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02:デンマークの循環型経済 これからの経済モデル、変化するビジネス形態

文責:レアスコウ 華恵 ソフィエ
2018年7月23日

はじめに

循環型経済という言葉にどのようなイメージを持たれるだろうか。使い捨ての消費社会からリサイクルを促進する社会への変化をイメージする人や、環境対策をうたうだけで実際の社会やビジネスへの影響はそれほど無いのではと疑う人もいるかもしれない。しかし現実に欧州をはじめとする様々な地域で循環型経済は近年急速に進められており、ビジネスの事例も増えている。そして循環型経済やサステイナビリティの先進国と言われている国のひとつ、デンマークは、エネルギーの効率化や再生エネルギー、環境に関連するイノベーション等でEU内でも卓越している*¹ 。詳しいことは後で述べるが、その背景には首都コペンハーゲンの「2025年までに世界初のCO2ニュートラルな都市になる」という宣言や、再生可能エネルギーのシェア拡大、循環型経済への政府の積極的な関与などがある。

本ホワイトペーパーでは、近年議論されている循環型経済がそもそも何を意味するのか、メリットは何か、そしてサステイナビリティ先進国のデンマークでどのように循環型経済が進められているか事例を交えながら紹介する。

1.循環型経済とは何か

まず始めに、循環型経済について簡単に説明したい。この循環型経済という言葉は何年も前から使われているものであり、日本ではリサイクル促進のイメージと連結することが多い。このため、最近ではあえて日本でも英語のままCircular Economy (サーキュラー・エコノミー)と呼ぶことも増えている。従来の循環型経済の考え方は新しいサーキュラー・エコノミーの概念の一部に過ぎず、現在サーキュラー・エコノミーの持つ意味は以前よりもだいぶ広義なものへと進化している。

循環型経済の根幹にあるのは、有限の資源を効率的に活用、そして循環させることで廃棄物や無駄を排除することである。従来の循環型経済が指すものとの違いとしては、リデュース・リユース・リサイクルという簡単な考え方だけに留まらず、リサイクル・資源の再生を前提とした商品開発、環境や未来の世代への負担にならない再生可能な資源の利用へのシフト、製品となった資源を最大限に有効利用する為の共有型経済なども含まれることが挙げられる。つまり、企業活動や消費活動の後付けでリサイクル等を行なうのではなく、商品や素材の開発の段階で、あるいはビジネスモデル作成の段階でいかに資源を廃棄せずに効率的に循環させられるか、資源の使用を抑えられるか、製品となった資源を最大限有効に利用できるかということが問われるのである。
このコンセプトをサーキュラー・エコノミー推進の中枢的役割を担うエレン・マッカーサー財団は6つのカテゴリーに分けてモデル化している*²

*¹ エレン・マッカーサー財団 (2015), “Potential for Denmark as a Circular Economy a Case Study from: Delivering the
Circular Economy – A Toolkit for Policy Makers”, available from
https://www.ellenmacarthurfoundation.org/assets/downloads/20151113_DenmarkCaseStudy_FINALv02.pdf, last
accessed on 15 August 2016.

*² エレン・マッカーサー財団 (2015), “Delivering The Circular Economy a Toolkit for Policymakers”, available from
https://www.ellenmacarthurfoundation.org/assets/downloads/publications/EllenMacArthurFoundation_Policymaker
Toolkit.pdf, last accessed on 15 August 2016.

1. Regenerate
再生可能エネルギーや再生可能資源へのシフト
健全な生態系の再生、維持
生物資源を生物圏に返し再生させる

2. Share
共有型経済(Uberなどカーシェアリング・ライドシェア、AirBnBなど部屋のシェア、機械のシェア等)
再利用、中古利用
商品のメインテナンスや長持ちする丈夫な商品のデザインなどによる商品のライフサイクル延長

3. Optimise
商品のパーフォーマンス、効率性の最大化
生産と供給連鎖での無駄や廃棄の削減
ビッグデータ、オートメーション、遠隔センシングや遠隔操作の活用

4. Loop
商品や部品の再製
資源のリサイクル
嫌気性消化
有機廃物からのバイオケミカルの摘出

5. Virtualise
直接的な非物質化(CDや本などデジタル化する、iTunes、SpotifyやKindle、Netflixなど)
間接的な非物質化(オンラインショッピングなど)

6. Exchange
古いものを先進的な素材(再生可能な資源でないものも含む)へシフト
最新テクノロジーの活用(3Dプリント等)

上記のモデルをエレン・マッカーサー財団はそれぞれの頭文字をとってReGENERATEと呼んでいるが、循環型経済のモデルはアクセンチュア*³ やその他様々な企業や専門家らが作っている。循環型経済の概要はここまでにして、ここからは具体的に循環型経済にどのようなメリットがあるのかをみていく。また、循環型経済の理解を深める為に、具体的なデンマークの循環型経済事例も後に紹介する。

*³ アクセンチュア (2016), “無駄を富に変える:サーキュラー・エコノミーで競争優位性を確立する”, available
from https://www.accenture.com/jp-ja/insight-creating-advantage-circular-economy.aspx, last accessed on 15
August 2016.

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