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国営放送受信料の対応〜デンマークの場合

放送法第64条第1項に「NHKの放送を受信することができるテレビをお持ちの場合、NHKと受信契約を締結しなければならない」旨の規定があり、放送法に基づき総務大臣の認可を得て定められた日本放送協会放送受信規約で「放送受信料を支払わなければならない」と義務づけられています。したがって、NHKの放送を受信できるテレビが設置されていれば、放送受信契約を結んでいただき、放送受信料を支払っていただくことになります。

https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/01/02-01-13.html

NHKの受信料を皆さんは支払っているだろうか。もう20年以上も前になっるが、大学の同期に「家にテレビがないから受信料を支払わない」と言われえて驚いたことがある。払わないという選択肢があることを知らなかったのだ。その後、改めて「受信料」に目を向けてみると、「いかに支払いを回避するか」という課題に注力している人が多いことに気がつかされた。

デンマークでの受信料の取り扱い

同じような問題が、2022年まではデンマークにもあった。だが、この「受信料」問題は、もはや存在しない。それは、受信料(デンマークでは、メディアライセンスと呼ばれた)は、メディアへのアクセスが可能な「住民が支払う義務」から「公共サービスとして税金から支払われる」ものに変わったからだ。つまり、受信料は、「公共サービスとして全ての住民が税金を通じて支払うもの」になったのだ。

デンマークでも、ここに行き着くまでに、紆余曲折があった。早い段階から電子化が進んでいたデンマークでは、すでに2000年ごろには、インターネット経由でテレビ放送にアクセスすることができていた。そして「テレビを保有してないから」という理由で、受信料を支払っていなかった人たちも、インターネットへのアクセスがないわけないだろう、と言われるようになり、よっぽどのことがない限り、支払いを回避できなくなっていった。

ラジオ、テレビ、インターネットにアクセスできる18歳以上のすべてのデンマーク人は、メディアライセンスを支払う義務がある。(筆者訳)

https://www.legaldesk.dk/privat/diverse/medielicens

支払い義務があるものは、18歳以上全てと言っても、同じ場所に居住している家族であれば、一人が支払えば良かった。国外に居住を移した場合も自動的に免除されるなど、それなりに機能していた仕組みである。しかしながら、メディアライセンスの支払いを回避しようとする人たちは、相変わらずいたのである。

受信料は、納税時に一緒に支払っていた。2022年までの納税記録には、メディアライセンスの項目があり、メディアは何も使っていない!と述べて、免除を申請することもできたはずだ(だが実質ほぼ不可能)。この辺りのメンタルは、日本もデンマークも変わらないらしい。

2023年からの新体制

大きな変化が見られたのが2018年だ。2018年に、デンマーク政府は、メディアライセンスの2022年廃止を決定。代わりに「メディア小切手」が導入されることになった。基本的には、国営メディア運営は、全国民から集められた税金で賄われ、一方で低収入者や年金受給者は、国から年間1015クローネ(2023年、2万円ほど)が給付されることになった。申請は必要なく、権利があれば自動的に受け取ることになる。2023年になって、高齢者団体のホームページやオンライン質問箱などに「メディア小切手って何?」とか「どうやったらもらえるの?」という質問が掲載されるようになった。ここでも、みんながどうしたら少しでも補助金がもらえるかどうか、躍起になっているようだ。

まとめ

少しでも家計を楽にしたいという気持ちはわからなくないが、信頼性の高いテレビやラジオという公共放送が中立的な立場を維持しつつ、存在し続けることは重要だ。きな臭いニュースやプロパガンダが改めて注目されることの多い欧州ばかりでなく、日本でも、特に緊急時には、多くの人が民間放送ではなく、NHKのテレビやラジオにチャンネルを合わせるんじゃないだろうか。公共放送は、公共サービスの一つとしてあって良いと考えると、「受信料」を支払うかどうかという議論自体が不可思議なものに思えてくる。

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