プライド・チビ

ーメンタル・ユリのたんたんエッセイー

(カテゴリー:コラム)

チビちゃんは、よその猫だった。うちが横取りしたのだ。

私が小学校何年生だったか、はっきり覚えていない。愛猫たんたんが死んでこころが病んでいた。ある日、近所の猫好きのおうちでおばさんとおしゃべりをしていたときに(私、子どもの頃からオバタリアンだったのね。汗)道路で遊んでいる猫をみかけた。

夕陽を背中に、たんたんが帰ってきたのかと自分の目を疑った。たんたんは濃い茶色のとら猫だったが、いま目の前にいるのは白地に赤茶の八割れちゃん。どう目を凝らしても見間違うはずはないのだが、私はその猫にこころ奪われてしまった。

「あの子はどこの子?」「向かいのMさんのうちの子よ」猫好きおばさんが教えてくれた。そのおうちには4歳ぐらいの女の子と2歳ぐらいの男の子がいた。私は小さい子と遊ぶことが多かったのでその日以来、Mさん家の子どもたちと遊ぶようになった。

Mさんママがおやつを用意して家に呼んでくれる。もちろん猫もいる。名前はチビちゃんだった。ある日勇気を出してMさんママに聞いてみた。「おばさん、チビちゃんを借りてってもいい?」今となっちゃへんてこりんなお願いだし、Mさんママが「いいよ。」と言ってくれたのも謎である。

私は喜んでチビちゃんを借りて家に連れて行き一日、充実した時間を堪能しチビちゃんを夕方遅くなってから返しに行った。猫の貸し借りなんざ、奇妙な話だがそのあともMさんママはチビちゃんを貸してくれた。ところがこのチビちゃん、非常に頭のよい子で自分で我が家に遊びに来るようになった。

来るのはいいが、すっかりMさんの家に帰らなくなったので毎日、夕方になると送り届けるというおかしな現象が起きた。そしてある日送って行く途中で私はチビちゃんに手を噛まれ、肉が裂けてかすかに白く骨が見えた。「あっ!」逃げ出したチビちゃん。手を抑えてとりあえず家に戻った。

するとなんと!!チビちゃんが先に戻ってきていて、のうのうとソファに寝ているではないか!!「チビにやられたぁ」と傷を見せたがうちの親も何を考えているのか何の処置もしてくれず、「うちがわかるなんてチビちゃんは賢いねぇ。」とウキウキである。

そんなある日、突然チビちゃんが遊びに来なくなった。「Mさん家で落ち着いたのかもね。よその子だもんね。」と家族で話していたが、ある日母がパートが休みだった日、いつも猫の頭ひとつ分開けてある玄関からチビちゃんが入ってきてそのままどっと玄関で倒れたという。

母が「チビちゃん!」と抱きかかえると男の子なのに『たまたま』が無いのに手が触れた。びっくりする母!そこへ後ろからMさんママがあとを追っかけてきてうちの母とチビちゃんを挟んで鉢合わせしてしまった。Mさんママの事情説明はつぎのような話だった。

チビちゃんが帰ってこなくなったので家に引き留めようと『たまたま』の切除手術をした。しかし2週間経って立てるようになったらまだよく動けない体で出て行ってしまったので、あとを追いかけてきたら我が家に入って行くのが見えたと。「そんなにお宅がいいなら、うちはもう諦めます!!」

こうして『たまたま』を失ってまで我が家の猫になったチビちゃん。しばらくはうちで手術後の看病が続いた。いきさつに心苦しかったものの、私たち家族はこころの底からチビちゃんを愛していた。幸せな生活が訪れた。めでたしめでたしだが、そんなチビちゃんも年を取ってきた。

チビちゃんが病気になったのは私が高校生になってからだと思う。当時、私の住んでる界隈はそんなに開けた地域じゃなくて、むかし牛や馬を診ていたというじいちゃん先生が引退して犬猫を診てくれていただけである。うちもそのじいちゃん先生のお世話になることになった。

犬猫専門の先生じゃないので、病名も告げられなかったのだと思う。ただ、「毎日2本の注射をしに来るように。」そう言われて帰ってきた。父と母は共稼ぎで、病院には私が毎日連れて行っていた。『ケージ』なんてしゃれたものを買うお金もなくてダンボールを持って歩いていた。

毎日、学校から帰ると親がテーブルに用意してくれた5千円を握りしめてダンボールにチビちゃんを入れ、繁華街を抜けじいちゃん先生目指して坂道を通っていた。どれぐらい通っただろう、ある日親を連れてくるように言われて「これ以上の延命は可哀想だ。」と先生からお達しがあった。

(あした、安楽死...。)覚悟の一夜であった。眠れないだろうと思ったが私はいつ寝たのか、あるいは明け方うとっとしただけなのか、母の悲鳴に似た叫び声で目が覚めた「チビちゃん!チビちゃんが死んでいる!」家族全員が飛び起きた。「チビちゃん、自分で逝っちゃったね...。」

家族全員で布団を敷いて真ん中に寝せられていたチビちゃん。誰の手も借りずに自分の人生に幕をおろしたチビちゃん。母の泣き方があまりに激しくて、私の涙など取るに足らないような感じがした。長い間、私のこころの穴を埋めてくれてありがとう。うちを選んでくれてありがとう。でもさ、チビ、「かっこつけんなよ。最後の朝に自分で逝っちゃうなんて、プライド高っけーんだよ!」

本当は「安楽死」がどれだけ怖かったかわからない。覚悟なんてこれっぱかしもできてなかった。今日という日の朝、自分で逝ってくれたチビちゃんに感謝すべきだったのかもしれないが、まだ若かった私は突っ張ることでしか、こころの防御をしきれなかった...。

チビちゃんの話に触れることは今までなかったですし、打ち明けたこともありません。それだけ思い入れが深くいまだに私のこころに爪痕を深く残して逝ってしまいました。
チビちゃんの笑い話エピソードは尽きないような猫でしたが。笑
今日は応援してきたガル君の支援金集めクラウドファンディング最終日。このエッセイをもって、さいごのエールを送ります。
                           ユリ

難病 FIP(猫伝染性腹膜炎)致死率99.9%の闘病に果敢に挑んでいるのが、ガル君(ベンガル種)のご家族です。
最終日の今日、ガル君の高額な治療費がどうか支援で満たされますように。
ただただ、祈るばかりです。

ガル君
GAL FIP 闘病中さん
Twitter : @FipGal Instagram : galcat308
クラウドファンディング 本日8/15 23:59 まで。

長いあいだ応援してくださった方々へ、お疲れさまでした。お互い健闘したと思います。
どうか、ガル君が安心して治療を続けることができますように。
ご支援して頂いた方、応援してくださった方、拡散ご協力してくださった方、すべての人に感謝と愛をこめて。

ユリ Twitter : yuritugu_me

#コラム #エッセイ #猫 #子猫 #ペット #猫好きさん #動物好きさん


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?