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戦国Web小説『コミュニオン』第11話「青春、一時中断」

第11話 「青春、一時中断」

 

 華麗で力強い涼平の槍さばき。その前に立つ隼介。なおも動き続ける涼平。

隼介 「涼平。久しぶりに、やろうぜ。」

涼平 「・・・いいねぇ。」

 ピタリと動きを止める涼平。すでに突きの体勢が整っている。次の瞬間、鋭い一撃が一直線に隼介に迫る。隼介、その切っ先を自分の槍でいなす。すぐに引いてまたすぐ突きをしかける涼平。それもいなす隼介。

 涼平、素早い突きの連打。それらもすべていなす隼介。槍同士が接触した状態で隼介、相手の槍先をくるっと回す。回された勢いで矛先が外側へ投げ出される涼平の槍。その隙を突いて、隼介の一撃が放たれる。

 それを叩き落とす涼平。落とされた切っ先を水平に戻し踏み込む隼介。涼平、それを下から弾きあげる。そのまま涼平も踏み込み槍を反転、柄の部分で打撃を放つ。

 当たった!・・・かに見えたが、隼介も柄の部分でそれを防いでいる。今度は両者、先端側で打撃! ぶつかる槍と槍。

 

 隼介、上背を活かして斜め上から圧力をかけていく。ひざを屈しながらも耐える涼平。さらに力を加える隼介。が、それを読んだ涼平、それを受け流す。

 体勢をくずし、前方につんのめる。その後頭部めがけて涼平の一撃が半円を描きながら迫る。槍で防げる体勢ではない! 転びそうな勢いのまま、そのまま受け身をして転がってかわす隼介。柔道の受け身ではなく、そのまま着地してすぐ立てる形の受け身。

 その際右手は槍を手放していたため、片手で持っている。その上、相手に背中を見せた状態での着地体勢となった。

 が、相手も決して万全でない体勢から反転しての一撃。すぐにはしかけることができなかった。すぐに立ち上がり相手の方を向き直す隼介。涼平も体勢をととのえ、両者構えなおす。

 

 

 それを観ていた周りの者たち、感嘆の声を上げる。

 ・・・やっぱりこの人たち、凄ぇ・・・

 でも、防具なしでやるのは、危なくない? などと心の声が聞こえてきそうである。

 二人、視線が増えてることに気づく。いつの間にか翔馬がそこにいて、二人の戦いを観ていた。

翔馬 「・・ん? おぉ、すまん、じゃましたみたいだな。」

 二人、構えをとく。

隼介 「いえ。」

翔馬 「さすがだなぁ。二人とも見事な槍さばきだ。」

隼介 「ありがとうございます。」

涼平 「ありがとうございます。」

隼介 「何かご用でしたでしょうか。」

翔馬 「うむ。まぁ、この場ではなんだから、あとで私のところに来てもらっていいかな。」

隼介 「はい。」

翔馬 「和馬もな。」

和馬 「はい。」

 去っていく翔馬。門下生や見学者たちも去っていく。

沙耶 「じゃ、私も帰るね。」

和馬 「うん。」

隼介 「じゃ。」

 去っていく沙耶。

和馬 「さて。行くか。」

隼介 「うん。」

 翔馬からの呼び出し。いったい何の用だろう。きっと来年の大会に向けての話など、道場関連のことだろう。なんだかわくわくしてきた隼介。そして翔馬のいる部屋へ来た二人。翔馬は穏やかな顔をしていた。

翔馬 「すまんな、自主練してたところ。」

隼介 「いえ。」

翔馬 「実はな、楠将軍から話があってな。・・・あ、その前に。」

 穏やかな翔馬の顔から、あまり良くないことが起こっていることを感じさせる空気が見てとれた。

翔馬 「東の国境に向けて、淘來の軍勢が押し寄せてきている。今、この時も。」

 緊迫した空気。それでも表面上はやはり穏やかな顔の翔馬。

翔馬 「まぁ、知っての通り国境には長大な壁が連なっており、さらには我が国の軍が厳重なる態勢でもって守っておる。なので心配するほどではない。が! やはり国としては万全を期すようだ。予備隊を編成することとなったらしい。」

 嫌な予感がする。

翔馬 「現在18歳以下の者は徴兵されていないが、臨時要員を募集している。そこで! 我が道場でも、それなりの成績を残している者はこれに参加することとなった。」

 時が止まった・・・かに思える時が流れる。「参加することとなった。」どうやら決定事項のようだ。

翔馬 「みんなへは明日、あらためて話をする予定だが、お前たちには前もって話しておく。もしかしたら、なにか混乱があるかも知れない。不安に思う者もいるかもしれない。もしいたら、安心させてやってほしい。話は以上だ。」

 言葉が出ない隼介と和馬。選択権もなく、有無を言わさず重い荷を背負わされた気分であった。

 

「参加することとなった。」

それって、いつからいつまで? え? じゃぁ大会は?? 来年の大会に出場するんでしょ?? しないの???

 聞きたかったが、とても聞けそうな状況には思えなかった。部屋から出た二人。なんだか道場にいられなくなって外へ出た。

 言葉少なく、どこへともなく歩き出した。とくにそこへ向かったつもりもなかったが、二人は神社に来ていた。すでに先客がいる。沙耶と静流。

沙耶 「あ。」

隼介 「あ。」

和馬 「おぅ。」

 沙耶と静流は、なにを話していたのだろう。雰囲気から察するに、どこか和解した空気である。本当に和解したかは知るよしもないが、いっしょにいて違和感がなかった。

 なんとなく合流した四人だが・・・さて、なにを話そう。

沙耶 「翔馬先生、なんて?」

和馬 「うん・・・。」

沙耶 「なに?」

隼介 「あ~~~っと・・・言っていいよね。」

和馬 「いいでしょ。」

静流 「え、なになに。」

 隼介と和馬、ことの詳細を話す。沙耶と静流、黙り込んでしまう。

静流 「で、どうなるの?」

隼介 「さぁ。具体的には、明日聞かされるんじゃないかな。」

 これから、どうなってしまうのか・・・・。たとえようのない不安が少年たちを包んだ。

 

 

 

 次の日、道場。稽古開始時刻になっても稽古は始まらない。門下生たちは集められていた。翔馬、そして以前、楠将軍とともに来ていた軍人の一人が来ていた。

翔馬 「え~~~~。今日は、軍の方から、大事なお話があり、集まってもらった。よく聞くように。」

 軍人が皆の前へ。30代か、もしかしたら40代ぐらいの屈強な男であった。

軍人 「優秀なる青龍館道場の若者たちよ、今、君たちの力が試されている!」

 その男の声は大きく、道場に響き渡る。

軍人 「以前より、隣国・淘來との関係が好ましくない。ここ最近、特に緊張が高まっている!」

 ざわめく門下生たち。

翔馬 「静粛に!」

軍人 「しかしながら、我が国の兵力はその多くが国境警備に投入されており、敵の侵入は万に一つもない! その上で、これは武道を志す若者にとって絶好の機会ととらえる。国境近辺におもむき、軍の指導のもと訓練を受けてもらいたい。そして普段では学べないものを学んでいただきたい。決して前線におもむくわけではない。」

 ざわめきはおさまらない。翔馬、木刀で床を叩く。決して大きな音ではないが、緊張感が響き渡る。

翔馬 「静粛に!!」

 ようやく鎮まるざわめき。

軍人 「決して前線におもむくわけではない。この経験は、必ず君たちの血となり肉となり、人生を豊かにするであろう。この訓練に参加する権利を得られた者には、あらためて布告がある。以上!」

 ふたたびざわめく門下生たち。その多くが、どこか楽し気なことを口にしていた。「選ばれた者」だけが受けることのできる「訓練」。

 そんな印象を語っていた。確かにあの軍人はそのように言っていたので、素直にそう受け取ったのだろう。

 

 しかし、隼介・和馬・沙耶・静流は違和感を感じていた。大きな大きな違和感を。それとともに、なにか恐ろしいことが起こるのではないかという思いも。

 

 ・・・昨日と話が違う。

 

 昨日は「予備隊を編成」そして「臨時要員を募集」と言っていたではないか。たしかにそれは「選ばれた者」だけが受けることのできる「訓練」と表現しても間違ってはいないのかも知れない。しかし・・・

 その後、「訓練」を受ける権利をもらえた者たちが集められ、今後の詳細が伝えられた。近日中に国境近辺の駐屯地へ向かい、そこで訓練を受けるらしい。ちなみにこの日の稽古は自主練となり、身支度が必要な者は帰っていった。

 

 他の門下生たちが「訓練」を受けれることを誇らしげに語り合っている中、神妙な面持ちで地図を見ている隼介・和馬・沙耶・静流の四人。

 地図には醒陵全土と、右端(東側)の山岳地帯の国境を挟んだ隣国・淘來の一部が描かれている。醒陵は西の大山脈と東の山岳地帯に挟まれた、三角形に開けた土地にある。

 北から流れ込んでくる大河は南下するにつれて分岐し、いくつもの支流に分かれ海へと続く。西の大山脈は標高が高い上、極寒地帯なので他国の干渉を受けることはない。

 しかし東の山岳地帯はそこまで標高もなく、大軍が通れる道も幾つかあるため、長城が築かれ兵が配備されている。

隼介 「駐屯地って・・・どこ?」

和馬 「う~~~ん、この辺りになるのか?」

 地図を見ながら、行き先がどこかを探している。突如、厳が覗き込む。

隼介 「うわ、ビックリしたぁ~。」

和馬 「一声かけろよ。」

厳  「おぅよ。おめでとぉ~~。」

 能天気な声に、どう返していいか分からない四人。ちなみに、当然のことながら厳は訓練には参加しない。

厳  「ん? 何々? 何探してんの?」

隼介 「北部駐屯地ってどこかな~って。」

厳  「あぁ。この辺じゃない?」

 と言って、地図のある場所を指さす。

隼介 「そうなんだ。」

厳  「多分ね。北部・中央部・南部とあるから、多分ここ。」

和馬 「・・あぁ、そうか。」

隼介 「ん? なにが?」

厳  「門が。」

隼介 「えぇ~~っとさ、俺、実はよく分かってないから説明してくれるかな。」

厳  「なにを。」

隼介 「なにを聞いていいのかも分かんないぐらい、説明が欲しい状態。」

 笑いだす厳。

厳  「さすがの猛者も、こうゆうことは考えたことないんだな。いいよいいよ、この天才軍師が教えてやろう。」

隼介 「お願いします。」

厳  「まず、この国境だけど、山なのは分かるよね。山岳地帯。」

隼介 「うん。」

厳  「で、その山岳の一番標高が高いところに壁・・まぁ、城壁? 長い城壁がずぅ~~っと連なってるのは知ってるかな。知ってる・・よね?」

隼介 「うん。」

 厳、地図上の長城に沿って指をすべらす。

厳  「ここから東が淘來。まぁ、天然の要害と人工の要害ってな感じ。守る側が圧倒的に有利。ただ、山が低くなってるこことここ。」

 南北に連なる長城の真ん中あたりと、やや下(南)に指を置く。

厳  「この二ヶ所だけは大軍が通れる。だから城壁も高くつくられてるし、大きな門もある。防衛の要だから兵力もこことここに集中してる。」

隼介 「あれ? じゃあ北は?」

厳  「うん、一応あるよ。関所というか、防衛拠点が。ただ、他のふたつに比べたら険しいところだから、多分ここからは攻めてこない。」

隼介 「へ~~。」

厳  「で、最初に言ってた北部駐屯地ってのは、この近くなんじゃないかってこと。」

隼介 「そっかぁ~。」

静流 「なんか、珍しく厳が賢く見える。」

厳  「まぁ、賢いしね。」

沙耶 「じゃあさ、安全なんだよね、そこは。」

厳  「たぶんね。」

和馬 「・・・・・。」

 和馬、まだ腑に落ちない感じ。

厳  「どしたん?」

和馬 「もしも、だけど。」

厳  「うん。」

和馬 「もしもこちらの兵力が足りなかったら、厳はどうする?」

厳  「え、足りてないの?」

和馬 「もしもの話。」

厳  「う~~んと、俺が司令官だとしたらの話?」

和馬 「うん。」

厳  「淘來と戦うとして?」

和馬 「う~~ん、まぁ。」

厳  「攻めるの? 守るの?」

和馬 「え?・・あぁ・・守る。」

厳  「そうだね~~、どれだけ足りないかにもよるけど、まず長城の各所に最低限度の見張りを置いて、中央部・南部の拠点に兵力を集中させて・・・北部に・・・、」

和馬 「北部に?」

厳  「にぃ~・・・、いや、捨てるかな。」

和馬 「捨てる?」

厳  「ここは大丈夫だという可能性に賭けて捨てる。」

和馬 「・・・ほぅ。」

厳  「俺だったらね。」

和馬 「・・・・・。」

厳  「あ、もちろん本拠地にも、それなりの兵は残しておくけど。となると・・・やっぱりここに兵はまわせないかな。可能なら、臨時でもいいから少し置く。戦力にはならなくていいから、もし攻められた時の時間稼ぎしてもらわないと。」

 

 ・・・時間稼ぎ?

 あくまで仮の話。だとは分かっていても、どこかゾッとする話である。和馬が地図から視線を外す。周りに目をやると、仲間たちが楽し気に「訓練」に胸躍らせながら無邪気にはしゃいでいた。

 

 

 

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