戦国Web小説『コミュニオン』第7話「今を、今を、今を」

第7話 「今を、今を、今を」

 

 静流は隼介の目を見ている。隼介は目を合わせられない。罪悪感があるのかもしれない。後ろめたいのかもしれない。

静流 「遅かったね。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「どうしたの。」

隼介 「・・・・・。」

 静流、隼介のすぐ前まで近づく。そしてじっと隼介の顔を見つめる。

隼介 「祭りもいいけど、俺さぁ、」

静流 「ん?」

隼介 「稽古してる方が楽しいんだよね。」

静流 「・・・誰と?」

隼介 「・・誰とってわけじゃ、ないけど・・・」

静流 「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「そっか。」

隼介 「うん。・・そう。」

静流 「じゃぁ、帰る?」

隼介 「・・うん。」

 静流と帰路につくことに。他愛のないいつもの会話を交わしながら歩く二人。本当は他に、お互いもっと言いたいことがあった。が、今それを言ってしまったら、今までの関係がすべて壊れてしまう気がしたので言えなかった。

 大事なことは何も言えないまま、二人は静流の家に到着。静流と別れ、隼介も一人歩いていく。

 

 

 次の日。隼介の体は、いつになく調子が良かった。心はと言うと、なかなか調子が良いとは言えなかったが、体だけは元気だった。根拠はないが、沙耶との稽古が自分に活力を与えている気がしてならない。稽古はやはり、楽しいものでなければ。そう思いはじめた。

 そして、師範代に百人抜き稽古をやめることを告げた。難色を示すのではと思っていたが、すんなりと聞き入れてくれた。

 師範代も気づいていたのだ。この稽古は、今の隼介にとって重荷になっていることに。何があったかは知らないが、とにかく今の隼介の心をかき乱しているのだと。

 仲間の門下生たちの反応は違っていた。皆、残念がった。隼介の人間離れした活躍を、もっともっと見てみたかった。「続けてくれよぉ~。」と口々にせがむ。それを見かねた和馬が隼介をかばう。

和馬 「まぁまぁ、いいじゃん。隼介が強いってことははっきりしたんだし。」

厳  「そうだよ。これ以上やったら、ケガ人が出るぞ。」

 すかさず厳も味方につく。

和馬 「ケガ人はすでに出てんだけどな、毎日。」

厳  「お? おぅ。ケガ人が増えるぞ。なぁ涼平。」

涼平 「うん。俺もそう思う。」

厳  「お、珍しく聞いとった。」

涼平 「多分、死人が出る。」

 一瞬、静まり返る一同。

厳  「怖いこと言うねぇ。まぁ、ありえるけどな。」

 皆、再び笑顔で「確かにな。」「笑えね~。」などと言い合う。

涼平 「・・・・・。」

 この時は、涼平だけだったかも知れない。隼介の本質に気づいていたのは。さきほど口にした「多分、死人が出る。」という言葉も、彼は本気で言っていた。

 隼介の身に何があったのか、その心情にどんな変化があったかなど、つゆ知らぬ涼平だが、本能的に隼介の内側に宿るものを感じ取っていた。

 その日の夕方、稽古が終わり道場で門下生たちが帰宅の準備をしながら楽しくおしゃべりをしていた。突如どよめきが起こる。門下生たちが驚きの顔とともに口々に何かを言い合う。そして廊下の方を見ている。廊下から誰かが近づいてくるようだ。

 そして姿を現したのは、道場主・藤堂翔馬、そして先日も道場に来た醒陵軍左将軍・楠と他軍人二名。と・・・それに続き兵士がぞろぞろと現れた。甲冑姿に大刀と脇差の二本差しフル装備。人数も多い。

 10人・・いや、20人・・いや、もっと多い。その後ろから現れたのは、老人であった。髪は黒かったが、おそらく70歳ぐらいはあろうか。それでいて鋭い眼光を放っている。

 この人も・・軍人? っていうか・・誰? そんな視線が老人に集まった。老人は多くの門下生の中、隼介の姿を確認する。

 目が合う。その視線に強い意志を感じ、気おされる隼介。老人は手招きして楠を呼ぶ。そして耳打ち。「分かりました。」と一言告げた後、翔馬を呼び何かを伝えている。

そして、

翔馬 「百人抜き稽古はいつ始まる。」

 どよめきが起こる。すぐさま師範代が翔馬のもとへ。詳細を伝える。その間にも、老人の後ろから兵士たちがぞろぞろと現れる。

 なんなんだ、この兵士たちは? この老人の護衛? ・・・この老人、本当にいったい誰なんだ?

翔馬 「構わん。やれ。」

師範代「いや、しかし・・・」

翔馬 「隼介!」

隼介 「は、はい。」

 いつも穏やかな師範・翔馬の大きな声に驚く。驚いたのは他の門下生も同じだろう。

翔馬 「無理か!?」

隼介 「え。」

翔馬 「百人抜き稽古、できんか!?」

隼介 「それは・・・」

翔馬 「どうした。」

隼介 「できなくはないのですが・・・」

翔馬 「なんだ。」

隼介 「ケガをさせてしまいそうで、その・・・」

翔馬 「稽古にケガはつきものだ。」

隼介 「はい、その通りです。ただ・・・今は、本調子ではないと言いますか、」

翔馬 「出来るのか出来ないのか、どっちだ。」

和馬 「失礼ながら、彼の力は他の門下生と比べ圧倒的に強く、本気でのぞめば大事に至ることもあるかと思われます。」

 和馬にとって翔馬は父だが、やはり道場では師範と門下生という関係である。なので、ここではこのような堅苦しい会話になってしまう。楠が口を開く。

楠 「先日の稽古、誠に素晴らしいものであった。心から感服した。」

 軍の偉い方の言葉とあって、一同に緊張がはしる。否応なく耳を澄まし、次の言葉に集中してしまう。次の瞬間、何か恐ろしい言葉を発するのではないかという感覚すら覚える。

楠  「そのことを長老会の方々にご報告したところ、ぜひこの目で見てみたいと、わざわざ蒼雲(そううん)様がお見えになった。」

 どっとざわめきが起きる。それも無理はない。いくら政治にうとい少年たちでも、おそらくこの国で『長老会』と『蒼雲』の名を聞いたことがない者はいないだろう。

 長老会とは、この国の舵取りをになう重役たちのことである。実際は何の権限もない名誉職ではあるものの、かつて軍や内政・外交をになった大物たちである。中でも蒼雲は軍事に携わった双璧の一人であり、その影響力は今でも健在であった。

楠  「相葉隼介。」

隼介 「は、はい。」

楠  「どうであろう、蒼雲様にお前の強さを見せてはくれぬか。」

隼介 「・・・・・。」

楠  「ケガをさせるのが心配なら、我々が相手になってもよい。」

隼介 「え。」

楠  「翔馬殿、いかがであろうか。」

翔馬 「う~~ん・・隼介、どうだ。」

隼介 「・・私は・・構いません。」

楠  「かたじけない。心配するな。ここに来た者たちは皆手練れだ。傷など恐れぬし、易々と勝てる相手でもない。」

 と、いうわけで、突如やることになってしまった百人抜き稽古。しかも相手は現役の軍人たち。門下生は皆ビビってしまったが内心、心躍っていた。隼介の本気が見られるかも知れない。こんな凄いことはない。

 

 楠は兵士の一人を指名、隼介の前に立つ。甲冑は着たまま、腰に差した二本差しを別の兵士に渡す。そして竹刀を受けとる。

 その目を覗き込む。静かなたたずまいを感じさせた。と共に、その強さも伝わってきた。隼介も竹刀を持つ。構える兵士。隼介も構える。

 和馬は隼介がどう出るのか気になっていた。軍人が相手なのだ。手加減などしている場合ではない。隼介はそのことが分かっているのだろうか。

 圧倒的な筋力を活かし、短期決戦に持ち込むべきだ。それが通じぬ相手なら、とことん慎重に。これが最善策である。

そして・・・

 

師範代「始めぇ!」

 一気に最速の動きで面を打ち込む隼介。即座に後退してそれをさばく兵士。隼介、間髪いれずに連撃を放つ。それらもすべてさばいていく兵士。門下生らは沈黙したまま見ていたが、内心驚いていた。

 まさか、隼介の攻撃をここまで凌げるなんて、思ってもみなかった。これが現役軍人の実力なのか。いかに自分たちが甘い世界で稽古していたかが分かる。いや、稽古とも呼べぬのかも知れない。

 しかし、やはり隼介の筋力は尋常ではなかった。

 「バキッ」

 竹刀が兵士の兜に当たった音である。

師範代 「一本!それまで!」

 隼介の勝ちである。決して技術や速さで勝ったわけではなかった。現に兵士は、隼介の面を一応はガードしていた。が、力負けし隼介の竹刀はそのまま兜まで届いてしまったのである。

 「おぉ~~。」という門下生たちの声。だが、同じものを見ていた大人たちは顔色一つ変えなかった。

 和馬は、ひとまず安心といった表情。・・うん、それでいい。勝った隼介は他の門下生と同じように、兵士の強さに驚いていた。と同時に、不謹慎にも嬉しくもあった。

 「これだよ。こうでなくっちゃ百人抜き稽古なんてやる意味はない。」

 そしてこうも思った。

 「確かに強いけど、涼平にはやや劣るな。」と。

 そして二人目。

師範代「始めぇ!」

 一気に最速の動きで突きを打ち込む隼介。即座に後退してそれをさばく兵士。隼介、間髪いれずに連撃を放つ。それらもすべてさばいていく兵士。

 展開としてはさきほどと似ている。兵士の実力も、さきほどと互角ぐらいの様子。と思った矢先、兵士の突然の反撃。隼介、退きながらさばく。距離をおいて対峙しにらみ合う。

 そして今度は小刻みな軽い打ち合いが続いた。なかなか勝負がつかない。が、昨日のようにイラついたりはしなかった。落ち着いて相手の出方をうかがい続ける。そして相手にわずかな隙を見つけた瞬間、

 「パシィ~~ン!」

師範代「一本!それまで!」

 隼介の綺麗な一撃が入っていた。どよめく一同。固い顔をしていた楠も小声で「よしっ」とつぶやく。こわもての老人・・・蒼雲は顔色を変えない。

楠  「よし。では次は私がいかせてもらおうかな。」

 またまた空気が引き締まる。・・・え?左将軍がやるの? 偉い人なのに??

 しかし、誰も異を唱えることなどできない。

 「ケガしても知りませんよ」と思いつつも、「お偉いさんに一泡ふかせてやれ」という思いもあった。竹刀をとって構える楠。隼介も構える。

師範代「始めぇ!」

 一気に最速の動きで突きを打ち込む隼介。

 「パシィ~~ン!」

 前のめりに倒れ込む隼介。短い沈黙。そして、

師範代「い、一本!それまで!」

 隼介、なんと一瞬で負けてしまった。何が起こったのかよく分からない。 自分が突きを放った瞬間、相手は側面にまわり込んだことだけは覚えている。

 どうやら、かわしたと同時に側頭部やや後方に打ち込まれたようだ。その勢いで倒れ込んでしまったらしい。豪快に笑いだす楠。

楠  「ただ見ていたわけではないんでな。頭も使わんとな。」

 隼介には、言ってる意味が分からなかった。まだ負けたことが信じられず、そのことで頭がいっぱいだった。

 見ている外野にはその意味がすぐに伝わった。何度も隼介の戦い方を見ているうちに、パターンを見つけたということだ。

 最初はまず、全速全力でしかけ相手の力量を測る。そのまま勝てればいいし、それでダメなら慎重な戦い方に切り替える。 だから、初動がいくら速くても難なく対応されてしまったのだ。

 こわもての老人・蒼雲は楠を手招きし、何かを伝える。

楠  「では、今日はこれで失礼する。相葉隼介。」

隼介 「はい。」

楠  「また会おう。」

隼介 「・・はい。」

 そして軍人たちは去っていった。台風が吹き抜けていったかのような感覚。


 門下生たちも皆帰っていき、残ったのは隼介・和馬・厳・涼平の四人。

厳  「ひゃ~~~~、それにしてもビビったわ。いろいろとビビったわ。なんか、どっと疲れた。」

和馬 「お前は何もしてないだろ。」

厳  「それでも疲れるよ。まさか左将軍だけじゃなく、長老会まで出てくるとはよ~。」

和馬 「まぁな。」

厳  「しかも、今回は純粋に隼介を見に来たんだろ。ヤベェじゃんそれ。マジヤバいって。」

和馬 「ヤバいの意味が分からんが、言いたいことは分かる。」

厳  「隼介、どうするよぉ?」

隼介 「どうするって。」

厳  「長老会の蒼雲様だぜ。俺でも知ってるぜ。」

隼介 「うん。で。」

厳  「でって。どうするんだよって。」

隼介 「いや、だから、どうするって言われても。」

和馬 「まだ何しに来たか分かんないんだから、どうするもないでしょ。」

厳  「そうだけど、あぁ~~~!!」

和馬 「興奮しすぎ。」

 苦笑いする隼介と和馬。涼平は真顔のまま。

厳  「何黙ってんだよ涼平。ってか、いつも通りだなお前は。」

涼平 「・・・え?」

厳  「聞いとけや!」

 そこへ沙耶が来る。

沙耶 「お疲れ~。今日もいいかな。」

隼介 「もちろん。そのために待ってたから。」

和馬 「俺らは帰ろか。」

厳  「え。」

和馬 「まぁ、俺はここが家だけど。」

厳  「あれ、隼介と沙耶は?」

隼介 「稽古。」

厳  「稽古ぉ? 終わったじゃん、さっき。」

和馬 「二人は試合に向けて、居残り稽古。」

厳  「え、マジで!? ってか、静流は?」

和馬 「・・さぁ。」

厳  「休みか。あ~~、ついにサボりだしたな~~。まいっか。」

 厳と涼平は帰っていく。和馬も二人についていった。道場には隼介と沙耶の二人。

沙耶 「今日、凄かったんだってね。」

隼介 「うん、ホント凄かった。楠将軍、凄いよ!ホントに凄い!」

沙耶 「そうなんだ。」

隼介 「なんかね~、やっぱりそうなんだ~って感じ。」

沙耶 「どんな感じ?」

隼介 「本物は違うな~って感じ。力と速さだけじゃダメだわ。いや、当たり前だけどね。」

沙耶 「どうゆうこと。」

隼介 「頭もいるな~って。どれだけ稽古しても、それだけじゃ勝てない時もあるなって。」

沙耶 「ふ~~ん、そっか。」

隼介 「うん、これホント。感覚としてはねぇ、10年稽古しても一瞬の機転で負けちゃうっていうか、なんか、そんな感じ。」

 沙耶、笑顔。

沙耶 「楽しそうだね。」

隼介 「そう?」

沙耶 「うん。」

隼介 「そっか。」

沙耶 「うん、楽しそう。」

隼介 「そっかぁ。」

沙耶 「良かったね。」

隼介 「え。」

沙耶 「うん、良かった。」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「あ、始めよ。」

 沙耶、隼介が楽しそうに話す姿を見て、安堵する。最近いろいろとゴタゴタがあったため、なんだか関係が壊れてしまいそうな気がしていた。

 とくに静流のことで。静流は隼介に何と言ったんだろう。まさか、「沙耶は隼介のこと嫌ってる」なんて言ってやしないだろうか。それじゃあ差別意識丸出しではないか。

 いや、たしかに昔は淘來人に対する嫌悪感・・・を通り越した敵愾心を口にしていたのは事実だが。隼介はそんな自分の差別じみた言葉を聞いて、腹を立てていたのかもしれない。

 極めつけは『あの日』のことだ。隼介はその手を汚してしまった。あれは成り行きだった。隼介は悪くない。ただ、人より強すぎただけ。

それでも隼介はその手を汚してしまった。汚させてしまった。沙耶のような者たちが。その中には沙耶自身も含まれている。憎んでるだろうな・・・

 でも、それでも隼介は今ここにいてくれて、いっしょに稽古にもつきあってくれている。余計なことは言わない方がいい気がした。今を楽しめているなら、今だけを見ていたかった。


 そう、沙耶も隼介と同じことを思っていた。嫌われているのでは? と、お互い思っていたのだ。

「本当はどう思ってるの?」などと、口が裂けても言えなかった。本当のことを聞いてすべてをぶち壊してしまうより、今確かにここにある今を大切にしたかった。

 

 

 そして二人は竹刀を手に、稽古を始める。昨日と同じ内容。相手の心の動きに集中しながら、やや本気で打ち込んでいく沙耶。

 「やや」本気なのは、決して遠慮しているわけではない。本当に本気で打ちかかっていけば、瞬く間にばててしまうことが分かっているからだ。とは言え、このペースでもそう長くは持たなかった。

隼介 「はい、そこまで。」

 その場で立ち尽くし、息を整える沙耶。

隼介 「うん、いいよ。いい感じ。」

 息が整ったのを確認し、隼介は話し出す。

隼介 「じゃあちょっと早いけど、次から反撃してくね。」

沙耶 「はい。」

 稽古再開。沙耶、隼介からの攻撃を警戒して打ちかかれない。それを察した隼介、竹刀の切っ先を大きく下げ、わざと隙をつくる。

 それがわざとであると気づいてはいたが、打ち込む沙耶。すぐに竹刀を上げ、その一撃を受け止める隼介。そして軽く反撃。

 さばく沙耶。沙耶、連撃。それらを一通りさばいた後、反撃をくり出す隼介。その流れが続いた。反撃の割合はそう高くはない。

 隼介がわざと、相手にとって稽古になると思われる頻度で調整していた。しばらくそれが続くと、ふたたび沙耶の体力が尽きてきた。

隼介 「はい、そこまで。うん、いいね、いい感じ。」

沙耶 「・・・ありがとう・・ございます・・・」

 息を切らしたままの沙耶。稽古のふしぶしに隼介の心づかいが感じられる。心からありがたいものだと思えた。隼介にとっても、これは苦ではなかった。

 むしろ隼介の稽古にもなっていた。相手の心に集中することで、それを読み取り自分がどう動くべきかを学んでいく。

 現に防具をつけていないにも関わらず、両者はかすり傷ひとつ負っていない。沙耶は安心して隼介に身を任せれるし、隼介もそのすべてを受け止めている。

隼介 「はい。いくよ。」

沙耶 「はい。」

 稽古が再開される。

 

 そうだ。そうなんだ。相手を倒すことじゃないんだ。

 相手を傷つけるためにやってるわけじゃないんだ。たとえ武術が、暴力の延長線上にあるものだと言われても、たとえその本質が敵、つまり人を殺傷するものだと言われても、そんなことはどうでもいい。

 「そうですか。」としか思わない。すくなくとも自分・・・自分たちにとっては。自分たちはただ、遊んでいるだけなのだ。それが楽しいのだ。楽しいからやってるだけなのだ。

 

 両者がそれを共通理解したことを試すように、沙耶は持てるすべての力を全開にし隼介にぶつけだした。顔面やのどへの突きですら、全力でくり出していく。

 隼介も全力でそれに応える。それは全力で反撃するということではなく、両者が傷つかぬよう、それでいて相手が全力を出し続けられるようにするということである。

 さすがにここまで本気を出した沙耶に応じ続けるのは、隼介にとっても容易ではない。というより、ここまで沙耶の本気を引き出しているのである。

 いつもならとっくにばてている沙耶だが、この時ばかりは動きが止まらない。とっくに限界に達しているはずであるが、無尽蔵のごとく動き続ける沙耶。当然それに応じ続ける隼介も止まらない。

 だんだんと酸欠になりつつある沙耶。じょじょに意識が混濁しつつも、動きを止めようとはしない。苦しいはずなのに、やめようとは思わない。

 今の速さ、今の力を出し続ける。今を、今を、今をぶつけ続ける。そのことしか頭には残っていない。そして本当の限界は、突如としてやってきた。

 

 ガクンと膝を落とす沙耶。動けない。ゼイゼイと息を切らし続ける。ようやく苦しさに心が追いついてきた。

・・・あぁ、今、私、苦しい・・・

 隼介もまた、息を切らし立ち尽くしていた。そしてその場に座り込む。

 しばらくして苦しさが抜けてきた頃、二人に爽快感が訪れた。

 ・・・あぁ、俺(私)、出し切ったぁ・・・

 倒れて仰向けに寝転ぶ二人。

隼介 「お疲れぇ~。」

沙耶 「お疲れ。ありがと。ホントありがと。」

隼介 「こっちこそ。」

沙耶 「あぁ・・・気持ちいい。」

隼介 「うん。・・・明日も、いいかな?」

 沙耶、仰向けのまま笑いだす。

沙耶 「それ、私が頼むことだよ。」

隼介 「そっか。」

 隼介も笑いだす。もうすでに夜になっていた。

 稽古を終え着替えた二人が岐路につこうと道場を出た時、すぐ外で一人の少女が立っていた。静流である。言葉を発することができず、沈黙する隼介と沙耶。

静流 「・・・・・。」




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