戦国Web小説『コミュニオン』第16話「待っていてくれる人」

第16話 「待っていてくれる人」

 

 突如として勃発した国境での淘來軍急襲は、「訓練生の大虐殺」として国内で流布され、世論は「淘來許すまじ」の機運が一気に高まった。

 以前から強硬論を唱えていた長老会の重鎮・蒼雲はその発言力を高め、淘來軍殲滅(せんめつ)を目的とした一大軍事作戦が決行される。

 

 醒陵軍は三軍に分かれ、中央と南側そして北側を進軍することとなる。中央と南側を進軍する部隊はそれぞれ3万名もの数がいるのに比べ、北側を進軍する軍勢は総勢わずか6000名であった。それを補うためこの部隊は、ロズガードの援軍とともに敵本拠地を目指す。

 

 

 訓練生たちは楠将軍率いる北部攻略部隊に所属することとなる。訓練生約800名の中で初陣を生き残ったのは約500名。楠部隊の編成は、大半が長槍部隊であった。

 100名からなる長槍兵が20組。計2000名。

 100名からなる弓兵が10組。計1000名。

 100名からなる歩兵(手槍が基本武器)が10組。計1000名。

 その他、盾兵や工兵、また戦闘には参加しない輜重兵などを含め2000名。

 総合計6000名。

 

 

 残念ながら、騎馬隊はいない。わりと平坦な中央・南ルートに比べ入り組んだ土地を通過するためであるが、たんに軍馬が不足していることも大きく関係している。

 

 隼介・皇・涼平・剛田・大山は、歩兵1番隊に配属。もっとも接近戦に長けた上位100名からなる部隊である。

 和馬は弓兵1番隊。弓の扱いにもっとも長けた100名からなる部隊である。なお、和馬はこの部隊の部隊長に任命される。指揮官の一人である。先の戦いにて、その統率力・判断力を高く評価されたのがうかがえる。

 

 

 部隊編成も終わり、出陣の時を待つばかりとなった隼介たち。まだ出陣の日時は決まってはいないが、その時は確実に迫っている。

 緊張した面持ちの者もいれば、勇んでいる者、怯えている者などなど、反応は様々であったが、先の戦いを経験した彼らである。殺し殺されるという状況がどういうものか身に染みていた。

 そこに似たような体格の、それでいて対照的な反応の二人がいた。隼介と大山である。

隼介 「・・・・・。」

大山 「・・・・・。」

 二人とも沈黙しているが、明らかに表情が違う。不安だが考えたところで何ともならないと、無理にでも覚悟を決めようとしている隼介。

 不安だが考えたところで何ともならないと、開き直っている大山。心の中を言葉にするとすれば、「・・・やるしかないのか・・・」と、「やってやろうじゃん!」ぐらい違っていた。

 

 涼平と剛田は、いつもと変わらないように見える。内心どう思っているか外からは分からないが、平然とした様子である。その中でちょっと異彩を放っているやや小柄な美少年がいる。皇である。

 彼は怯えている仲間たちに、いつもと変わらぬ爽やかな笑顔で励ましの言葉をかけていた。パッと見、軟弱そうな外見だが不安を感じているようにも見えず、周りに気をつかう余裕を持っている。

 ・・・こんな時にこそ、彼のような強さがものを言うのかな・・・。隼介は皇を尊敬した。

皇  「相葉君、同じ隊になったね。心強いよ。」

隼介 「こっちこそ。」

皇  「戦いになったら、相葉君のそばにいるよ。そこが一番安全だから。」

隼介 「助かるよ。本当に。」

大山 「おいおい隼介ぇ、気負ってんじゃねーよ。らしくねーなぁ。」

隼介 「ん? あぁ・・・。」

皇  「大山君、燃えてるねぇ。」

大山 「おぉ。やるからにはギッタギタにしてやるよ。」

隼介 「・・ハハ・・・」

大山 「あん時の勢いはどうしたよ?」

隼介 「いやぁ、もうないよ。」

大山 「謙遜しちゃってぇ。」

隼介 「勘弁してよ。」

大山 「あれだけ大暴れしておいてよく言うよ。」

隼介 「・・ハハ・・・」

 隼介、大山のノリについていけなかった。いや、彼の言ってることはおかしくはない。仲間を鼓舞しているのは分かる。どうせ逃げられないならやってやるぜ! というのもよく分かる。

 よく分かるのだが、それ以上に「ついにこの時がやってきたか!」といった意思を感じるのだ。正確には、

 「ついにあの憎きあいつらを皆殺しにできる!俺はこの時を待ってたんだ!」

 そういった意思が。どことなく、いつかの暴徒に近いものを感じる。怖い。そう、怖いのだ、今の大山は。でももっと怖いことにも気づいていた。

 さっきは「いつかの暴徒」と他人のことのように表現したが、その暴徒を前にして豹変した隼介自身にも似ているのだ。そんな自分に恐れをいだいた隼介。

 「俺はこの時を待ってたんだ!」などとは、微塵も思わない。思ったとしても必死にそれを抑えようとするだろう。そんな自分とは対照的に、大山はこれを好機とばかりにその感情を自らたきつけているように見受けられる。一見強そうに見えるが、隼介はそれを強さだとは思わない。それに引きかえ、

皇  「でもなぁ~。」

大山 「ん?」

皇  「殲滅(せんめつ)ってなぁ~。」

大山 「なに?」

皇  「淘來軍殲滅ってのはさすがに、無理があると思うんだけどなぁ~。」

大山 「そうか?」

皇  「そうだよ。敵の兵力どれだけあると思ってるの。」

大山 「知らね。」

皇  「そっか。」

 皇の強さは本物だと感心している。剣術の強さはもちろんのこと、こんな状況でも冷静な思考力と弱い人を気づかえる優しさがある。それらは多分、心にゆとりがあるからで、そのゆとりは自分で情報を集め自分で分析することで維持できてるんじゃないかと思っている。

 事実、彼は誰よりも早くいろんな情報を持ってくる。誰になにを聞けばいいのか心得ているのだろう。彼は本当に知的だ。

大山 「で、どれだけあるの?」

皇  「僕も知らない。」

大山 「知らんのか。」

 隼介も心の中で「知らんのか。」とつぶやいた。知ってそうな言い方してたのに。でも、それでもきっと彼はこのあと知的なことを言うに違いない。

皇  「でも、醒陵軍よりは全然多いと思うよ。国土も広いし、そもそも殲滅って敵を全部やっつけるってことだよ。無理でしょ。敵から攻められたのをいいことに、淘來嫌ってる人らが無茶押し通そうとしてるように思えちゃうんだよなぁ~。」

 やっぱりね。彼はちゃんと考えがあってものを言っている。

大山 「いいじゃん。人の国荒らす奴らは一度痛い目見なきゃ分かんねーんだって。」

皇  「それは確かにそうだけど。」

大山 「ぶっ殺せばいいんだよ、悪い奴らは。」

皇  「殺しちゃったら改心もできないでしょ。」

大山 「いいよしなくて。死ななきゃ治んねーよ。」

 出た。大山の差別発言。特になにも考えないで言っているように見える。彼の中では、淘來人=悪で成り立ってるのだろう。対する皇は、そんな言葉に対しても笑顔で受けている。

皇  「もしもだよ。もしも本当に淘來の人が・・いや、淘來軍が悪い奴らだとしても、そもそも殲滅は無理じゃないかってことが言いたいんだよ、僕は。」

 隼介は聞き逃さなかった。「淘來の人が」を、「淘來軍が」と言い直したことを。そして多分、その「淘來軍」という言葉もまた便宜的につかっただけで、本当はその中にもいろんな人、いろんな事情・目的・立場を持った人たちが混在していることを知っているはずだ。少なくとも隼介にはそう感じた。

大山 「考えても時間のムダだ。とっとと片づけちまえばいいんだよ。」

皇  「・・そっか。」

 さすがの皇も苦笑い。

皇  「でも、話戻るけど、」

大山 「ん?」

皇  「これ重要なとこだけどさ、今回の北門の兵士たち・・・」

大山 「裏切ったんだよな。」

皇  「裏切った・・う~~ん、」

大山 「そもそもあいつらが向こう側に協力したからこうなったんじゃん。弓矢ぶっぱなして城門開けて敵呼び込んでよぉ。」

皇  「まぁ、そうだね。でも、彼らの多くって、三年前の一斉摘発で投獄された人たちらしくてさ。」

大山 「罪人かよ。」

皇  「いや、ほとんど無実。」

大山 「んん?」

皇  「無実の罪で投獄されてたってのがホントのところ。で、この国に恨みもっちゃって、本当に向こう側に寝返っちゃったらしい。」

大山 「関係ないね。罪人は罪人。」

皇  「だからね、それが間違ってたって話を今、」

大山 「結果、俺らの仲間殺したんだから、どのみち罪人だ。」

皇  「・・そっか。」

 皇、またも苦笑い。話す相手を間違えたと判断したのか、それで会話を終わらせた。そこへ和馬が合流。

皇  「お。藤堂くん、おかえり。」

和馬 「うん。」

大山 「お、指揮官のおかえりだ。」

和馬 「やめてくれよ。指揮官って言っても60人以上いるんだから。」

大山 「いや、すげぇ~じゃん、それでも。」

皇  「で、どうだった? 何か決まった?」

和馬 「うん。増援がこっちに向かってるみたい。」

皇  「お、増えるんだ。」

和馬 「うん。で、合流してから出陣するか、ここにいる部隊だけで先に出陣するかはまた追って報告があるんだって。多分、休憩が終わったら自分たちの部隊長から同じこと言われると思う。」

 そう、和馬は部隊長として上官からの指示(命令?会議?)を聞きにいっていたのだ。訓練生の中で部隊長となったのは和馬ただ一人。

 異例の大出世なのかも知れない。・・・そういえばもう訓練生ではなかった。隼介たちはもう、正規軍の一員なのである。

皇  「じゃあ、増援が来る前に出発するかもしれないの?」

和馬 「あり得るね。」

皇  「えぇ~~~。」

和馬 「まぁ、ただでさえ遅れてるから、この部隊。」

皇  「そうなの?」

和馬 「うん。中央門と南門からはもう部隊が出てるからねぇ。」

皇  「・・もう始まってんだね、戦争。」

和馬 「うん。」

皇  「ちなみに、援軍来るんだよね。増援とは別に。」

和馬 「ロズガードの?」

皇  「うん。」

和馬 「来るよ。」

皇  「数は?」

和馬 「詳しくは知らないけど、1万はいるらしい。」

皇  「ふ~~ん。」

和馬 「北門を抜けて、平原に出たところで合流する予定。」

皇  「平原!?」

和馬 「うん、平原。」

皇  「こっち騎馬隊いないんでしょ?」

和馬 「うん、いない。」

皇  「そんなとこで待ち合わせしちゃっていいの?」

和馬 「いいのかな。」

皇  「淘來って騎馬隊たくさんいるって聞いたよ。」

和馬 「ロズガードも騎馬隊はいるから大丈夫。らしい。」

隼介 「やっぱこっちに騎馬隊いないのはまずいの?」

和馬 「まずいね。平原とか、広い場所では特に。」

皇  「あてにしちゃっていいの? ロズガード。」

和馬 「まぁ、その平原もすぐ渡り終えるから、そこさえ乗りきれば。」

皇  「ふ~~ん。にしても、増援が来てから出発したいなぁ。」

和馬 「そうなんだけど。ここの施設増強する要員にまわすかどうかで変わってくる。」

皇  「ん? どゆこと?」

 和馬の説明によるとこうだ。当初は戦闘員として向かっていたその増援だが、この北門にて野戦病院や捕虜収容所などの中継基地をつくる必要性が出たため、急遽それらをつくる要員にするかもしれないとのこと。また、つくった後もその施設の運営や防衛のために留まらせるかも知れないらしい。

大山 「んなもんいらねーよ。戦える奴は戦場にまわせばいいんだよ。こっちは ただでさえ兵士少ないんだろ?」

和馬 「まぁね。それもそうだけど。」

隼介 「・・・・・。」

 隼介、なかなか会話に参加できずにいた。軍事的な知識が足りないのも理由の一つだが、戦争に参加しているという不安感、そして大山の人の意見を聞かない姿勢に抵抗を感じていたからだ。

 ここで隼介が仮に何かささいな発言、例えば淘來人を擁護する発言などしてしまえば、たちまち大山は食ってかかったことだろう。そうでなくとも隼介の精神は消耗していた。これ以上、無駄に消耗したくはない。

 

 

 なにやら騒がしいことに気づく。殺気立った者たちがケンカでも始めたか? とも思ったが、どうも違う。隼介たちは声のする方へ向かう。

 近づくにつれ、騒々しい声は増えていく。どうやら多くの人間が騒いでいる。20~30人程度ではない。100~200人? もっと? どうも ただ事ではない。なかには悲鳴のような声まで聞こえる。そして、その場所へたどり着いた。

 まずは鼻が気づく、その臭いに。嫌な臭いだ。吐き気を誘うあの臭いだ。そして目に映ったのは、ひざまずいた状態で並ばされた捕虜たち。血の海。

 その後ろには立って並ばされている捕虜たち。叫んでいるのは彼らだ。倒れている者たちは皆黙っている。当然だ。首がないのだから。

隼介 「・・・・・。」

 隼介、すぐには状況が理解できなかった。抜刀した醒陵軍兵士たちも沢山いる。彼らの刀は血まみれである。そこでようやく理解した。

 処刑!??

隼介 「ちょ! ちょっと!! あ、あの、ちょっと!!」

 思わず声をあげる隼介。

隼介 「待った!! 待った!! ちょっと待った!!!」

 皆いっせいに隼介の方を向いた。この体格である。とても目立つ。それとともに、兵士たちは「あの」相葉隼介であることに気づく。

 敵陣に一人で突っこみ、多くの仲間を救った勇敢なる少年。そしてその類まれなる筋力で、圧倒的な戦闘力を見せつけた猛者。

 先の戦い、その勝因の一つをつくったと言っても過言ではない。和馬とともに隼介も、すでに正規兵の間でも一目置かれる存在になっていた。

 そんな隼介がなにか叫んでいる。いや、この処刑に異を唱えていることぐらい皆すぐに理解した。隼介、誰に話しかけていいのか分からず、その場で叫び続ける。

隼介 「もう戦い終わった! 今もう違うから! 戦い違うから!! これ、ちょ、やめ、」

 支離滅裂ではあったが、なにが言いたいのかは伝わっていた。しかし、隼介はあくまで一般兵の一人。英雄ではあっても上官ではない。

 命令には従わないといけない。とはいうものの、英雄の訴えをむげにするのもはばかられる。見かねた一人の兵士が隼介のもとへ走り寄ってくる。この場を仕切っている者であろうか。

兵士 「これは、命令です。」

 その兵士は敬語を使ってきた。若いが明らかに隼介よりは年上である。おそらくは隼介の戦功(に加えてその人格)を評価しての配慮だろう。

兵士 「加えて、この者たちは重要な情報は持ってないと判断された者ばかりです。」

隼介 「いや、それ、ちが、・・それとこれとは関係ない。ない、う~~ん、と言うか、」

兵士 「命令は命令です。」

 支離滅裂な隼介に対し、若い兵士は落ち着いた口調で答える。しかし、心苦しさは隠せない。

兵士 「申し訳ありません。」

隼介 「これが原因になったらどうします?」

兵士 「はい?」

隼介 「これ、これが元でまた・・・」

 隼介、言いたいことをうまく言葉に換えて説明できない。そこへ歩み寄る大山。

大山 「なに甘いこと言ってんだよ!!」

隼介 「・・・・・。」

大山 「隼介、お前甘いよ! 甘すぎるよ!」

隼介 「・・これは・・ダメだ。」

大山 「お前だって分かってんだろ。殺(や)るか殺られるかじゃねーか。だったら殺るしかねーじゃん。てかお前も殺ったじゃん。いっぱい殺ったじゃん。今さら綺麗ごと言ったってどうにもなんねーよ。」

隼介 「・・・・・。」

 そこへ現れた楠。すぐそばには和馬の姿も。急いで呼んできたのがうかがえる。にしては早い。もともと近くにいたのに気づいた和馬が連れてきたのかも知れない。すでに楠にも、隼介の意思は伝わっている。

楠  「相葉隼介。」

隼介 「・・・はい。」

楠  「これを止めるか。」

隼介 「・・・はい。」

楠  「そうか。」

 楠、しばし沈黙。周りは緊張した面持ちで見ている。

楠  「今、こちらに増援が向かっている。」

隼介 「・・・はい。」

楠  「正直戦力が足りん。全然足りん。そのための増援だ。」

隼介 「・・・はい。」

楠  「捕虜を捕えておくだけでも、食糧・施設がいるし、人もいる。」

 楠が言いたいことは、すでにだいたい察しがついた。

楠  「ここが中継基地として重要な場所となった。病院・武器庫・食糧庫などを急いでつくることとなった。一応、捕虜収容所もな。だが、大した情報ももってない奴らの面倒まで見ていたら増援どころではない。増援が遅れても、もしかしたら不可能となったとしても、これを止めるか?」

隼介 「・・・・・敵でない者は、敵ではありません。」

楠  「うむ。そうだ。じゃあ、敵ならいいんだな。」

隼介 「敵なら、やむを得ません・・・。」

楠  「分かった!」

 楠、捕虜たちを見渡す。

楠  「ざっと・・300人か。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「300人殺せるか?」

隼介 「え?」

楠  「敵ならいいんだよな。この300人の捕虜を救う代わりに、300人の敵を殺せ。」

隼介 「300人・・ですか。」

楠  「もちろん捕虜が増えるたびにそれも増える。捕虜が1000人になったら1000人殺せ。出来るか?」

隼介 「・・・・・。」

楠  「できるなら許す。」

隼介 「・・・敵だったら・・・敵だったら・・・」

楠  「できるんだな。」

隼介 「・・・はい。て・・敵だったら。」

楠  「数えさせるからな。誰も見てなかったら、その分はなしだぞ。分かったな。」

隼介 「・・・はい。」

楠  「声が小さい!」

隼介 「はい!」

楠  「声が小さい!!」

隼介 「はい!! 分かりました!!」

楠  「殺せるんだな!!!」

隼介 「殺します!!!」

楠  「殺せるんだな!!!」

隼介 「はい!! 殺します!!!」

楠  「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「よろしい。おい。」

兵士 「はい。」

楠  「正確な数、数えて報告するように。」

兵士 「・・・・・。」

楠  「捕虜のだよ。」

兵士 「はっ。」

楠  「あと、戦場で隼介が殺した敵兵の数も報告するように。不可能な場合はよい。」

兵士 「はっ。」

 立ち去る楠。

大山 「約束・・破るなよ。」

隼介 「・・・・・。」

 大山はまだ腑に落ちない様子だが、上官の命令ならしかたないといった表情。彼もまた去っていく。隼介は憔悴した様子。そしてトボトボと歩き出す。去ろうとする隼介の背後で物音がした。なにげに振り返ると・・・

 

 土下座していた。捕虜たちが全員。

 

隼介 「・・・・・。」

 全員である。約300人いる捕虜たち全員が。涙を流している者もいる。彼らを押さえつけていた兵士たちも、その行動を止めはしなかった。

 

 

 

 夜。真っ暗な中、大山が一人で立っている。誰かといると暴言を吐いてしまいそうな気がして、一人で外にいた。増援は待たずに明日の朝に出陣となった。

 今はもうそれを待つばかりである。大山はまだ怒っていた。隼介の意見が通ってしまったため、増援が遅れてしまうこと。遅れるだけではない。おそらく数は減るだろう。もしかすると、増援自体がなしになってしまう可能性だってある。

 どうにも腑に落ちない大山。隼介の甘さが我慢ならない。あんなに強いのにだ。弱いならまだ分かる。臆病ならまだ分かる。しかし隼介は強い。そして勇敢だ。戦いでは超人的な隼介が、なぜあんな言動をするのか理解できない。淘來人は敵だろ? なぜかばう? なぜためらう?

 

 そこへ突然、聞き慣れない女の子の声。

 「あの、隼介さんですか?」

大山 「・・・え? 俺?」

 どうやら暗いのと体格が似ているのとで、間違えてしまったらしい。

大山 「違うよ。」

少女 「あ、ごめんなさい。」

 しばらくすると、今度は男の子の声。

 「相葉君・・ですよね?」

大山 「ん?」

少年 「あの、ありがとうございました。」

大山 「いや、違うよ。」

 しばらくすると、また女の子の声。今度は複数人いるようだ。

 「隼介さん・・相葉隼介さん、ですよね?」

 ・・・またか・・・

少女 「ありがとうございました。本当に、本当に。隼介さんがいなかったら、私、今頃、」

大山 「違うよ!」

少女 「ひっ」

 少女たちが怯えたのが伝わった。が、かまわず機嫌悪そうな口調で続ける。

大山 「俺は大山! 隼介じゃねーよ!」

少女 「ご、ごめんなさい。」

 慌てて去っていく少女たち。数秒して自責の念にかられる。

 ・・・なにも怒ることじゃないよな・・・

 ん? 待てよ。「ありがとう」って言ってたな。そういえばさっきの少年も、確か「ありがとう」って。

 

 ・・・そうか・・・そうだった。彼は、隼介は、絶体絶命だった彼らを救ったんだった。誰も動こうとしないなか、隼介だけは一人敵中に身を投じた。

 恐ろしいのは敵ばかりではない。下手をすれば命令違反で、味方から処罰されていた。

 隼介のあの勇気ある行動がなければ、あの子たちは間違いなく無残な最期を遂げていたはずだ。

 

 そうだ! 彼は英雄だ! まぎれもない英雄だ。そんな彼の主張なら、ないがしろにしたくはない。したくはない・・・でも・・・それでも自分の思いも抑えておけない。なんとも煮えきらない思いにさいなまれる。

 

 

 そんな中、

 「お~~~い、誰かぁ~~~。」

 女の子の声がする。

 「ねぇ~~、誰かいないかなぁ~~~。」

 暗がりの中、声のする方へ歩いていくと、少女が座り込んでいる。足を伸ばしながら、上半身だけ起こしている。・・・何やってんの? と言う前に、少女が先に声を出す。

静流 「あ。」

 ・・・今の「あ。」はきっと、「あ、隼介さんですよね?」の「あ。」だ。と判断した大山。

大山 「隼介じゃないからな。」

静流 「は?」

大山 「相葉隼介じゃないからな、俺。」

静流 「いきなり何言ってんの?」

大山 「え・・・。」

 恥ずかしくなる大山。どうやら早とちりのようである。

静流 「隼介の知り合い?」

大山 「おぅ。・・いや、さっきから何回も間違えられてて、てっきり。」

静流 「確かに、あんたデカいもんね。」

 初対面で「あんた」って・・・。失礼な子だなぁ。と思いつつも口には出さない。

静流 「でも隼介はもっとでかいから。」

大山 「知ってるよ。ってか、隼介の知り合い?」

静流 「うん。彼女。」

大山 「マジで!?」

静流 「ウソ。」

大山 「ウソかい。じゃあな。」

 大山、去ろうとする。

静流 「あ、待て待て待て。」

大山 「何やってんの。」

静流 「悪い。肩かして。」

大山 「ん? あぁ、いいけど。」

 静流、大山に肩をかしてもらう。

静流 「宿舎まで行きたい。」

大山 「・・おぉ。」

 なんだかズケズケとものを言う子だなぁ。と思いつつ口には出さない。宿舎に向かって歩き出す。あまりに身長差がありすぎて、静流の足がたびたび宙に浮く。

静流 「ちょっと、ちょっと、」

大山 「あ?」

静流 「高いんだって、あんた身長高いんだって!」

 「知るかい!」と思いつつ、口には出さない。

静流 「降ろして降ろして!」

 静流を降ろす大山。急に降ろされた静流、地面に足がついた瞬間、激痛。

静流 「あーーーーー!!!」

 驚く大山。

静流 「いきなり降ろすな。」

 静流の言動がさっぱり理解できない。

静流 「あんたさぁ、もうちょっと」

大山 「大山。あんたって言うな。」

静流 「大山、もうちょっと、」

大山 「呼び捨て!?」

 ついに口に出た。

静流 「もうちょっと体勢低くしてよ。足ケガしてんの。」

 大山、ようやく状況を理解する。中腰になって肩をかし歩き出す。が、この体勢はかなりしんどい。そして、パッと見 かなり不格好である。

大山 「・・・・・。」

静流 「なんかその体勢、不格好だね。」

大山 「お前がやれ言うたんやん!?」

静流 「お前って言うな。静流。」

大山 「・・・静流?」

静流 「うん。」

大山 「しょうがないだろ、身長差あるんだから。」

静流 「持ち上げればいけるんじゃない?」

大山 「え?」

 大山、言われたままに静流を抱きかかえる。お姫様抱っこ状態。正直ちょっと恥ずかしかったが、静流は気にしてない様子。

静流 「いいねぇ。大山、これでいこっ。」

大山 「・・・・・。」

 

 

 宿舎に向かって歩いていく大山。

静流 「悪いね。」

大山 「べつに、いいけど。」

静流 「大山も行くの? 明日。」

大山 「おお。」

静流 「そっか。無事でな。」

大山 「・・おぉ。」

静流 「痛っ。」

大山 「大丈夫?」

静流 「うん、大丈夫。ってか、かすり傷だし。」

大山 「歩けなかったじゃん。」

静流 「いやぁ~、転んじゃってさ。多分すぐ治る。」

大山 「そ。どうしたの。」

静流 「ん?」

大山 「このケガ。」

静流 「矢がかすって。」

大山 「・・そっか。」

静流 「まぁ、これだけで済んで良かったよ。ってか、かすっただけでこんなになるんだね。」

大山 「仇は討ってやるよ。」

静流 「死んでねーよ。」

 静流の宿舎に到着する前に、自分たちの宿舎を横切る。そこを皇に発見される。もちろんお姫様だっこしている姿である。できれば見られたくなかった大山。

皇  「あ~~~、大山くん何やってんのぉ~?」

静流 「こんばんは~。」

皇  「こんばんは~。」

 笑顔であいさつをかわす二人。

皇  「ごめん、邪魔しちゃった。」

静流 「まったくだよ~。」

大山 「ちげーだろ! そんなんじゃねーよ。」

静流 「ムキんなるなよ。冗談だよ、大山ぁ。」

皇  「仲いいね。」

静流 「まぁね。」

大山 「いや、さっき会ったばっかりだけどな。」

静流 「だけどな。」

皇  「で、何するつもり? これから。」

静流 「聞くなよ~、そんなこと。」

皇  「ゴミン。」

大山 「宿舎に連れてくだけだ。ケガしてるから。」

皇  「あ、そうなんだ。」

静流 「面白いね、大山って。」

皇  「でしょ。」

静流 「からかいがいがある。」

大山 「お前なぁ、人が親切にしてやって」

静流 「お前って言うな。」

大山 「・・おぅ。」

静流 「私の名前、覚えた?」

大山 「・・静流。」

静流 「よろしい。」

皇  「ちなみに僕、皇。よろしく。」

静流 「よろしく。ってかさぁ、何度かこっちの宿舎に来てたよね、夜。」

皇  「あ、バレてた?」

静流 「やっぱり~。顔見たことあるもん。」

大山 「話し込むんだったら、降ろしていいか。」

静流 「あ、ゴメン。降ろして。」

 しばらく話し込む三人。いちおう就寝時刻は決まっているので、そんなに長くは話せないが、出陣前に楽しい時間を過ごしておきたかった。大山も、べつに(敵とはいえ)人を殺したいと思ってるわけではないのだ。皇もまた、べつに不安を感じてないわけではないし、静流は静流で恐怖を紛らわしたかった。

 話は盛り上がった。明日にはもう、『敵国』を歩いていることだろう。いつ戻れるか、いや、生きて戻って来れるかどうかさえ誰にも分からない。待つ方もそうだ。戻ってきてくれるかなんて、誰にも分からないのだ。

静流 「だからさぁ~、私も看護婦としてついて行こうかと思ってるわけ。」

大山 「だから危ねえって。」

静流 「それはみんな一緒じゃん。それに、ケガした人治す人は要るでしょ。」

皇  「静流ちゃんさぁ。」

静流 「ん?」

皇  「誰か好きな人いるんでしょ。」

静流 「え。」

皇  「だからついて行きたいんじゃない?」

大山 「・・そうなの?」

静流 「・・・悪いか。」

 沈黙。皇、優しく微笑む。

皇  「ま、そのケガじゃ、しばらくは無理だね。」

静流 「すぐ治るもん。治すもん。」

 しばらくして静流は宿舎へ帰っていった。まぁ、正確には大山に連れていってもらったのだが。例のお姫様だっこで。

静流 「ありがとね。楽しかったよ。」

大山 「おぉ、俺も。」

静流 「じゃぁ。」

大山 「おぉ。・・じゃぁ。」

 生きて帰れるか分からない。そういった意味では、みな平等なのかも知れない。でも、自分の帰りを待っていてくれる人がいる。そんな人は幸せだ。そんなことを想った。大山にはいなかった。そんな人はいなかった。親の顔も知らなければ、兄弟がいるのかさえ知らなかった。

 「戦災孤児」

 その言葉を知ったのは、そんなに昔ではない。大山は幼いころから、なにかと短気なところがあった。理由は分からないが、怒りがおさまらないことが多々あった。なぜ自分は怒っているのか分からない。

 友達も、自分ほど気が短い人はいなかった。さすがにこの歳になって意味もなくキレることはなくなったが、それでもこの性格自体は変わることはなかった。

 

 戦災孤児。この言葉を知ってようやく分かった。簡単なことだ。奪われた者と、そうでない者との違いなんだ。そして、同世代で自分のような境遇の人間は少数派だということも知った。

 

 

 もっと話していたかった。静流と話していたかった。できれば自分のこと、もっともっと知ってもらいたかった。

 

 また、話せたらいいな。今度は二人で。

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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