戦国Web小説『コミュニオン』第19話「望郷」

第19話 「望郷」

 

 戦闘のあった日から、数日が過ぎた。あれから敵の襲撃はなかった。敵も うかつに攻めるのは無謀であると判断したのだろうか。それ程までに先日の戦いは圧勝であった。しかし、それもすべてロズガードからの援軍があったればこそ。楠部隊単独で戦っていれば、どうなっていたか分からない。

 逆に言うと、彼らが加勢さえしてくれれば負けることはないとも思えた。本当に心強かった。敗走した敵部隊の行方はまだ分からない。撤退したのかも知れないし、近くで反撃を狙っているかも知れない。ただいま捜索中である。

 そんなおり、中央攻略軍から伝令が入る。

 

 

 「進軍予定経路に展開しているとみられていた敵部隊を発見できず。どこかに移動したもよう。引き続き索敵を続行。」

 

 とのこと。今回の軍事作戦は南・中央・北の3ルートを同時に進軍し、敵軍を撃滅しながら本拠地を目指している。その真ん中を進む部隊からの情報が入ったのだ。大規模な作戦ともあり、各攻略軍との連絡は可能な限り密に行っている。情報を共有し連携して動かなければ、たちまち敵地で孤立してしまう危険もあるからだ。

 

 続いてロズガードの援軍より伝令が入る。

 「南方より北上中の敵部隊発見。迎撃に向かう。」

 とのこと。情報の共有は自軍内だけでなく、ロズガードの援軍とも行っている。他国とはいえ今は共に戦う仲間(・・・か?)なので当然といえば当然であるが。

 どうやら醒陵の中央攻略軍が探している敵部隊を先に捕捉したようである。これによりロズガード軍は南下し、これを迎え撃つもよう。中央攻略軍との挟み撃ちにするのか、単独での迎撃となるかは分からないが、状況は進展したようである。楠率いる北部攻略軍は待機し、先日干戈を交えた敵部隊に備える。

 

 

 

 太陽が照りつける正午。木々の間から平原が見える。先日戦闘が行われた乾燥した大地である。楠部隊は平原をさけ、あえてこの山の麓に陣をしいた。直射日光を避けたかったのもあるが、なにより敵騎馬隊の攻撃に備えたかった。ひらけた場所での戦闘は騎馬隊の格好の的となってしまう。

 

 隼介は木陰に座りながら、ぼ~っとしていた。そして早くもホームシックになっていた彼は、この戦争が始まる前の日々を思い出していた。道場で沙耶に稽古をつけていた日々。楽しかった。本当に充実していた。心をよぎるさまざまな暗い影も、その時ばかりは消えていた。

 沙耶の真剣な眼差しが自分だけに向かっている。自分もまた沙耶だけを見ている。沙耶の意思が伝わってくる。どう動こうか、どう攻めようか、どこを攻めようか、その強弱や緩急までもが如実に伝わってくる。思い上がりかも知れないが、この時だけは沙耶と神経がつながっているとさえ思えた。

 

 ひとしきり二人きりの稽古シーンを回想すると、今度はもっと昔の記憶が蘇ってきた。

 14歳の誕生日。清々しい朝。沙耶とはじめて二人で出かけた朝。今より少しだけ幼い顔をした二人。

 いつも愛想の良い沙耶の、特別にまぶしく見えた笑顔。気分が一気に高揚するような、見るものすべてが輝いて見えるような、そんな感覚。とても素敵で心躍る未来がやってくる予感がした・・・が・・・

 

 

 土砂降り。雨の中、一人立ち尽くしている隼介。

 

 

 ふと我に返る隼介。太陽が照りつける正午。木々の間から平原が見える。隼介は木陰に座っていた。

 「隼介。」

 自分を呼ぶ声に振り返ると、数人の兵士たちがいた。元訓練生ではなく、元々正規兵だった者たちである。皆、隼介より年上で若者から中年の者までいた。

 「稽古をつけてくれないか。」

 隼介は笑顔でこう返す。

隼介 「喜んで。」

 

 隼介がつける稽古は、皆に喜ばれた。隼介はあまり厳しくは指導しない。相手の実力に合わせながら、無理なく教えていく。ここに集っているのは現役の軍人たちである。日々過酷な訓練をこなしている彼らにしてみれば、隼介が教える稽古内容は娯楽のようにも思えた。

 厳しくないうえに、結果は出る。強くなりたいと思っている者たちにとって楽しくないわけがない。

 そんなこんなで、部隊の先輩方とも仲良くなっていった。玄武館道場との試合の評判を聞いた者たちもおり、いつの間にか人気者になっていた隼介。隼介とともに注目を浴びたのが、やはりというか皇であった。試合での名勝負が話題となり、彼の実力もまた知られるようになっていく。

 

 「あの名勝負をもう一度見たい」的なことを言われた隼介と皇は、流れで立ち合うこととなった。とは言うものの、二人とも本気でやるつもりはない。

 もちろんお互い相手を高く評価してはいる。また本気で勝負したい、とも思ってはいる。が、こんなことでケガをするのもさせるのもバカバカしい。と言うよりあってはならない。木の棒を持ち、軽~い気持ちで向き合う隼介と皇。

 しばらく対峙している二人。周りはかたずを飲んで見守っている。先に動いたのは皇。すばやく踏み込んで、隼介の得物を打つ。軽い。衝撃が軽い。

 やはり皇は本気を出していない。次に放たれた一撃をさばく隼介。常人に比べればかなり速い打ち込みだが、あの試合の時に比べたら全然遅い。すぐさま打ち返す隼介。これも本気ではない。難なくかわし距離をおく皇。

 

 「おぉ~~」

 

 といった声が聞こえる。彼らの実力を知っている者らからしてみれば、「何がおぉ~だよ」といった感じであった。全然本気を出していないじゃないか。

 実際の戦闘における隼介と皇の戦いぶりを見ている者も多いが、それはそれ。やはり強い者同士が打ちあうと、凄く見えてしまうようだ。

 身長がべらぼうに高く筋肉質な隼介と、小柄で素早い皇。『豪傑vs達人』といった印象を与える。しばらく打ちあう二人。遊んでいるようなものだが、それでも見ている者たちは興奮した。しばらくして切っ先を下げ、目で合図する隼介。

 「そろそろ終わる?」

応じる皇。

 「そうだね。」

 意思が通じた二人は立ち合いをやめる。歓声があがる。隼介は苦笑いしてしまう。これぐらいで喜ばれてもな~、といった感じ。皇はいつもどうりの笑顔。ニコニコしながら「あざ~~っす。」とか言っている。

 

 「今度は槍対決!」と誰かが言い出した。すると皇はそっこうで「それはやだ。」と返す。「槍は負ける。絶対負ける。」と言い張る。「槍だったら梶君の方が強い。」と言って、無理やり涼平にバトンタッチしてしまう。事実、槍術に関して言えば涼平の方が上なのかも知れない。それ程までに涼平の槍さばきは凄まじかった。

 

 特に拒む様子もなくリクエストに応じる涼平。このまま槍対決・・・と思ったが、長い枝がない。槍もここには本物しかない。残念ながら隼介と涼平の槍対決は実現しなかった。

 が、「何か見せてくれ。」といったアバウトなリクエストが。これまた嫌な顔一つせず、槍を振り回し始める涼平。華麗で力強い槍さばきであった。

 

 「おぉ~~」といった声がまたまた聞こえる。これまた涼平の実力を知っている者らからしてみれば、「何がおぉ~だよ」といった感じである。本気ではない。

 しばらくガヤガヤしていたが、突然涼平が本気を出したとたん、周囲は黙り込んでしまった。華麗で力強い槍さばきに、さらに迫力が上乗せされた涼平の槍は凄まじかった。そしてピタッと動きを止める涼平。わずかな沈黙の後拍手が湧き起る。

皇  「やっぱり槍じゃ敵わんわ。」

 おそらく本音であろう。皇も相当な使い手のはずだが、槍術に関しては一歩譲るようである。

涼平 「隼介の槍も見せてやりなよ。」

隼介 「え。」

涼平 「俺より凄いの持ってる。」

 期待の視線が隼介に集まる。当の隼介本人は「余計なことを・・・」といった表情。そして槍を差し出す涼平。しょうがないか、と言った感じで受けとる隼介。小さく深呼吸。そして、槍を振り回す。

 予想通り凄まじかった。涼平ほどの華麗さはなかったが、力強さと迫力がハンパなかった。しかも速い! 風を切る音がその攻撃力の高さを物語っていた。

 そりゃ死ぬわ。こんなのぶち当てられたら柄の部分であってもそりゃ死ぬわ。誰もがそう思ったに違いない。しばらく槍を振り回した後、動きを止める隼介。拍手。盛大な拍手が隼介に向けられる。

 

 

 強豪者たちに触発されたのか、隼介に勝負を挑む者たちも出てきた。が、当然隼介に勝てる者はいない。ケガをさせてはいけないと手を抜いていた隼介であったが、それでも圧勝であった。

 幾度となく攻撃が直撃しそうな瞬間に寸止めし、その力量の差を見せつける隼介。しかし、たびたび隼介の一撃がぶち当たってしまうこともあった。軽いケガで済むのだが、そのたびに

 「沙耶とだったらこんなことは起きないのになぁ」

 と、沙耶を思い出す。

 

 沙耶は今ごろどうしてるんだろう。早く帰りたい。沙耶に会いたい。

 

 

 

 斥候(せっこう)より伝令が入る。

 「敵部隊発見。せんだって戦った部隊だと判明。南下を始めたロズガード軍を追尾するもよう。」

 

 和馬や楠など、大局が見えている者らは気づく。敵はロズガード軍を挟み撃ちするつもりなのだと。楠部隊も出陣。淘來軍を追う。うまくいけば、こちらが挟み撃ちにできる。

 どれだけ移動したのだろう。陽は傾いていた。夕日に照らされながら行軍は続く。しばらく軍を進めると、敵部隊を発見。目視できる距離。状況を見るにこちらの動きを察知して追尾を停止、待ちかまえていたもよう。

 どうやらロズガード軍のいない我々になら勝てると見たようだ。現在北上中の部隊は囮だったのかも知れない。もしくは二方面から同時に攻めかかるつもりだったのか。いずれにせよ、以前より難易度の高い戦いになるのは疑いようもない。こうして、単独での戦闘が始まった。

 なんとかこの平地での戦闘で醒陵軍を粉砕したい淘來軍。じょじょに接近してくる数千の軍勢。正面に大盾部隊が展開する。武器は持ってなく、盾だけ持って接近してくる。弓部隊が一斉に攻撃を始めるが、敵の守りは固くものともしない。完全に守りに徹した状態で接近している。

 しばらくすると、広く展開した盾部隊のさらに左右から騎馬隊が出現。弓矢による攻撃も命中率は悪く、騎馬隊は猛スピードで接近してくる。これ以上近づけては不利だと判断し、弓隊は後退。長槍隊が前衛にとって代わる。

 そして槍衾(やりぶすま)を形成。無数の槍がヤマアラシのトゲのように敵に向けられる。さすがに敵騎馬隊は攻めてこれない。槍衾の手前で方向転換し、横に走り出す。

 

 槍衾は横に長く続き、つけ入る隙を与えない。その間も敵大盾部隊はゆっくりと前進してくる。すでにかなり近くまで来ている。二つの敵騎馬隊は槍衾の壁の前を、何もできずに走るのみ。そして交差したかと思うと、左右に走り抜けていった。騎馬隊が去った後に視界に映ったのは、長く連なった盾の壁。夕日に照らされ黄金色に輝く盾が美しく見えた。

 

 

 突然、その盾がいっせいに横を向いたかと思うと、自軍長槍部隊の最前列がバタバタと倒れだす。何が起こったのか分からない。数秒後、ふたたび長槍部隊の前衛が次々と倒れていく。

 敵軍を見ると淘來兵は手に何か持っている。槍ではない。弓のようなものを持っている。弩(ど)だ! と気づいた時には三発目の矢がいっせいに発射されていた。弩とは弓矢と銃が合わさったような武器である。引き金をひくだけで矢を発射することができる。いわゆるボウガンを想像すると分かりやすい。たちまち混乱をきたす醒陵軍。とくに直接攻撃を受けた長槍隊の混乱はひどい。

 

 そして、走り抜けた騎馬隊が戻ってくる。はやく槍衾を形成しなければ騎馬隊の突撃を許してしまう。が、一度瓦解してしまった陣は簡単には元に戻せない。

 そうこうしている内に、敵騎馬隊が醒陵軍に突っ込んだ。長槍隊を蹂躙しながら駆けまわる。混戦となってしまい、弓隊もうまく援護できない。なす術もなく、楠部隊の一部は指揮系統がマヒしてしまう。さんざん醒陵兵を殺戮した騎馬隊はふたたび左右に分かれていく。

 

 

 その時にはもう大盾・弩部隊は後退しており、剣と円形の盾を装備した部隊が前面に列をなしていた。そして いっせいに襲いかかってくる。たちまち瓦解した長槍隊は散り散りに敗走していく。そして、その後ろに控えていた弓隊に迫る。弓隊、矢を放ち敵の最前列にいくらかダメージを与えるも、接近戦に持ち込まれてしまう。

 肉薄した距離での弓隊はもろかった。当然である。距離をおいて戦うのがセオリーの弓隊にとって、最悪の状態なのだから。慌てて抜刀し応戦するも、圧倒的に分が悪く次々に斬られ貫かれ、倒れていく。もはや全軍の半数は指揮系統が機能しなくなっていた。早くも醒陵軍は危機に立たされてしまった。

 

 

 瓦解した弓隊から、和馬が逃れてくる。和馬は楠将軍を見つけると、急いで駆け寄る。そして緊迫した面持ちでひざまづくと、何やら話し出す。黙って聞いていた楠も、大きくうなずく。そして伝令兵に指示を出す。伝令兵は走り去っていく。

 

 陣が崩れていない部隊の前に盾隊が並びはじめる。陣が崩れてしまった部分は切り捨て、無傷な部分を守るように。そしてそのすぐ後ろに、残った弓隊の精鋭たちを配置。配置が完了したとたん、盾隊は隙間を開ける。盾と盾のわずかな隙間から覗くのは、矢をつがえた弓兵たち。

 そして、迫ってくる敵に弓矢のいっせい掃射。弓矢の精鋭たちは、正確に敵を射抜いていく。弓矢の波状攻撃により、敵歩兵部隊は接近できなくなる。

 

 しばらくすると敵陣容が変わっていく。ふたたび大盾で固められ、弓矢を防いでいく。おそらくその大盾の後ろでは、弩を持った兵たちが配備され始めていると予想する和馬。こちらも盾隊の列に隠れる。

 敵軍に対して正面は、完全に盾隊で固める。敵も同じである。お互い正面の守りを固めている。醒陵軍の陣の側面・背面は、無傷で残っていた長槍隊の槍衾にて、敵騎馬隊に備える。

 

 

 盾の防御を解いた瞬間に、おそらくは弓矢・弩による射撃が始まるであろう。こうなると、いかに相手に防御を解かせるかがカギになってくる。が、敵にはあの騎馬隊がいるのに対し、こちらにはいない。もし騎馬隊に突っ込まれれば、盾隊は耐えきれないだろう。盾隊の壊滅は全軍の壊滅へと、容易につながっていくのは明らか。

 

 

 そして案の定、騎馬隊がふたたびこちらへ向けて走り出した。騎馬隊の激突を待たずして、和馬が号令をかける。すると最前衛である盾隊は、なんと列を組んだまま敵にぶつかっていく。盾による突進である。

 相手は衝撃は受けるものの、当然ながら大したダメージはない。が、敵陣と接触したことにより、騎馬隊が突っ込む隙間を完全になくすことに成功。

 騎馬隊は立ち往生することとなる。そして盾隊と盾隊が衝突。お互い盾と盾をぶつけ合い、圧し合いが続く中、その一部で異なる動きが始まる。敵盾兵の一人が、突如圧死した。その兵士は盾ごと後ろへと倒され、その大盾も上部から中ほどまで割けていた。

 次の瞬間には、その後ろにて弩を構えていた兵士が地面に叩きつけられる。ほぼ真っ二つに切り裂かれた状態で・・・。周囲には、何が起こっているのか理解できる者はいなかった。

 

 

 そして何かが跳び込んできたかと思えば、数人の弩兵が放射状に吹っ飛ばされた。そのうち何人かは、上半身と下半身がちぎれている。

 

 その跳び込んできた「何か」とは、隼介であった。

 そして隼介の手には、あの巨大刀が握られていた・・・

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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