戦国Web小説『コミュニオン』第25話「解放」

第25話 「解放」

 

 本陣。静流は逃げまどっていた。突如襲いかかってきた淘來軍。次々に惨殺されていく仲間たち。その中には非戦闘員も多く含まれていた。

 本陣に到着した隼介たち。しかし時すでに遅く、そこは火の海と化していた。あちこちで戦闘が始まっており、明らかに劣勢であった。

 それも当然で、大部分の兵力を攻撃部隊にまわして空振りした醒陵軍に比べ、兵力一点集中で本陣を攻めることに成功した敵との差は歴然としていた。

 ここを守備していた兵士1000名も、ほとんどが初陣である。戦い慣れた敵の襲撃におくれをとり、次々に倒されていく。異変に気づいた攻撃部隊が戻ってくるのはしばらく後になるだろう。

 

 かけつけた歩兵第一部隊が敵に攻撃をしかけていく。本来は部隊として戦うべきだが、隼介は一人走り出していた。大山もである。静流を探す隼介と大山。

 部隊長が早々に隊を離れ勝手に動き出してしまったため、組織的な戦闘が出来なくなる。が、そんなことを考える余裕もなく、無我夢中の隼介。

 得意の大斬刀で遭遇した敵兵を蹴散らしながら、隼介は探し回る。隼介だけではない。さすがに精鋭部隊であった。たった100人であったが、それぞれが敵を圧倒していく。が、勢いのついた敵の攻撃は一向にやむ気配がない。

 隼介は宿舎が密集しているところにいた。ここを抜ければ看護棟だ。そこに静流がいるとは限らないが、とにかくそこへ向かう。両サイドの宿舎は燃えている。ごうごうと燃え盛る、壁と壁の間を走る隼介。看護棟を見ると、すでに焼け落ちていた。

隼介 「・・・・・。」

 もしかして・・・。と、思った矢先、静流を見つける隼介。静流は走り、逃げまどっていた。追いかけようと走り出したとたん、敵兵が次々に立ちはだかり行く手を遮る。大きめの盾に、片手用の手槍を持った部隊。

 彼らは5人で横一列に並び盾の壁を形成し、槍の矛先を隼介に向けたかと思うと、そのまま突進してきた。攻防一体の戦法のようだが、隼介は怯まない。

 大斬刀を頭上で二回転させ、その遠心力をのせて思い切り薙ぎ払う。敵の槍は打ち払われ、その槍の柄は持ち主の胴体を打ちつける。鎧ごしであったが、肋骨が砕かれる。

 盾に隠れた敵ですら、その剛力でダメージを与えてしまった隼介、すぐに二撃目を放つ。直撃した中央の三人の盾が吹っ飛ばされる。その隙を逃さず放った三撃目で、盾のない三人は胸部を斬り裂かれながら吹っ飛ぶ。致命傷である。残る両サイドの二人は慌てて盾で防御するも、その盾ごと強烈な斬撃で吹っ飛ばす。

隼介 「静流——!!」

 気づけば静流の姿を見失っていた。そして敵の新手が現れる。5人、10人、15人・・・。5人単位で増えていく敵兵。その装備は先ほどと同じく大きめの盾に片手用の手槍。戦法も同じようで、横一列に並べた盾の壁に生えた5本の槍。

隼介 「静流——!!」

 それでも叫ぶ隼介。その声に気づく静流。

静流 「・・隼介?」

隼介 「静流——!!」

静流 「・・隼介。・・・隼介———!!!」

 静流の声が届いた隼介だが、そこへ駆けつけることもできない。眼前には彼を狙って迫りくる刃の群れ。圧倒的な破壊力でそれらを蹴散らす隼介であったが、無尽蔵のように現れる敵兵を前に活路を見いだせない。

 そうこうしているうちに、背後にも敵が現れる。挟まれてしまった隼介。前後から同時に突進してくる敵兵たち。左右は宿舎の壁で塞がれており、逃げ場はない。

 が、隼介の体は思考も追いつかないスピードで難なく対応する。思い切り大斬刀を振り上げたかと思うと、背後から迫る5人のうち中央の敵に打ち下ろす。

 打ち下ろされた大斬刀は盾を倒し、その刃は兜に喰いこみ、そのまま地面に叩きつけられる。頭頂部から上半身、そして盾の一部を斬り裂いた大斬刀。

 大地に刺さり突き立てられた大斬刀を、まるで棒高跳びの棒のように利用して体を宙に浮かせる隼介。同時に隼介を狙った攻撃はかわされる。

 そして「ガガガッ!」と盾に槍の切っ先が複数ぶつかる音。ぶつかった兵と兵は動きを止めるが、隼介を狙った兵だけは一人だけ空振り(空突き?)した形ですかされ二歩突出してしまう。

 大斬刀から手を離し、着地と同時に攻撃してきたその敵を踏みつける。盾の壁の内側に現れた隼介に対応できない敵兵を、素手で蹴散らしていく隼介。

 殴りつけ蹴り飛ばし、掴んでは投げ飛ばす。そして再び大斬刀を手にとり振り回す。それでも敵は数にものを言わせ、次々に襲いかかってくる。隼介の足元には、死体の山が重なっていく。

 

 

 一方、隼介の声には気づいたものの会うことができなかった静流。ただひたすら逃げまわっていたが、どこへ逃げても襲いかかってくる淘來兵に半ば錯乱していた。彼女の意識は『あの日』がオーバーラップしていた。

 しかも、人が人を殺す映像を幾度となく目に焼きつけてしまった今となっては、その恐怖はかつての比ではなくなっていた。

 

 大山もまた、隼介同様に静流を探しまわっていた。なんとしても、なんとしてでも静流を守る! 大山の槍が敵兵を貫く。べつの敵兵が襲いかかってくるも、その攻撃をさばき反撃! しかし盾で防がれてしまう。

 剛腕の持ち主である大山だが さすがに隼介のように、盾の上から攻撃して大ダメージを与えることはできない。そうこうしているうちに敵が集まってくる。一進一退の攻防の末、なんとか眼前の敵を退散させる。ゼィゼィと肩で息をしながら、ふたたび静流を探す大山。

 

 その頃、静流は逃げ回っていた。走りに走って駐屯地から逃れていた。が、安心はできない。敵もまたそこら中で殺戮を繰り返していた。逃げて来た者たちを追って、執拗に攻撃を続ける淘來兵。気づけば崖まで来ていた。その下を見ると、かなり下に川が流れているのが見える。これ以上逃げる場所がない。

 背後から物音が。振り向くと、弓矢を構えた敵兵たちが静流をにらみつけていた。もはや、絶体絶命である・・・

 矢が放たれる直前、一人の兵士が静流の前に飛び出した。背の高い大柄な男。放たれた矢が男に突き刺さる。その衝撃で静流もろとも崖から転落していく。

 

 

 川に落ちる二人。落ちた衝撃で気を失う静流。男の方は意識があった。その男とは、大山であった。激痛。矢が刺さったまま川の流れに飲まれていく。

 その中で自分同様に流されている静流を発見する。痛みは激しかったが、幸い体が動く。必死に泳ぎ、静流のもとへ近づいていく。

 なんとか浮いているうちに静流を助けなければ! 沈んでしまっては、もうどうすることもできない。少しづつ少しづつ距離をつめていく。

 そしてなんとか静流の体を抱えることに成功した。途端に一気に川底へ押し込まれる二人。入り組んだ川底の岩石が、水の流れを複雑にしていた。

 突然のことに息を吐き出してしまう大山。ここで水を飲んでは一巻の終わり。苦しいのを耐え、水面へ浮上。大きく息を吸い込む。はやく川岸へ上がらなければ。だが、川べりは崖である。

 しばらく流されると、ようやく岸に上れそうな場所を見つけた。これまた少しずつ岸へと近づいていく。川底に足がつく。流れに圧されつつも、なんとか歩いて岸に上がることに成功。

 静流を寝かせると、仰向けに倒れる大山。ゼイゼイと息を切らしながら天を仰ぐ。

 

 

 少し息が整ってきた。体を起こそうした時、激痛がはしる。

 ・・・そうだった。矢が刺さったままだった。自分の体を確認する。胸に二本、腹に一本の矢が刺さっている。防具ごしではあるものの、決して浅くはない。

 致命傷ではない・・・と、思いたい。あれだけ動けたんだ、致命傷であるはずがない。だが、今や大山は起き上がることすらかなわない。

 さっきまでは無我夢中だったため、限界以上に動けただけなのかも知れない。そうだ! 静流は!?

 仰向けのまま横を見ると、同じく仰向けの静流がいる。息はしているようである。ひとまず安心する大山。だが、ここはまだ敵の勢力下である可能性が高い。運よく敵に発見されずとも、このままではいずれ死を待つばかり。

 兵士の自分はともかくとして、静流をこんなところで死なせたくはない。刺さった矢を握りしめ、渾身の力を込めて引き抜こうと試みる。

 矢に射られた経験は初めてであった。こういった場合、抜いた方がいいのか抜かない方がいいのか分からないが、このままでは痛くて動けない。抜くべきだと判断した大山、その手にさらに力を込める。

 一本目の矢が引き抜かれる。激痛。鏃(やじり)に返しがついてないのが幸いしたのか、腕力だけで抜くことが出来た。いや、確かこういった形状の矢だからこそ防具を貫けるんだったような・・・まぁいい、とにかく矢を抜こう。

 激痛を伴いながら、二本目 三本目の矢を引き抜く大山。少し気が抜けたのか、意識が薄れる。

 

  

 気づいたら陽はかなり昇っていた。しばらく意識を失っていたようだ。上半身を起こす。まだまだ痛いが、なんとか動ける。フラフラと立ち上がる。

 辺りを見渡す。この場所に見覚えはなかったが、山々の形から本陣のある方角はなんとなく分かった。斥候をやっていたおかげである。さすがに今ごろは味方も事態を察し、本陣に戻っていると思いたい。

 静流を抱えて川沿いを上流に向かって歩き出す大山。いつかみたいなお姫様抱っこである。そんなことをふと思い出し、思わずクスッと笑ってしまう。

 ・・・そういや前にもこんなことあったな。

 静流はまだ目を覚まさない。息はあるから大丈夫だとは思うが、こんな時に敵に出くわしたら終わりだな。途中、意識が薄れながらも山中を歩き続ける大山。目指すは本陣。

 

 「・・・隼介?・・・」

 うっすらと目を開けた静流。

大山 「・・・・・。」

静流 「・・・ありがと・・・隼介・・・」

 ふたたび目を閉じる。どうやらまだ夢うつつのよう。体格の似ている隼介と勘違いしているのだろうか。

 ・・・ま、それでもいいか。と思う大山。

 自分が隼介ではなく大山であることがバレてしまったら、また怖がって逃げ出してしまうかも知れない。そうなってはもはや走って追いかけれる自信もない。悔しいけど、このまま隼介でいた方が静流のためだ。

 

 何かの気配を察する大山。慌てて河原から木々の中へ隠れる。息を潜めていると、やはり現れた。淘來兵が数人・・いや、十数人・・・いや、数十人。

 手には剣と円形の盾。やや軽装の甲冑。とてもじゃないが、大山一人で倒せる数ではない。加えて今は、静流がいる。なんとか敵が去っていくまで待つしかない。

 河原に姿を現した敵は、大山がいる方とは逆方向を向いていた。上流を見ているようだ。上流からも何かが、いや、誰かが近づいてくる。醒陵軍の鎧を着て、額当てをした大柄な兵士。手には巨大な刀を持っている。隼介だ。

 待ち受ける数十人の敵にたじろぐこともなく、敵などいないかのごとく歩いてくる隼介。河原を上流からここまで歩いてきたのか? 大山、隼介が自分たちを探しに来たであろうことを察する。

 

 隼介、突然歩みを止め左側を向いたかと思ったら、大斬刀を体の側面に。面積の広い部分を左側に向けた。次の瞬間、何かがそこに当たった。矢である。

 数本の矢が大斬刀に当たり、弾かれた。河原横の林から狙われたのだ。しかし隼介はそれを察知して、難なく防いでしまった。その反射神経に驚愕する大山。

 待ち受ける淘來兵たちにも動揺がはしる。わざわざ隼介の正面に現れたのも、この伏兵による攻撃のための囮だったのかもしれない。が、隼介にはそれが通用しなかった。

 側面をガードしたまま、ふたたび歩き出す隼介。数十人の淘來兵、あろうことか後ずさり始めた。数で勝り、なおかつ伏兵までいるはずなのに、それでも隼介に恐れを抱いているのだ。

 無謀ではないか? とも思った大山だが、隼介にも考えがあった。いくら狙われているとは言え、ただ攻撃されただけなら防ぐ自信はある。このまま乱戦に持ち込まれても、敵兵が盾となり弓や弩で狙うことが難しくなる。

 もちろん、こんな戦い方は賢いとは言えない。そんなことは分かっている。分かってはいるが、時間が惜しい。それほどまでに隼介は、静流と大山の無事をはやく確認したかった。

 後ずさっていた敵兵たち、覚悟を決めたのか立ち止まる。そして隼介に向かって走り出した。隼介は何の反応も見せず、そのまま側面ガードした状態で歩き続ける。

 敵兵が間合いに入る直前、隼介はすばやく踏み込んだかと思うと先頭にいた一人に斬りつけた。いつもの大振りではない。右手で柄を握ったまま左手は刀身の峰を掴んだ状態でのすばやい一撃。斬られた敵兵、鎧の上からの攻撃にも関わらず倒れてしまう。

 こんな動きもできるのか? と思った矢先、川の水面に水柱が3ヶ所上がった。動きはじめの隙を狙って伏兵が矢を放ったものと見られるが、隼介の動きの速さについていけず外したらしい。最初の一撃の勢いを利用して一回転した隼介、今度はいつもの大振りで薙ぎ払う。数人の敵兵たちが吹っ飛ばされる。

 1秒後、地面に落下する敵兵たち。皆、立ち上がれない。うめき声をあげながら悶える。それを目の当たりにした他の敵兵たちは恐れおののいて隼介から遠ざかる。隼介は体勢を低く、大斬刀を薙ぎ払ったポーズで止まっていた。すっと立ち上がり、ふたたび側面ガードの体勢をとって歩き出す。

 その圧倒的な強さに恐れをなして、敵の一人が逃げ出す。それが引き金となって次々と逃走を始める。戦慄した敵の隙を突いて、隼介が突進!

 豪快にフルスイング。またも敵兵が数人吹っ飛ばされる。そこからはもう隼介の独壇場であった。最初から隼介が主導権を握った流れであったが、ここまで来るともはや覆しようもない。林の方を警戒しなくなったところを見ると、伏兵も逃げてしまったのが窺える。たった一人で敵を蹴散らしていく。

 

 ・・・大斬刀の悪鬼。

 隼介は敵からそう呼ばれ恐れられていると、誰かが言ってたのを思い出す。確かにな。これはヤバいわ。これは確かにヤバい。

 

 

 敵は逃げていった。

大山 「隼介。」

隼介 「・・・・・。」

 目が合う。驚いた顔の隼介。笑顔の大山。

大山 「静流も無事だ。気を失ってるだけだ。」

 隼介、かけよって静流の顔を覗き込む。そして安心した面持ち。そして大山の顔を見て笑顔に。

隼介 「ありがとう。本当にありがとう。」

大山 「礼を言うのはこっちだ。助かった。」

隼介 「うん。行こうか。」

 隼介と合流した大山(と静流)。駐屯地へ向けて歩き出す。河原を上流へと歩いていくが、途中で川の両サイドは岩場になっていき、やがて切り立った崖になった。これ以上、川に沿って歩いていくことはできない。

 林の中へと入っていくことにする。隼介もまた、河原に辿り着く前は山林を歩いてきたと言った。ここまで静流を抱えて歩いていた大山だったが、ここに来て隼介にバトンタッチ。

 さすがに傾斜や障害物の多い山林で、ケガをした大山が人一人抱えて移動するのは困難だった。隼介と合流した際に、隼介に静流を渡すよう促されたが、その時は断った。

 べつに隼介に嫉妬して静流を渡したくなかったわけではなかった。償いにも似たような気持ちからだった。自分が彼女を守らなければ、といった責任のようなものを感じていた。

 もちろん人を抱えて歩くのは傷に障った。痛みは大きくなった。が、自分が静流に与えた痛みに対する謝罪を、行動で示したかった。

 

 と、いろいろと大山の中では思いがあったが、現実的に考えてこれ以上の無理は誰のためにもならない。ここは隼介に頼るしかない。大山に代わり、静流を両腕で抱きかかえる隼介。

 ・・・あ、これだと大斬刀が持てない。と気づき、静流を左肩に担ぐ。そして置いていた大斬刀を、ふたたび右手に持つ。

 「刀、持つぞ。」と大山は言ったが、「これで大丈夫。」と笑顔で返す隼介。大山もケガをしているのだ。大山の身も案じながら、隼介は歩き出す。隼介に心から感謝する大山。

大山 「ありがとう。」

 振り返る隼介。

隼介 「え。・・いやぁ。」

大山 「でっかい貸しができちまったわ。」

 笑顔の大山。それにつられて隼介も笑顔。「いつか返すわ。」と心の中でつぶやく大山。

隼介 「行こう。」

大山 「おぉ。」

 歩き出す二人。隼介の背中がまぶしい。大山の目には、隼介がまぶしく見えた。いつも穏やかで優しくて、そして強い。弱い者に対しては寛大で慈悲深い。

 そんな慈悲深さを幾度となく責めたてた自分に対しても、いつも暖かく接してくれた。もっともらしいことを言いつつ、結局のところ大したことない自分に比べ、隼介は現実を変えていく実力を備えている。

 今だってそうだ。当たり前のように仲間を守り、当たり前のように人の可能性を見せてくれる。隼介の穏やかさが伝わったのか、大山の心にもみるみる穏やかさが満ちてくる。

 

 ・・・あぁ、なんか心地いい。すっげぇ楽だ。すっげぇ心が軽くなったわ。

 こいつに出会えて良かった。仲間になれて良かった。そりゃあ静流も好きになるわな。・・・うん、悪い気はしないな。こいつなら、悪い気はしない。

 

 

 山中を進む隼介と大山。二人はピタリと動きを止める。気配を感じる。・・・敵か? 辺りを注意深く見回す。すると・・・やはりいた。

 馬に乗った淘來兵が2騎。彼らは辺りを警戒しながらゆっくり移動していた。歩哨か? もしかしたら自分たちを探しているのかも知れない。

 息を潜めていたが、2騎の騎兵はだんだんと近づいてくる。そして、気づかれた。敵はこちらに向かって突進してくる。

隼介 「静流を。」

 と言って静流を大山に渡した隼介。そして突進してきた騎兵を大斬刀で斬りつける。槍を弾かれた騎兵はそのまま落馬。立ち上がろうとした時には高々と大斬刀を振り上げた隼介が眼前にそびえていた。打ち下ろされた硬い刃は敵兵の肩に直撃!・・・もちろん即死である。

 隼介の戦闘力の前に勝ち目がないと見たもう1騎は、そのまま逃げていった。なんとか撃退した隼介であったが、うかうかしていられない。すぐに敵が仲間を連れて戻ってくる可能性がある。はやく帰還しなければ。

 ふたたび山中を進んでいった隼介らだったが、案の定、敵の襲撃を受けた。とは言え、敵兵は数人の歩兵であった。隼介にかかれば敵ではない。今度は隼介が反撃の意思を見せただけで逃走してしまった。

 どうやら本当に隼介は敵から恐れられているようだ。『 大斬刀の悪鬼 』の異名は伊達ではない。これなら無事に帰還できそうである。

 

 

 あと少し。あと少しで無事に帰還できる。次に見える吊り橋を越えれば、もう安心というところまで来た。が、そこは最後の難関となっていた。橋の前には少し開けた場所があるのだが、あろうことか敵が待ち構えていた。数十人。

 吊り橋の前を塞がれてしまっている以上、撃退するより他にない。前衛には戈(か)を持った兵士たち。その後ろには剣と円形の盾装備の兵士たち。

 飛び道具を持った敵がいないのは幸いであった。が、果たしてここを突破できるのか? いや、突破しなければならない。先回りした敵だけでなく、後方からも敵が迫っている可能性が高い。そうなれば挟み撃ちにあってしまう。急がなければ。ここさえ、ここさえ突破できればもう自軍の勢力圏のはずだ。

隼介 「大山。」

大山 「おぉ、静流は任せとけ。」

 静流を大山に渡して、隼介は一人歩き出す。敵も隼介に気づく。まだ距離は離れていたが、大斬刀を振り上げる。すると、それだけで敵は慄いた。

 さすがに大斬刀の悪鬼であった。その姿だけで敵の士気は下がったのがうかがえる。そして歩いて間合いをつめていく。頭上で大斬刀を振り回す。

 一回転、二回転、三回転させた後、その勢いを利用し思いっきり薙ぎ払う。前衛の戈が数本弾かれる。それだけでダメージを負った者もいたが、なんとか持ち直し反撃してくる者も。しかし一歩退いて それらをかわし、ふたたび踏み込む。

 そしてまた薙ぎ払う。今度は敵兵の体に直撃! 数人が吹っ飛ばされる。そうこうしているうちに、後方にいた剣と盾装備の敵兵たちが20人ほど背後にまわっており、囲まれていた。

 そして一斉に襲いかかってきたが、リーチに勝る大斬刀が先にその刃をぶち当てた。放射状に吹っ飛ばされる敵兵たち。その勢いを止めず、次の一撃でさらに奥の敵兵たちをも吹っ飛ばす。

 いける! この戦い方、この流れならいける! そう確信した隼介。

 もはや接近戦だけで隼介に挑むには、卓越した何かがなければ通用しないことがハッキリした。卓越した技術や速さ・連携などが。そうでなければ飛び道具を用いるしかない。

 もしくは数。数十人での力押しだけでは不十分に思えた。それほどまでに、大斬刀を持った隼介の戦闘力は凄まじかった。

 隼介の攻撃は最後列の敵兵にまで及んだ。ここにきて、ついに敵の戦意は潰え敗走が始まる。隼介の後方へと走り去っていく。が、それはそれでマズい! そこには静流がいるのだ。大山だけでは守り切れない!

 

 振り返った隼介は衝撃を受ける。すでに大山は戦闘状態にあった。隼介が吊り橋前の待ち伏せ部隊と戦っている間に、追跡部隊に追いつかれていたのだ。追跡部隊もかなりの数がいた。パッと見だけで十数人。

 中には弩兵もいるではないか!? さらに敗走した待ち伏せ部隊の残党までが加わったらそれこそマズい! 全力疾走で大山のもとへ駆けつける。静流は木を背にして動かない。まだ気を失っている。

 大山は抜刀して打刀だけで戦っていた。崖から転落した際に、手槍は落としていたからである。さすがに大山も強かった。負傷していてもなお、多勢の敵を迎え撃っていた。だが傷が痛み、隙を生じさせる。敵の剣が額に直撃!

 それでも額当てのおかげで軽傷で済む。反撃の刃で敵の喉を貫く。しかし、背後からべつの敵兵が襲いかかる。

 駆けつけた隼介が加勢、その敵兵に攻撃。それに気づいて盾で防がれるも、盾ごと吹っ飛ばす。大山は無事のようだ。だが、静流が気になってしょうがない。簡単に敵に斬りつけられるところで気を失っているのだ。

 そして、弩兵が数人こちらに照準を合わせているのが目に入った。すかさずガードするも、一本の矢が隼介の右腕に直撃する。正面からだけではなかった。側面にも弩兵がいたことに、ようやく気づく。

 静流の身を案じるあまり、隙が生じていた。正面の弩兵たちに向かって突進する隼介。彼らは逃げだしたが、側面にいた弩兵がまた矢を放ってきた。

 またも右腕に直撃。二本の矢が刺さり、さすがの隼介も思うように大斬刀が振れなくなってしまった。好機とばかりに襲いかかる敵の歩兵たち。とっさに大斬刀を放し、左手で脇差を抜く。

 

 戦い方を変える隼介。すばやく敵の懐に入り、リーチの短い脇差で首や脇といった急所を狙っていく。逆手に持った脇差で、襲い来る敵を次々に返り討ちにしていくが、慣れない戦法ではいつも通りの戦闘力が出せない。また大斬刀と違って、盾で防がれてしまうと何ともならない。

 静流が気になる。弩兵はどうした? 弩兵は今誰を狙っている? 焦る気持ちが体を硬直させる。力んだ体が無駄な動きを生じさせる。

 強引に叩きつけた攻撃が敵の盾にぶち当たる。ついに脇差が折れる。大斬刀に慣れてしまった隼介は、ついつい力押しな戦い方をしてしまう。

 とっさに右手で敵の顔面を殴ってしまう。激痛がはしる。右腕にはまだ、二本の矢が刺さったままなのだ。

 左手で落ちている敵の剣を拾い、攻撃を再開する隼介。敵兵の何人かはすでに逃走しており、残った歩兵はすべて壊滅させる。そしてやや距離を置いていた弩兵を見つけ、突進する。まだ少し距離がある。敵の攻撃が先に来る! そう直感した隼介。

 気づいた時には跳んでいた。凄まじい跳躍力は人の身長より高くまでその巨体を浮かせた。放たれた矢は自分の下を通過していった。

 着地する直前には蹴りの体勢をとっていた隼介。弩兵の一人を蹴り倒す。そして着地したとたんに隣の弩兵を斬りつける。瞬く間に全滅させていた。

 

 なんとか敵は退けた。が、逃げた者もいる。すぐにまた大勢やってくるに違いない。こんな体では、次に戦闘状態になったらおしまいだ。

 右腕に刺さった矢を抜く。激痛。だが、それをこらえて二本目の矢も抜く。またも激痛。

大山 「さすが・・だぜ・・」

 振り向くと大山が静流を抱えていた。

大山 「・・大斬刀の・・悪鬼・・か・・・ハンパねー・・な・・・」

隼介 「ハハッ・・最後の方は持ってなかったけどね。」

大山 「・・行こうぜ・・・」

隼介 「うん。」

 歩き出す二人。だが、おかしい・・・。明らかに大山の歩くスピードが落ちていた。歩み寄ってその異変に気づく隼介。大山、口から血を吐く。

隼介 「おい・・大山?」

 背中に無数の矢が刺さっている。

大山 「・・・静流が・・・ヤバかった・・から・・・」

隼介 「・・・・・。」

大山 「いけねぇよな・・・戦えねぇ・・奴を・・狙っちゃ・・・」

 大山は、身をていして静流をかばったのである。

隼介 「・・・もうすぐだから。がんばって。」

大山 「・・・おぉ・・・」

 だが、一度歩みを止めた大山の体はもはや動くことが出来なくなっていた。そして、早くも敵の増援がやってきた。今度は騎兵がたくさんいる。遠くから迫りくる敵は、騎兵だけで数十騎見える。歩兵はさらに多いだろう。弓兵や弩兵もいるに違いない。

 さすがの隼介でも、一人でこの数は相手にできない。いや、そもそも今の隼介ではまともに戦うことすらできない。大山も重傷。その上 今は意識のない静流がいるのだ。

 隼介一人だけならまだ逃げ切れるかも知れない。だが、三人がそろって生き残る確率は皆無であった・・・

 

大山 「・・・静流を・・・頼む・・・」

隼介 「・・・うん。」

 静流を受けとる隼介。

隼介 「急ごう。」

大山 「・・・行け・・・」

隼介 「・・・・・。」

 大山、ゆっくりと動きながら落ちている大斬刀のもとへ。

隼介 「そんなの置いてけ。」

大山 「・・・いいから・・行け・・・」

 大斬刀を拾い、背を向ける大山。

隼介 「・・・・・。」

 大山の背中には無数の矢が刺さったまま。気づけば彼の足元に血だまりが広がっていた。

大山 「隼介・・・」

隼介 「・・なに?」

大山 「やっぱり・・俺・・・淘來人は・・・愛せない・・・」

隼介 「・・・・・。」

大山 「でも・・・静流は好きだ。」

隼介 「・・・うん。」

大山 「ありがとな・・・いろいろ・・・ありがと・・・」

隼介 「・・・うん。」

大山 「・・・さぁ・・・行け・・・」

 隼介、大山の想いを察する。大きくうなづく。そして走り出す。静流を抱えて吊り橋を渡る隼介。橋の中ほどで振り返る。敵の軍勢が迫ってきている。大山は大斬刀を手に迫りくる敵軍をにらみつけている。前を向き走り出す隼介。橋を渡り切り、ふたたび振り返る。

 

 

 意識が薄れていく中、懸命に気力を途切れさせまいとする大山。大斬刀を高々と振り上げる。そして放つ怒号。その大きな声は迫りくる敵軍に響き渡る。

 とたんに立ち止まる敵兵たち。突撃をしかけようとしていたのに、たった一声の怒声でたじろいでしまった。完全に怯えきってしまった。

 そう、彼らは大山を『大斬刀の悪鬼』だと思い込んでしまったのだ。大きな刀を振り上げたその巨躯(きょく)は、まさに鬼のようであった。

 背中には無数の矢を浴び、血まみれの満身創痍。にもかかわらず、その血走った眼には視線に触れただけで切れてしまいそうな鋭さがあった。

 悪鬼は敵に背を向け、ゆっくりと吊り橋へと歩いていく。それを見て、恐る恐る近づいていく敵兵だったが、軽く振り向いただけでピタリと動けなくなってしまう。それを確認してまた橋へと歩き出す。

 

 橋の袂(たもと)に来た大山、大斬刀を振り上げる。そして勢いよく橋にぶち当てる。

隼介 「・・・・・。」

 二発、三発とぶち当てられた橋は、ちぎれかかる。そして四発目。大山の渾身の一撃が橋を破壊した。吊り橋はちぎれ、崩れ落ちていく。

 隼介はただ呆然とその様子を見ていた。大山は敵兵の群れに遠巻きに囲まれる。そして隼介に向け、矢が飛んでくる。気づけば弩兵たちの姿もあった。

 飛んでくる矢の数が増してくる。その一発が肩の袖をかすり、金属音が響く。隼介、走り出す。静流を抱えて走り出す。そんな二人に向け、容赦なく矢が飛んでくる。

 

 

 一方、敵に囲まれ逃げ道さえ自ら断った大山。敵の壁の前面には騎兵が並んでいた。数騎の騎兵たちが同時に攻めかかってくる。馬上からの槍が大山を狙う。大斬刀を振り回し、騎兵たちの槍を打ち払っていく。

 どうあがいても死角を狙われてしまうが、敵の攻撃は恐る恐るといった感じで力がこもっていなく速さもなかった。が、出血が止まらない。これでは時間の問題である。

 そしてそんな状況でありながら、大山は自分に向けられる刃より隼介・静流を狙う弩兵に意識が向かう。騎兵を牽制しながら弩兵たちに斬りかかっていく。

 雄叫びを上げ、無我夢中で暴れまくる。大山の死にもの狂いの攻撃に、弩兵たちも隼介を狙うことができなくなる。その間に隼介は走る。走る。走る。

 そしてそのまま走り去っていくのを見届ける大山。ふっと気が抜けた瞬間、大山の背に無数の矢が突き刺さる。

 

 ゆっくり振り返ると、弩兵たちがこちらに照準を合わせている。ふたたび斉射される無数の矢。それは防具を突き破り大山の胸に、腹に突き刺さる。膝を落とす大山。出血と疲労のさなか、大山の意識が遠のいていく。

 さっきまで感じていた激痛も、気づけば感じなくなっている。視界も鮮明ではなくなっていく。敵の姿はもう見えない。代わりに見えて来たのは、美しい少女。

 少女は満面の笑みを浮かべている。つられて大山も笑顔に。そして少女はこう言った。

 

「私が待っててやるよ。」

 

 悪夢から覚めていく。すべてから解放されていくような心地良い感覚。懐かしいような、それでいて見たこともない光の世界に昇っていくような・・・

 そして意識は途切れる。

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

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