こっちが隼介連れていったように、あっちもあんな強そうな奴連れてきてよ。」

 楠も気づいていたようだ。あの黒い騎士がただ者でないことに。

楠  「まぁ、なめられずには済んだだろう。すまんな、来てもらって。」

隼介 「いえ。」

 

 「なめられずに済んだ。」

・・・同盟国とはいえ、そういった間柄なのだろうか。そういった間柄・・・つまり、油断ならないという意味である。今は味方だが、もしかして敵にまわることだってあり得るのか? あんな奴らとは戦いたくないものだ。

 隼介がこんなことを考えている間、和馬もまたロズガードのことを考えていた。隼介がわりと戦闘に直結する部分を意識するのとは対照的に、和馬はわりと広い視野でものごとを考える。自陣に戻った際に、和馬は不安を覚えた。

 

 自軍の陣地は平原から少し国境に戻ったところにつくられた。木々が茂る山の麓である。つくられた、とは言うものの、簡素な宿営地である。柵もなければ櫓(やぐら)もない。こういった点も、ロズガードとの違いを浮き彫りにしていた。彼らはこういった陣地の構築にも気をつかい工夫しているのだろう。

 先ほど見た時にはまだ建造中であったが、いまごろ、切り出した丸太を垂直に並べた壁が完成し陣地を囲っていることだろう。あれなら敵の奇襲があっても損害を軽くできるはずだし、なにより安心感が違う。

 安心感の違いは、士気の違いにも影響が出るはずだ。あんなに素早く砦を築いてしまえるのは、やはり戦い慣れている証拠だ。実際の戦闘だけでなく、戦いに関係するあらゆる技術を向上させているに違いない。やはり、ロズガードは敵にまわしたくないと和馬は思った。

 

 

楠  「隼介。お前に渡したいものがある。」

 そう言って楠は、隼介らを幕舎まで歩かせた。一応、将軍が寝る場所は幕舎が建てられるらしい。一般兵は野宿とのこと。隼介の顔に疲労の色が。隠したつもりでも楠には分かってしまう。

楠  「野宿は嫌いか?」

隼介 「いえ。・・ただ、あまり経験がないので・・・」

楠  「ま、じき慣れる。ちなみに、俺たちも長居する場合は櫓や長屋を建てるからな。」

隼介 「・・はぁ。」

楠  「いや何。ロズガードの連中とは違って、こっちはお粗末だなんて思ったのかとな。」

隼介 「あ、はい。正直、思いました。」

 豪快に笑いだす楠。和馬も内心、笑ってしまった。さっきまでの不安はただの杞憂だったのかも知れない。戦術だけではなく、こういったことも学ばないといけないなと思った。

楠  「俺たちと違って、あいつらはしばらくここに腰を据えてもらうからな。」

隼介 「そうなのですか。」

楠  「うむ。我々の目的は、早々にここを通過して敵本拠地に向かうこと。だが、その間に防衛もしなくてはならん。この場所は騎馬隊の充実した奴らに任せればいい。とは言え・・・」

隼介 「はい。」

楠  「正直やつらの陣地構築は見事だった。」

隼介 「・・ですよね。」

楠  「うむ。戦い慣れてるな、相当。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「・・・・・。」

 和馬の心配は外れてはいなかった。やはり、あいつらは強いのだ。

和馬 「楠将軍。」

楠  「ん?」

和馬 「お聞きしてもよろしいでしょうか。」

楠  「なんだ。」

和馬 「我々はここに長居はしないとのことですが、すぐには進軍できないのではないでしょうか。」

楠  「うむ。その通り。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「隼介には分からんか。」

隼介 「・・・はい?」

楠  「今置かれている状況。」

隼介 「・・・え~~っと・・・」

楠  「すぐにでも進軍したいが、できん。」

隼介 「・・・あ・・いやぁ・・・」

楠  「和馬、説明できるか?」

和馬 「はい。せんだっての戦いで敵は敗走しましたが、壊滅したわけではありません。いまだ組織的戦闘を行える戦力を有しております。まずは目下の敵部隊に大打撃を与えることが先決であるためです。」

楠  「うむ。よろしい。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「まぁいい。隼介は戦場でおおいに暴れてくれればそれでいい。」

隼介 「・・はぁ。」

楠  「そこでだ。見せたいものがある。」

 楠は兵士に話しかける。話しかけるといっても、「あれを。」と言っただけだが。兵士にはそれで通じたらしく、幕舎に入っていく。

楠  「隼介、お前は強い。そうとう強い。が、あまりに強い。武器が耐えられん。二度はなんとかなったが、三度目は分からんぞ。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「そのうち死ぬぞ。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「あれでは死ぬ。」

 少ししたらさっきの兵士が出てきた。兵士は何か大きなものを抱えていた。木箱である。大きな木箱を持ってきた。その木箱は、なかなかの大きさがあった。

 人が一人入れるぐらいの長さと幅があるわりに、やや薄いつくりになっている。中には何が入っているんだろう? そんな疑問が隼介の顔からにじみ出ていた。

 

 その様子を確認すると、楠はその木箱のふたを持ち上げる。中に入っていたのは・・・刀であった。ただの刀ではない。巨大な刀である。とてつもなく大きい。柄も合わせれば、長さは隼介の身長と同じぐらいある。

 和の国の刀ではない。おそらくは華の国でつくられたものである。どこか青龍刀にも似ている。似てはいるが、その幅も長さも規格外であった。

 

 何だこれは? 誰がこんなものを扱えよう・・・。

 

 そう和馬は思った。だが、「いや、隼介であればあるいは・・・。」とも思ったが、当の隼介ですら「こんなの誰も扱えないだろう・・・。」と感じていた。

 楠がその巨大刀の柄を握る。そして、ゆっくりと持ち上げる。相当に重そうだ。

楠  「う~~ん、重い。持つのがやっとだ。」

 確かに、持つのがやっとな様子である。切っ先を落とす楠。その重さで、先端がザクッと地面に突き刺さる。

楠  「持ってみろ。」

隼介 「・・・・・。」

 隼介、言われたままに片手で巨大刀の柄を握る。楠が手を離すと、ゆっくりと倒れだす巨大刀。慌てて両手で掴む隼介。・・・重い。見た目通り、相当に重い。

楠  「振ってみろ。」

 隼介、巨大刀を持ち上げる。その重量がズシリと伝わってくる。が、重すぎるとは感じなかった。確かに重いけど、いい重さだ。良い感覚だ。不謹慎なのかも知れないが、隼介は心地よさを感じていた。

 人の近くでは、こんな長い武器を振ることはできない。歩き出す隼介の足に、その重さを感じる。一歩一歩踏みしめるごとに、巨大刀の重さがその存在感を強調していた。

 

 

 巨大刀を振り上げる隼介。そして軽く打ち下ろす。と言うより、力を抜いて前方に落とす。落としただけなのに、その重さによって刃は地面にザクッと刺さる。隼介、またしても心地よさを感じていた。本当に不謹慎な奴だ。と自分で思いながらも、やっぱりそれが正直な感想だった。

 そして再び振り上げる。今度は両手で思いっきり地面に打ちつけてみた。刃はさらに深く地面に刺さる。次は右手だけで持ち上げ、頭上にて振り回し始めた。ブンブンと音をならしながら、じょじょにスピードをつけていく。そして思いっきり薙ぎ払う。巨大刀は猛スピードで水平方向に横ぎる。

 

 その勢いは止まらない。隼介は流れに逆らわず、体ごと一回転。回転後、ふたたび頭上にて振り回し始める。片手で、である。右手だけで振り回し、今度は袈裟斬り。斬る瞬間だけは両手で振った。

 振った後は地面には当てず、今度は右手を離して左手だけで上方向へ修正をかける。巨大刀は隼介の頭上、やや左後方で止まった。

 楠、驚きを隠せない。それは、「信じられない!」といった驚きではなく、「やっぱりお前なら出来るのか!?」といった驚きであった。驚いた楠の口元は、笑っていた。

 「こいつ、やっぱり凄い。」と、興奮を隠せない。

 

 

 事実、隼介の武器の扱いは卓越したものがあった。いま初めて手にした武器を、いとも簡単に扱っている。隼介はこの巨大刀で、いろんな振り方を試してみる。

 左手だけで振り回したり、突然両手持ちに変えたり、片手は刀身の峰を持って短い間合いに変えてみたり、側面ガードの構えで蹴りを放ってみたりと、その姿は、まるで子供がおもちゃで遊んでいるかのように見えた。そして、振り終わる。隼介は笑顔であった。

楠  「気に入ったようだな。」

隼介 「はい。」

楠  「お前にやろう。」

隼介 「・・・・・。」

 隼介、何も答えない。笑っているのに、どこか困惑しているようにも見える。

隼介 「ありがとうございます。でも、これは・・・ダメです。これはダメです。」

楠  「んん?」

隼介 「これは、危険です。」

 楠、隼介の言わんとしていることを理解した。隼介自身この武器は気に入ったが、これを使うとなるとさらに簡単に人を殺せてしまう気がして怖いのであろう。が、楠は見抜いていた。これで思いっきり遊んでみたい、という純粋な思いも。

隼介 「・・・これは、お返しいたします。」

 隼介も察していた。楠はこれで、隼介にもっと敵を倒してもらいたいのだと。倒して・・・つまり、殺してほしいのだ。しかしそれには抵抗を感じる隼介。それはゴメンだという思いがある。

 が、それは矛盾した思いだということも分かっている。そうしなければ自分が死ぬのだ。敵を殺すことはつまり、自分の生存率を上げることなのだ。

 とは言え、本当にそうなのかは分からない。自分が分からないだけで、本当はそんなことしなくとも済む方法があるのかも知れない。少なくとも、犠牲は少なければ少ない方がいい。この期におよんで隼介は、戦いたくはないという意思をかいま見せる。

隼介 「私の手には負えません。」

 しかし楠も引き下がらない。

楠  「捕虜がまた増えた。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「分かっているな。」

隼介 「・・はい。ですが、」

楠  「捕虜が多すぎる。もし断るなら、殺すしかない。」

隼介 「・・・・・。」

 立ち去る楠。立ち尽くす隼介。和馬もどう声をかけていいか分からない。

和馬 「・・・隼介。」

隼介 「大丈夫。やるよ、俺。敵なら・・相手が敵なら。」

和馬 「・・・・・。」

隼介 「それに、・・いや、うん。とにかく大丈夫。」

和馬 「そっか。」

 和馬も去る。一人残った隼介。手にはまだ巨大刀が握られている。そして先ほどのように振り回しはじめる。自由自在にこの超重武器を振り回す。だんだんと無心になっていく。無心でいつつ、隼介の心と体は充実していた。楽しんでいた。

 

 先ほど和馬に言いかけた「それに、」の続きは、これのことであった。

 「それに、やってみたいって思いもあるから。」

 が、そんなことは言えなかった。さすがに言えなかった。あまりに不謹慎ではないか。今はこうやってただ空を切っているだけだが、戦場では全く状況が違う。人にぶつけるのだ。この硬くて重い刃を。さっきまで理性が鳴らしていた警鐘は、いつの間にか消えていた。

 

「人」を「敵」と置き換えただけで、いろんなものの意味が変わっていく。

 

 

 敵にだったら、ぶつけてもいいよね?

 

 

 

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