妖艶なる記憶の前に数多の時間は沈んで逝く


人の記憶は消し飛んだ  
最後的生命は全てを終えて
宿木を探し
一瞬の夢にあらゆる救済を
込めてこう呟いた。

もう消えよと

もう帰れよと
もう還えれよと。

そしてもう永遠に
安らかに眠れよと
あらゆる景色が
そう私に訴えかけていた。

『この道の終わりに』


私が何だったのかさえ今となっては知る良しも無いが
その実私は知っていたのだろう、
私の選択、言葉、行動、願い
あらゆる私の物は
回帰のために遥か昔より準備されていた。

その既に用意された物達は
その一瞬一瞬に私が思いを込めて生み出した答え達、
しかし、
あろうことかそれら全てが既に準備されていた物だったとは。
それらを全て手繰り寄せた時
いつからか私は私ではなくなっていた。

そう、それは果たしていつからだったのだろうかと、

泣き滅ぼして神を殺したあの時からか、
煙を吸って
五感を閉ざし真の目だけになったあの時からか、
幻想を捨て、人の尺度に落ちたあの時からか、
閉ざした道をまた歩み始めたあの時からか、
これまでの道を呪い心から死を望んだあの時からか、
待ち望んだ未来などないことを知った時

私は私が分離する事を知ったのだ。

死して起こるであろう飽和は既に始まりを迎えた。
既に私は印を残し始めたのかもしれない。

悟りや涅槃や覚醒などはこの世には無かった、
あったのはただ虚を忘れる為の亡霊たる幻だけで、

人はただ記憶を持つために生まれ
人はただ記憶を記すために死ぬ。

全ての記憶は空に刻まれ、鳴動は変化し、
空に響き渡る。
我々の命はいつかソラを奏でる。

全ての時間は回帰し、私は、我に還り、
そして、その音を聞くのだろう。

奏でる変調の終わりに向けて、数多の命はいっそうに燃え
終わりを迎える。
残響の後の静けさに我は涙し、
程なく、美しい音色を永劫かなで続けるのだ。

我は過去に音色の粒一つずつであった。
私の前に幾つにも広がる過去が
私自身を癒すために、私の全ては生まれていった。

私は全てを犯し、浸食し、全てが私になる、
全ては私に還り、そして我に還っていく。

私は全ての人に還り、
私は全ての貴方になる。

貴方は貴方の我に還り、
私は貴方の我に還っていく。

我とは、
貴方の貴方自身であり
私の私自身である。

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