戦国Web小説『コミュニオン』第27話「来年の大会で会おう」

第27話 「来年の大会で会おう」

 

 廃墟と化した山中の駐屯地であったが、当初の予定通りここを中継基地とする方針は変わらなかった。ふたたび兵員宿舎や武器庫・食糧庫・看護棟などが急ピッチで建てられていく。

 北部攻略部隊の兵士たちは、次の援軍が到着するまで、しばらくここで待機し休養することとなる。驚異的な回復力で、隼介の傷はみるみる治癒していった。

 

 数日後、援軍が到着。北部攻略部隊は総勢2万名を超える。しかもその中には、隼介の活躍に感化されて志願した、武道経験のある若者が多く含まれていた。全国の有名無名の道場から、選りすぐりの者たちがやって来たのである。

 皆、隼介の部隊に入りたがった。希望すればその隊に入れるわけではない。が、彼らは精鋭部隊である歩兵1番隊にふさわしい実力を持っていた。もともと所属していた者たちも含め、この部隊は500名を超えた。

 彼らは隼介とともに戦えることを誇りに思った。そして口々にこんなことを言い出した。

 「隊長。来年の大会でも会いましょう。」

 「あんたが相葉隼介か。来年の大会、俺が勝つ。」

 「隼介さん、ですよね? 来年こそは、全国大会の会場で会いたいです。あ、もちろん客席じゃないですよ。試合で。」

 いろんな奴がいた。丁寧な奴も、ぶっきらぼうな奴も、マジメな奴も、ひょうきんな奴も。だが、皆強そうな奴ばかりだった。そして、熱くなった。閉ざした心の奥で、熱いものを感じた。隼介は彼らの言葉に、思いに応える。

隼介 「うん! ぜひ大会で会おう!」

 

 思い出す青春の日々。そして沙耶と稽古した日々。あの頃に戻りたい。楽しかったあの頃に。何も考えず、ただただ好きな人と好きなことをしていたい。沙耶は今頃、どうしているのだろう・・・

 

 隼介は過ぎ去った日々に想いを馳せていた。崩壊しそうだった精神を、過去の記憶がなんとか守っていた。心はとても不安定だったが、それを察している者もいれば、まったく気づかない者もいる。特に隼介に憧れてここへやってきた新兵たちに多くいた。伝え聞く隼介の武勇伝に圧倒され尊敬の念を抱いていた。

 

 精鋭部隊の斬りこみ隊長は、先の戦いにてまた一つ武勇伝を更新していた。大斬刀によるダイナミックな戦闘スタイルに加え、逆手脇差によるスピーディな戦闘スタイルも人々の心に強く印象づけた。

 あくまで 『剛』 がメインではあるが、『柔』 な戦いもできてしまう。豪傑であって達人でもある。武道をたしなむ者にとって、憧れの対象になるのも無理はない。

 

 部隊編成も終えた北部攻略部隊は、日々要塞と化していくこの駐屯地の守備を任されていた。周囲には柵がめぐらされ、高い櫓(やぐら)がいくつも建てられる。その間に隼介は、大斬刀が振るえるほど回復していた。

 そしてついに進軍が再開される時を迎える。ここでようやく隼介は、今回の軍事作戦の大まかな流れを知る。以前にも聞かされていたが、よく理解できていなかった。そのため、和馬があらためて説明してくれる。

 

 軍を三つに分け、東へ東へと進軍していることは理解していた。では、なぜ進軍容易ならぬ山岳地帯をわざわざ通ってでも、われわれ北部攻略部隊(楠部隊)がここを通過するのか。理由は二つ。一つは同時攻撃を行うためである。

 中央と南部は平原が多く、進軍はたやすい。しかし、敵もまたそこに多くの兵力を集めている。さらには防衛拠点も多く点在している。できれば敵戦力を分散させたい。そのために北からも攻める必要があった。

 また、よしんば中央と南部の2ルートからのみで進軍し敵本拠地まで迫れたとしても、残存勢力が北上することも考えられる。追撃戦に勝利したとしても、山中に逃げられる可能性もある。あとあと面倒なことにならぬよう、できれば逃げ道を塞いでおきたい。これが二つ目の理由であった。

 中央・南部、そして北部からの同時攻撃により、長期戦になるのをまぬがれ確実なる勝利を目指す。結果は思惑通りとなり、初戦では敵の一部隊をひきつけ、そのまま撃破することに成功。

 山中にいた部隊は、守備隊なのか迎撃隊なのかは不明だが、これも撃破することに成功。北部での進軍ルートを確保することに成功し、大部隊を敵地の奥深くまで送ることができた。

 それを受け、敵も戦力の一部をこちらに回さざるを得なくなったもよう。3万を超える軍勢がこの先の平野に集結している。これで中央および南部攻略部隊とぶつかる敵が削られたわけだ。

 

 まさに大成功である。思惑通りである。と共に、ここが正念場である。ひきつけたからには、それを何とかしなければならない。次の戦闘は今までになく大規模なものとなるだろう・・・

 

 

 

 裾野(すその)に出た北部攻略部隊。左側には大河が流れている。それに沿って、まだ山々が両サイドに続く裾野をしばらく南下すると平野に出る。

 そこに待ち構えていた敵の大軍勢。数にして3万。援軍を加えてなお、こちらよりも多くの兵力でもって迎え撃たんとしている。

 何が何でもここで我々を食い止める覚悟であろう。敵は「大斬刀の悪鬼は死んだ」と噂していた。数で勝り、かの悪鬼もいないとなれば負けるはずがない! と息巻いているらしい。

 

 敵はやや横長に布陣していた。前衛中央は戈(か)を持った部隊。両サイドには騎馬隊。視力のいい隼介でも、あとはよく見えない。こちらの布陣もまた、やや横長となっている。

 前衛は騎馬隊対策の長槍部隊。その後ろに弓兵隊・歩兵隊が続く。左翼の長槍隊の後ろには、和馬率いる弓兵1番隊、その後ろには隼介率いる歩兵1番隊が控えていた。

 左側に主力をかためた形となっている。少し間をおいて、左は大河である。背水の陣ならぬ、側水(?)の陣。

 楠将軍とその親衛隊1000名、その前衛の長槍隊1000名は、なぜか後方の離れた場所に布陣していた。歩兵1番隊に精鋭部隊の座を奪われてしまったが、親衛隊はそれに次ぐ戦闘力を持っている。

 

 

 戦闘が開始される。まず最初に動いたのは敵騎馬隊。両サイドにいた騎馬隊のすべてがこちらに向けて突撃してきた。すぐにこちらの前衛である長槍隊が槍衾を形成する。

 当然これらにぶつかっては来ない。むしろ、最初からこちらの両サイドを通過し背後にまわりこみ、遅れて攻めかかってくる歩兵とともに包囲する作戦であった。数はこちらの1.5倍いる。それぐらいできてしまう。

 そうはさせじと弓兵隊が一斉に弓矢を放つ。だが、主力をかためた左翼の命中率に比べ、右翼から放たれた矢はなかなか当たらない。

 そして左翼は隼介率いる歩兵1番隊が弓兵隊のさらに左に展開、騎馬隊の行く手をさえぎる。大河があるので、ここを塞がれると進むことができない。

 攻撃をしかけるも、精鋭部隊である隼介らの激しい反撃にあう。ここに来て、ようやく敵は気づくこととなる。

 

 大斬刀の悪鬼は生きていた・・・

 

 驚愕の事実であった。

 死んだと聞かされていたのに、その化け物が目の前で大暴れしている。一発で致命傷を与える大きな刃が、それを目にした敵の士気を下げていく。

 動きを止められた騎馬隊は、さらに弓矢の的となっていく。左翼側は、ほぼ完全に騎馬隊の勢いを止めることに成功した。飛矢の嵐から逃れるため、騎馬隊は慌てて後退していく。

 

 しかし、右翼はそうはいかない。放たれた矢の多くは外れ、騎馬隊は通過してしまう。その後ろから、前衛にいた長槍隊が追いかける。もちろん、追いつけるはずがない。いくら騎兵に対して有効でも、これでは意味がない。

 右翼弓兵隊の右端を削るように攻撃しながら、さらに突撃を続ける騎馬隊。その後ろに控えていた歩兵隊の右端をも攻撃。

 だが、あくまでそれはついでであった。こちらを包囲することが出来なかった敵騎馬隊の次なる標的は、総大将である楠将軍。

 司令官がやられてしまってはおしまいである。はやくも王手がかけられてしまった・・・かに見えた。が、

 楠親衛隊の前に布陣した長槍隊が槍衾を形成、敵の突撃を防ぐ。そのまま通過しようとするも、親衛隊が移動しそれを阻む。司令官のいる隊が戦闘に参加するのは危ういが、彼らもまた精鋭。そうやすやすとやられはしない。一進一退が続く中、そこに参戦した部隊がある。隼介率いる歩兵1番隊である。

 大斬刀を振り回し、敵騎馬隊に突っ込む隼介。続く歩兵たちの槍もまた敵を貫いていく。ここでもまた、先ほどと同じ現象が起こる。

 ・・・こいつ、大斬刀の悪鬼じゃないのか!??

 またしても敵の士気が下がる。形勢不利を感じた騎馬隊だったが、その背後からは長槍隊が突っ込んできた。最初は右翼最前衛にいた部隊だが、ここまで追いついたのだ。つまり、騎馬隊を囲んだことになる。走り疲れたであろう彼らは、あくまで逃げ道を塞ぐだけ。あとは隼介らが片づけていく。

 これらの流れが陣の後方で行われている頃、前方では弓兵隊が弓矢の雨を降らしまくっていた。敵からも多くの矢が放たれていた。互いに被害を出しながらも左翼側は醒陵軍が有利となっていった。さすがに主力をかためただけはあった。

 

 そうこうしているうちに、隼介らは孤立し包囲された騎馬隊を全滅させる。敵騎馬隊の半数を倒したことになる。大きな戦果である。だが同時に、敵歩兵隊が攻撃してきた右翼側が劣勢となっていた。

 瞬く間に右翼弓兵隊が壊滅してしまい、その後ろの歩兵隊が応戦する。敵は戈を持った部隊。こちらの歩兵も手槍なのでリーチで負けてはいなかったが、なにぶん戦闘経験の浅い者たちが多かったため苦戦を強いられる。

 前線に向かいたい隼介であったが、あまりに後方に来てしまっているため、すぐには向かえない。そして短時間のうちに右翼歩兵隊も全滅してしまった。

 中央部は左翼弓兵隊の援護もありなんとか持ちこたえていたが、右翼は完全に瓦解してしまっている。そこへようやく隼介ら歩兵1番隊が到着し、迎え撃つ。

 戈を薙ぎ払い、敵を鎧ごと薙ぎ払い、少しずつ少しづつ押し返していく。そしてなんとか戦闘開始時のように前線を横一列に立て直す。

 

 この時点での被害状況。

 

 【醒陵軍】

 右翼弓兵隊 約1000名 全滅

 右翼歩兵隊 約1500名 全滅

 その他   約 500名 戦死

 重傷者   多数


 【淘來軍】

 右翼騎馬隊 約 300名 戦死

 左翼騎馬隊 約2000名 全滅

 左翼戈部隊 約 300名 戦死

 その他   約 200名 戦死

 重傷者   多数

 (醒陵軍側から見たら、敵右翼は左側。敵左翼は右側となる)

 

 醒陵軍は両翼を前進させる。左翼は弓兵1番隊の弓矢の援護を受けながら前衛長槍隊が。右翼は歩兵1番隊が敵と激突。左翼側には敵騎馬隊がいたが、長槍隊の槍衾の前に手も足もでない。

 右翼は隼介が突撃! それに続いて歩兵たちも突っ込む。錘行(すいこう)の陣となって敵左翼の戈部隊に穴をうがち蹴散らしていく。その後ろには剣と円形の盾を装備した兵士たちの部隊が。しかしその部隊もつらぬき蹴散らし、さらにその後ろにいた弓兵の部隊にまで到達する。

 

 隼介の猛攻は凄まじかった。一人ですでに数十人の敵を・・・いや、もしかすると100人を超える敵を斬殺、もしくは戦闘不能に追い込んだ。

 隼介の姿はまるで本当の鬼のようにも見えた。常軌を逸した体格、そして戦闘力。その圧倒的な様は、敵の士気を大いに下げ、味方の士気を大いに上げる。

 しかし、さすがの隼介も限界に近づいていた。疲労困憊しており、意識もじゃっかん薄れてきている。なかば失神しかかっており、本能的に動いている。

 だが戦いはまだ終わってはいない。むしろようやく中盤戦といったところ。両翼が前進(特に右翼)したことによって、敵をコの字型に包囲できた形となった。今度は内側へと攻撃を絞っていけば大打撃を与えることができる。

 が、隼介、ここにきてスタミナ切れとなる。もうひと押しすれば決定打ともなろうが、隼介はゼィゼィと肩で息をしながら戦場をながめることしかできなかった。

 それでも常人に比べれば超人的な持久力である。戦功ただならぬ働きである。隼介のあとに続いた兵士たちも同じような有様で、ただただ荒い息をしながら立ち尽くしていた。

 歩兵1番隊の攻勢は止まった。が、いまだ無傷の弓兵隊が多数残っている。彼らの波状攻撃により、敵の数は確実に削がれていく。

 そしてついに敵は敗走を始める。弓兵隊が矢を放ち続けたが、それも届かなくなる。まさに攻め時であったが、追撃する余力は残ってなどいなかった。皆息を切らしながら、逃げていく敵軍を見つめていた。

 

 

 

 こうして互いに4000名を超える戦死者、その倍を上回る重傷者を出した一大決戦はひとまずの終結を迎えた。被害がほぼ同数であることから引き分けと見るべきであろうか。しかし、開戦前の戦力差を鑑みるに、勝利したと言っても良いのかも知れない。

 敵軍の間では、大斬刀の悪鬼の名がさらに広く語られることとなる。恐怖と憎悪の対象として。そして、醒陵では隼介を英雄視する声がさらに高まっていった。そして当の本人は・・・

 

 隼介は敵の去った戦場で呆然としていた。仲間たちの多くも戦死していた。

 

 「隊長。来年の大会でも会いましょう。」と言っていた彼も、

 「あんたが相葉隼介か。来年の大会、俺が勝つ。」と言っていたあいつも、

 「隼介さん、ですよね? 来年こそは、全国大会の会場で会いたいです。あ、もちろん客席じゃないですよ。試合で。」

 と言っていた、感じのいいあの人も、みんな地に伏して動かなくなっていた。

隼介 「・・・・・。」

 

 あの頃に戻りたい。楽しかったあの頃に・・・

 

 

 

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

2

戦国Web小説『コミュニオン』16~30話

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。