戦国Web小説『コミュニオン』第44話「休戦」

第44話 「休戦」

 

 集結地と定めた地点は山岳地帯の最西端にあった。そこをこえれば短い平原があり、醒陵との国境は目と鼻の先であった。山林にて散開していた醒陵軍は、この地点をめざして撤退戦を続けていた。

 先行する和馬らの後ろに、蒼雲ら中核をなす者たちが続く。みなボロボロであった。武器や防具の劣化も激しく、矢も残り少ない。

 幸いにも、敵の追撃は鈍いままであった。追撃の要であった精鋭たちを打ち破ることに成功したためである。淘來の槍使い・巨大刀使いに加え、ロズガードの黒騎士まで撃退できたことは大きい。敵はいまだに醒陵軍が山中のあちこちに潜み奇襲を狙っていると思っている。

 

 しかし集結地を目前にして、またも敵に足止めされてしまった。ロズガードの部隊である。敵の数は多く、うかつに動けない。攻めるに攻めれず、かといって逃げるわけにもいかない。そうこうしているうちに数日が過ぎてしまう。

 もはや敵にこちらの動きはバレてしまったかも知れない。奇襲されないと分かってしまえば、追撃の手は激しくなるだろう。一か八かの賭けであったが、強行突破を図ることとなった。

 

 一斉に放たれた矢が敵の盾と鎧を貫いた。それに続いて歩兵たちも突撃していく。虚を突いた攻撃はみごとに決まったが、すぐに敵も反撃してくる。

 乱戦のさなか、和馬の矢がついに尽きる。すぐに抜刀し歩兵たちに加勢する。和馬は接近戦でも強かった。弓矢の腕ばかりが目立つが、剣の腕前も人並み以上である。だが他の弓兵たちの矢も尽きてしまい、歩兵への援護は途絶えてしまう。

 その上、敵にも弓兵はいた。彼らのロングボウは和の国のものより連射がきく。今まで目立たなかった敵弓兵だが、ここにきて猛威をふるう。

 敵が放った矢が、次々と仲間たちを射貫いていく。しかしどうすることもできない。そうこうしているうちに、敵はどんどんと数を増やしていった。もはやこれまでかと思ったその時・・・

 

 敵の後方で何かが起こった。敵は動揺しはじめる。遠くで何かが宙に舞うのが見えた。・・・また何かが宙に舞う。兵士だ。宙を舞っているのは敵の兵士たち。

 人が宙を舞うなどなかなかあることではないが、どこかで見たことがある光景である。間違いない。来たのだ。来てくれたのだ、あの男が。

 

 

 

 隼介は敵を、次々と斬り飛ばしていった。手に持つその大斬刀で。敵は愚かにも盾を向こう側に向けている。数人を討ち倒し、この男が常軌を逸した存在であることに気づいた彼らは慌てて盾をこちらへ向ける。しかし、そんなことをしても意味などはなかった。その盾をもかち割りながら突き進む。

 その進撃をとめようと数でおしよせてくるも逆効果。強烈な一撃を受けた最前列の兵士たちは後ろへ倒れ、大きな盾がドミノ倒しを誘発させてしまう。

 そしてそこへ弓矢の雨が降り注ぐ。隼介の後ろからは数名の弓兵が続いている。その後ろからは十数名の歩兵たちが走ってくる。そして弓兵を追いこし、隼介に加勢する。これで全部である。隼介はなんとこの人数だけを率いてここまで来た。

 

 大盾兵を蹴散らした先にいたのは、プレートアーマーを着た騎士たち。隼介が戦場でこの装備の敵と戦うのはこれが初めてであった。果たして、この頑丈な甲冑を身にまとう敵に大斬刀は通用するであろうか。

 隼介は走りながら一回転、遠心力をのせた一撃を放つ。その刃が重装歩兵にぶち当たる。鎧は斬り裂かれ、ヨタヨタと後ずさったかと思うと、地に倒れ微動だにしなくなる。

 

 効いた!

 

 隼介は次々に重装歩兵たちを斬り倒していく。味方の兵士たちは重装歩兵を隼介に任せ、敵弓兵へと攻撃を集中させる。そして全滅させてしまう。しばらく息をきらす音だけが続く。そして、

 

和馬 「・・・・・。」

隼介 「・・・よぉ。」

和馬 「おぉ。」

 軽く息をきらしながら笑顔をかわす。

和馬 「凄いな。・・うん、本当に凄いわ。」

隼介 「間に合った・・かな?」

和馬 「とりあえず。・・他は?」

隼介 「他?」

和馬 「もしかしてこの人数でここまで?」

隼介 「うん、この小隊はね。あんまり大勢でいくと敵にバレるからって。」

和馬 「・・・陽動部隊がいるな。」

隼介 「さすが和馬。正解。」

和馬 「ただ強いだけじゃないんだな、隼介。」

隼介 「まさか。俺が作戦考えたわけじゃない。」

和馬 「・・そりゃそうか。」

隼介 「軍師が味方してくれたから。」

和馬 「軍師?」

隼介 「直太丸様。」

和馬 「・・・・・。」

 和馬、またも笑みがこぼれる。

和馬 「そりゃすげぇや。」

隼介 「でしょ。」

 直太丸といえば、醒陵では優れた軍師として名を馳せていた。かつて蒼雲とともに活躍した偉大な人物であることを、今となっては隼介・和馬も知っていた。

隼介 「今ごろ他の部隊に合流してるはず。」

和馬 「え?」

隼介 「司令官になった。」

和馬 「誰が?」

隼介 「直太丸様。」

 なんと直太丸までもが、戦場までじきじきに出陣していた。

和馬 「・・・そりゃすげぇや。」

 

 

 蒼雲と合流した隼介、現状を伝える。

隼介 「大将軍は直太丸様を司令官に任命、前将軍・右将軍の軍勢とともにこちらへ向かっております。」

蒼雲 「・・・直太丸め、でしゃばりおって。」

 そう言った蒼雲の顔は笑っていた。一同、みな驚く。彼の笑った顔など一度も見たことがなかったからである。

蒼雲 「分かった。ご苦労。」

隼介 「はっ。」

 無事に和馬らと合流をはたせた隼介。皇が姿を現し、少し遅れて剛田もまた姿を見せる。だが、涼平の姿はなかった。待てども待てどもやってこない。

 実はまだまだ合流できていない小隊が数多く山中をさまよっていた。もちろんここで集結することは伝達してあるが、いかんせん状況がよくない。敵と遭遇してしまえば戦闘ともなってしまい、ここへ到着するのは容易ではない。剛田は言う。

剛田 「自分は同じぐらいの距離のところで戦っていた。そろそろ到着していてもいい頃だ。」

 とのこと。ここで半日ほど待ったが、残る小隊は姿を現さない。限界を感じた蒼雲はすぐに出発すべきだと主張するが、和馬がそれに異をとなえる。

和馬 「蒼雲様。まだ兵が集まりきっていない今の状態では危険です。またこの山中にて展開している各小隊は、敵と交戦しながらこちらへ向かっておるのです。遅れることもございましょう。一日。せめて一日だけでも待つべきです。」

蒼雲 「一日・・・か。もつか?」

和馬 「このまま出発するよりは、良策かと思われます。」

蒼雲 「・・・・・。」

 蒼雲は迷った。ここは一刻もはやく撤退するべきではないのか?しかし、もしかしたら早計なのかも知れない。直太丸から言われた言葉が脳裏をよぎる。

 

 「お前は視野が広い方ではない。自覚せよ。」

 

 悔しいが、それは事実であった。蒼雲は自分の判断だけでことを進め、失敗したことが多くある。開戦にしてもそう、敵の大軍に戦いを挑んだのもそう、とにかく失敗しまくった。それにひきかえ直太丸の意見を聞き入れながらやったことは、たいがいうまくいった。

蒼雲 「・・・分かった。待とう。」

 和馬の進言を聞き入れた蒼雲。それはもちろん参謀としての和馬を信頼してのことであったが、感覚的にはどこか直太丸が力添えをしてくれたかのように感じていた。和馬の進言によりあと一日待つこととなる。そのおかげで、残る小隊が続々と合流していった。

 

 次の日の朝。いくつかの小隊はいぜんとして姿を見せない。涼平の小隊もまた同様であった。そんなおり、敵部隊の接近が報告される。

 ただちに出発命令をくだす蒼雲だったが、敵に追われている友軍がいるとの報告も入る。鎧から察するに、それは涼平であった。

 走りだす隼介。和馬もそれを追う。彼らが向かったのは東。追手が迫りくる方角だ。

蒼雲 「先陣の戦力こそが決め手であろうが!」

聞く耳持たず、走り去っていく二人。

皇  「蒼雲様。おっしゃる通りです。しかしながら、殿(しんがり)もまた重要であります。」

蒼雲 「・・・・・。」

皇  「先陣はこの、皇が命にかけて務めさせていただきます。」

 頭をさげる皇。剛田もまたその隣にて頭をさげる。

蒼雲 「・・・分かった。」

 

 

 涼平は山林のなか、仲間の兵士に肩を貸してもらいこちらへ向かっていた。すでに満身創痍で今にも倒れてしまいそうであった。それでも気力をふりしぼり歩き続ける。他にも兵士が数人いたが、みな後方を警戒しながら歩いていた。

 彼らの傷はそこまで深くはない。走ろうと思えば走れたが、彼らは決して涼平をおいて走ろうとはしなかった。そしてついに追いつかれる。淘來の歩兵が見えたかと思ったら、矢が飛んできた。歩兵の後ろには弩兵が続いているのが見える。

 飛矢をさけるため樹木のかげに隠れるも、これでは逃げることができない。もはやこれまで・・・そう悟った涼平は、仲間に先に行けと告げる。しかし仲間たちはそれを拒み、覚悟を決める。

 

 前方の木々の間に何かが見えた。動く何か。後ろからだけではなく、前からも敵が来た・・・と、思ったが違っていた。醒陵の鎧を着ている。近づくにつれ彼が背が高いこと、手には尋常でない大きさの刀があるのが見えてくる。

 間違いなく隼介である。少し遅れてもう一人。和馬である。隼介は走りながら大斬刀を前面に。敵の弩から放たれた矢をガードしながら突進する。そして敵兵に激突!弾き倒す。そして大斬刀を振り回す。和馬も攻撃を開始する。

 まずは飛び道具をもっている弩兵へと攻めかかる。木々に隠れその様子を見ていた醒陵兵たちも参戦。瞬く間に敵を殲滅させる。

涼平 「・・・隼介。」

隼介 「おまたせ。」

 満身創痍となった涼平を見る。鎧にはいくつもの傷や穴が開いていた。致命傷でないことを祈る。祈るしかない。とても無事とは言えないが、生きていた。

 また会うことができた。まずはそれに感謝。思わず笑顔を見せる隼介。涼平もまた笑顔。それを見た和馬も笑顔。

隼介 「めずらし。」

涼平 「・・何が?」

隼介 「あんまり見たことないからさ、涼平が笑うとこ。」

涼平 「たまにはある。」

和馬 「さぁ、急ごう。」

 

 先陣では皇が道を切り拓いていた。剛田も奮戦していたが、ケガがひどいのか並の兵士と同じぐらいの戦力しか出せなかった。そこへ追いついた隼介と和馬。敵を蹴散らし、なんとか山岳地帯は抜けることに成功した。

 平原が見える。その向こうには山々がうっすらと見えていた。ここからでは見えないが、あそこには長城が連なっている。その向こうはもう醒陵。帰るべき場所がそこにあった。

 だがその真ん中、平原のただなかにて待ちかまえている何かがあった。何かの群れのように見える。銀色に輝いているのが遠目ながらに見えていた。

 ロズガードの重装歩兵である。その数5千はいるであろうか。当然のことながらここを突破せねば、醒陵へは帰れない。しかしこちらは敵の半分にも満たない。その上、みな傷つき疲れ果て、槍も刀も劣化し矢も尽きていた。

 それでも、ここを突破せねば、醒陵へは帰れない・・・

 

和馬 「・・・あと少し・・なんだけどな・・・」

 ここまで来て、まだ敵の軍勢が待ち構えている。見晴らしのいい平原では、山中のようなゲリラ戦は不可能であろう。かといって救援を待っていては追撃部隊に後ろから攻められてしまうだろう。

 故郷を目前にしながらも、その道のりはまだまだ険しく続いている。わずかな望みすらも絶たれたかのように、傷ついた兵士たちはうなだれる。沈黙がつづくなか、まるでひとりごとのように隼介はこうつぶやく。

隼介 「・・・帰ろう。」

和馬 「・・・・・。」

隼介 「今度こそ、みんなで帰ろう。」

 決して大きな声で言ったわけではない。だが、その声は兵士たちの耳に、心に沁みる。声が届いた兵士たちは、みな隼介の方を見る。隼介の目はけっして諦めてはいなかった。彼の方を見ている兵士たちに気づき、他の兵士たちもその視線の先にいる隼介を見る。そして思う。

 ・・・そうだ、この男がいた。自分たちにはこの男がついていた・・・

和馬 「・・・あぁ・・帰ろう。みんなで帰ろう。・・醒陵へ・・・」

 醒陵軍は平原へと進む。軍の先頭には隼介。敵との距離はどんどん詰まっていく。そして隼介が走り出そうとした時、敵陣から一人の騎兵がこちらへ向かって近づいてきた。そして馬から降りてさらに歩み寄る。その騎士は兜をかぶっておらず、長くのびた髪は金色であった。

 

 ・・・女性だ。

 女性騎士である。しかも見たことがある。以前ロズガードの陣地で会った、あの美しい女性騎士に違いない。

 

女騎士「休戦!」

隼介 「・・・・・。」

女騎士「休戦とあいなった!」

 立ち止まる隼介。停止の合図がかかり、軍全体の前進も止まる。・・・どうゆうことだ?罠か?でも、本当に休戦となったのかも知れない。

 もし本当に戦わずにすむならそうしたい。隼介には分かっていた。勝ち目は薄いことを。接近戦でこの重装歩兵の部隊を倒すのは、隼介でなければ容易ではない。

 隼介につぐ実力をもった者たちも今や満身創痍。弓矢であれば有効であろうが、こちらの矢は尽きている。得意の錘行(すいこう)の陣をぶちかませば、少しは敵の数も減らせようがすぐに突撃の勢いはなくなるだろう。

 そうなればもう負けは確実である・・・

 

女騎士「書状を受けとられよ!」

 ロズガード陣営から一人兵士が出てきた。手には書状らしきものが。しかし、醒陵側はどう対処してよいのか判断がつかない。

女騎士「簡潔に申し上げる!先日、我が騎馬隊が淘來軍と交戦。退けはしたが、いずれ大軍をもってここへ押し寄せてこよう!そのため我らは撤退することとなった!直太丸殿とはすでに話はついている!」

 え?そうなの?・・・信じてよいものか・・・

女騎士「子細は書状を読まれたし!受けとられよ!」

 しばらくの沈黙。蒼雲は今のを聞いているのか?返答は?

 蒼雲の側近らしき人物の声が。

側近 「承った!」

 そしてこちらからも兵士が一人歩み出て、書状を受けとって戻る。

 ・・・本当に休戦?どうやらそのような空気である。だが気を抜けない隼介。

 女性騎士は隼介を見る。

女騎士「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

 そして何も言わずに自陣へと戻る。そしてロズガード軍は北へ向かって移動を始める。それをただただ見送る隼介ら。

 だんだんと彼らが撤退する理由が見えてきた気がする。推測の域を出ないが、彼らはもっとはやくこちらを壊滅させる気でいたのだろう。しかし思いのほか戦いが長引き、淘來軍とも戦わざるを得なくなってきた。それはさすがに避けたかったのではなかろうか。

 いずれにせよ、終わった。

 

 戦いは、終わった・・・

 

 

 

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