戦国Web小説『コミュニオン』第41話「英雄」

第41話 「英雄」

 

 この日も醒陵本陣(本拠地)では、今後の方針を巡って議論がなされていた。今日の会議には、普段は各地の要所にて指揮をとっている武将たちも参加していた。

 後方支援を一手に任されている後将軍や、全体の指揮をとっている大将軍に加え、一連の戦いにて中央・南部・北部の司令官を務めた将軍たちも召集された。このままでは埒があかないと判断した直太丸が呼び寄せたのだ。

大将軍「私は蒼雲様の意見に賛同いたします。今ここで淘來をたたいておかねば、いずれまた攻められることとなるでしょう。皆、どうかな?」

後将軍「同じく。今やらずしていつやる。」

 後方で指揮をとっているこの二将軍は、蒼雲派であった。本人たちにそのつもりはないかも知れない。が、蒼雲に加勢するような意見ばかりが目立つ。

右将軍「戦線の状況を見ろ。とてもじゃないがそんなこと言えん。」

前将軍「全くだ。今回の開戦、はやまったとは思わんか。」

 前線で指揮をとったこの二将軍は違う意見のようである。決して直太丸派というわけではないが、再度進軍することに関しては難色を示している。

蒼雲 「ふん。お前らの指揮が緩いせいで勝てなんだだけだろ。」

右将軍「・・なんですと。」

蒼雲 「敵の戦力を分断させたというのに。」

前将軍「お言葉ですが、中央を進軍するには多くの敵拠点を落さねばならんのですよ。」

右将軍「南部においても同じ。そうやすやすと進めるものでは」

蒼雲 「言い訳はいい。」

右将軍「いいえ、言わせていただきます。そもそも開戦すべきではなかったのです。」

蒼雲 「・・ふん。今さらそんなこと言っても遅いわ。」

右将軍「決まったことには従います。だからこそ、作戦段階での失敗は避けねばなりません。」

後将軍「失敗と決めつけるのはまだ早い。」

前将軍「失敗だ。どれだけ犠牲が出たと思っている。」

後将軍「犠牲はつきもの。違うか?」

前将軍「規模による。」

蒼雲 「敵の犠牲はもっと大きい。今こそ」

前将軍「失敗を繰り返しては国そのものが崩壊します。」

右将軍「そうです。よしんば淘來は倒せたとしましょう。次はロズガードが攻めてきますよ。疲弊した醒陵に向けて。得するのはロズガードだけです。」

大将軍「それはどうかな。三つの部隊の一つで、息も絶え絶えの淘來を倒すのだろ。残った二つの部隊でロズガードは抑え込めよう。」

前将軍「息も絶え絶えとおっしゃるが、遠征軍が戻ってきては」

大将軍「だから戻ってくる前に、」

 さすがに彼らは蒼雲相手でも気おされることなく意見を言えるようである。なお、醒陵の軍隊の中では、大将軍が一番権限があり、次いで前・後・左・右の四将軍に権限がある。が、実際には長老会が一番影響力があると言われている。

 なので、

 

 ナンバー1・・・長老会(直太丸・蒼雲。軍事以外に数人)

 ナンバー2・・・大将軍

 ナンバー3・・・前・後・左・右の四将軍(楠もその一人)

 ナンバー4~・・その配下や、それ以外の将軍や部隊長たち(守備隊長など。人数不明)

 

 となるであろう。なお軍事以外の分野においても、権限はないものの、長老会が一番の影響力があるとみられる。

 いつもと違って数人の意見がぶつかり合っている会議を、ニコニコと眺めている直太丸。

直太丸「いいねぇいいねぇ。やっぱ話し合いはこうでないと。で、楠はどう?」

楠  「私・・ですか。」

直太丸「うん。」

楠  「進軍には・・・反対であります。」

蒼雲 「楠。」

楠  「このまま国境をかためておくべきでしょう。」

蒼雲 「もう聞き飽きたわ。」

楠  「はい。ですが、ここには蒼雲様以外の方々もおりますので。」

直太丸「あれ?蒼雲と楠はもう話し合ってたの?」

楠  「はい。」

蒼雲 「こやつはもう戦わんと言い張る。勝ったままでいたいだけなのだ。」

楠  「・・・・・。」

大将軍「そうでありましたな。左将軍殿は、勝つ戦しかしない主義でありましたな。」

蒼雲 「せっかく築き上げた名声を汚したくないときた。」

楠  「負ける戦はしない。これは鉄則であります。」

蒼雲 「鉄則とな。笑わせる。」

 声をあげて笑い出す、蒼雲・大将軍・後将軍。

楠  「無論、どんな状況でもできることは全てやります。その結果、負けることもありましょう。ですが、右将軍殿が言うように、作戦段階での失敗は避けるべきだと私も思っております。」

蒼雲 「もういい。わしが指揮をとる。」

楠  「・・・・・。」

直太丸「また言い出した。」

大将軍「よいではありませんか。賛同いたします。」

後将軍「私も賛同いたします。」

蒼雲 「よし。では大将軍、今後の方針を決めてくれ。」

大将軍「はい。では、」

直太丸「おいおい!」

前将軍「まだ意見はまとまっておりません!」

右将軍「そうです。」

蒼雲 「しかしこれでは何も決まらん。いっそ大将軍に委ねてみてはいかがかな。」

直太丸「そうやっていっつも勝手に大事なことを決める~~。」

蒼雲 「いや、別にわしが決めてるわけでは」

直太丸「お前が決めてるようなもんやん!ちゃうか!?」

 

 

 

 会議が続く本陣。同じ敷地内には牢獄もあった。隼介がいるのはここの牢獄である。ここがどんな場所かも分からず、今日も穏やかな一日を過ごしていた。

 今日は沙耶の他に、珍しい客人が隼介に会いに来た。隼介に悪影響がないと見なされれば、面会は許される。むしろ、隼介の回復に良い影響があると思われる人物であれば積極的に会わせていた。隼介と楽しい時間をともに過ごした人物がその対象である。

 なので、戦争での思い出を多く共有している友人は該当しない。たとえ隼介が会いたいと言ってもだ。過去に和馬や涼平と話がしたいと言い出したこともあったが、当然それは却下となった。今日面会にきた客人も、隼介が会いたいと言った人物であった。

隼介 「ありがとう、来てくれたんだ。」

厳  「おぅよ!」

 その客人とは、厳であった。輪之内厳(わのうちげん)。青龍館道場での同期であり、そこで兵学を学んでいる少年である。武道はからきしだが、隼介は彼の陽気な人柄に好感をもっていた。

厳  「つ~かすげ~よ隼介、バリすげ~よ。」

隼介 「ありがと。」

厳  「つ~かね、何がすげ~って、バリすげ~とこがすげ~よ。」

隼介 「そっか。」

 ニコニコしながら聞いている隼介。沙耶の方を見る。

隼介 「どうゆう意味?」

沙耶 「私にも分かんない。」

 厳は別に精神が崩壊しているわけではない。普段からこんなことを言っているだけである。

厳  「説明しよう。バリすげ~とは、バリバリすげ~の略である。」

隼介 「それは分かる。」

沙耶 「あんまり略せてないね。」

厳  「つ~か略す必要ね~じゃん!」

隼介 「自分で言ったんじゃん。」

 ゲラゲラと笑い出す隼介と厳。沙耶はちょっとついていけない。

厳  「いやいやいや~。でもさ、まじめな話、ホントに凄いよ。」

隼介 「何が?」

厳  「何がって、隼介の活躍だよ。」

隼介 「あ~~、それがさぁ、俺、あんまり大会の記憶がなくてさぁ~。」

厳  「え?」

隼介 「勝ったんだよ・・ね。あ、個人戦としては勝ったけど、団体戦では負けたのか。・・負けた・・よな。いや、ゴメン、なんかいろいろと思い出せないんだよ。」

厳  「大会じゃないよ。戦場の話だよ。」

沙耶 「厳!」

厳  「・・あ。」

隼介 「せんじょう?・・せんじょうって?」

厳  「・・いや。」

 厳は隼介に会う前に禁止事項を言い渡されていた。決して負の感情を想起させることは言わないこと。戦場での話などもってのほかだ。隼介に会う理由は、あくまで回復の一助とするためなのだから。

 なお厳も含め、醒陵国内にいる人間のほとんどが、隼介が味方を殺傷させたことを知らない。あくまで英雄として認識している。精神に異常をきたしてしまったことも、厳は今日はじめて聞かされた。

厳  「船上を洗浄中に航海線上に煽情的な千錠の・・いや、何言ってんだ隼介。」

隼介 「俺に聞かれても!?」

沙耶 「・・・・・。」

厳  「いいねぇ~~、隼介のトゥッコミいいよ~~。やっぱりトゥッコミは間髪入れずにぶっこむのが気持ちいいわ。」

隼介 「ってかさぁ、厳って頭いいよね。」

沙耶 「どこが!?」

厳  「今のトゥッコミ、いいよ~~。」

隼介 「頭の回転はやくない?」

厳  「はやいね。」

沙耶 「どうかな。」

隼介 「よくここまで喋れるよね。」

厳  「計算して喋ってるから。」

隼介 「マジで?」

厳  「うそ!!(なぜか変顔で沙耶の顔を凝視)」

沙耶 「声がでかい!顔がうざい!」

厳  「いいね~、そのトゥッコミ。」

隼介 「沙耶も声でかい。」

沙耶 「・・あ。」

厳  「そのトゥッコミも、い~~よっ。」

沙耶 「・・・変わんないね、厳。」

厳  「変わんない~~~よっ。」

沙耶 「その鬱陶しさもね。」

厳  「それは言い過ぎだ。ハゲはないだろ。」

隼介 「それは言ってないし!?」

厳  「今のトゥッコミ、いいよ~~。」

沙耶 「・・・・・。」

厳  「あ、今鬱陶しいって思ったでしょ。」

沙耶 「思った。」

厳  「ひどい!ハゲはないだろ。」

隼介 「それは言ってないし!?」

厳  「今のトゥッコミ、いいよ~~。」

沙耶 「・・・・・。」

厳  「何か言いたそうだねぇ。」

沙耶 「さっきからさぁ、」

厳  「何ぃ?」

沙耶 「言おう言おうと思ってたんだけどさぁ、」

厳  「何ぃ~?」

沙耶 「生え際薄くない?」

厳  「ハゲネタはもういいよ!ってか他にあるだろ!?トゥッコミってなんだよ!?ツッコミだろ!!」

 隼介、大笑い。それを見て沙耶も嬉し気。くだらないことばかり言っているが、厳もまた二人の空気を読みながら喋っている。「うんうん、いい空気だ。」そんなことを思っていた。

隼介 「でもさ、厳って本当に計算しながら喋ってるみたい。」

沙耶 「どうかな。」

厳  「どうかな。」

隼介 「本当は?」

厳  「適当に喋ってる。」

沙耶 「知ってる。」

厳  「でもねぇ・・・」

沙耶 「何よ。」

厳  「基本方針ってのはあるよ。」

隼介 「何それ?」

厳  「う~~~ん、まぁ、話をどうゆう方向に持っていきたいかってこと・・かな。」

隼介 「ん?ん?」

厳  「まぁ、とりあえず俺、楽しいの好きだから、楽しい方向には持っていこうとはしてる。」

沙耶 「・・あぁ、それは・・納得。」

隼介 「確かに。」

厳  「具体的に何話すかは決めてないけど、そうゆう大まかなこと決めておくだけで自分の進みたい方向に進んでるかどうかは分かるじゃん。まぁ、会話だけに限らないけど。」

隼介 「・・あぁ。」

厳  「具体的に何をどう話すかを戦術とするなら、これは戦略の部分になるかな。」

沙耶 「・・・・・。」

 厳、話に夢中になってついつい自分の好きな「戦術」やら「戦略」といった単語を出してしまう。言ったあとで「しまった・・これも戦争関係の用語だ」と気づくも、言ってしまったのだからしかたない。何事もなかったかのように表情を変えない。

隼介 「やっぱそうか~。厳ってそうゆうこと考えたりしてんだよね。」

厳  「じ・つ・は・ね。」

隼介 「誰から教わるの、そういうの。兵学の授業とか?」

沙耶 「習わないよ、そんなの。」

厳  「そうでもないよ。」

沙耶 「え?習った?」

厳  「これも応用じゃん。」

沙耶 「え?」

厳  「教えてもらった内容をさ、他のことにも当てはめるだけで随分と応用できるよ。」

沙耶 「・・・・・。」

 沙耶、ここにきて初めて厳が頭が良く見えてくる。

隼介 「そっかぁ~~。」

厳  「まぁ、しいて言うなら、お爺ちゃんかな。」

隼介 「お爺ちゃん?」

厳  「うん。昔小さかったころ、よく将棋を教えてもらってたから。まぁ、将棋がうまけりゃ頭良くなるわけじゃないけど。そん時にそうゆうこともたくさん話してくれて・・・俺の基礎はお爺ちゃんにつくられたようなもんかも。」

隼介 「へ~~。どんな人?」

厳  「陽気な人だったね~~。いっつもニコニコしててさぁ~、周りの人が怒ってても一人笑ってたりして。」

隼介 「へ~~~。」

厳  「あと、穏やかなくせして存在感がハンパないってゆ~か、まぁ、そんな人だった。今思えば笑っちゃうけど、英雄だったね、当時としては。」

隼介 「そっかぁ。もう亡くなったの?」

厳  「お爺ちゃん?」

隼介 「うん。いや、過去形で話すからさ。」

厳  「生きてんじゃないかな。」

隼介 「かなって。」

厳  「多分。」

隼介 「多分?」

厳  「十年ぐらい会ってない。なんかね~、いろいろ訳アリみたい。」

隼介 「訳アリ・・なんだ。」

厳  「うん。実はホントはすっっっげぇ~~~偉い人で、あんまり近くにいると危険だから距離を置いてるって聞かされた。」

隼介 「なんで近くにいると危険なの?」

厳  「さぁ。反対派の悪い奴らから狙われる・・とか?そんなんかな。」

隼介 「そっかぁ。よく分かんないけど、大変なんだね。」

厳  「でも多分違うんだろうなぁ~。・・・おかしな人だったからなぁ~~好き勝手やり過ぎて追い出されたんだと俺は見てる。」

沙耶 「私もそんな気がする。」

隼介 「失礼だよそれ。」

沙耶 「孫が悪い。」

厳  「・・・反論できない。でもトゥッコミ的にはマル!」

 

 

 再びここは会議場。まだ会議は続いていた。

楠  「では正直に申しましょう。私はあの日、訓練生たちが殺されているさなか助けることもせず見殺しにしました。」

蒼雲 「楠!」

楠  「それが命令でした。いえ、正確には「敵が訓練生に危害を加えるようなことがあれば戦わねばならん。しかし一人二人死んだところで世論は動かん。」と言われただけです。」

大将軍「・・いかにも。」

蒼雲 「何も問題はあるまい。」

直太丸「いやいや。見殺しにした理由を聞いてない。」

楠  「あの時は私も開戦すべきだと思っていたのです!しかし始めてみれば淘來には、遠征している主力部隊がいるというではありませんか!?しかも教えてもらえたわけでもない。独自の諜報活動で得た情報です。」

大将軍「こちらも知らなかったのだ!・・仕方あるまい。」

楠  「・・・・・。」

蒼雲 「・・・これよ。本当に知らなんだのだ。開戦派が騙したと思っておる者もおるようだがな。」

 沈黙。直太丸が大きなため息をつく。

直太丸「・・・ふたを開けてみればこれか。つまりは、蒼雲よ。やはりお前も・・・欺かれたのだ。」

 

 楠、直太丸の顔を見る。変わらずニコニコしているが、どこか寂し気に見えるのは気のせいであろうか。

蒼雲 「・・・・・。」

 楠、蒼雲の顔を見る。変わらず怖い顔をしているが、どこか寂し気に見えるのは気のせいであろうか。

直太丸「だから言わんこっちゃない。お前は視野が広い方ではない。自覚せよ。」

蒼雲 「・・・どうあれ、わしは意見を変える気はない。」

楠  「それは勝てる戦なのですか。」

蒼雲 「お前は降格だ。もう何も言うな。」

楠  「蒼雲様!」

蒼雲 「言うな。」

楠  「醒陵統一戦争の時のあなたはどこへ行ってしまわれたのですか!?」

蒼雲 「言うな!」

楠  「この国を一つにした、あの時のあなたはもっと大きなお人だった!!」

蒼雲 「・・・・・。」

楠  「直太丸様とともに戦われたあの大戦・・・直太丸様という偉大な軍師とともに戦ったからこそ、大きな結果を得られたのではないのですか。」

蒼雲 「・・・・・。」

楠  「私が子供の頃の英雄といえば、かの二大将軍でありました。『武勇の蒼雲』『知略の直太丸』。私は憧れておりました。私だけではありません。男の子は皆、このお二方に憧れておりました。・・・私のような者はいくらでもおります。左将軍の任を解くというのであれば、そうなさればよい。ですが、直太丸様とだけは、決して進む道を異になさいませぬよう誠に、誠に恐縮ながらお願い申し上げます。」

 深く頭を下げる楠。

直太丸「・・・・・。」

蒼雲 「・・・楠。」

楠  「・・・はっ。」

蒼雲 「左将軍の任を解く。」

楠  「・・・・・。」

直太丸「お前にそんな権限はないぞ。」

蒼雲 「大将軍。」

大将軍「・・・はい。」

蒼雲 「いかがする?」

大将軍「・・・・・。」

 黙り込んでしまった大将軍。

しばらくの沈黙を挟み、こう告げた・・・

 

 

 

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戦国Web小説『コミュニオン』31~45話

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