戦国Web小説『コミュニオン』第3話 「不純物」

第3話 「不純物」

 

 この大陸には、大小多くの国があるが、『和の国』『華の国』『洋の国』の三つに大別できる。まずは『華(か)の国』。元々この広大な土地に住んでいた勢力群であり、大陸の七割はこの華の国で占められる。とはいえ、国も民族も多数あり、長い間各地で勢力争いが続いている。

 次に『洋(よう)の国』。西の大山脈を越えてこの地にやってきた勢力群。強大な軍事力を誇り、短期間で大陸の二割を勢力下に置く。特に大国・ロズガードは今なお急速に成長を遂げている。

 最後に『和(わ)の国』。南の島国から海を渡ってきた、単一民族国家・醒陵(せいりょう)がただ一つあるのみ。大陸においては一割にも満たない領土の小国である。北西に位置するロズガードとは同盟関係にあるが、東に隣接する華の国・淘來(とうらい)との関係は緊迫している。

 

 

 深夜の道場。・・・ストッ・・・・・ストッ・・・・・目を覚ます隼介。同じ部屋では沙耶と静流が寝息をたてている。和馬の家、つまり道場に泊まりにきた隼介たちは会話がはずみ盛り上がり、いつしか寝ていた。・・・・・ストッ・・・・・音がする。聞き慣れた音。

 隼介はゆっくりと立ち上がる。体がきしむ。稽古の疲れがハンパない。が、心地よい疲労であった。・・・・・ストッ・・・・・二人を起こしてしまわぬよう、静かに部屋を出て、音のする方へ歩いていく隼介。

 音は中庭の稽古場から聞こえてきていた。月灯りの下、和馬が弓を構えている。そして矢を放つ。

 ストッ!

 矢は的の中心を射抜く。どうやら一人で弓矢の稽古をしている。和馬が放つ矢は百発百中。必ず的の中心を射る。彼の眼差しは的の中心をとらえつつも、的全体、そしてその周りの空間自体をとらえているかのようだった。

 的を見つめ、狙いを定め、放つ。

 的を見つめ、狙いを定め、放つ。

 的を見つめ、狙いを定め、放つ・・・・・

 五発放つと、次はその場で隣の的を狙う。そして五発放つと次はまたその隣の的へ。凄いものである。同じ場所からなので、的をずらすごとに的の面は斜めになっていくことになる。刺さりにくくなっていくと同時に距離も遠くなっていく。今狙っているのは50メートルは離れているだろう。その的の中心に、見事に命中させていく。

 そして一番遠い最後の的。彼の手が止まる。さすがに無理なのだろう。矢筒にはまだ五本の矢が残っていたが、彼は手を降ろし脱力した。そして深呼吸。目をつむり、動かなくなった。

 声をかけようかと思ったが、かけられない。彼はまだ的を狙っている・・・そんな気がしてならなかったからだ。強大な敵を前に、気を練っているように見受けられた。見守ること約三十秒、カッと目を見開き矢を放つ。凄まじい速さで連射し、またたく間に五発の矢を放った。矢を放ち次の矢を放つまで、わずか二秒ほどではなかろうか。

 そして的に当たる音、三つ。しかし内二発は弾かれて落ちる。一発・・・一発ではあるが、遠く離れた的に刺さっている。直径約1メートルの的の端に、斜めに刺さっている。大きなため息を一つ。そして、

和馬 「よう。」

隼介 「・・・おぅ。」

 どうやら隼介が見ていることは気づいていたようだ。

隼介 「凄いな。」

和馬 「ん?」

隼介 「弓。」

和馬 「あぁ。」

隼介 「毎日やってんの?」

和馬 「いや、時々。」

隼介 「昼間はやらないの?」

和馬 「剣の練習しないと。試合あるから。」

隼介 「で、夜は弓の練習か。やっぱ凄いわ。」

和馬 「練習・・っていうか、趣味。やりたいからやってる。」

隼介 「そっか。そりゃ上手くもなるわなぁ。」

和馬 「隼介と一緒だよ。剣とか槍とか。」

隼介 「なるほどね。納得。」

和馬 「・・・ほんと久しぶり。」

隼介 「なにが。」

和馬 「俺たちと、沙耶と静流でうち泊まるの。」

隼介 「あぁ。」

 しばし沈黙。

隼介 「ちょっと込みいったこと聞いていいかな。」

和馬 「ん?」

隼介 「ぶっちゃけさぁ、和馬と沙耶ってつき合ってんの?」

 くすっと笑う和馬。

和馬 「お前までそう思ってたの?」

隼介 「あ、違うんだ。」

和馬 「違う違う。」

隼介 「な~んだ。」

和馬 「ま、俺は好きだけどね。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「俺は好き。」

隼介 「・・・・・そっか。」

和馬 「珍し。」

隼介 「なにが。」

和馬 「隼介がそうゆう話するの。」

隼介 「え・・あぁ。」

和馬 「自分も何かあったわけ?」

隼介 「いや・・俺は何もないけど。」

和馬 「そぅ。」

隼介 「・・・いつから?」

和馬 「ん?・・・あぁ、昔から。かなり前。」

隼介 「どれぐらい?」

和馬 「そうだなぁ・・・五年前からかなぁ。」

隼介 「え、マジで!?」

和馬 「うん。お前はいつから?」

隼介 「俺は三年前かな。」

和馬 「・・・・・。」

隼介 「・・・・ん?」

和馬 「・・・三年前から好きだったんだ。」

隼介 「あ・・・・・うん・・・・・・」

和馬 「そっかそっか。」

 なんだか、誘導尋問にかけられた気分だ。

隼介 「(苦笑)お前ずるいよぉ~。」

和馬 「(笑顔)ずるいのはお前だろぉ~。何もないとか言っといてぇ。」

隼介 「え~~~~、ちょっとぉ~~~~参るわぁ~~~~」

和馬 「参れ参れぇ。」

隼介 「あ~~~あ。」

和馬 「じゃあ両想いだったのか、昔は。」

隼介 「え。」

和馬 「いや、あくまで昔な。」

隼介 「え?昔は・・・両想い?誰と誰が。」

和馬 「隼介と沙耶。」

隼介 「え、マジで!??」

和馬 「マジだよ。だって本人が言ってたんだもん。」

隼介 「沙耶が?」

和馬 「うん。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「あ・・でも、どうかな。俺それ聞いたの『あの日』の前日だから。」

隼介 「あの日って・・・」

 『あの日』と言ったら『あの日』しかないだろう。三年前の『あの日』しか。すぐに分かった隼介だったが、分からないふりをする。

和馬 「ほら、騒ぎになったじゃん。」

隼介 「あぁ・・・そういえば、あったね。」

和馬 「あれ三年前だったよね。」

隼介 「だった・・かな・・・。」

 和馬は知らないのだ。隼介が隠していることを。正確には、隼介・沙耶・静流が隠している、あることを。

和馬 「いきなり相談されてさ、隼介のこと好きだって。どうしたらいいかな?って。」

隼介 「・・そうなんだ。」

和馬 「ちょっと複雑な心境だったけど、「二人で出かければ」って言っといたよ。」

隼介 「・・そっか。」

和馬 「・・で、どうなった?」

隼介 「・・・沙耶は・・なんて言ってた?」

和馬 「う~~~ん・・・それどころじゃなくなったって。」

隼介 「それだけ?」

和馬 「それだけ。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「・・・・・。」

 沈黙。隼介は和馬がどこまで秘密を知っているのかが計り切れず、言葉が出ない。和馬は、隼介がなぜ黙っているのかが分からない。しばらく微妙な空気が流れる。

隼介 「なんにせよ、両想いじゃないよ。多分。」

和馬 「そうなの?」

隼介 「・・・多分。」

和馬 「そっか。」

 隼介ため息。

隼介 「ってかさぁ、なんでそんなこと教えてくれるわけ?」

和馬 「ま、こうゆうのは公平に、・・みたいな?」

隼介 「あそぅ。」

和馬 「うん。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「ってなわけで、この件に関しては秘密はなしな。なにか進展があったら、おたがいに報告するってことで。」

隼介 「分かった。・・あ、じゃあ言うけどさ、」

和馬 「お、さっそくだな。」

隼介 「沙耶、たぶん・・俺のこと嫌ってる。」

和馬 「は!?んなこたないだろ。」

隼介 「う~~~ん・・・」

和馬 「なんでそうなる?」

隼介 「いや、自分でもよく分かんないんだけど、多分・・・」

和馬 「それはない。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「絶対ない。」

 隼介、言えることと言えないこととが頭の中を巡ってしまい、どう伝えていいのか分からなくなってしまう。いっそのこと、なにも言わない方が良かったのかも知れない。説明するのをあきらめ、笑顔で繕う。

隼介 「ならいいんだけど。」

和馬 「・・・・・。」

隼介 「・・・・・。」

 親友なのに、言えることと言えないことがある。昔はそうじゃなかった。・・・なんか・・・ごめん・・・。そう心でつぶやいた。

和馬 「よし。俺寝る。」

隼介 「おぉ。」

和馬 「隼介も寝た方がいいよ。疲れてるっしょ。」

隼介 「まぁ。ちょっと風に当たってるわ。」

和馬 「そ。じゃ、おやすみ。」

隼介 「うん。」

 和馬は部屋に戻っていく。

隼介 「・・・・・。」

 隼介、夜風に当たりながら物思いにふける。

 ・・・そうかぁ・・・そうだったのかぁ。

 じゃあ・・・俺が沙耶のことを気になりだしたのと入れ違いで、沙耶は俺のこと嫌いになったってことか・・・参るなぁ・・・・今でも嫌ってんのかなぁ・・・・・。嫌ってるだろ、そりゃぁ・・・。でも、こうして今でも会ってくれている。それもまた事実。本当はどうなんだろう?

 そんなことを悶々と考えては堂々巡り。一時間ほど考え、けっきょく考えても仕方ないという結論にいたり、寝ることにする。部屋に戻ると三人とも静かに寝ていた。和馬は沙耶のすぐ隣にいた。

隼介 「・・・・・。」

 隼介、部屋のすみに寝転がる。

静流 「(小声で)どこいってたの?」

隼介 「(小声で)あ、ごめん。起こしちゃった?」

静流 「(小声で)寝れなくて。」

隼介 「(小声で)俺も。風に当たってた。」

静流 「(小声で)え?」

隼介 「(小声で)風。風に当たってた。」

 体を寄せてくる静流。

静流 「(小声で)なんて?」

隼介 「(小声で)か~~ぜ。風にぃ、当たってた。」

静流 「(小声で)私も呼んでよぉ。」

隼介 「(小声で)寝てたから。」

静流 「(小声で)寝てないよぉ。」

隼介 「(小声で)じゃ、寝よう。」

静流 「(小声で)寝れないよ。」

隼介 「(小声で)俺・・もう眠い。」

静流 「(小声で)・・おやすみ。」

隼介 「(小声で)おやすみ。」

 静かな夜の時間が流れる。涼しい夏の夜。

静流 「(小声で)・・・隼介、もう寝た?」

隼介 「・・・・・。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「(小声で)起きてるよ。」

静流 「(小声で)・・・ねぇ。夏祭り、ほんとに行かない?」

隼介 「・・・・・。」

静流 「(小声で)隼介?」

隼介 「(小声で)ん?」

静流 「(小声で)夏祭り、行こ。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「(小声で)聞いてる?」

隼介 「(小声で)ん?」

静流 「(小声で)な~つ~ま~つ~り、行こ。」

隼介 「・・・・・。」

静流 「(小声で)隼介?」

隼介 「・・・・・。」

 隼介、もう寝ている。

静流 「・・・・・。」

 静流もしかたないので眠りにつく。

 

 

 

 朝。隼介が目を覚ますと、もうみんな起きていた。そして何やら騒がしい。道場の使用人たちが慌ただしくしている。なにが起こっているか理解できない隼介。

隼介 「・・・・・。」

和馬 「おはよ。」

 和馬は落ち着いた顔であいさつした。が、本当は緊迫しているのが分かる。彼はいつもそうだ。どんな緊急事態でも、心を乱さない。周りを安心させようと努める。

 ・・・・・これはどうも、ただごとではないようだ・・・

隼介 「・・おはよ。・・・どした?」

和馬 「うん。今日、稽古なしになるかも。」

隼介 「え。なんで?」

和馬 「外出禁止。」

隼介 「・・・・・。」

和馬 「許可が下りるまで外に出れないから。門下生もここ来れないし。」

隼介 「なんで?」

和馬 「とり締まりだって。」

隼介 「・・・え?」

和馬 「とり締まり。淘來の間者(かんじゃ。スパイのこと)が町ん中で逃げ回ってんだって。」

隼介 「マジで?」

和馬 「マジで。」

 部屋のすみで静流が震えている。

隼介 「・・・・・。」

 沙耶は部屋の一点を凝視しながら座っている。しばし無言の四人。部屋の外では使用人たちの、落ち着きのない声と足音が聞こえる。口々に焦りの言葉、そして淘來人に対する敵意の言葉を発している。

 少ししてから和馬の父、つまり道場主である藤堂翔馬が突然ふすまを開け、姿を現す。

翔馬 「・・・・・。」

 翔馬、厳しい表情。なにから話せばよいか、といった感じで黙っている。四人、発せられる言葉を待つ。五秒ほど沈黙が続いた後、冗談っぽく微笑む翔馬。

翔馬 「おはよう。」

沙耶 「おはようございます。」

隼介 「おはようございます。」

翔馬 「・・・・・。あ~~~っと・・・聞いたか? 話は。」

和馬 「いえ。詳しいことはまだ。」

隼介 「外に出るなということと・・・あと、あの、なんだっけ、」

沙耶 「淘來の間者が、町の中で逃げ回っているということだけ聞いてます。」

翔馬 「そうか。今、軍の兵と役人が追ってるから。まぁ、大丈夫だ。」

 軍の兵まで・・・どうも大ごとの気配。各々、より一層深刻になっていく。

翔馬 「今朝、いっせいに取り締まったらしい。そしたら間者が何人か見つかったみたいでな、そのうちの何人かは追手を振り切って逃走したようだ。」

 やっぱり・・・・・

翔馬 「外郭(がいかく。この場合、国境の城壁)の門はすべて封鎖されたから、国外へは逃げられんだろう。で、だなぁ・・・」

 またか・・・・・三年前の『あの日』と同じだ・・・・・

翔馬 「しばらくしたら役人と兵士たちが来るから、身分証明だけ。分かるな。嘘とか、ごまかしは無しな。大変なことになるから、聞かれたことは全部正直に話すこと。いいな。」

沙耶 「はい。」

隼介 「はい。」

翔馬 「じゃ、そうゆうことで。」

 翔馬、笑顔を見せて去っていく。屈託のない笑顔が、逆に怖かった。じたばたしたところで、誰も逃げられないということを物語っているように感じたからだ。

 和馬も父と同様、屈託のない笑顔を見せる。普段はあまり似ていると思ったことはないが、この時はうり二つだったのが印象に残る。

和馬 「しばらく待機だな。」

 静流はなおも震えている。

隼介 「大丈夫だって。」

 静流の肩に優しく手を置く隼介。

隼介 「大丈夫。」

静流 「・・・・・。」

隼介 「大丈夫 大丈夫。」

 静流、苦笑い。

静流 「隼介ぇ。」

隼介 「ん?」

静流 「昨日と言ってること違う。」

隼介 「え。そうだっけ。」

静流 「そうだよ。」

隼介 「そうだっけ。」

静流 「そうだよ~。」

隼介 「そっかぁ・・・」

静流 「(小声で)嘘つき・・・」

隼介 「・・・・・。」

静流 「(小声で)でも・・ありがと。」

隼介 「・・・・・。」

 外がより一層慌ただしくなった気配。聞き慣れない男の声がする。翔馬の声もする。ばたばたと足音が近づいてくる。複数の足音。かなり多い。十人以上はいるのではないだろうか。どんどんこの部屋に近づいてくる。

 高まる緊張。そしてふすまが開く。着物姿の男が三人、すぐ後ろに甲冑姿の兵士たちが数人立ち止まる。その後ろをこれまた数人の兵士たちが素通りして他の部屋へ足早に向かう。

 緊張。しかしこちら以上に驚きを見せる兵士たち。隼介の巨体が、あまりに威圧的だったからだ。思わず後ずさる。刀に手をかける兵もいる。一瞬にして一触即発の空気に。

和馬 「お役目ご苦労様です。」

 即座に正座する和馬。

和馬 「隼介。」

隼介 「・・・・・。」

 和馬、隼介に座るよう合図する。隼介が立ったままでは、それだけで争いの火種になりそうな空気を察しての判断だ。それに気づき、隼介も正座する。沙耶と静流はすでに座っている。

 役人と思わしき三人の男、部屋に入ってくる。土足である。もちろん兵士たちも皆土足である。が、そんなこと指摘できる状況ではない。

役人 「俺たちは国の者だ。話は聞いてるかもしれんが、淘來の間者を追ってる。知ってること全部言え。」

 役人は早口で、それでいてはっきりとしゃべる。大きな声が威圧的であった。その横でべつの役人は紙を広げ、筆を右手に持つ。緊張のあまり皆、黙ったまま。

役人 「ん? どうだ?」

 黙ったまま。

役人 「名前聞こうか。名前。ん?」

和馬 「藤堂和馬です。」

役人 「うん。とうどうかずま。うん。君は?」

隼介 「相葉隼介。」

役人 「あいばしゅんすけ。はい。君は。」

沙耶 「夕凪沙耶。」

役人 「ゆうなぎさや。」

 喋っている役人の隣の役人が、すばやく紙に書き込んでいく。おそらく名前を書いているのであろう。

役人 「君は。」

静流 「・・・・・。」

役人 「名前。君。名前。ん?」

静流 「・・・・・。」

役人 「名前聞いてんの。ん?」

和馬 「滝川静流です。」

役人 「・・・・・。そう。たきがわしずる。」

 役人、静流を見る。威圧しているわけではないだろうが、威圧的に感じてしまう。

役人 「君たちは・・・誰? ここの人?」

和馬 「はい。私はこの道場の者です。彼らは門下生です。」

役人 「あそう。ん? とうどうかずま。あ、ご子息?」

和馬 「はい。」

役人 「そっかそっか。で、今から稽古?」

和馬 「の、予定でした。」

役人 「そっか。あ、ごめんね。邪魔しちゃったんだね。」

和馬 「いえ。」

役人 「で~~~、君たちは門下生で~~~。住み込みでここに?」

和馬 「いえ。今日はたまたま。」

役人 「そっかそっか。何か知ってることない?」

和馬 「とくに。」

役人 「君たちは?」

沙耶 「知りません。」

隼介 「知りません。」

静流 「・・・・・。」

役人 「ん? どう?」

静流 「・・・・・。」

役人 「何か知ってるの?」

静流 「・・・・・。」

役人 「・・・・・。」

 沈黙。

役人 「緊張してんのかな。ごめんねぇ、急におしかけちゃって。でも大事なことだからさ。ね。協力して。正直に話さないと、協力する気なしってことにもなり兼ねんからね。それ罪に問われるからね。ん?」

静流 「・・・・・。」

役人 「・・・・・。」

和馬 「申し訳ありません。突然のことで・・」

役人 「うん。まぁ。ね。そうだね。でも、協力してね。」

和馬 「はい。」

役人 「君も。」

静流 「・・・・・。」

役人 「もしかしてぇ・・・君、淘來人?」

静流 「・・・・・。」

役人 「ん? どう?」

静流 「・・・・・はい。」

役人 「ん!? 淘來人なの!??」

静流 「はい。」

役人 「あそう! そうなんだ! そっかぁ。そっかそっか。うん。じゃあ、ちょっと、来てくれるかな。」

 兵士たち、二人がかりで静流を立たせ、連行しようとする。

隼介 「待ってください!」

役人 「ん? なに?」

隼介 「ちょっと待ってください。」

役人 「話聞くだけだから。」

隼介 「待ってくださいよ!」

 隼介、静流から兵士を引きはがす。ふたたび緊張感に包まれる。刀に手をかける兵士たち。

沙耶 「隼介!」

和馬 「落ち着け!」

 隼介、静流をかばい、立ちはだかる。

隼介 「・・・・・。」

役人 「話を聞くだけだ。白だったらすぐ帰れる。ここで下手なことすれば、それこそまずいことになる。」

隼介 「・・・・・。」

役人 「ん? そうだろ? 違うか?」

和馬 「・・・隼介。」

隼介 「・・・・・。」

役人 「本当に・・まずいことになるぞ。」

 気が動転していた。隼介の思考は、もはや正常ではなかった。この現状を前に、無意識のうちに敵味方の力量を測ってしまっていた。帯刀した役人が三人、甲冑・帯刀兵士が六人、うち二人は手槍を持っている。数と装備では負けているが、十中八九、勝てる。戦えば勝てる。自分一人で勝てる。素手で勝てる。

沙耶 「隼介!」

隼介 「・・・・・。」

沙耶 「大丈夫だから。」

隼介 「・・・・・。」

 ようやく少し頭に上った血が下がってきた。冷静さを取り戻す。さすがに素手では勝てないか・・・。勝てたとしても、こっちも瀕死の重傷だろう。

 運よく無傷で勝てても、今度はもっと多くの兵がやってきて、追いつめられて、結局負けるのは目に見えている・・・

 隼介、降参する。

隼介 「分かりました。」

和馬 「静流も、大丈夫だから。正直に話せば、すぐ帰れるから。」

静流 「・・・・・うん。」

 静流、観念して役人のもとへ。両肩と両手を掴む二人の兵士たち。

沙耶 「あの、女の子だし、暴れたりしませんから。」

役人 「・・・うん。悪かった。」

 役人の合図で、兵士たちは静流を解放。

役人 「じゃ。」

隼介 「あの!」

役人 「ん?」

隼介 「私も行きます。」

役人 「は?」

隼介 「私も・・行きます。」

役人 「何か知ってるの?」

隼介 「いえ。間者とか、そうゆうのは・・・ただ、」

役人 「ただ?・・なに?」

隼介 「私の父も・・・・・淘來人です。」

 沈黙。沈黙のまま連行される隼介と静流。静流はそのまま連行されたが、隼介は両手首を縄で縛られた。体にも縄を巻かれ、それを四人の兵士が強く握っている。そんな状態で連行された。隼介は抵抗しなかった。

 

 

 十数年前の戦で隼介の父は死んだ。醒陵軍の兵士として、淘來の軍と戦った。

 自分も淘來人でありながら・・・・・

 この国のために、この国の人たちとともに、必死で戦って。この国を守るために散っていった異邦人。その異邦人を愛した隼介の母。

 連行される道中、隼介は役人の顔を見た。悪い人には見えない。それなのに、なぜか怖ろしく感じてしまうのはなぜだろう。同じ言葉を使っているはずなのに、意思の疎通ができる気がしないのはなぜだろう。

 

 

 なんで・・こうなったのかな。

 なんで・・こうなるのかな。

 いや、答えは分かってるんだけどさ。「怖い」んだろうね。

 得体の知れないものが。こっち側から見たら、あっち側は敵。

 あっち側から見たら、こっち側は敵。分かるよ。怖いもんね。

 でもさぁ

 それでも・・・

 母は父を愛したんだよ。

 父は母を愛したんだよ。




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